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九十七話 「馬鹿なのか? あの土地に近づく?」

 見直された土地と、それを取り囲む罪人の森。

 その外側には広い草原が広がっていて、更にその周囲を森が囲んでいる。

 奇妙な植生ではあったが、それが現在の見直された土地の周囲の状況であった。

 ステングレアの隠密達が潜んでいるのは、主に草原を挟んだ、外側の森の中だ。

 見直された土地を見張る事ができ、身を隠すにも適していた

 何より、見直された土地に近づくには、まずこの場所を通る必要がある。

 森を厳重に守るのは、手堅い手段なのだ。

 勿論、海にも警戒網は敷かれている。

 いくつもの小船が、目立たぬように見直された土地の海岸から少し離れた海上に浮かんでいた。

 とはいえ、浮いているのはどれも小船であり、警戒が厳重である、とは言い難い。

 海という遮蔽物の無い場所では、目立たないようにする、という大原則を持つステングレアに出来る事は、極々限られているのだ。

 そもそも大型の船舶、潜水艦などを作る技術は、一部の輸送国家や魔法先進国が保有するだけである。

 歴史的に陸上での戦争に注力して来ているステングレアにとって、海は専門外の領域だった。

 もっとも、それも無理からぬ事だろう。

 この「海原と中原」は、特殊な世界設計をされている世界であった。

 海と陸上、この二つに携わる神が、まったく別なのである。

 これによる影響はとても大きく、いわば別世界といっていいレベルであった。

 とてつもなく大雑把に言ってしまえば、海と陸上では、世の理が別物になっているのだ。

 特に創生の力を扱う術である魔法への影響は大きく、海上で発生させた魔法は水中に入るとほぼその効力を失い、威力が半減以下になってしまう。

 突然法則の違う世界に叩き込まれるわけだから、さもあらん、といったところである。

 そのような理由から、ステングレアは水中の感知を苦手としていた。

 だからこそ、コウガクやセルゲイ達は嵐に乗じる事で、海中から岸へと近づく事が出来たのだ。

 ならば見直された土地に近づきたいものは、皆海から行けばいいではないか。

 そう思うかもしれない。

 だが、実際はそう上手くはいかなかった。

 海中を進むための潜水艦などは特殊な装備であり、持つ国も団体も限られている。

 そういったものは事前にマークされているため、何か動きがあれば直ぐにステングレアの監視対象になるのだ。

 よしんばそういう装備を持たず、泳いで渡ろうとするものがいたとしても、陸上からの監視で容易に発見されてしまう。

 それこそコウガクのように、数時間水中に潜って進むという荒業を使う以外ないのだ。

 もちろん、そんなことが出来る者は極々限られている。

 国に所属している事が殆どなので、やはり何か行動を取ろうとすればステングレアの張った網にかかる事になるのだ。

 現状、見直された土地に入る方法は、大きく分けて四つしかない。

 コウガクのようにまったくのぶらり旅で、身体能力に物を言わせ嵐の海を突っ切るか。

 セルゲイ達のように、特殊な装備と自分達の技術、さらに、“罪を暴く天使”のバックアップを受けて海から進入するか。

 土彦が掘ったトンネルを通るか。

 ステングレアの警戒網を、力尽くで切り抜けるか、である。




 見直された土地を囲む森を、四人の男女が歩いていた。

 正確には、一人の青年と、三人の少女である。

 青年は、少年と青年の間ぐらいの年齢だろうか。

 人間年齢で言えば、15、6といったところに見える。

 やたらと黒い服の上に、やたらと黒い軽鎧を着けていた。

 その上に黒いロングコートを羽織っており、一見しておおよその人が持つであろう感想は「黒い」であるだろう。

 腰に、二振りの剣。

 背中には、これまたやたらと黒い斜め掛けのショルダーバックを背負っている。

 それらの装備に共通しているのは、黒い事。

 そして、妙にきらびやかな金属と宝石で装飾されている事だろう。

 知らないものが見れば無意味な装飾に見えるかもしれないが、実際はそうではない。

 宝石と金属の組み合わせにより魔法を発動する、「装飾魔法」と呼ばれる技術体系の魔法道具なのだ。

 全身にそれを施した装備を身に着けているということはつまり、彼が戦闘態勢を整えているという事を示していた。

 余談だが、「装飾魔法」を施す下地は黒でなくてはいけない等の制約は無く、衣装は完全に彼の趣味である。

 女三人のほうはといえば、やはり全身に「装飾魔法」を施した装備を身に着けていた。

 衣装はそれぞれ、シスター風、魔法使い風、弓使い風という具合だ。

 なぜ、風、なのか。

 それは、やたら煌びやかだったり、可愛らしすぎたり、機能性度外視だったりするからだ。

 彼等四人の姿をもし赤鞘が見たとするならば、こういうことだろう。


「うわぁー。ゲームのコスプレみたいですねぇー」


 そう。

 彼等が身に着けている服装を一言で言えば、まさにファンタジーなゲームとかアニメの世界っぽいものだったのだ。

 地球の常識で考えれば、ものすごく動くのにジャマそうな衣装でしかない。

 だが、実際は装飾魔法で強化された、とても強力な装備なのである。

 そんな武装をした彼等が目指すのは、見直された土地であった。

 彼等はとある国が送り出した、強行偵察員なのだ。

 目的は、見直された土地の現状を調査する事、である。


「ねぇ、イクス。やっぱり危険なんじゃ……」


 そう口にしたのは、シスター風の衣装を着た少女だった。

 豊満な体の持ち主のようで、やたらと胸の部分が出っ張っている。

 衣服はいわゆる乳袋構造になっており、どうやってその布を身に着けたのかいささか疑問を生じさせるものであった。

 イクスと呼ばれたのは、先頭を歩く黒い服装の少年である。

 少年ことイクスは立ち止まると、周囲に向けていた警戒の目を緩め、後ろを振り返った。


「確かに危険かもしれないけど、情報を得るにはこれしかないからね」


 四人はここ数日、アインファーブルでの情報収集に当たっていた。

 見放された土地に一番近い都市であるアインファーブルは、情報収集にはうってつけの場所だ。

 だが、結果は芳しくないものだった。

 元々近づくもののいない土地である上に、現在ではステングレアの厳しい監視下にあるのだ。

 目ぼしい情報が手に入るわけもなく、痺れを切らしたイクスは、直接のその目で確認するため行動に出たのである。


「そうよ! 何のためにわざわざこんな辺境まで来たと思ってるのっ!?」


 シスター風の少女に対し声を荒げたのは、魔法使い風の少女だった。

 ツバのやたら広い大きなとんがり帽子に、ふわりと広がったミニスカート。

 足には黒いタイツを履いており、スカートとタイツの間にはいわゆる絶対領域が形成されている。

 背中部分にはなぜか大きなリボンがあしらわれており、手には煌びやかなステッキと思しきものが握られている。

 ちなみに乳は、並といったところだろうか。

 ついでに言うと、髪の毛の色はピンク色だ。

 別に染めているわけではなく、れっきとした地毛である。

 魔法使い風の少女の強い言葉に、シスター風の少女はひっと短い悲鳴を上げた。

 それでも言わねばならないと思ったのか、ぐっと息を呑みこみ意を決した様子で口を開く。


「でも、ここはステングレアの人達が見張ってるって……!」


「それこそ問題ないわっ! 私とイクスと、その女も索敵してるんですものっ!」


 腰に両手をあて、魔法使い風の少女は鼻を鳴らした。

 魔法使い風の少女がその女、といったのは、弓使い風の少女の事だ。

 大きな弓を背中に背負い、半ズボンで、腹部が露出した上着を着ている。

 腹部は露出しているにも拘らず、なぜか袖の部分は指が隠れるほど長かった。

 胸の部分に引っかかりの無い、いわゆるナイチチ体系だ。

 あまり印象のよろしくない魔法使い風の少女の言葉だったが、弓使い風の少女は気にした様子はない。

 感情を表さない表情でコクリと頷くと、そっとイクスのそばに近づいた。


「私とイクスが魔法で、その女が気配で周囲を探っているのよ? そんな心配ないわっ!」


 魔法使い風の少女が言うように、彼等は三重の警戒網を敷いていた。

 イクスと魔法使い風の少女が発動している、周囲警戒の魔法による探知。

 そして、感覚に優れた、弓使い風の少女の五感による探知である。

 多少高度な迷彩が施された罠や隠れた相手でも、これならば問題なく見つけ出すことが出来るだろう。


「そうかもしれないけど……」


 イクス達四人は彼等の国の中でも、指折りの実力者であった。

 実際、他国との小競り合いなどが有った場合にも出撃を経験しており、戦績もその高い能力を証明してる。

 情報に敏い国々の間では、ある程度名の知れた存在なのだ。

 言葉の勢いを失い、シスター風の少女はしょぼんとした表情を見せる。

 そんな彼女の肩を、イクスは苦笑しながら叩いた。


「大丈夫だよ。何かあったら、僕が守るから」


「イクスさん……!」


 イクスの言葉に、シスター風の少女はぽっと頬を染める。

 それを見た魔法使い風の少女と弓使い風の少女が、機嫌悪げに眉を吊り上げた。

 と、そのときだ。


「貴様ら、ワザとやっているのか?」


 突然聞こえてきた声に、四人がすばやくそれぞれの武器を構える。

 イクスは両手に剣を。

 シスター風の少女は錫杖、魔法使い風の少女は杖、弓使い風の少女は背中の大きな弓だ。

 周囲に警戒を張る四人だったが、声の主を見つけることは出来なかった。

 目視でも、魔法的な索敵にも引っかからない。

 イクスの額に汗がにじみ、ごくりと息を飲んだ。

 彼の視線の先にある空間がぐにゃりとゆがんだのは、それと同時だった。

 まるで空間をめくるようにして現れたのは、黒髪の少女。


「“蛍火の”マイン・ボマー……!」


 驚愕した様子でその名を口にしたのは、イクスだった。

 ステングレアと戦う事になるかもしれない以上、知って置かなければならない名前と顔である。

 なにせ彼女は、ステングレア王立魔道院の、次席なのだ。

 それは、隠密達を束ねる副頭目であり、隠密達の中で二番目の実力者である事を示していた。

 ステングレア王立魔道院次席であるという事。

 それは、単に凄腕の術師であることを示すものではない。

 一個人で数十人からの兵士を真正面から相手取って戦える、化け物であることを示す称号だ。

 イクス以外の三人も目の前に居る少女の正体に気が付いたのか、表情を見る見るうちに変えていく。

 マインは肩眉を吊り上げると、不思議そうに首を捻った。


「何をしているんだ一体」


「見放された土地の様子を、見に来たんだ」


「馬鹿なのか? あの土地に近づく?」


 本気で理解に苦しむのか、マインは訳が分からないといった様子でそう口にした。

 それを見たイクスは、意を決したように言葉を続ける。


「僕達は、調査のためにここに来たんだ。通して貰いたいんだけど」


「彼の土地は、太陽神アンバレンス様が封印し、私達が近づくものを排除してきた土地だ。近づかせる訳が無いだろう? 大人しく帰れ。捉えるのも面倒くさい。紙雪斎様も雑魚は放っておいて構わないと御慈悲を下さっている」


 眉間に指を当てながら、マインはいかにも面倒臭そうに手を振った。

 まるで聞分けの無い子供を相手にするような仕草ではあるが、イクス達にそれに腹を立てた様子はない。

 相手が自分達よりも格上なのだと、嫌でも分かったからである。

 その気配や、立ち居振る舞い。

 何よりも、体から感じる事ができる魔力。

 何気ない状態ですら立ち込める濃厚な魔力は、圧倒的な力の証だ。


「そういう訳にも、行かないんだっ!」


 気合のこもったイクスの声が合図だったのだろう。

 四人が一斉に動き始めた。

 まず最初に動いたのは、イクスだ。

 木々の濃い方に向かって跳躍すると、草木の陰に隠れながら走り始める。

 それとほぼ同時に、弓使い風の少女が三本の矢を同時に放った。

 的確にマインの急所に向って飛ぶ矢には、それぞれ魔法がかかっている。

 何かの衝撃、あるいは対象に近づいた時爆発する、攻撃的な魔法だ。

 それを知ってか知らずか、マインは手首だけで何かを放るような動作を見せた。

 手元から飛んだ白いものは、いつのまにか手にしていた紙である。

 黒い墨のようなもので書き込まれた図形と文字の組み合わせは、淡く仄かに輝いていた。

 ステングレアの魔法体系、「紙陣魔法」だ。

 まるで弓矢のようにまっすぐに飛んだマインの紙は、弓使い風の少女が放った矢と接触。

 強烈な爆音を上げ、四散する。

 その衝撃に煽られ、放った矢にかかっていた魔法が発動した。

 両者の丁度中間で起こった爆発はマインの衣服をなびかせたが、三人の少女にはなんら影響を及ぼさなかった。

 シスター風の少女が、光の障壁を張っていたからである。

 小さなため息を吐いたマインの真後ろから、突然黒い塊が襲い掛かった。

 二本の銀光を携えたそれは、姿を消していたイクスだ。

 マインはそちらを見もせずに片手を挙げると、イクスが振るった剣を素手で弾いた。

 振るわれた剣の腹の部分を、掌で叩いたのである。

 確かにその部分であれば手は切れないだろうが、かなりの速度で動く剣で的確にそれをやってのけるなど、並みの技量ではない。

 イクスは驚愕に目を見開くが、すぐさま切り替えて攻撃を続ける。

 連続で激しい剣撃を繰り出すが、そのことごとくをマインは片手で捌いて見せた。

 押し切ろうとイクスは距離をつめようとするが、剣を弾かれる度に走る衝撃のため、近づく事が出来ない。

 恐らく、マインはそこまで考えて剣を弾いているのだろう。

 数秒のうちに何十と振るわれる剣を、マインは一瞥もせずに弾き続ける。


「くっ!」


 悔しげに、イクスは声を上げた。

 すると、光の障壁の向こうで、何か強烈な光が発生する。

 青白いその光は、魔法使い風の少女が持つ杖から発せられていた。

 イクスがその場を飛びのき、光の障壁が消える。


「喰らいなさいっ!」


 魔法使い風の少女の叫びと共に、光の奔流がマインへと襲い掛かった。

 当のマインはといえば、僅かに困惑した表情を浮かべた程度で、別段変わった様子はない。

 光の帯はそのままマインを飲み込むと、それを中心に爆発を起した。

 巻き上がる爆煙と爆風を、すかさずシスター風の少女が障壁を張って防いだ。


「やったかっ……」


 近くの木の上に飛び移り爆発をやり過ごしたイクスは、緊張した面持ちでそう呟く。


「そんなわけが無いでしょう」


 それに応えたのは、爆心地にいたマインだった。

 先ほどから立っている位置から微動だにせず、衣服にも汚れなどは見当たらない。

 イクスが驚きの声を上げるよりも早く、マインは手首だけの動きで何かを投擲した。

 一瞬でイクスの胸に張り付いたそれは、仄かな光をともした紙である。


 ドンッ


 弾けるような爆発音が響き、イクスの体が吹き飛んだ。

 三人の少女が悲鳴にも似た声を上げるが、そんな暇も有らばこそ。

 瞬く間に間合いをつめたマインが、少女達のみぞおちや首筋に打撃を加えていく。

 文字通り意識を刈り取られた少女達は、ばたばたと地面に崩れ落ちていった。

 マインは懐に忍ばせた紙に魔力を流し、魔法を発動させる。

 四人全員が気絶している事をそれで確認すると、深い深いため息を吐いた。




「いや、お見事ですな」


 そんなことを言いながら木の上から飛び降りてきたのは、隠密の衣装に身を包んだドワーフの男性であった。

 マインはそのドワーフに顔を向けると、左右に首を振りながら息を吐く。


「何なんですか彼等は」


「それなりに使える者達、ですよ。人間至上主義のあの国の連中でしょうなぁ」


 様々な人種が入り乱れる「海原と中原」にも、人間至上主義を掲げる国家は存在していた。

 人口だけでは中堅以上に食い込む国で、数に物を言わせて発言力もそれなりにある。

 ただ、人種差別が激しく優秀な人材が育ちにくいため、魔法技術的には並程度という所であった。

 数が多いだけに、それなりに優秀な人材も存在してる。

 それがイクス達四人だったのだが、相手は世界でも最高峰の魔法技術を誇る国。

 しかもその国内でも五本の指に入る術師だ。

 あまりにも相手が悪すぎたのである。


「本当に彼らが本隊なんですか? ワザと実力の無いものを囮にしたとか……」


「自分を基準に考えんで下さい」


 納得いかない様子のマインに、ドワーフの男性は苦笑を漏らす。

 そうこうしているうちに、わらわらと他の隠密たちが姿を現し始めた。

 地中や、木々の間、草むらなど、それぞれ異なる場所から次々に這い出してくる。

 彼等はすぐさま気絶している少女達やイクスを回収すると、マインの前に集まった。


「まったく。こんな連中の相手をしている暇はないんですよ、本来は。“複数の”プライアン・ブルーや“鈴の音の”リリ・エルストラ。果ては“影渡り”キース・マクスウェルまで来ているという話があるんです」


 眉間を押さえながらぼやくように言うと、マインは居住まいを正し顔を上げた。


「この程度なら放っておいて良いでしょう。アインファーブルの路地裏に転がして置いてください。次来たら、殺します」


『はっ!』


 隠密達は短く返事をすると、一斉に姿がかすむほどの高速で動き出した。

 四人はそれぞれ、その隠密達の肩に担がれて、運ばれている。

 隠密達を見送ったドワーフの男性は、僅かに肩をすくめた。


「よろしかったので?」


「この地で無闇に殺すな、というのが紙雪斎様からの御達しです。無論私もその意見には賛成です」


 冒険者の街の程近くという場所柄、多少の戦闘程度ならば問題は無いだろう。

 だが、見直された土地の近くという場所柄から、大量の血が流れるというのはいかにも宜しくはないと思われた。


「紙雪斎様はアグニーを捕らえている国の調査の最中でしょうな。そろそろ踏み込む国が決まったでしょうか」


「決まり次第、私もそちらに向かいます。それにしても。ステングレアが刺激したあとだというのに、なぜ見放された土地に近づこうなどと考えるのでしょうか。とても信じられません」


「それぞれ国ごとの事情というものでしょうな。だからこそ、私達が居るのですとも」


 実際、不躾に見直された土地に近づこうとする国が、無いわけではない。

 何処の世界にも、考えなしに無茶な事をしようとする連中は居るのだ。

 そういう連中の抑止力になっているのは、間違いなくステングレアなのである。

 彼等のおかげで、今の所見直された土地に直接侵入してくる、招かれざる客は一人もいないのだ。


「まあ。それはその通りですね。ともかく、もう一度索敵をさせましょう。やはりあの連中が本命とは思えません。大体……」


 マインは地面に視線を下ろし、片手を軽く上げた。

 すると、地面や木の表面、空中など、いたるところから淡く仄かな光が漏れ始める。

 数十、数百に及ぶそれらは、マインが隠蔽魔法を施した、地雷や空中機雷であった。


「これだけ浮かべている中を平気で歩く連中ですよ。腕が立つとは到底思えません」


 真剣な表情で言うマインに、ドワーフの男性は肩をすくめた。

 “蛍火の”マイン・ボマー。

 その得意とする魔法は、隠蔽魔法等によって不可視化された、魔法機雷や魔法地雷であった。

 破壊力だけでなく、その探知のし難さこそが、最大の武器なのだ。

 それを探知しろというのは、なかなか難しい注文だろう。

 言ってみれば彼女の不可視化地雷や機雷は、世界最高精度のものなのだから。


「自己評価が低いのか、他人に厳しいのか。分かりませんな」


「私はただ、紙雪斎様に恥じない仕事をしたいだけです。さあ、行きましょう」


「はっ」


 それぞれに高速移動の魔法を発動させると、二人は森の中へと消えていった。

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[良い点] 面白い。続きが気になる。 [気になる点] 赤鞘様こっちきて一年経ってませんよね? 見直された土地とそれ以外で時間の流れが違う気がする。 あっしの読解力が足りないのかそれともおいらのおつむが…
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