4 面倒な男
次の日。今日も昨日とやることは変わらない。朝から走り込みをする。基地の外周を時間いっぱい走らされる。
私はとうに先頭に立って走っていて、何故か隣にロイもいる。
なんでこの男は私と並走してるんだろう…。
「アリアはどこから来たの?」
走りながら喋りかけてくる。私もだけどこの男もめちゃくちゃ体力があるみたいで、余裕そうだ。
「東の方から」
「それって国内?」
アリア・ルーンの設定を言ったものの、それは嘘だと直ぐにバレる。
まぁそうか、結界石を壊すなんて国外からと見られてもおかしくないよね。
「そういうあなたは国内の人間じゃなさそうだね」
「あ、やっと僕に興味出てきた?」
あ…面倒くさい…。
それ以上聞かれるのが面倒だから質問を返したのに、嬉しそうに言われてもっと面倒だと思った。
「僕は国内の人間じゃないよ」
「…言っていいの?」
「アリアだからね。他の人には言わないでね」
割と重要なことを会って数日の知り合いに教えるとか、頭おかしいのかな。
まぁ言う気もない。ロイがどんな目的かなんて興味はない。
私は私のやるべきことが出来ればいい。
「ねぇ、アリアは食べ物何が好き?」
「……特に」
「嫌いなものはある?」
「……特に」
「甘いものとか好き?近くの街に美味しいカフェがあるんだけど、今度の休みに行こうよ。僕とふたりが嫌ならジャックたちを誘ってもいいしさ」
私は真面目に答えてないのに、なんでそんなに嬉しそうに話すのか。息も切らさずに彼はにこにこしながら私に話しかける。
…え、毎日走り込みの時これじゃないよね?まさかね?
嫌な想像が頭をよぎった。
「え、近くの街?それってコステル街!?いきたーい!」
お昼ご飯の時にロイが走り込みの時の話を出し、ユーリアがそれに反応した。
ユーリアは目をキラキラさせて、私に向き直る。
「行こうよ、アリア!」
「えぇ……わ、分かった…」
私が頷けばユーリアは心底嬉しそうにはしゃいでいて、ジャックと共に何をするか話している。
視線を感じてロイを見ると、満足そうな笑みを浮かべていた。
…もしかして、ユーリアを巻き込めば私も行くって言うと思って、巻き込んだの?
いや、考えすぎ?そこまでしないよね?そこまでして私を街に誘う意味も分からないし。
「配属されたら休みは合わないかもしれないから、今のうちに遊んでおこう!」
ユーリアは元気いっぱいだ。いっそ眩しいくらい。
彼女のこの元気はどこから出てくるんだろう。こんなに元気で明るい彼女も、第2部隊に入るだけの理由があったのだから、きっと何かを抱えているんだろう。
まぁ深く踏み込むつもりもないけど。
午後の剣の練習が始まる。
前半は昨日と同じく基礎の練習をして、後半は打ち合いの練習だ。
「アリア・ルーン。あとで俺と打ち合ってくれないか?」
基礎の練習中、知らない男性に声をかけられる。
断る理由もないので頷こうとしたところ、私と彼の間にすっ、と人が入り込んできた。
「アリアでいいなら互角の強さの僕でもいいよね?僕が相手するよ」
「…っ、分かった」
私と男性の間に入ってきたロイは、有無を言わせない雰囲気を出してそう言うと、彼は帰っていく。
そしてロイが振り返る。
「アリアはユーリアに教えてあげたらどうかな。ユーリアの剣を受け止めるだけにして助言すれば、彼女ももっと上手くなると思うよ」
「え、いや別に他の人と打ち合えば…」
「だめ」
はぁ?なんであなたにそんなこと言われなきゃいけないの?
眉を寄せた私に、ロイは少し真剣な顔で私を見た。
「僕以外の男と剣の打ち合いしちゃダメだよ」
「…は?」
「分かった?」
断ることは許さないとその目が言ってる。
でも意味がわからない。言葉の意味が全然理解できない。
なんでロイ以外の男性と打ち合っちゃいけないのか。だってここは騎士団だし、そのほとんどが男性だ。ロイ以外の男性と打ち合わないなんて無理だ。
無理だし、出来たとしてもその理由も分からないし、従う意味もない。
「いや、訳分からないし。あなたの言うことは聞かない」
私がそう言って軽くロイを睨むと、何故かロイは嬉しそうにした。
…変態なのかな。
「まぁいいや。僕が周りに分からせれば良いだけだよね」
「は?」
「いい?君の相手は僕だけだからね」
ロイはそう言い残して離れていく。
何、わからせるとか言ってた?何を?
ロイの言葉の意味がよく分からないまま、打ち合いの時間を迎えた。私はその辺にいた男性に声をかけようとするも、直ぐにロイが私の前に立ち塞がって、私が声をかけようとした男性を打ち合いに誘っていく。
仕方なくユーリアと打ち合うことにして、喜ぶユーリアと、ロイが言っていた方法で主にユーリアの特訓をしていた。
少しして休憩を入れて一休みしてると、おおっ、という野太い声が大きめに聞こえる。
「ロイ、凄いんだね」
ユーリアが声の方を見てそう言った。
何故かロイは、新人騎士の男全員と順番に戦っていた。
1人2分ほど相手して、途中に何かを話しながら打ち合っている。私がユーリアにしているのと同じように、アドバイスでもしてあげてるのだろうか。
…それにしても、圧倒的だなぁ。
「…あいつ強すぎだろ。アリアあんなのと長い時間打ち合ってたわけ?」
既にロイと打ち合いを終えたジャックが、休憩中の私達のところに来た。
彼もロイにこてんぱんにされたらしい。
「全く歯が立たなかったぜ…」
悔しそうにジャックが歯を噛み締める。
そんなに強いんだね、とユーリアも関心したように呟いた。
「私とも打ち合う?ロイと違う視線でアドバイス出来るかも」
ジャックのためにそう提案すると、ジャックは少し居心地悪そうに明後日の方向を向いた。
「いや、大丈夫だ。ロイに睨まれたくないからな」
「ロイ?」
「あー、何でもない」
何故ロイの名前がそこで出てくるんだろう。だけどジャックは聞いてももう答えてはくれなさそうだ。
私とユーリアは首を傾げたのだった。
「あーもう、アリア強すぎだよー!」
時間いっぱいまでユーリアの剣を受け止めて、最後は私が押したのを受け止めてもらった。本気出すと受け止めきれないから、受け止められるギリギリの力を狙った。
終わって床に座ってくたびれてるユーリアに手を差し出す。彼女はゆっくりその手を取った。
「どう生きたら同い年でそんなに強くなれるの!」
「剣を習ったのは3年前くらいだよ。体力作りと筋トレはずっとしてたけど」
「3年でこれ!?すごすぎる…」
私がアリアの設定を話すと、彼女は予想通り驚いた。
「私なんて10歳の頃から剣握ってたのに…」
がっくしと項垂れたユーリア。
そんなに昔から剣を握ってたんだ、ユーリアは。ユーリアは18歳だから、もう8年も剣を振るってるんだ。
まぁユーリアも、私と戦うと弱く見えるけど、彼女の実力は新人騎士の中では上の方だ。男にも負けない力強さがある。
「ユーリアは強い方だし、もっと強くなれるよ。自信もっていいよ」
「アリア…ありがとうぅ!」
感極まったユーリアが私に抱きついて、暑いよね、ごめんねと言ってすぐに離れた。
2人で木刀を片して、講義室に向かう。このあと夕飯までの数時間は講義を受けるのだ。
魔物の倒し方、注意点、魔物の生息場所の違いやその生態。それと野宿の注意点や有事の際は人間とも戦うことになるので、その対応の仕方。
学校と違ってテストとかは無いけど、これらは全て騎士の仕事に必要な知識になるから、覚えないといけない。
隣のユーリアも必死にノートを取っている。
斜め前のジャックは眠そうにしながらも頑張ってノートを取っていて、その隣のロイは平然とした顔でノートにペンを走らせてる。
かくいう私も、所々書くくらい。大体知ってるし、でも周りにならってノートをとる振りをしてるくらい。
「いやぁー、集中したなぁ」
講義が終わって、ユーリアは座りながらうーんと背のびする。ちらりと見たそのノートはびっしり書かれていて、彼女がいかに真面目かを表している。
「覚えるの大変そう…」
「やっていかないと中々覚えられないよね」
実際に見て経験しないと、その知識はしっかり頭に入らない。だから今無理やり覚えるのは難しいだろうし、現場ですぐに役立つかも分からないだろうな。
それでもユーリアは頑張って覚えるんだろう。
「ユーリア!あとでノート写させてくれ!」
「ジャック、また寝てたんでしょ!」
ジャックがロイを連れて私たちに近づき、両手を擦り合わせてユーリアに言う。
ユーリアがそんなジャックを見てふい、と顔を逸らすと、ジャックは視線を私に向けた。
「じゃあアリア!ノート見せてくれ!」
「私の?私の、分かるかなぁ」
「いいよアリア。ジャック、僕が後で見せるから」
「はー?ロイ、ろくに書いてなかっただろ!」
ロイに突っかかるジャックに、私は自分のノートを開いて見せた。
それを見たジャックの目が点になる。
「どう?分からないでしょ?」
「……そうだ、アリアはロイと同種だったぁ…!」
そして再び項垂れる。ジャックがそう言うってことは、私とロイは似たようなノートになってるんだろう。
私は講義の内容がほとんど身についてるものだったので、所々注意点とか危険なところだけを書いている。それも本当は書かなくてもいいけど、それだと怪しまれるから、程々に大事なところだけを書いている。
だから自分以外が見ても、それがなんの事を言ってるのかは分からないのだ。
「ジャックはユーリアに見せてもらうしかないね」
「頼む、ユーリア!」
ジャックは再びユーリアに頭を下げて、頼み込んでいた。
ユーリアはそんなジャックを見て、投げやりにノートを差し出す。
「今度街に行った時、奢って貰うからね!」
「さんきゅ、ユーリア!」
ぱぁっと顔を明るくさせてユーリアのノートを受け取ったジャック。それを見ていた私に、ロイが話しかけてきた。
「それなら僕も、アリアのノート借りようかな」
「私の見なくても、わかってるんでしょ?」
「うん。ただ君のノートを借りたいだけ」
何言ってんだこいつ。
にこにこ笑うロイの意図がやっぱり読めなくて、私は人知れずため息をついた。




