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1 すべてのはじまり

 初めまして。炉心と申します。

念願だった創作の投稿をはじめることにしました。初の投稿であり、また、自分はアマチュアであるため、拙い箇所も多いと思いますが、温かい目でご覧いただけると幸いです。よろしくお願いします。

 血痕が残る部屋は、暗く、どこか不穏だった。飛び散った鮮血は月に照らされ、どこか寂しげに輝いている。飛び散ってそう時間が経っていない血液。血液の主であっただろう少女は、割れた窓から外をのぞき込んだ。ただでさえちくちくと当たる風が、更に切り傷に追い打ちをかけるように肌を刺してくる。


「…………!」


月を背景に、一人の人間が立っている。いや、浮いているのだ。その下には、数多に人間がひざまずいている。その人間たちは呼吸しているのかどうかも分からない。それほど微動だにしない。それを見た少女は、自分の硬いベッドの上にあるぬいぐるみのような人間たちに恐怖を覚えた。

 少女はあと一歩でベッドのところで静かに倒れた。途端に、少女の身体を謎の不調が襲った。ひんやりとした床は、まるで以前食べたソフトクリームのように冷たく、自身の下に広がる小さな血の水たまりは、こたつのように暖かかった。寒さと熱さが混合する中、更に身体が動かなくなっていった。少女は、死を悟った。

 意識がぼんやりとしてきた頃、誰かが優しく少女を抱き抱えた。


「だれ……?」

「遅くなってごめんな。すぐ、おうちに帰ろうな」


「私のおうちはここだよ」。そんな声も出ず、赤ん坊以来感じてこなかった人間のぬくもりに安心し、少女は静かにまどろみの中に沈んでいくのだった。

 

 少女は静かに目を覚ました。ふかふかなベッドと、見知らぬ天井。横に座る男の人の顔が見える。


「目を覚ましましたよ!」


男は立ち上がり、誰かにそれを言っている。


「良かった…………本当に良かった…………」


慌てて来たもう一人の男は、優しく少女の手を握った。


「もう、あんな思いはさせへんからな……」


男はそう言って、懐からペンダントを取り出した。真っ赤な宝石の付いた、美しいペンダント。


「これを付けておくんや。どんなものからも、お前を守ってくれる。そしていつか、その石が示す先に、お前の仲間がいるはずや。お前ならできる。必ず、できる」


なんのことだか分からないが、そのペンダントに少女は喜んだ。これを一生大切にする。自分で付けていた薔薇のペンダントのチェーンに赤い宝石を通し、付けた。


「似合っとるよ」


男のその言葉に、彼女は無邪気に笑った。



 赤いペンダントは、彼女の生命の灯火となった。それと同時に少女は、大きな宿命を授かることとなった。



 仮面の女は、桃色の美しい髪をなびかせながら走っていた。片手には大きな剣。大きな建造物の上を飛び移り、黒い影の跡を追う。黒い影は立ち止まり、静かに消えた。


「クソッ」


仮面の女は小さく舌打ちをした。やがて倒れ込み、マントで隠していた右腕の傷が露わになる。


「いってえ……」


衣服と共に切られたその傷口からは、どろどろと血が流れている。ただでさえぼろぼろだったマントを引きちぎり、腕に巻き付けた。小さく呼吸して、女は家路へと向かった。



 「あづ~……」


扇風機が回った部屋の中でテーブルに顔を突っ伏し、花宮洋真は呟いた。


「ほんっとうにそれなぁ」


うちわで顔を扇ぎながら、不咲和志が共感する。


「ふたりとも、今にも溶けてしまいそうですね」


道野界は、ふふふと笑って麦茶の入ったグラスをテーブルに置いた。グラスの中の氷がぶつかり合い、カラカラと涼しげな音をたてた。


「道野さん、ありがと」

「さんきゅ。てかお前暑くねえの?」


そう問いかける和志はグラスを持つや否や、すぐに麦茶を飲み干した。


「暑さには慣れているので、私は大丈夫ですよ」


にこりと微笑みながら、和志のグラスに麦茶を注ぎ足した。


「慣れてるって……まあ、お前は寒がりだもんな」


 洋真がぽちぽちとエアコンのリモコンを押しても、何も反応しない。そしてしばらく考えた末、リモコンをベッドの上に放り投げて自分も倒れた。


「クーラーつくの明日からだー」


その一言に和志は「はあ!?」とあきれたように言った。


「まじかよ。だってもうついても良くね?熱中症で死ぬって」



 花宮洋真、不咲和志、道野界。彼らは、名門校花宮学園に通う高校生だ。夏の放課後の今。三人は寮の洋真の部屋でゆっくり過ごしていた。

 洋真はこの学園の理事長の息子でありながら、理事長である父親とは暮らさず、寮で和志と界と生活している。

 和志と界は、帰る場所がなかった。小学校3年生まで二人を育てたとある女は、学園の手続きをして、寮という二人が生活できる場所を与えた末に、姿を見せることはなかった。学費やお小遣いなどの仕送りはあるものの、帰省できる金は与えられていないため、二人が帰省したことは一度もなかった。また、洋真は知らないが、帰省したくない理由があるのだ。


 彼らは学園で出会い、親友とも呼べる仲になった。明日から夏休みということもあり、寮の生徒たちはほとんど帰省しているため、いない。


「明日から休みで部活もないし、どっか行く?」

「せっかくだし、海とか行かね?普通に遠出してもいいか……」

「あの、和志」


洋真と和志が明日の予定について話していると、界が和志に話しかけてきた。


「ん?どうした?」

「実は……」


言いづらそうにしているのを見て、洋真は二人の問題かと察した。


「俺席外す?」

「あ、いえ、大丈夫ですよ。いてもらってかまいません」

「おい。界?用があるならさっさと言えよ」


界はしぶしぶ封筒を取り出した。封筒には少しばかり厚みがあった。


「これ、瑠璃さんからなんです」

「げっ…………洋真。やっぱ少し出ててくんね?」

「はいはい。終わったらちゃんと連絡してね」

「おう」


緊迫した様子の二人に眉をひそめつつも、洋真は部屋を出た。



 「しっかし、なんだろうなあ」


廊下の窓にもたれ掛かり、洋真はぽつりと呟いた。空は青々と澄んでおり、大きな白い雲がそのキャンパスを染めている。南より少し西に傾いた太陽は、ぎらぎらと黄色にも見える白い光を放っていた。


 「先輩、お疲れさまです!」


遠くの方で聞き覚えのある声が聞こえた。


「明!おつかれ」


同じ委員会に所属する、雨鳴明が立っていた。


「先輩、何してたんですか?」

「ん~……親友の秘密を聞かないようにしてる、といえばいいかな」

「なるほど」


難しそうな顔をして明は頷いた。


「明の方こそ、何してたの?」

「これから友達と出かけるんです。近くのショッピングセンター」

「ゲーセンは気をつけろよ。最近怖い奴いっぱいいるんだから。前だって、小等部の子がそこで不良に絡まれたみたいだし」

「分かってますよ。気をつけます」

「明ー!置いてくでー!」


遠くの方で、明を呼ぶ声が聞こえた。


「はーい!じゃあ先輩。いってきます」

「いってらっしゃい」


明を見送った後、洋真の頭には一つの疑問があった。


「あんな子いたっけ、、、」


 洋真はこの学園の中等部と高等部のほぼすべての生徒を覚えていた。しかし、彼の友達であろう遠くから彼を呼んだ生徒に関しては、見たことがなかった。遠くからでしか見えなかったが、赤いロングヘアに、制服を着崩していた。


「まあ、いっか、、、」


洋真はそう呟いて、再び窓の外を眺め始めた。


 二人の間には、緊迫した空気が流れていた。界の持つ便箋には、達筆な文字が敷き詰められていた。


『拝啓

不咲和志様、道野界様

暑中お見舞い申し上げます。年々の暑さが厳しくなり、今年も既に最高気温記録が更新されましたが、いかがお凌ぎでしょうか。

さて、本日手紙をお届けした理由に関しましては、対面でしかお話できないことがあるためです。ご都合のよろしい時に、こちらに来ていただけると幸いでございます。また帰省の際の交通費ですが、同封してありますので、それをご利用ください。以上、どうぞよろしくお願いいたします。

敬具

七月二十八日 蒼蛇瑠璃

追記

お友達である花宮洋真様も、ともにこちらに向かうよう、必ずお伝えください。』


 手紙を読み終えて、二人は顔を見合わせた。


「も、もしかして……」

「クソっ。とうとう来ちまったか」

「でも、なぜ洋真さんの名前も……」

「あいつも、選ばれた人間ってことなんだろ」



 「帰省……」

「ああ」

「はい」


洋真は二人が帰省することに、なぜこんなにショックを受けているのか、分からなかった。和志は腕組みをして上の空状態、界はベッドにうなだれている。


「そ、そんなに帰省したくないの?」

「嫌ですよ~」

「道野さん、珍しいね」


普段冷静沈着でポーカーフェイスの界が、今にも泣きそうな顔をしている。


「行ってきなよ。そのお金ももらえたんでしょ?」

「そのことなんだが、お前も俺たちと一緒に行くことになった」

「は?」

「まあ、そういうことだ。明日から三日間だから、荷物まとめておけよ」

「え?決まってんの?なんで?」

「なんでって……お前も連れてこいって、あの人が」


“あの人”とはきっと、二人を育ててきた親代わりの人のことだろうと洋真は察した。


「まあ、とにかくあれだ。明日からここ出るから、お前も荷物まとめとけよ」

「わ、わかったよ」


疑問が残りつつも、洋真は部屋の押入れから、ほこりのかぶったスーツケースを取り出すのだった。



 翌日。三人は学校の最寄りの駅から、八時半発の新幹線に乗った。新幹線は徐々に速度を増して動きだし、見知った街を通り過ぎ、やがて海の広がる風景を三人に見せた。


「綺麗な海だなあ」

「本当ですね……キラキラしてます」


洋真が本を読んでいると、小洒落た私服ではしゃぐ和志と界の声が後方から聞こえてきた。

 二人は海を見たことがあまりなかった。幼少期、二人の親代わりの人が一度連れて行ってくれただけで、学園に来てからは一度も見ていない。ましてやこんなに晴れた夏の海など、彼らはこれが初めてだった。

 本にしおりを挟み、洋真は窓から見える海を眺めた。きらめく海は空を模したよう青々としており、日差しで宝石の如く輝いていた。


「本当に、いつ見ても綺麗だな」


何度も海を見ている洋真も、静かに感嘆の声を漏らした。


 「ねえ。和志、界さん」

「ん?なんだ?」

「なんですか?」

「二人って一回海に来たことあるじゃん。その時何したの?ほら、泳いだことないって行ってたから、何しに行ったのかなって」


問いかけに中々返答が返ってこない二人の方を見ると、二人は考え込んでいた。


「ん~。なんて説明すればいいんだろ」

「え、なに。そんなに難しいこと?」

「まあ、お前が今回、俺たちの親代わりの人に呼び出された理由には関係あるな」

「なになに。気になるんだけど」

「そのことなんですが、他言無用でして。あの人の許しが出ない限り、言っちゃいけない決まりなんです」


その言葉に、洋真はしばらく考えた末に黙った。


「分かった。そっちの事情だもんな。気長に待つよ」


そう言って本を開き、洋真はまた読書をはじめた。しかし、洋真の中で数々の疑問が残っていた。いきなり帰省してほしいという親代わりの人からの頼み、それについていかなければいけない自分、彼らが帰省に対し絶望している様子、二人の海に行った理由、厳重な秘密……。多くの疑問が、洋真の頭の中を渦巻く。そのせいで洋真は結局、本の内容が一つも入ってこないのだった。


 新幹線から電車、そしてバスに乗り換えた。外はすっかり知らない場所で、植物の緑と土の茶色、古い民家の白と黒など、花宮学園がある都会とはほど遠い色たちが集結していた。

 バスに乗って二十分ほど経った時。和志は降車ボタンを押した。


「葉継村?」


洋真が問いかける。


「ああ。しっかしここは、昔から変わんねえな」


バスから降りると、暑さがじりじりと肌を覆い尽くしていった。


「あっつ…………」

「ここは山に位置する場所なので、夏はとても暑いんです。ほら、帽子被りましょう」


三人はバッグから麦藁帽子を取り出し、被った。


「こっちだ。行くぞ」


三人は和志の持つ地図を頼りに、深緑の木々の中を歩き始めた。


 

 波の音が耳に残る。青い海は時に大きく、時に小さく、波打つ。その音は小さい割には、砂浜の砂を巻き込む。そして、時には悪天候と協力し、人間たちに脅威を与える。


「なあ、標。これから私の弟子たちがこちらへ来るんだ。顔を見せてやってくれないか」


紺色の腰まで伸びた長い髪を後ろで縛った女がそう問いかける。


「俺がそこに行って、何の得があるんや?」


「標」と呼ばれたその男が、女に疑問を投げ返した。


「疑問を疑問で返すなと毎回言っているだろ。まあいい。お前の孫、今一人で戦っているそうじゃないか。その子のいずれ仲間になる子たちだ」

「なに、もう跡継が見つかったんか!?」

「標。時は常に流れるもの。我々はあくまで彼らの代替。これでも、長く働いたものだ。だが油断はできんぞ」

「この世界の均衡が、崩れてるんやろ?そのくらい知っとるわ。世代交代するには、まだ早い。せやろ?瑠璃」

「…………ああ」


「瑠璃」と呼ばれたその女は、海を眺めていた金色の瞳を標の方へ向けた。


「もうじき彼らが着く。行くぞ」

「わかっとるわ」


瑠璃はゆっくりと歩きだし、それに続いて標も歩き出した。




 洋真はまだ何も知らなかった。自分が、世界を救う戦士の一人であるということを。

 お読みいただきありがとうございます。

自分が学生ということもあり、投稿のペースは不定期になるかと思います。この物語の世界観が気に入っていただけたなら、とても嬉しいです。

 ここまでお読みいただき、誠にありがとうございます。


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