25 敵か味方か
次の日の一日休みは、宿屋近くでのんびり過ごした。午前中にユーリアに別れの挨拶をしておき、午後は宿屋の裏手でグレイスの手合わせに付き合ったり、ロイと手合わせしてもらったりした。
やっぱりロイは強くて、今回も勝てなかった。
出発する日になって、第8班と合流する。第8班には女性が二人いて、賑やかになりそうだな、なんて思ったのも束の間、そのうち1人がロイを気に入ったみたいで、熱い視線を向けていた。
ロイはその視線に気付いてるくせに無視して、私にずっと話しかけてくるから、前途多難だ。
「ねぇねぇロイくん!ロイくんとっても強いんだよね?ぜひ教えて欲しいなぁ」
「レミアさんの戦い方だと、フリードが適任だと思いますよ」
休憩で馬からおりると、ロイに話しかけるレミアさん。ぐいぐいロイと距離を縮めようとするも、ロイはいつもの胡散臭い笑顔で華麗に躱している。
「でも、私はロイくんに教わりたい!……だめかな?」
「時間がとれたら相手しますね」
その時間取る気はないんだろうなぁ…。
うっすらだけど、ロイが嫌悪感を表しているように感じる。もしかしたらロイはレミアさんのようなタイプは苦手なのかもしれない。
「おいアリア、あれはいいのか?」
「え?何が?」
「ロイ、取られるんじゃないか?」
横に来たテディスが、肘で私を突いた。
え、テディスは何を心配しているの?
「取られるも何も、私とロイはそんなんじゃないって」
「まだ言ってんのかそれ?」
呆れたような顔をテディスがして、私も呆れ返したくなる。
ロイの仮面は完璧で、その外面はやっぱり誰も気付けていないみたい。だからテディスも、ロイの私への態度が本物だと錯覚しているんだろう。
「ロイも可哀想だな」
テディスが言った言葉が、私に対してのことのように聞こえて、人知れず小さなため息をついた。
「今日はここをキャンプ地とする!」
「薪拾ってきまーす」
レグルスが決めたキャンプ地に皆で荷物を置き、準備を始める。
私は宣言通り薪を拾いに行こうと歩き出すと、やっぱり後ろからロイがついてきた。
「僕も行くよ」
にこ、と笑顔を浮かべてロイが着いてくる。
その後ろから、レミアさんに鋭く睨みつけられているのが横目にうつって、面倒だな、と思った。
薪になる木を拾いながら、キャンプ地から離れる。
人がいなくなって声も聞こえなくれば、ロイの仮面も消えて無表情になる。
「そういえばアリア、疑われているようだけど」
「そうなんだよね」
「大丈夫なの?」
うーん、大丈夫かと聞かれると、なんとも言えないよね。
返答に困って首を傾げて悩む。
「まぁバレたら逃げるし、どうにかなるんじゃない」
「私としては逃げるのはやめて欲しいところだけどね」
ロイがいくら真顔でそんなことを言ってきたって、それは聞けない。バレたら逃げる。それは絶対だ。
「でもなんの証拠も無いし、今すぐどうこうとはならないでしょ?私だって戦力になってるんだし」
「そうだね。確実な何かを抑えないと、アリアを捕まえようとは動かないだろう」
強い魔物が増えてきてる今、私という戦力は潰すには惜しいはずだ。証拠もなく捕まえたりして、私が騎士を辞めるなんて言い出したら困るのはそちらだ。
だから多少大胆な行動もとれる。証拠を掴ませない限り。
「でもアリアは人から見えなくなるだけで、壁をすり抜けたりは出来ないんだから、閉じ込められたりしないように気をつけるんだよ?」
「それは、もちろん」
大体どこの大聖堂もステンドグラスがあるし、閉じ込められるなんてことにはならないだろう。
人が飛ぶとも思わないだろうし、捕まることはそうそうないだろう。
まぁ油断はしないけど。
「そういえば、今回はステンドグラスを割ったんだって?あんな高いところから出入りしたの?それとも誘導しただけ?」
薪を拾いながら、無表情のロイが私に問いかけてくる。
「内緒」
「アリアは内緒が多いね」
「ロイもだよ」
ロイがくすっ、と笑ったように見えて、一瞬どきりとした。とても仮面の笑顔のようには見えなかったから。
「ロイの言った通り、他国から応援が来たね。ロイはその国の人なのかな」
「教えたら、アリアも教えてくれるんだったかな?」
「言えることならね」
ロイはどうしても私のことを聞きたいらしい。自分の情報を明かしてでも。
正体の分からない私に情報を明かすのは、危険な行為だってわかってるはずなのに。
「そうだね…じゃあ、どこの国かは言える?」
「言えるよ」
「そう。なら教えて欲しいな。私はアリアの予想通り、グラナート帝国の者だよ」
ロイの言葉に私は驚きはしなかった。
予想というか、確信していたというか。そうじゃなきゃおかしいよね、と思っていたから。
ロイが私の言葉を待つようにじっと見つめてくるから、私も口を開く。
「私は、どこの国の者でもないよ」
「……どこの国の者でもない?」
「私も、私に命を下した方も。どこの国のものでも無い」
組織と言っていいかは分からなかったから、そうは言わなかった。
「私がロイの敵になるかどうか、聞きたいとロイは言ってたね」
「……うん」
「敵にも味方にもならない。私は、どこかの国に加担するようなことはしない」
この間中断された話を蒸し返して答えた。
ロイが聞きたかったこと。これが答えだ。
私はロイの味方にはならないし、敵にもならない。
味方にしたかったんだろうけど、残念だったね。それは叶わない。
だからロイは落胆するかと思いきや、何故かうっすらと笑みを浮かべていた。
それが、取り繕った笑みには見えなかった。
「そっか。敵じゃないなら問題ないよ。まぁ敵でもどうにかしてたけど」
「…ロイ、笑えるじゃん」
「笑ってた?そう…。嬉しくて笑ってしまったんだね」
パッと無表情に戻って、自分の頬を触って確認してるロイが少し面白くて、私もくすりと笑った。
ロイをみて笑ってしまった私を見て、ロイもくすりと笑った。
もう一度見たその控えめな笑顔は、とても自然なものだった。
次の日は前日よりも奥の方へ向かい、ブルスタから離れて次の目的地のアスタードに少し近づく。
ブルスタ寄りの魔物は結界石を壊した時にブルスタに来たから、ある程度倒してはいるけど、アスタードに近づくと徐々に魔物も強くなってきていて、Aランクの魔物にちらほら出会った。
魔物が出ると私のそばにロイが来て、なるべく第8班に倒させるようにしている。そして私は弓で、ロイは剣で、たまに援護をしている。他の第2班のメンバーも然りだ。
グレイスだけは第8班と一緒に魔物を倒す練習をしていて、頑張って剣を振るってる。こんな短期間で上手くはならないけど、やる気は感じた。
その次の日になればもっとアスタードに近付いて、尚且つ国境にも近付いている。魔物も強くなっていて、Sランクも見かけるようになった。
Sランクが出ると、第2班も実践を積みたいらしく、ロイは私のそばで控えて観察をするに留まっている。
2、3体でSランクは出てくるから、一体を第8班が、残りを第2班が相手にしている。
その間に寄ってきたAランクの魔物とかは、ロイが討伐していた。
私は弓で援護をするくらい。だからだろうか。
「あんたロイくんに守ってもらいすぎじゃない!?強いんでしょ、ロイくんを解放してあげなさいよ!」
休憩で止まった時に、レミアさんにそんなことを言われた。
その言葉に私はぽかん、としてしまう。
あれ、守られた記憶はないんだけど…。解放も何も、あの人が勝手にいるだけなんだけど…。
「レミアさん、勘違いしてますよ」
声をかけてきたのはもちろんロイ。いつものにこやかな笑顔だけど、なんだか少しイラついているように見える。
「僕はアリアを守ってるんじゃなくて、アリアが誰かを庇いに行かないように見張ってるだけです」
「庇いに…?」
「はい。アリアは怪我しそうな人がいたらすぐに庇いに行ってしまうので、心配でそばに居るだけです。僕の意思で、そばに居るんですよ」
分かりやすくロイが説明すると、レミアさんは理解はしたものの、納得は出来なかったようで、顔を顰めながら私たちから離れていった。
それを見届けると、ロイが小さくため息をついた。
「面倒だな…」
ぽつり、呟いたロイの言葉が私には聞こえて、小声でロイの名前を呼ぶ。
本音が出てるよ。しかも割と本気のトーンだったよ。
私の言いたいことに気づいたロイは、パッと表情を明るく変えて、私に笑顔を向ける。
「まぁアリアの事は魔物からも守るけどね」
「はいはい、どうも」
いつもの軽口にいつもの返事をして、私達の間にはいつもの空気が流れる。
するとそこに、テディスが声をかけてきた。
「アリアも大変だな、厄介なのに目付けられて」
「厄介……なのかな」
「おっと、アリアからすれば敵ですら無いか。そりゃそうか」
テディスから見ると、レミアさんは厄介らしい。
でもなんの危害も加えられてないし、彼女はただロイが好きなだけっぽいし。
どちらかというと目付けられてるのはロイの方なんじゃないかとは思う。
「1度アリアの強さを見てもらえば?そしたら文句も言えないだろ」
「テディス、僕がそんなことを許すと思う?」
「そんなこと言ったって、アリアならSランクの一体や二体、無傷で倒せるだろ?」
テディスに問われて頷くと、だよなぁ、と言われる。
誰かを庇うから怪我をするのだ。Sランク数体を相手にロイほど素早くは倒せないけど、怪我するほどではないだろう。
でもロイは良い顔をしない。
「アリアの剣を振るう姿は美しいからだめ」
「ロイ…お前なぁ。アリアは騎士なんだぞ?」
「出来るだけ見せたくない。あの女を諦めさせるためなんて理由じゃ見せる価値無いね」
うおっ。ロイからあの女発言が出た。うん、やっぱり苦手なタイプだったんだな。
「でもなぁ…。レミアさん、まだなにかしてくると思うんだよなぁ…」
テディスの予感は、当たった。




