王立学園卒業生、平民初の王宮書記官になる
「おい! ここは神聖なる聖ピルティア王国の王立学園だ! 平民が来ていい場所じゃない!」
担任となったサロスア先生にそう指さされ、生徒たちにはクスクスと笑われる。
「……」
私が俯いて黙っていると、後ろから教本が飛んできて私の後頭部にごつりと当たって床に落ちた。
「おい、やりすぎじゃないか?」
「平民だぞ? これくらい平気だろ」
笑いながらそう語るのは伯爵家の息子。
私は顔をあげて口を開いた。
「……今年度から王立学園でも一定額の納入金を払えば、平民が学ぶことができるはずです」
私の言葉にサロスア先生が耐えきれなかったように吹き出した。
「ふは、建前っていうのを知っているか? 隣国が次々と王政を廃止しているせいで、我が国もそれに倣っただけだ。あくまで外交のためにな」
「汚い平民が王城に勤めるなんて信じられないですものね」
「そうだ。それに、平民なんかが治世をできると思っている隣国の者どもも頭がおかしい」
笑っている生徒たちは、次は水入りの瓶を投げつけてきて、服が濡れた私は逃げるように教室から駆け出すのだった。後ろから聞こえる笑い声に歯を噛み締めながら。
「お父様。王立学園では散々な間に合いました」
私を溺愛している父は、顔を歪めて私を抱きしめた。
「大丈夫か? そんなところ辞めてしまっていいんだぞ?」
父の言葉に微笑みを浮かべて、
「えぇ。お父様からいただいた入学祝いのおかげでもう王立学園は充分ですわ。ただ、王宮書記官になる要件として、王立学園の卒業が必須だとか」
困ったように頬に手を当てて私が目を閉じると、お父様は私の手を取り、頷いた。
「大丈夫だ。聖都学園に留学という形で学園長には話をつけてやろう。何、お父様は凄腕商人だぞ?」
「知っていますわ。さすがお父様」
王国で一番の商会で、国の流通の要として存在する我が商会を見くびるこの国の貴族たちの無能さに呆れ返りながら、私はお父様にしっかりと甘えた。嬉しそうに笑っているお父様。実際にお父様の取引では笑顔で笑っているだけに見えるお父様の思うがままに商談がまとまっていく。国一番の商会に育て上げたお父様は本当に凄腕商人なのだ。
二年後。無事に聖都学園で学び、平民初の王宮書記官となることが決定した私の元に、王立学園の生徒たちと最初の担任であったサロスア先生が現れた。にやにやと笑みを浮かべたサロスア先生が言った。
「平民という卑しい身に生まれながら、難関の王宮書記官に登用されると決まったそうだな。どんな抜け道を使ったんだ?」
「花でも売ったか?」
下衆びた笑い声に、顔を顰めそうになりながら、お父様からいただいた入学祝いを袖の下で握りしめる。
「……それは王宮への不敬となります」
私の言葉を鼻で笑って、サロスア先生が言った。
「仕方がないから、お前を教え子として認めてやろう。これで晴れて平民初の王立学園卒業生だな」
笑い声に嫌な気持ちを押し殺しながら私は笑みを浮かべた。
「そうですね。みなさまには大変お世話になったので、よろしければ平民向けの学校説明会でご挨拶しましょうか? 卒業生の一人として」
私の言葉にニヤニヤと笑みを浮かべたサロスア先生が言った。
「それはいいな。せいぜい、俺たちのことを褒めておけよ」
サロスア先生のそんな言葉や
「王宮書記官として勤めるなら、俺たちを推薦するくらいの役には立てよ」
生徒たちの言葉に笑顔を送り、学校説明会当日を楽しみに迎えます。
「皆様、初めまして。私は王立学園から聖都学園に留学した王立学園の卒業生で、平民初の王宮書記官になった……」
私の挨拶に、平民の商家の親たちが耳を傾ける。平民初だが成績も最優秀だったらしく、国王陛下からの覚えもめでたいと私はかなりの有名人らしい。
「……学園では、受験前にはこのように励ましてくださいました」
私はそう言って、お父様から入学祝いでいただいた録画録音の魔術具という、隣国で新たに開発されたばかりの商品を手に取り、再生ボタンを押します。
「おい! ここは神聖なる聖ピルティア王国の王立学園だ! 平民が来ていい場所じゃない!」
サロスア先生の罵声と生徒たちの笑い声、その映像に続いて私に飛ばされる教本。映像が流れ、私は慌てたように立ち上がった。
「あ、映像を間違えました! すみません! すぐに止めます!」
ざわついた商人たちに、学長やサロスア先生が慌てる。
そして、私は止めるボタンを押すふりして、次の映像を再生する。
たまたまこの平民向けの説明会の開始前に間違えて録画してしまった、この王立学園の学長と教師たちの会話だ。
「平民なんて金蔓でしかない。無能に金を寄付させて、貴族たちの教育に活用する」
「平民が勉強なんてしても無駄なのに、金の無駄遣いですな。はっはっは」
「あ、間違えた。あれ、どれだっけ……」
私は慌てたように映像を切り替え、王立学園ではなく聖都学園の玄関ホールで友人たちに試験前に一人ずつ私の手を取って応援してくれている様子を流します。先生方も私の頑張りを讃えてくれています。
「あなたなら絶対合格できるわ」
「ありがとうございます」
「この聖都学園での学びを活かしてちょうだい」
「はい、必ず」
微笑ましい映像に、父母たちは笑みを浮かべる。この玄関ホールは聖都学園で有名な場所で、玄関ホールを描いた絵画は何度も展示されたこともある。
「私からは以上です。この後、聖都学園でも説明会を行います。私も続けてご挨拶させていただく所存です」
私の挨拶に拍手喝采が起こる。一方で、平民の学生からの寄付金頼りの学園長は慌てたようにあたふたとし、しどろもどろになりながら王立学園の良いところを言い続けていた。私に怒鳴ろうにも、私への態度が悪ければ、全てバレてしまう。そんな表情で。
「すみません。このあと聖都学園の説明会も行く予定ですが、お話を伺ってもよろしいですか?」
私を守るように包囲する受験生の父母たちに囲まれて、王立学園を後にした。
その後のことだが、私は無事に王宮書記官として登用された。私が最初に提言した政策は、どの学園を卒業しても王宮書記官になれる、というものだ。
そして、他国へのアピールにもなるため、国王陛下からの覚えめでたい平民の書記官がそんな目にあったと知って、国王陛下から、私をいじめていた各貴族家はご指摘が入り、後ろ指をさされているようだ。
その後に、国王陛下の右腕として宰相職にまで上り詰め、平民初の宰相となったのはここに記す必要はないかもしれない。
また、王立学園はその後運営が立ち行かなくなり、廃校となったという。
最後に、私の説明会での復讐の計画を聞いた両親は、「やってしまいなさい。それで危なくなるくらいなら、無くなる国だ。それに、もう貴族制などほとんどの国で廃れているのに継続している動きの遅い国なのですから、いざとなればいつでも他国に亡命します」と背中を押してくれたのだった。




