番外! 第一回 WAC 高飛び込み・ペア (後)
競技場上空の空は、快晴。
文字通り雲一つない青空で、太陽の光もまぶしく気持ちがいい。
まるで夢のような、爽やかな日和だ。
いってしまえば、実際夢なわけだが。
「というわけで、全国五百ちょいのアグニーと、チョーすげぇーいっぱいいる天使の皆さん! 夜空に輝く幾千億の、輝く星は全部俺! で、お馴染み。実況の太陽神アンバレンスでーす」
「解説の赤鞘ですー」
「ワールド・アグニー・カップ! 通称WAC! 現在競技は高飛び込み・ペアが行われているんですが。ここまでの演技、如何ですか赤鞘さん」
「皆さんがんばっていましたねぇー。怪我なくて何よりです」
「ちょーっとギン選手とスパン選手が危ない感じの事故を起こしそうになりましたが、特に問題ありませんでしたね夢なので!」
「現実なら首とか逝ってそうですよねぇー」
前回最後に演技をしたギンとスパンは、演技中に失敗をしてヤバイ感じの着水をしていた。
高飛び込みというだけあって、この競技はなかなかの高さから水面に飛び込むことになる。
水面とはいえ、変な体勢で飛び込むと思いがけないダメージを受けたりするものだ。
普通ならば二人の体が心配されるところなのだが、その点ここは夢なのでまったく心配無用なわけである。
「いやぁー、あの根暗野郎に仕事させて本当に良かったですね! いっつも引きこもってゲームばっかりやってますから!」
「それって、『常闇の底深く沈む夢』さんのことですか? そんなこといったら怒られますよ」
「いいんです! アイツクッソ仕事しねぇからっ! コレを機にね、どんどん使ってやりますよ! どんどん!」
なにかいやなことでもあったのか、アンバレンスは仄暗い邪笑を浮かべてこぶしを振り回す。
最高神という仕事は、割かしストレスがたまりやすいものなようだ。
「あの方、一応女性の神様じゃないですかー。手加減してあげて下さいよ?」
「なに言ってるんですか赤鞘さん! 赤鞘さんなに言ってるんですか! 男女平等ですよ! 男も女も分け隔てなく頭脳肉体重労働! 神様に労働基準法は存在しません!」
「日本でも同じこと言われましたねぇー」
「神様はブラック企業の走りで御座います! というわけで、早速競技のほうに移りましょうか。と、言いたいところですが!」
「ギンさん、スパンさんの後、二組が演技をしたのですが、こちらはダイジェストにさせて頂きますー」
「放送時間の都合でーっす」
この放送は、アンバレンスの力を使い、世界中の天使達に配信されている。
あまり長時間やりすぎると、業務に差し支えてしまう。
天使の業務というのは、神様の補佐だ。
神の仕事というのは世界を安定させることなので、天使さん達がアグニーの飛び込みに気を取られすぎるのは、割かし危険なことなのである。
「じゃあ、早速行って見ましょう、ダイジェスト映像です!」
会場の奥にある大型スクリーンに、「だいじぇすと」という文字が浮かび上がった。
うまいのかうまくないのか、非常に微妙なところだ
色とりどりなクレヨンで書かれているところが、またなんともいえない幼さをかもし出していた。
アンバレンスが手元の資料に目を落し、この文字についての詳細を伝える。
「えー、こちらのテロップですが、アグニー族の長老さんに書いて頂いたものでーす。ちなみに彼は、アグニー族の中でも一、二を争う達筆っプリなんだとか!」
「いやぁー、お上手ですねぇー」
「本気で言ってるあたりが赤鞘さんのすごいところですよね」
たしかに、うまい字といえるかもしれない。
小学生の低学年ぐらいとしては、という但し書きが着くが。
「わしの書いた字じゃぁー! わしの書いたやつがでっかくうつっとるぞぉー!」
「ほんとだ、すっげぇー!」
「けっかいー」
「いーなぁー!」
自分の書いたものが出ているのが嬉しいのか、観覧席の一番前で、長老がわたわたとはしゃぎまくっている。
周りのアグニー達は、感心したり、羨ましがったり、それぞれに違ったりアクションだ。
この場にいるのは、アグニー達だけではない。
休暇などを利用した天使達も来ていた。
そんな天使達は、なにやら微笑ましいものを見る目でアグニー達を見守っている。
「無邪気だよなぁー」
「ホントになぁー。アレで成人なんだぜ」
「よく滅びなかったなぁ……」
「知らないのかよ。アグニー族の危機回避能力。ハンパないんだぞ。地震とか自然災害を動物よりも先に察知するんだから」
「そうそう。メテルマギトの連中、よくもまぁアグニーを捕まえたもんだよ」
「奇跡的だぜ、マジで」
一部の天使達の話題が、アグニーのことから、メテルマギトのことへとシフトしていく。
かなり真剣なやり取りで、アグニー族にとっては気になるであろう内容だ。
だが。
それが耳に入っているであろうアグニー達は、ぽかーんとした顔をしていた。
恐らく、一切内容は理解していないだろう。
難しい話しは、ぜんぜん分かんない。
っていうか、難しい話を聞いていたらぽかーんとしちゃう。
それがアグニーなのだ。
そうこうしているうちに、巨大スクリーンに映っている映像が切り替わる。
「さ、早速見ていきまっしょう!」
元気良く宣言したアンバレンスの声に合わせるように、巨大スクリーンには飛び込み台の上に立つ二人のアグニーが映し出された。
それぞれの足元には、名前と職業がテロップとして書き出されている。
やはりというかなんというか、その文字はクレヨンで書かれていた。
「ちなみにこちらのお名前と職業のテロップは、選手の手で書いていただきました! 如何ですか赤鞘さん」
「ねぇー、可愛らしくていいですねぇー」
「ほんとうにねー。でもこれ書いたのどちらも既婚者なんですけどねー。アグニーってすごい種族ですわー」
幼い感じの出た可愛らしい字体は、とても大人が書いたものとは思えない。
もっとも、それを行ったらアグニーの大人のビジュアルも、とても大人とは思えないものなのだが。
テロップには、「漁師・ろどりげす」「漁師・ごんざれす」と書かれていた。
「お二人とも漁師さんなんですねぇー」
「みたいですねぇー。正に海の男。この二人は長年コンビで漁師をやっているそうですよ!」
「こんがり日焼けもしていて、たのもしいですねぇー」
「頼もしい?」
赤鞘の言葉に、アンバレンスは眉根を寄せてスクリーンを振り返った。
ロドリゲスとゴンザレスは、どちらも成人アグニーだ。
どちらも平均的なアグニーで、外見も実にアグニーらしいものだった。
さらさらなプラチナブロンドと、少し垂れたおっとりそうな目が特徴のロドリゲス。
ゴンザレスのほうは、少し癖のある金の髪に、吊り上った目が印象的だ。
どちらも短い海パンを穿いているから、男と分かる。
だが、ちょっと別の服装をさせれば、少女とも取れる顔立ちだ。
それも、とびっきりの美少女。
アンバレンスはゆっくりと前を向くと、カメラに向ってにっかりと笑顔を見せた。
「そうですね! すごくたのもしい!」
空気を読む。
太陽神であり、最高神でもあるアンバレンスは、重なる気苦労の末、いつしかそんなスキルを手に入れていたのだ。
「ま、そんなことはいいとしてですね。演技を見ていきまっしょう」
ゴンザレスとロドリゲスの二人が大きく手を上げ、演技を開始する。
揃った動きで飛び込み台の一番奥まで下がると、ゆっくりと助走を始めた。
踏み出す足も、踏み込む足も綺麗に揃ったシンクロっぷりに、会場がどよめく。
「これは、良く合わせていますね赤鞘さん!」
「お二人はお仕事でも相棒だそうですからねー。長年の経験がなせる業といったところでしょうか」
飛び込み板の中央付近に来た瞬間、二人は同時に跳躍。
同じ動きで、飛び込み板のほぼ先端に降り立つ。
板は大きくたわみ、それと合わせるように二人は身体を縮めた。
そして、板が元に戻る瞬間に合わせて、全身を伸ばす。
すかさず、アンバレンスが実況を入れる。
「素晴らしい踏み切り!」
「二人の動きがシンクロしてますねぇー。板のたわみと全身のバネで、相当高くジャンプできますよ。二人分の重さがかかっていますから、たわみも大きいですしね」
赤鞘の入れた解説通り、板は今までで一番大きく変形しているように見えた。
となれば、ジャンプの高さもかなりのものとなる。
踏み切りも綺麗に決まり、二人の身体はあっという間に上空高く舞い上がる。
「これは高い!」
「いいジャンプですねぇー」
ジャンプの最高点に達したところで、二人は水中に向かいタックル姿勢をとる。
やはりコレも、ぴたりと同じ動きだ。
「「うをぉおおおおおおお!!」」
ここで気合の雄叫びを上げながら、水面へまっすぐ落下。
着水で上がる水しぶきも、ほぼ同じ高さと形状だ。
コレには観客達も、惜しみない拍手を送る。
「いやぁー、素晴らしい演技でした!」
「正に高飛び込み・ペアのお手本のような演技でしたねぇー」
「得点は、八.三、高得点でした! さ、次のダイジェストです」
無駄に爽やかなな最高神スマイルを決めるアンバレンス。
次に画面に映し出されたのは、二人の女性アグニーだ。
「次の選手は、女性アグニーコンビ。主婦の、フラウさんとリーヤさんです」
「お二人とも料理上手で、集落ではよくポンクテを茹でて下さっているんですよー」
「ポンクテはアグニーの主食ですからね! ちなみにお二人は、それぞれ三人ずつのお子さんをお持ちだそうですが……」
アンバレンスはふと、フラウとリーヤが映るスクリーンに目を向けた。
フラウは、長い黒髪をお団子に結い上げている。
かたや、リーヤのほうは少年のような短い髪だ。
二人共、シャツとパンツ型の二つに分かれる、いわゆるセパレートの水着を着ている。
紺色のそれは、恐らくスクール用のものだろう。
「ちなみに、この水着はエルトヴァエルちゃんが用意したものでーっす。最初二人は男子ようのブーメランパンツ履いてたそうですよ」
「危険ですねー。エルトヴァエルさん、ナイス判断です」
「当然二人の足元に出ているテロップも、ご本人に書いていただきましたー」
やはりクレヨンで書かれたテロップが、それぞれの足元に浮いている。
二人の美少女さと、恐らく小学生ぐらい向けの水着に、足元のクレヨンテロップ。
強烈なまでにアレっぽいコンボだが、二人はれっきとした子持ちの主婦である。
しかも、若者の背中を爆笑しながらバシバシ叩いちゃう系の、強烈なおばちゃん達なのだ。
「ねー。ほんと、お二人は若い子を見ると、あんた達ご飯たべなさい、ご飯! とかいって握り飯口に突っ込む系のおばちゃんなんですけどね」
「全然見えませんよねぇー。お若く見えて羨ましいですねー」
「お若いってレベルのアレじゃ……まあいいや。演技に移りましょう!」
アンバレンスの声と共に、画面が切り替わる。
二人は奇妙な体勢で、しかし、至極真面目そうな表情をしていた。
どんな体勢なのか。
片方がぴんっと背を伸ばして立ち、片方が地面に両手をつく。
立っているほうが、地面に手を突いたほうの両足を、小脇に抱える。
いわゆる、手押し車の体勢だ。
ちなみに、押すのがフラウのほう、車がリーヤのほうだ。
「この状態から演技がスタートするんですが、この後の展開には驚きましたね」
「大胆な動きでしたよねぇー」
アンバレンスの言葉に、赤鞘が頷いて同意する。
最初に動いたのは、フラウのほうだった。
リーヤの足をしっかりと抱え込み、体を横に動かし始めたのだ。
地面に手をついているリーヤは、それに合わせるように手を動かす。
横回転はどんどんと加速していき、その勢いでリーヤの身体が僅かに浮き始める。
それを見た観客が、大いに湧き始めた。
「ジャイアントスイング! ここでもって来ましたね、解説の赤鞘さん」
「この勢いで飛び出すんですから、びっくりするぐらいの力技ですよねぇー」
フラウは回転しながら、徐々に板の先端近くへ向って進み出した。
速い回転を維持したまま目的の方向に進むのは、かなりの技術がいるはずだ。
二人共妙に真面目腐った表情のまま回転し、横回転だけだった動きに、縦の揺れが加わり始める。
「この辺りから、上へ投げる準備を始めてますねぇー。そろそろですよ」
赤鞘が言い終わるのとほぼ同時に、フラウが両足を大きく開いた。
飛び込み板の下にはみ出る勢いでリーヤの身体を下へ振り、遠心力を加えて大きく上へ持ち上げる。
その最高点で、フラウの手が離れた。
「ここで投擲!」
「一応飛び込み競技なんですけどねー」
「ぶん投げてますけどね」
「まあ、広い意味では飛び込み? ということでしょうかねー」
リーヤの身体は文字通り宙を舞っていた。
片方の拳を突き上げ、緩やかに横回転しながら上空へと昇っていく。
上昇が最高潮に達し、いよいよ落下が始まる。
リーヤは器用に身を翻すと、タックルの姿勢をとった。
下のほうから、「そのままっ!」という声が聞こえてくる。
「うるぁあああああ!!!」
愛らしい顔立ちからは想像もできない野太い声を、リーヤは腹の底から振り絞った。
渾身の気合の声を挙げながら、リーヤはそのまま水面へとタックルを決める。
その綺麗なタックルに、観客から歓声が上がった。
「決まりました! 綺麗なタックルです! ですがコレはぁー……」
アンバレンスが、至極残念そうな声を出す。
それもそのはず。
この競技は、あくまで「高飛び込み・ペア」なのだ。
「相棒であるフラウさん、どうやら投げるのが成功して浮かれちゃったみたいですねぇー」
スクリーンに飛び込み台が映し出される。
そこには、リーヤの飛込みを、興奮気味に称えているフラウの姿があった。
フラウは暫くはしゃいでいたが、唐突にはっとした表情になる。
そして、しまったというように頭を手で叩いた。
「ここでようやく気が付きました、自分が飛び込み忘れてる!」
「致命的ですねー」
「得点は三.七でした。どうですかね赤鞘さん」
「いやぁー、惜しかったですねぇー。ですが、アグニーさんらしい失敗じゃないですかねー」
「その能天気さがアグニーだねっ! ということですかね。さて、ダイジェストが終わりまして、観客席の様子はどうでしょう。観客席の、土彦ちゃーん?」
アンバレンスが呼びかけると、巨大スクリーンに土彦の姿が映し出された。
後ろでは、手に手に応援グッツを持った天使達が声を張り上げている。
「はーい、観客席の土彦です! 観客席は、大いに盛り上がっていますよ! 一部エルトヴァエル殿に粛清されて死にそうになっている方々はいますけれど」
画面が横にスライドし、何かが渦高く積み上がっている様子が映し出された。
よくよく見てみると、それらは拳によると思われる生々しい打撲痕が残る、天使達だ。
なにやらうめき声のようなものを上げているのが、実に痛々しい。
それを見たアンバレンスは、思わずといった様子で顔をしかめた。
「うわぁー。ずいぶん可哀想なことになってますけど。大丈夫なのその天使の人達。インタビューできそうです?」
「分かりました、ちょっとお話をうかがってみましょう!」
土彦はにこにこしながら天使の山に近づくと、すっとしゃがみ込んだ。
一番下で潰されてうめいている天使にマイクを向けると、質問を投げかける。
「巨乳、普乳、微乳。どれがお好きですか?」
「び、びにゅうが、すきです……」
ぴくぴくと痙攣しながらも必死の様子でそれだけ応えると、その天使はがっくりと地面に突っ伏した。
土彦は笑顔のまま、マイクでつんつんとその身体を突っつく。
反応がないのを確認すると、にこやかにカメラのほうへと振り返った。
「だ、そうです! カメラ、お返ししますね!」
「えええぇー……」
きらめく笑顔で映像が切れ、アンバレンスはえもいわれぬ声を絞り出した。
「全然違う質問してるし、そもそもなによあの質問。どう思います赤鞘さん」
「いやー。エルトヴァエルさんに殴られてもおっぱいにかけるあの意気込み。見事だと思います」
「そこ!? そこ褒めちゃう!? まあ、いいや。じゃあ、そろそろ最後の選手、行って見ましょうか? 選手のほうに行ってる、エルトヴァエルちゃーん」
アンバレンスの呼びかけに、スクリーンが切り替わる。
映し出されたのは、マイクを持ったエルトヴァエルだ。
プールサイドにいるらしく、その隣には二人のアグニー族が並んでいる。
「はい、エルトヴァエルです。では、演技前の選手にインタビューします。最後に演技するのは、アグニー村の長老さんと、若手のリーダーであるマークさんです」
「新旧リーダーの揃い踏みですね!」
納得した様子で、アンバレンスが頷く。
「早速、お話をうかがってみます。長老さん、意気込みは如何ですか?」
「が、が、がんばるます!」
「ます!」
表情を強張らせ、妙に肩を怒らせつつ長老が声を張り上げた。
それに続いたのは、隣にいるマークだ。
二人ともがちがちに緊張しているようで、小刻みに震えているのが見て取れた。
それを見たエルトヴァエルは、苦笑を浮かべながらカメラに向き直る。
「えー、どうやらカメラに緊張されているようなので、お返しします。演技前ですしね。ではー」
「はぁーい。ありがとうございましたーん。」
画面が切り替わるのに合わせ、アンバレンスはひらひらと手を振った。
その横では、赤鞘もへらへらと笑いながら手を振っている。
「それでは、準備が整うまでの間、CMでも入れましょうか」
「え、CMってあるんですか?」
「あるんですよこれが。じゃあ、選手の準備が終わるまで、CMでーす」
アンバレンスの合図で、巨大スクリーンに映像が映し出される。
突然違う世界の神様が、チートを付けて転生させてっ! って頼んでくる!
なぁーんてこと、よくあるよねっ!
そんなときは、コレッ!!
「悟りの境地」!!!
このチートさえ付ければ、どんな強欲なヤツでも性欲しかないようなクソヤロウでも、一瞬にして性根が叩き直されます!
まるで別人のような聖人になり、決して世界秩序を破壊したりしません!
さっそく、喜びの声を聞いてみましょう!
「最初は不安だったけど、コレのおかげで僕の世界もばっちりまもられたよっ! ほかの最高神にもオススメだね!」
「コレがなかったらと思うとぞっとするよ! 今も私の世界が平穏なのは、コレのおかげさ!」
どんなクズで傲慢で自己中な転生者も、コレさえ取り付ければ正にイチコロ!
宇宙レベルの聖人に生まれ変わるのです!
アナタも早速、レッツトライ「悟りの境地」!!
お問い合わせは、こちらまでっ!
世界観ぶっ壊し転生者被害最高神の会
「はい、というわけでCMでしたー」
「え、何ですか今の……」
「最高神仲間にCMやっといてって頼まれましてね? ああ、いいかなーって」
今ここの様子は、「海原と中原」の天使達にライブ中継されている。
明らかに対象が様々な世界の最高神向けのものなのだが、アンバレンスがいいと言っているのだから、いいのだろう。
「というわけで御座いまして! 最後の演技です!」
アンバレンスが大仰な仕草で手を差し出す。
それは、プールと飛び込み台の方向だ。
「いいぞー!」
「けっかいー!」
「がんばれー!」
「たっくるー!」
歓声がひときわ大きくなり、全体の注目がそちらへと集まった。
長老とマークは既に飛び込み台の上に上っており、位置についている。
強すぎる緊張は抜けているようで、二人ともキリッとした表情だ。
「がちがちになっていた緊張は落ち着いたみたいですね、赤鞘さん」
「そうですねー。上へ昇るまでに程よくほぐれたんじゃないでしょうか。長老さんもマークさんも運動は得意みたいですから、どんな演技になるかたのしみですね」
「なるほど、いい演技に期待できる、ってことですね!」
そんなことを話している内に、演技開始のブザーが鳴り響く。
騒がしかった会場が、一気に静まり返る。
「はいっ!」
大きな声を出したのは、マークだった。
片手を挙げて飛び込み台の上を歩いていく。
そして、飛び込み板の根元まで進むと、くるりと反転。
片膝を付き、目の前で手を組んだ。
ジャンプする人を手助けする、あの姿勢だ。
長老はそれを確認すると、片手を挙げて声を上げる。
「よっしゃー!!」
気合一発、長老は勢い良く走り出すと、マークの手前で全身のばねを使ってジャンプした。
降り立ったのは、マークが組んだ手の上。
片足で着地すると同時に、力を溜め込むように全身を縮める。
その長老の身体を、マークは渾身の力を込めて上へと持ち上げ、放り投げた。
マークの動きに合わせ、長老も跳躍の姿勢をとっている。
そのため、ジャンプの高さは最初の倍以上になっていた。
「おっとこれはー!」
「マークさんが踏み台になって、通常の倍のジャンプ力になりましたねぇー」
そのままプールへ、と、思いきや、飛距離が足りないらしい。
長老の身体は、そのまま飛び込み板の先端へと落下していく。
だが、それは狙い通りだったようだ。
飛び込み板は大きくたわみ、長老は再び体を縮めて、力を溜め込む。
板が元に戻ろうとするその瞬間、長老は思い切りジャンプの姿勢を取った。
「通常の倍の高さからの落下で、飛び込み板のジャンプ力を大きくする! コレは凄まじいジャンプが期待できますね赤鞘さん!」
「飛び込み板は、ジャンプ力を倍増させてくれますからねー! 通常の四倍です!」
赤鞘の言葉通り、長老の身体は天高く舞い上がった。
恐らく、通常の四倍なのだろう。
高くジャンプすると、その制御は比例して難しくなる。
ギンはそれで失敗してぐるんぐるん回転することになったのだが、長老にそういった様子は見られない。
綺麗にジャンプ姿勢を保ったまま、空中で身体を捻る。
「おっと、ここで回転を加えたっ!」
「回転が加わって、更に倍ですねー」
何が倍なのか分からないが、とりあえず倍らしい。
長老がまだまだ高く舞い上がっている間に、マークも飛び込み台の上で助走し、ジャンプする。
こちらも綺麗なジャンプ姿勢で、申し分ないものだった。
長老の体が落下を始めるが、マークはまだ上昇を続けてる。
「おっとこれは!? 二人の体がぶつかってしまうっ!」
事故が起きてしまうのか。
アンバレンスの声に、会場が息を呑む。
落下していく長老の体。
上昇を続けるマークの体。
あわや大激突か、と思われたものの、その心配は杞憂に終わる。
長老とマークの体が交差する瞬間、マークの体が落下し始めたのだ。
だが、長老の身体はマークの身体にぴったりとくっついていた。
「おーっとこれは!? どういうことでしょう解説の赤鞘さーん!」
「四倍のジャンプに、二倍の回転で八倍! それが更に二人合体して十六倍のタックルですねっ!」
「そういう計算でいいの!?」
「ジャンプするタイミングをずらしたことで、うまくこの体勢に持っていったようです! 言うなれば合体タックルでしょうか!」
「なるほどなるほど!」
本当にそんな計算式が成り立つのか分からないが、とりあえず会場は大盛り上がりだ。
「すっげぇー!」
「な、なんてタックル力だぁー!」
「けっかいー!」
そんな会場の声援に応えるように、長老とマークの合体タックルは勢いを増していく。
「「うをぉおおおおおお!!!」」
雄叫びを上げながら、水面へとタックルを敢行する。
水しぶきが上がると同時に、会場を揺らすほどの歓声が響き渡った。
「コレはすばらしいタックルが決まったー!」
「高得点が期待できますねー」
本来得点が出るには少し時間がかかるのだが、今回はすぐに表示がされた。
計算がもっとも簡単な得点が、審査員から提示されたからだ。
十点満点中の、十点。
文句なしの満点だった。
「出ましたー! 過去最高得点! 満点です!」
「いやぁー、それに相応しい演技でしたねー」
プールから上がってきた長老とマークも、得点を見て大声を上げて喜んでいる。
観客達の歓声も最高潮だ。
「歓喜に沸く会場! 観客と選手の喜びが、一体となっております!」
「いやぁー、すばらしいですねー」
「会場は最高潮に盛り上がっておりますが、そろそろ放送終了の時間となりましたー。いやー、如何でしたか、赤鞘さん」
「はい。皆さん楽しそうで、本当に良かったですねー」
「赤鞘さんらしいまとめ方っ! というわけで、ワールド・アグニー・カップ、高飛び込み・ペア! 実況は、かっこよすぎて起訴レベル、アンバレンスと!」
「解説は、土地神の赤鞘でしたー」
会場が割れんばかりの喝采に包まれる中、アンバレンスと赤鞘はにこやかに手を振る。
夢の中の会場は、その後も暫く、歓声に包まれていた。
しばらく休んでたのでリハビリ
楽しかった
本編ももう少ししたら書くよ!