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26 神への気持ち

 

 のんびり馬を進めて、出会う魔物を片っ端から相手にしていた時。

 Sランクの魔物が2体近付いてくるのを察知した。

 それを告げ、いつものように私とロイ以外が戦おうとしていた時、レミアさんが声を上げた。



「あの!私、アリアさんの戦いが見てみたいです!色んな人の戦い方を見た方が勉強になると思います!」



 そんなことを言い出した。


 ロイが少しの殺気を出したのを私は宥めて、彼らの反応を伺った。

 第2班のメンバーはロイの顔色を伺っていたけど、あまり戦ってない私の力量が見たいのか、第8班は賛成のようだった。



「だが、2体もいるからな…。一体はロイに任せるか?」


「アリアさんはロイくんくらい強いんでしょう?2体くらい余裕ですよね?」



 ね?とレミアさんが私を見てきた。その挑発的な目を受けても困ってしまう。

 声をあげようとしたロイを手で押えて、私は前に出る。



「いいですよ。2体、相手にします」


「アリア!」


「ロイ、手出ししないでよ」



 私を引き留めようとしたロイに、釘をさしておいた。


 確かに、色んな人の戦い方を見るのはいい勉強になるだろう。私の戦い方が、第8班の人の糧になればいいと思う。


 私がすんなり頷いたのをレミアさんは何故か悔しそうな顔をしていて、私は彼女が何をしたいのかよく分からなくなった。




 弓と矢をロイに預けて、私は剣を抜いて魔物が来る方向へ足をだす。他の人達は下がらせて、魔物が近付いてくるのをじっと待つ。


 一体目が現れて、大きな狼型の魔物が私に襲いかかる。それを剣で受け止めて攻撃をしていると、2体目のくま型の魔物も襲いかかってくる。

 それらの攻撃を避けたり受け止めたりしながら、魔物達の動きを鈍らせるように確実に狙って剣を振る。


 まずは足を。

 狼型は足も細くて斬りやすいが、くま型は太くて斬りにくい。同時に相手しているから1度で切り落とせず、何度も切り口に剣を当てる。


 そして先に狼型が足を半分無くし、地面から動きにくくなったところで、また違う方向から魔物の足音が聞こえた。


 くま型の魔物を相手にしながら、狼型の魔物の足を狙う。

 そこに新しい魔物が来た。それはAランクの魔物だった。



 対峙してたSランクの魔物を放って、Aランクの魔物に走って向かい、その息の根を一瞬で止める。Aランクくらいなら一撃で仕留められる。


 そしてAランクを仕留めた直後に後ろからくま型が襲ってきて、その相手をした。

 その後ろから少し遅めに狼型も近付いてきてるのが分かる。でも、私のところに来るまで少しは時間があった。


 その時間を無駄にしないために、全力でくま型の魔物を相手にして仕留めた。一体一ならそんなに手間はかからないのだ。

 残った狼型は足も半分なく、そのあとすぐに倒せた。



「ふぅ」



 終わって一息つく。

 しん、と静まった森の中で、私に駆け寄ってきたのはやっぱりロイ。



「アリア!怪我は!」


「無いよ。見てたでしょ?」



 ちゃんと一部始終見てたくせに、怪我の有無を聞いてくるロイ。



「腕は?腕の怪我は、悪化してない?」


「してないよ。少し痛いくらい」


「ちっ、あの女…」



 ロイから小さく舌打ちが聞こえたし、その時間違いなくロイから殺気が漏れてた。

 そんなに怒ることでもないのに…。


 もしかしてロイは、私の怪我が悪化するのを恐れて、戦わせたくなかったのかな。

 まぁこれくらいで悪化したりしないって、分かってるはずだけどね。



 苛立ちのあまり仮面が剥がれそうなロイを宥めて、みんなのところに戻る。



「これが私の戦い方です。勉強になりましたか?」



 第8班の人たちは何故か固まっていて、レミアさんも驚いて固まっていた。

 私が質問してもすぐには返ってこなくて、うん?と首を傾げているとみんな息を吹き返したように動き出す。



「アリアさん、凄かったわ…!あなたあんなに強いのね!」


「途中参戦してきたAランクも一撃で仕留めるとか、凄いな!」


「ロイとはまた違う戦い方だけど、凄かった!勉強になったよ!」



 色んなことを一度に言われて聞き取れず、でもみんな笑顔で興奮しているようで、とりあえず見せてよかったのだと思った。






「アリアは流石ね。途中から来た魔物の気配も気付いたのかしら」


「うん、すぐ気付いたよ」



 キャンプ地でグレイスと夕飯を作っていると、グレイスにそう言われた。



「ならやっぱり、あの時は私は身を引くのが正解だったのね」



 グレイスが言うあの時と言うのは、私がグレイスを庇った時のことだろう。

 確かにグレイスが引いてくれれば、私ひとりで2体を倒すことは出来た。


 でもグレイスに任せたのは、Aランク一体くらいなら相手出来ると思ったからだ。まさかあそこまで剣の腕が弱いとは思わなかったんだ。



「私の判断ミスでもあるよ」



 グレイスの剣の腕をよく見ておくんだった。普段弓しか使わないとしても、1度手合わせくらいしておくべきだったとは思う。


 まぁ私は怪我しても平気だから、そこまで真面目には考えてないけど。



「私も自分の力量を見極められるようにしないといけないわね」



 グレイスのその言葉に私も頷いて、乾燥した野菜を鍋に放り込む。1度沸かした川の水をその鍋に入れて火にかける。



「おい、取ってきた」



 フリードに後ろから声をかけられて振り向くと、フリードの手に2匹の兎。今日の晩御飯だろう。



「あとヨジムが今小さめのイノシシ見つけて追いかけてる」


「あら、今日は豪華になりそうね」


「これはこっちで捌いていいか」


「お願いするね」



 フリードは手際よく兎を捌く。

 私は串を用意して、塩とハーブもバックから取り出しておく。串焼きが1番美味しい。


 フリードから受け取ったお肉にハーブと塩を塗り込んで、串に刺す。それを火で炙って焼き目をつけてから、火から少し離したところの地面に刺してじっくり火を通す。



「俺思うんだけどさ、アリアとロイは第1部隊に入って、不可視の悪魔を探すのに協力した方がいい気がすんだよな」



 フリードが捌いた兎の後処理をしながら、そんなことを言った。



「フリードがそう言うのは珍しいわね。どうして?」


「だって第1部隊なんて王城守ってるだけの腑抜けだろ。不可視の悪魔を捕まえられるわけねぇよ。それよりロイとアリアなら強いし気配にも敏感だから、見えない奴も察知できそうじゃね?」



 まぁ確かに、戦争も内乱もしばらくなかったこの国で、王城を守る第1部隊って、貴族出身も多いし、実力が伴ってない人も多いだろう。


 賢い人が来れば話は別だけど、そんな人もいるのかどうか…。上の人たちに近ければ近いほど腐っているから、第1部隊も腐ってる人多いんじゃないかな、なんていうのは私の予想だけど。



「こらフリード。腑抜けなんて言ったらダメよ」


「飾りの剣つけてるやつらなんて腑抜けだろ」



 グレイスの言葉にもフリードは冷たく答えた。彼はそういう人だから、冷たい態度だな、とは思わないけど。



「やっぱり第1部隊はあまりいい噂はないの?」


「ねぇな。箔をつけるためになるやつか、かっこよくて憧れるけど怪我したくないやつの集まりだろ」



 うーん、やっぱりそうか…。

 それなら彼らが大聖堂を見張ってても余裕そうだな?



「アリア、もちろんちゃんとした人も居るわよ。近衛騎士なんかはちゃんと実力も無いとなれないわ」


「それくらいだろ。その他の騎士は飾りだ」



 フリードはそう言いきった。彼は第1部隊の人達を知っているような口ぶりだ。関わったことがあるんだろうか。



「それよりさっさと神託でも貰って、不可視の悪魔の捕まえ方でも教わってきて欲しいぜ」


「そうね…。神に授けられたものを壊されてるのに、大神官様は何の神託も受け取ってないのかしら」



 不思議そうな顔をしたグレイスに、確かにと頷いておく。

 これが他の国なら、主はしっかり壊したやつに神罰を与えていただろう。そもそも人間に壊せる代物じゃないけど。


 神の声を大神官は聞けるわけがないから、神託なんておりるわけがない。そこをこの国の大神官はどうするのだろう。

 今までのように嘘をついて偽の神託でも言うつもりか?


 全く浅ましい。



「戻りました」



 フリードの後ろからヨジムの声がした。彼はしっかり小さなイノシシを持っていて、その場で解体を始める。



「神は不可視の悪魔をどう考えてるんだろうな」


「神ですか?」



 ヨジムがいても変わらず会話を続けた私たちに、ヨジムが口を挟んでくる。

 グレイスがそうよ、と言うと、ヨジムは丁寧に解体をしながら会話に入ってきた。



「神託はおりてるそうですよ」


「えっ、そうなの?」


「はい。悪魔を絶対に許してはならない、という神託だったと、聞いてますね」



 やっぱりかぁ。

 まぁ普通に考えて、そう来るよね。



「お言葉だけ?悪魔のヒントとか、神罰とかは与えてくれなかったのかしら」


「それは無かったようですよ。ただ大変お怒りだったと」



 ヨジムは王都に知り合いでもいるのだろうか。情報が凄いなぁ。



「そりゃ怒るだろ。自分の作ったもの壊されて。でもせめて、どこの国のやつなのかくらい教えてくれてもいいのにな」


「そうね。やっぱり帝国の差し金なのかしら。教えて欲しいわ」



 ヨジムから受け取った肉を、うさぎ肉と同じように調理しながら耳を傾ける。


 うーん、どうも、主のことを軽視しすぎてる気がする。

 都合のいいなんでも答えてくれる人じゃないんだよ?

 どうにも神に愛されてると自惚れて、感謝を忘れてしまったのかな。



「今不可視の悪魔を捕らえたとして、壊した結界石、戻してくんねぇかな」


「頼んだらやってくれるかもしれませんね」


「壊れないようにもして欲しいわね」



 …聞くに絶えない。



「ちょっと私、手を洗いに川行ってくるね」



 どうしても主を軽く見てる彼らの言葉を聞いてられず、私は1人で川に向かった。




 生肉で汚れた手を、川でバシャバシャと洗う。

 ついでに湧き上がる怒りや呆れを一緒に流したくて、心を無にする。


 鎮まれ、鎮まれ私…。

 主のことになると冷静さを失うって、他の天使にも注意を受けたことがあるでしょ。

 落ち着くんだ。主はこんなことくらいで人間を怒ったりはしないんだから、私も怒らない。



「アリア?」



 声をかけられて振り向くと、ロイがいた。

 無表情のロイ。



「どうしたの?なんか嫌なことあった?」



 ロイは表情を読むのが上手いのだろうか。私も無表情を貫いたつもりだったけど、彼にはバレてるみたいだ。



「ちょっとだけね」


「何かされた?」


「ううん。された訳じゃないよ」



 そっか、と言って私の隣に来るロイ。しゃがんで川に手を突っ込んでる私と同じ体制をして、川を見つめる。

 無理やり聞いてくるつもりはないみたいだ。有難い。


 そういえば彼はグラナート帝国の人間だけど、彼の信仰心どうなんだろう。グラナート帝国はそこそこ主の声を聞ける人多かった気がするけどなぁ。



「ロイは、神のことどう思う?」


「ん?神?」


「うん」



 彼はなんと答えるんだろう。どういう風に思ってるんだろう。

 もし彼の口から主を軽視する言葉が出たら、私はロイを嫌いになってしまうかもしれない。



「私はね、神を信じないようにしているよ」


「えっ」



 え、信じないって言った?本当に?

 軽視どころじゃないよそれは。


 驚き言葉を失った私に、ロイは続ける。



「神によって私達の為になる道具がもたらされたり、いい未来へ導いてくれたりするのは確かだ。感謝の意を忘れはしないよ」



 その言葉を聞いて、少しほっとした。

 そうだよね、それは理解しているよね、感謝もちゃんとするよね。



「ただ、何かあった時に神頼みというのは頷けないと思っている。神が私達人間に何かしてくれるのは、神の気まぐれであって、それをこちらからは求めてはいけない。私達は私達の手で未来をいい方向へ導いていくべきだと思う」


「………」


「だから私は神を信じないようにしてる。信じて何もして貰えなくて裏切られたなんて思いたくないし失礼でしかないからね。気まぐれを頂いた時に感謝して礼をするだけの方がいいと思ってるんだ」



 ロイの口から出てくる言葉が、じんわり胸に広がる。

 信じないようにしてるなんて神に背く言葉が、その意味を知るととても心に刺さる。


 とても信仰してる。信仰してるが故に、頼りきらないように自立しようとしている。

 神への感謝を忘れずに、でも期待はしない。



 そっか、神の気まぐれか。だから自分から求めはしないと。

 主へのロイの気持ちは、凄く心が暖かくなるものだった。



「ロイ、ありがとう」


「どうしてアリアがお礼を言うの?」


「ふふ、なんとなく」



 私の中でロイへの印象が、少し変わった瞬間だった。


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