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私が落としたパンの欠片を目印にあなたはここにやってきた。見つけてほしかったのは私。私は誰かに私の存在を感じてほしかった。隠れている私を引っ張りだしてほしかった。強引に連れ出してほしかったんだよ。
情けないよね。自分の力じゃどうすることもできないから……、私は一人じゃなにもできないくらいに非力だから、夏のことを利用したんだ。友達を裏切ったんだ。(夏は全力で私の思いに答えてくれたね。ありがとう、夏)
ごめん、ごめんね、夏。ごめん。本当にごめんね。今度会ったらきっと謝るから。何回も、何回も土下座して謝るからさ。それくらいじゃ許してもらえないかもしれないけど、それでも私は何度でも謝るから。(夏がして欲しいことはなんでもするよ。本当だよ)
だからお願い。私のこと、見捨てないでほしい。夏、私ね、あなたにずっと、私の側に居てほしいの。本当にそう思っているの。それが私の本当の願い。私のたった一つの本当に叶えたい願いなの。
夏は私を私の世界から連れ出してくれる王子様。私だけの王子様。夏。あなたは私を見つけてくれた人。私の、世界で一番大切な人。それが夏。瀬戸夏。あなたなのよ。
(……あれ? あれあれ? おかしいな? 私の一番大切な人は照子じゃなかったっけ? 照子はどこにいるの? 私は今、どこにいるの? 夏は今、どこにいるの? ふふ。変だよね、夏。なんだか笑っちゃうよね、夏。私さ、自分のことなのにさ、なにが一番大切なのか、自分がなにをしたいのか、自分が今どこにいるのか、自分でもよくわからなくなってきちゃったよ。ふふ。変なの。私、変なの)遥は突然、くすくすと小さな声で笑い出す。