41 愛し合うとは
天界から戻った時はロイの部屋のバルコニーに降り立ったから、ここ、というのを覚えてる。結構特徴的なバルコニーだったからすぐに分かった。
そしてバルコニーに降り立つと、すぐに部屋からロイが駆けてきた。
「アリア?!どうしたの、こんな夜に」
驚いた顔で私を見て、1度部屋の中に戻ってからまたバルコニーに出てきた。そして手に持ってたブランケットを私の肩にかけてくれた。
「何かあった?」
私に何かあったから来たのかと思ってるみたい。
優しい声でそう尋ねてくるロイに、私は首を振る。
「ご飯の後のロイが寂しそうな顔してたから、どういう事なのかな、と思って」
「それで来てくれたの?」
「うん」
だって、気になるじゃん。寂しそうな顔されたら。
ただでさえ私とロイは違う種族で分かり合えないことが多いんだから、少しでも分かり合えるように出来ることからしていきたいから。
ロイはそっと私の手を握って、私の目を見つめた。
「表情に出てた通り、ただ寂しかっただけだよ。暫くアリアに会えてなかったし、今日も2人きりの時間はあまり取れなかったから、もっと一緒にいたいなと思ったんだ」
表情の通りだったんだ。そっか、今日1日殆ど一緒にいたとはいっても、その大半ロイは仕事中でゆっくり話したりとかはあまりしていないからか。
「そっか。じゃあ今話そう?今なら2人だよ。ロイが寂しくなくなるまで、一緒にいるよ」
いい案だと思ったけど、ロイは何故か顔を顰めてしまった。
何か良くなかっただろうか。
「もしかしてロイはもう寝るところだった?それだったらロイが眠るまで手を握ってようか?」
「…あのね、アリア」
どうやらそれも違ったらしい。人間は睡眠が大事だからそういうことかと思ったけど、ロイの顔はそうじゃない、って顔をしてる。
「こんな夜に、好きな人が自分の部屋にいたら、男っていうのは襲いたくなる生き物なんだよ」
「…襲う」
「そう。新人騎士の野外訓練でやったでしょ?ああいう風にアリアを襲ってしまいたくなるから、あまり夜には会えないんだよ」
ここでいうロイの襲うというのは、襲撃的な意味ではなく、性的な意味らしい。人間の欲のひとつだ。
本来子作りをするためのものだけど、それには快感が伴っているらしく、子作り関係なくすることもあるんだそうだ。
そしてその欲求は男の方が強いとも聞いたことはある。
ロイも男だから、そういう欲求があるのだろう。そして新人騎士の野外訓練のように、加害者になりたくは無いから、夜に会わないようにしているんだろうか。
「でもそれって、想いあってる人はするものじゃないの?ロイはしたらいけないの?」
「え……。……むしろ、いいの?」
「うん」
そういうものだと聞いてる。恋人になった人達がしたり、愛し合ってる人がするものだと。たまに欲を満たすためだけにする人もいるらしいが、私とロイはそれに当てはまらない。
私にあまりそういう欲はないけど、天使だけど人間の子供を産めるし、そういうことだって出来る。したことはないけど。
ロイは顎に手を当てて少し考え、そして私の手を引いた。私の手を引いて部屋の中に入り、そして部屋のソファに2人で隣に座る。
「…いくつか、確認してもいい?」
「うん。なに?」
「アリアは、したことある?」
「ない」
ロイの質問に否定すると、ロイはほっと胸をなで下ろしていた。経験がない方がロイは嬉しかったらしい。なくてよかった。
「どういうことをするのかは知ってるの?」
「聞いたことあるくらいかな。天使にはあまりそういう欲はなかったから、人間から少し聞いたくらい」
「…なるほど」
うんうん、と頷いている。
細かく聞いてはないけど、お互い裸で愛し合うのだと聞いている。裸でどう愛し合うのかよく分からないけど、まぁ悪いことじゃないと思う、多分。
「あと…天使は人間の子を妊娠…するんだよね?」
「そうだよ。そこは人間と変わらないよ」
ロイに天使の血が入っていたのがその証拠だ。周りにも人間との子供を作った天使なんていないし、私も正直半信半疑だけど、過去にいるんだから私も出来るんだろう。
「そうか…避妊薬は多分効かないだろうし、外に出すしかないかな…」
「?なにを?」
「……」
何を外に出すの?
そう思ったけどロイは曖昧な顔で微笑むだけで何も答えてくれなかった。
「アリアが良いのなら、私はアリアを抱きたいんだけど、本当にいいの?」
「うん。結婚するならいずれするんでしょ?今でも変わらないよ」
私の心の準備でも待つつもりだったのだろうか、ロイは。そんな心の準備がいるようなものなのかな。
でも不思議と全然怖くない。ロイが私を傷つけることはないってわかってるからかな。何も恐ろしくない。
「それにロイに寂しい顔して欲しくないの。何であれ、一緒に過ごせば寂しくないでしょ?」
「……うん、そうだね」
ロイがそう言って私を抱きしめた。私も背中に手を回すと、ロイは私を抱きしめていた腕の片方を私の膝裏にいれて、そのまま私を抱き抱える。
「このまま寝室に行くよ。いい?」
僅かな灯りのある室内で、ロイの目が真剣だなぁと思いながら頷く。
ロイの寝室にそのまま連れていかれて、ロイのベッドに優しく置かれる。ベッドに横たわる私に覆い被さって、ロイが私を見下ろしている。
真剣な瞳の奥に、どこか妖しいものを感じる。
「アリアは多分、どんなことをするのか詳細は知らないんだろうね。でもここまで来て、残念ながら逃がしてあげることは出来ない」
ロイの言葉に首を傾げた。
私が逃げたくなるようなことをするのだろうか。え、愛し合うんだよね?
「嫌だと思ったら言って。やり方を変えるから。途中でやめてあげることは多分出来ないから、今のうちに謝っておくよ、ごめんね」
謝りながらもロイの顔に謝罪の意思は感じられず、それどころか私を逃がすまいとする強い意志が伝わってきて、身震いする。
「そんなに怖いことするの?」
「初めてのアリアには少し怖く感じるかもしれない。でも私はずっとそばに居るし、私たちは愛し合うだけだよ。安心して私に身を委ねて?」
「……うん、分かった。よろしくね、ロイ」
「…うん」
ロイの力強い瞳がゆっくり迫ってきて、私の唇とロイの唇が重なる。ロイの唇は軽く触れただけではなれていった。
そして再びロイと目線が交差する。
私を捕らえて離さない、熱い目。
「愛してるよ、アリア」
朝、ガバッと起き上がる。隣にはもうロイはいなくて、日は高く登っている。
舐めていた。愛し合うだけだと舐めてかかっていた。そんな生易しいものじゃなかった。
私は全然分かっていなかった。
「起きた?」
寝室の扉を開けて、いつもの仕事服を着たロイが顔を見せた。私を見る顔は昨日より熱が籠っていて、しかもとても満足そうだ。
「体は痛くない?」
「……痛くない、けど」
「けど?」
「……もうやだって言ったのに」
小さく漏らした言葉もロイはちゃんと拾って、くす、と笑いながらベッドに腰掛けてきた。
「だから最初に謝ったでしょ?止められないけどごめんねって」
「あんなことするなんて思わなかったから!……あんな、あんなこと…」
思い出して顔が熱くなる。
あんな所を舐めたり、あそこにロイの大きいあれを入れるなんて…!しかも快感ってやつはわかったけど、あれは過ぎると毒だ。
だからもう嫌だと何度も訴えたのに、ロイは全然やめてくれなかった。むしろさらに責め立ててくる始末。
「じゃあもうしてくれないの?アリアが私のことを受け入れてくれるの、とても嬉しかったんだけどなぁ」
「………ま、毎日はやだ」
「じゃあ2日に1度にしよう。ちゃんと2日分愛してあげるからね」
マシになったように聞こえるのに、そう思えないのはなんでだろう。むしろ危ない気がするのはなんでだろう……。
でも、本当に嫌かと言われるとそうではなかった。ロイはずっと私の名前を呼んでいたし、凄く嬉しそうな幸せそうな顔をしていたから。
だからついつい絆されたけど、1週間に1度、ってこっちから提示すれば良かったと少し後悔している。
でも今それを言い出したら、もっと酷い交換条件を持ち出されそうだからやめておく。
ため息をつきたくなったけど、ロイの表情にしては分かりやすく嬉しそうな顔をしてるから、まぁいいか、と思ってしまった。
ロイの部屋で一夜過ごしてから、何故か私の部屋が移動になった。ロイの隣の部屋になった。
内装は大して変わらず、居心地も変わらない。まぁ私は部屋なんてどこでもいいんだけど。
夕方に天使が会いに来た。主からのお使いだろう。天使は私に結界石を何故か5つくれた。主からの餞別だそうだ。主の優しさに心が打たれる。
女性の天使が来てくれて、何か困ったことは無いか聞かれた時に、私は思わず人間の愛し合うって大変なんだね、とこぼした。
天使は訳知り顔であー…と声を漏らし、そしてかつて人間と結婚したシャルディシュの話をしてくれた。
シャルディシュは、あえてその行為の最中は治癒能力を止めることで、体をしっかり疲れさせて眠ることで逃げていたらしい。
それを聞いてなるほど、と思った。それなら程々でちゃんと疲れて眠くなって寝れるだろうし、寝ちゃえばロイに出来ることはない、多分!
いいこと聞いた!と思って、次の行為の時にそうしてみたら、疲れて眠そうにした私を見て、にやりと妖しい笑みを浮かべた。
「誰の入れ知恵かな。そんな悪いことをするなんて。私はまだまだ愛し足りないというのに」
「ロイ、もう……」
「眠ってもいいよ、ちゃんと起こすから。2日分にはまだ足りないからね」
全然ダメでした。
想像していた人間と一緒に生きることよりも、夜はかなりハードだけど、ロイは幸せそうだし私も一緒にいるのは楽しいし、これでいいのかもしれない。
きっと寿命を迎えても、幸せだったと思えるだろう。
天使と人間だけど、私とロイなら、大丈夫。




