3 騎士団に入団
今日は私の入った第2部隊の隊長や、その下の班長達の話を聞いて、自分たちに与えられた宿舎で荷解きだ。
宿舎は2人1部屋で、男女の宿舎は当然離れている。
「私ユーリア・テルファ!よろしくね!」
「私はアリア・ルーン。よろしく」
同室となった同じく新人騎士のユーリアは、明るい女の子だ。活発そうだしとてもいい子そうだし、上手くやっていけそうだ。
荷解きを終えた後、彼女と共に宿舎の施設を見て回る。
「思ってたより綺麗かも」
「女性用だからかな。私達も綺麗に使わないとね」
団欒室やお風呂場など、どこも清掃が行き届いてるし綺麗だ。
騎士団の宿舎だからもっと汚いイメージがあったけど、ここはそうでも無い。
私達が見て回ってると、前から女性が歩いてきた。
「あら、あなた達が今年の新人騎士?」
「はい!ユーリア・テルファです!」
「アリア・ルーンです」
「私はセレナ・クワイスよ。これからよろしくね」
セレナさんと握手を交わす。先輩騎士もいい人そうで安心した。
「女性の騎士は少ないから、助け合っていきましょう」
「はい!」
ユーリアが元気よく答えた。
そう、王城の警備や王族のの護衛などをする第部隊とちがい、魔物との戦いの多い第2、第3部隊は女性は少ない。理由は簡単。怪我も多いし死ぬ確率も高いからだ。
そして今年の第2部隊の女性新人騎士は、私とユーリアの2人だけだ。それに対して男性は30名。差がありすぎる。
まぁ人気がないのもわかる。
第3部隊は結界石のある街の砦を主に活動場所にしていて、その仕事は警備だ。結界に群がる魔物の量を把握したり、他国からの入国者を厳しく取り締まったりする。
対して私達第2部隊は、魔物討伐がメインだ。
多少の魔物は第3部隊も倒すが、魔物が沢山溜まってくると第3部隊から要請が入り、そこに赴いて倒す。魔物討伐のプロフェッショナルだ。
だからこそ血なまぐさいことも多いし、怪我も多い。野宿もよくあるし、女としては耐えにくい環境だ。余程の理由がないと入らないだろう。
きっとユーリアも、何か理由があって入ったんだろうな。
宿舎見学が終わったあと、私達は基地の生活エリアに向かって、食堂に足を踏み入れる。
「人いっぱいだね…」
ユーリアがぽつりと言う。
確かに人でいっぱいだ。わいわいがやがやしていて、とても賑わっていて、その大半が新人騎士の紋章を付けている。
人の視線を感じながらユーリアとご飯を貰う列に並ぶ。
「なんか、見られてるね」
「アリアが美人だからだよ。私もびっくりしたもん。こんなに綺麗な人が騎士になるのかって」
ユーリアが面白そうに笑う。
うーん、美人、美人か…。天使は麗しい見た目をしているから、仕方ないっちゃ仕方ないな。
でもジロジロ見られるのはいい気はしないな。
そのうち見慣れてくれるだろう。数日の我慢かな。
ユーリアと食事を受け取ると、既に席に座ってる人の中から男性が1人立ち上がって、手招きしていた。
「ユーリア、こっち!」
「ジャック!」
ユーリアに行こう、と言われ着いていく。どうやらユーリアの知り合いのようだ。
ユーリアがジャックの前の席に座ったので、その隣に座ると、私の目の前にあの男が座っていた。
「やぁ、久しぶり」
「……どうも」
にこにこと胡散臭い笑顔は変わらない。
私達の会話にジャックが驚いて、楽しそうに目の前の男の肩を抱いた。
「ロイ、この美人と知り合いなのかよ!おい、紹介しろよー!」
「ちょっと知り合っただけでね、名前も知らないんだよ」
ね?と言われても。
でもあまりここで彼を警戒する素振りを見せるのは良くないと思って、私は素直に名前を言った。
「アリア・ルーンです」
「僕はロイ・ファストだよ。よろしくね」
スっ、と手を差し出されたので、一拍置いてその手を握る。握手にしては力が強いような気もしたけど、まぁいいや。
私達の挨拶を見て、ロイの隣のジャックが、はい!と言って手をあげる。
「俺はジャック・カルバスだ!よろしくな、アリア!」
「私はユーリア・テルファ!ジャックとは幼なじみなの。よろしくね、ロイ!」
2人が同じテンションで私達に挨拶してくれるから、幼なじみなのも納得いった。うん、声の大きさとか、表情とか、一緒に育ったんだろうなって感じがするよ…。
自分たちのことを話しながら、ご飯を食べ進める。その間も、たまにロイに目を向けるといつも目が合って、思わず眉を顰めてしまう。
この人は何がしたいんだろう。私を脅す気なのかな?
若干警戒しつつも、その日はそれで終えた。
次の日、私達は訓練場に集まった。
新人騎士は騎士になって1ヶ月は基地内で過ごす。訓練を沢山してその様子を見た上の人たちが、どこ軍のどこの班に配属させるかを決めるのだ。
と言っても班の人やその戦い方が合わなければ異動もあるし、そんなに身構えることでもない。
そんなこんなでまずは体力をつける訓練から始まり、筋肉をつける訓練も終えて午前が終わる。
「はぁ、もうくたくただよ…。アリアは凄いね?体力あるんだね…」
「体力には自信あるかも」
全部終わって疲れ果ててるユーリア。周りを見ればはそのほとんどが座って休んでいて、余裕そうに見えるのは私と、気に食わないことにロイだけだ。
細身だし、むしろジャックの方が強そうに見えるのに、不思議だ。
「アリアは余裕そうだね」
「ロイもね」
私に笑顔でそう行ってくるロイから顔を背けて言う。昨日の会話の中で敬語を外せと言われて敬語はやめた。
でもその胡散臭い笑顔は変わらない。
「アリアもロイも凄いな。1番ひ弱そうに見えるのに」
「ひ弱そうって酷いな、ジャック」
お昼にまた2人と同じ席につかされ、ジャックの言葉にロイが笑う。私の隣のユーリアもうんうんと頷いている。
まぁ私もロイも見た感じ筋肉ついてるように見えないもんね。
「午後は打ち合いだろ?この感じだと、2人とも強そうだよなー」
「ね!2人で打ち合ったら凄そう!」
キャッキャと盛り上がるユーリアとジャック。
そんな話をしてたからか。
私とロイの打ち合いが終わらない。
ガンッと木刀と木刀の当たる音がする。相手の剣を防ぎ、こちらも攻撃をして防がれる。さっきからその繰り返しだ。
私もロイも、ペアになった相手と圧倒的な力量の差で、まるで訓練にならず、上官に私はロイと組まされた。
そして撃ち合ってみたところ、決着がつかない。
ちらりと時計を見れば、かれこれ15分は打ち合っている。
「よそ見するなんて余裕だね」
距離を詰められて振り下ろされた剣を受け止める。そのままロイは私の方に力を入れて、私のことをじっと見た。
「戦ってる時くらい、僕に集中してよ」
「そういうロイも、本気じゃ無いでしょ?」
そう言ってロイの木刀を弾くものの、ロイはその手から木刀を離すことはなく、後ろに下がっただけだった。
「君に傷つけたくはないからね」
「あっそ」
ニコリと笑った彼に切りかかる。それもしっかり受け止められる。
今度はさっきと逆で、私が剣に力を入れて、彼の剣を押す。
すると彼は何が面白いのか、ふふ、と笑った。
「君から近付いてくれるのは嬉しいね。力を弱めればもっと顔近付けてくれる?」
期待の籠った眼差しをしながら本当に力を緩めたロイ。
そんなロイにカチンときて、私は剣に力を入れたまま、ロイのそのおでこに思いきり頭突きした。
「いったぁ…。えぇ、それあり?」
「なんかいらついた」
頭突きされて剣を下ろしたロイは、はは、と笑って、同じく剣を下ろした私に近付く。
「いらつくのはいいけど、頭突きは良くないよ。アリアの頭が痛くなるでしょ」
「いらつくほうが頭が痛い」
「それは困った」
このくらいの頭突き程度では、そんなに痛くない。むしろいらつくほうが問題だ。私がそんなに痛くないのだから、ロイだってそんなに痛くないだろう。
なのにロイは困ったと言いつつ笑ってるから本当に訳が分からない。
「お前達、なかなかやるな」
上官に声をかけられて、周りの状況に気付いた。
誰も打ち合っていなくて、みんな剣を下ろして私達を見ていた。
…あれ、もしかして目立ってた?
「最後の頭突きも良かったな。意表を突くのはいい武器になる」
「ありがとうございます」
「ロイ、次は頑張るんだな」
「はい、頑張ります」
にこにこと上官に返事をするロイに、上官もうん、と頷いた。
私もロイも、本気じゃなかった。だからこそ、本気で戦ったらどっちが勝つのか、私にもまだ分からない。
私も強い方だとは思うけど、私より強い人間もいる。特に剣と指定されると。
だからロイが私より強くてもおかしくない。とてもむかつくけど。
「お前ら、この2人の打ち合いは勉強になるから、よく観察しとけよー」
「はいっ!!」
あぁ、なんか面倒なことになった…。
「2人とも凄かったね!思わず見入っちゃった!」
もう気にしないことにした夕飯の席で、ユーリアが興奮してそう言う。彼女は私達の打ち合いがとても面白かったらしい。
「2人が構えた瞬間から、みんな2人を見てたぜ。もう空気?雰囲気?なんかそういうのが違った!」
同じく興奮して楽しそうに話すジャック。
まぁ私の空気はあまり変わってないとは思うけど、ロイが違ったのはわかる。
そして打ち合って思った。彼は普通の新人騎士じゃない。
私に結界石を壊すのを手伝いたいと言ったことも踏まえて、彼は何らかの目的で騎士団に入った、諜報員だ。
それならあんなに強いのも頷ける。ロイという名前も、18と言っていた歳も嘘なんだろう。
きっと別の場所で凄く修行して、沢山の戦場に出てるはずだ。彼の剣は、戦いを知ってる剣だった。
「アリアの頭突きもびっくりしたよ!あんな技があるんだね」
「あれは、ロイが顔を近づけてきたから出来たけど、普通にやってたら多分届かないから、ユーリアも出来ないかも」
「はっ!そっか」
私とロイには20センチは身長に差がある。いくら剣で押しても、頭が届くわけもない。
ただあの時ロイは私の顔が近づくのが嬉しいとか言って顔を近づけてきてたから、届いた。そうじゃなければ届かない。
ユーリアも私と同じくらいの背だし、新人騎士もみんな背が高いから、男性相手にあの技は使えないだろう。
「頭が届いても、あれはしちゃいけないよ、アリア。アリアが痛いでしょ」
ロイにそう言われたので、私は返事をせずに分かりやすく顔を背けた。
ロイはやれやれと言ってご飯を食べ進め、私も気にせず食べ始めた。
「でもあの頭突きしなかったら、どっちが勝ってたんだろうね?」
ユーリアかそんなことを言って、ジャックもうーん、と腕を組んだ。
「どっちだ…どっちも優勢に見えたからな…」
「私はよく分からなかったけど、どっちが優勢だったの?」
少し前かがみになってユーリアがキラキラした目をこちらに向ける。
どうしよう、困ったな。ここはどっちも本気じゃなかったって言うべきなのかな。
困ってるところに助け舟を出してくれたのはロイだ。
「さぁ、どっちだろうね?僕にも分からない」
「戦ってたのに?」
「アリアには隙がなかったからね。僕の隙も見せたら終わりだったし。明日は決着着くといいね」
にこにこと笑顔を向けられて、私は少し目を細くして見た。
本当に、この男は一体何がしたいんだろう。




