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百一話 「よーし、じゃあ、みんなでおてつだいしよー!」

 お昼を少し過ぎた頃。

 見直された土地の中央にある社の周囲で、樹木の精霊達はいつもの様にきゃっきゃと騒がしく過ごしていた。

 中を漂ってみたり。

 追いかけっこしてみたり。

 本を読んでみたり。

 いつもならば赤鞘やエルトヴァエル、土彦に遊んでもらうのだが、最近は皆忙しそうだった。

 土彦は、傭兵団への協力と、マッドアイ・ネットワークの強化。

 どれも大切な仕事なので、邪魔をすることは出来ない。

 赤鞘は、土地の調整。

 最近では上位精霊達へ力の流れの調整を教えたりもしているため、とても忙しいようだった。

 日本神の性なのだろう、上位精霊達は物覚えがいいのだそうで、赤鞘の指導にも熱が篭ってきているらしい。

 エルトヴァエルは、そんな赤鞘の付添いだ。

 元来、情報収集などを得意とする彼女なのだが、しばらくは見直された土地に常駐する事になっていた。

 何かあったとき、エルトヴァエルが赤鞘を一番上手く説得できるからである。

 変なところで頑固で凝り性で融通の利かない赤鞘だが、エルトヴァエルとは奇妙に相性がいいようだった。

 そんなわけで、現在見直された土地の中央、赤鞘の社には、樹木の精霊達しかいないのだ。


「はぁー」


 一柱で赤鞘の社のぼりをしていた火の精霊樹が、大きなため息を吐いた。

 てっぺんまで昇りきり、屋根の上で両頬に手をくっつけ、どこか寂しそうに項垂れている。

 本当なら、昇りきった達成感で飛び跳ねているところなはずだ。

 いつもとは違うその様子に、他の樹木の精霊達が何事かと集まってきた。


「どーしたの、火。ためいきなんてついてさ」


 樹木の精霊達は、それぞれを属性で呼び合っている。

 火、水、風、土、光、闇、調和、秩序。

 そんな具合だ。

 赤鞘に名前をつけてもらおう、という意見もあったのだが、すぐに立ち消えになった。

 皆、赤鞘のネーミングセンスがお亡くなりになっているのを良く知っているからだ。

 万が一名づけられたりしたら、悲劇としか言いようが無いだろう。

 後から改名するわけにもいかない。

 あんな感じの赤鞘だが、一応は神様なのだ。

 神様から貰った名前を、無碍にするわけにもいかないのである。

 心配そうに訪ねられた火の精霊樹は、悩ましそうな、真剣な表情を皆に見せた。

 珍しいその顔を見て、周りも緊張感に包まれる。


「さいきんさぁ。ぽてとちっぷす、たべてなくない?」


 その一言に、樹木の精霊達は凍りついた。

 あるものは衝撃を受けたような顔をし、またあるものは沈痛な面持ちで顔をそらす。

 皆、薄々は気が付いていたのだ。

 最近、ポテトチップスを食べていない事に。

 彼等にとってポテトチップスは、思い出の味だった。

 まだまだ彼等が小さく、精霊としての身体も掌サイズだった頃。

 しょっちゅう遊びに来るアンバレンスが、お土産として持ってきてくれていたのだ。

 ぱりぱりでしょっぱくてジャンクなその味わいに、樹木の精霊達は虜になっていたのである。

 だが、近頃のアンバレンスは、ポテトチップスを持ってくることがめっきり減ってしまっていた。

 遊びに来ることは、来ている

 休憩時間の度に来ているんじゃないかというレベルで、顔は出していた。

 その度にお土産も持ってきてくれるのだが、最近その内容が変化してきているのだ。

 以前はスナック菓子などが中心だったのだが、最近ではケーキなどのデパ地下高級路線になってきているのである。

 それはそれで、勿論美味しい。

 美味しいのだが、一度知ってしまえば定期的に食べたくなるのがジャンクフードというものなのだ。


「気づかないでもいい事実を」


「皆、目をそらしてたのに」


「ぽてち、たべたい」


 それまで楽しげだった樹木の精霊達が、一気に陰鬱な空気を纏い始める。

 基本的に気分で生きている樹木の精霊達は、テンションのアップダウンがとても激しい。

 一度落ち込み始めると、際限なくダウンな気持ちになってしまう。

 まあ、回復も一瞬なのだが。


「なんとかポテトチップス食べられないかなぁー」


「アンバレンス様に、お願いしてみる?」


「たいよーしん、さいきんこうきゅーしこーだからー」


「下手におねだりすると、エルトヴァエルにおしおきされちゃうよー」


「それはこまったー」


 皆ポテトチップスが食べたいらしく、話し合いが始まった。

 樹木の精霊達も言うように、下手におねだりすることは出来ない。

 赤鞘は折れてくれるかもしれないが、エルトヴァエルはそういうことに厳しいのだ。

 皆が悩んでいる中、調停樹、調和と秩序がきらりとメガネを光らせた。

 なにやら意味ありげな笑顔で、ずいっと前へ進み出る。

 シンクロしたその動きに、皆の注目が集まった。

 ちなみに、メガネはただ気に入っているからかけているだけだったりする。

 別に、目が悪いわけではないのだ。


「おねだりすると怒られる! なら、おねだりするんじゃなくて、くれるようにすれば良いのさ!」


「お手伝いをして、そのご褒美にポテトチップスを要求するの!」


 調和と秩序の言葉に、樹木の精霊達は納得の声を上げた。


「それなら、ごほーびもらえるかも!」


「ポテトチップスだぁー!」


「あれ? でも、お手伝いって何するの?」


「なにすればいいんだろー」


「思いつかないねー」


 再び、樹木の精霊達は腕を組んで悩み始める。

 だが、調停樹コンビだけはニヤリと笑いながら、くいくいとメガネを上げ下げしていた。

 どうやら、何か考えがあるようだ。


「そんなの簡単だよ!」


「私達にいいアイディアがある!」


「今日、風のガーディアンを創るっていってたでしょう?」


 赤鞘を補佐するため、エルトヴァエルはしばらくの間見直された土地から外出しない事となっていた。

 その代わりに、外の様子を偵察に行くガーディアンを作ることになっている。


「それをお手伝いして、ご褒美にポテトチップスを買ってもらうのさっ!」


「おねだりじゃないから怒られない!」


「お手伝いだから褒めてもらえる!」


「「一挙両得!」」


 びしっと拳を突き上げる調停樹コンビに、樹木の精霊達はきらきらと目を輝かせた。

 彼等の目には、近い将来起こるであろう事がありありと見えていたのだ。

 一生懸命お手伝いをして。

 褒められて。

 なでこなでこされて。

 ポテトチップスをお腹いっぱい食べる。

 正にバラ色の未来だ。

 下手にガーディアン製作に干渉して、怒られる。

 そういった発想は、残念ながら樹木の精霊達には無かった。

 土彦を作るときにしたお手伝いでは、まったく怒られなかったどころか、むしろ褒められたからだ。

 そもそも、お手伝いをして怒られるという発想が無いのである。


「よーし、じゃあ、みんなでおてつだいしよー!」


「何をすればいいのかなぁー?」


「土彦のときみたいに、いろいろ詰めればいいんだよ!」


「そっかー!」


「でも、ばれないようにせねばだ」


「がんばろー!」


 がんばりを個々にポーズで示すと、樹木の精霊達は準備を始めた。

 あるものは不可思議な光のエネルギー体をこね回し、あるものは自分が持っている属性の実物をこね始める。

 総じて共通しているのは、ものは違えど粘土をこねている様に見えるところだ。

 表情も明るく、皆楽しそうにきゃっきゃとはしゃぎながら作業をしている。

 だが、見た目とは裏腹に、彼等が作っているのはかなりえげつない物であった。

 それぞれの守護する属性の「力」に、様々な知識を詰め込んだモノなのである。

 力の濃度や知識の量は、土彦を作ったときよりもだいぶ小さい。

 ばれないようにお手伝いしなければいけないので、あまり大きなものには出来ないのだ。

 とはいえ、それらはそれぞれの属性の「中位精霊」レベルの力が込められていた。

 普段から上位精霊やら太陽神やら歌声の神などを見慣れたせいで、樹木の精霊達の基準はぶっ飛んでいたのだ。

 属性の中位精霊に匹敵する力に、それを扱う知識。

 そんなものを詰め込んだモノは、樹木の精霊達の手によってあれよあれよと形を変えていく。

 小さな宝石の欠片状になったそれらは、軽く見積もっても国宝レベルの代物と化していた。

 彼等があっという間にこんなものを作れたのは、力の扱いが上手くなっていたからだ。

 赤鞘の仕事を特等席で見続けてきた樹木の精霊達は、それをいつの間にか学習していたのである。

 その腕前こそ赤鞘からみっちり技術を教わっている上位精霊達ほどではなかったが、それでもこの世界ではかなりのものであった。


「できたー!」


「つくったー!」


「これで、ぽてとちっぷす食べれるー!」


「やったー!」


 樹木の精霊達は創ったものを手に、きゃっきゃと歓声を上げた。

 ほんわりとした空気の流れるこの場所で、数時間後赤鞘の悲鳴が響き渡る事に成ろうとは。

 このときは誰も予想していないのであった。

短すぎるとは思うんですが、区切りがあれなんで投げちゃいます

次回、風彦爆誕

名前いっちゃうの? っていうつっこみはいまさらだとおもうの

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