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23 5つ目の結界石

 

 トルマールを出発して、私が壊して無くなった結界の外へ出る。馬を走らせて、国境により近づいて行く。


 トルマール寄りの所には強い魔物はもう居なくて、次の目的地のブルスタに近づくにつれて、魔物が増えてくる。

 大体がAランクの魔物で、時折Sランクが出てくるが、瘴気が濃くなってる影響なのか、Sランクが出てくる時は大体複数だった。


 でも私もしっかり戦ったし、ロイも全力で戦ってくれて、大きな怪我を負った人は誰一人としていなかった。


 第5班の班長からは、時々探るような質問をされたものの、当たり障りない答えができていてたと思う。多分。




 そんなこんなで無事にブルスタに到着した。




「次の出発は明後日だ。明日、第8班が合流することになっている。いつ結界が壊されるかも分からないから、各自準備は早めにしておくように」


「はーい」



 レグルスの業務連絡に皆で返事をして、ようやく夜ご飯を食べ始める。

 ふむふむ、次に一緒に戦うのは第8班なんだね。知ってる人いるかな?



「第5班は明日街を出るらしいから、挨拶しておけよ」



 そっかぁ、ユーリアとは暫くお別れか。

 3週間位だったけど、楽しかったな。やっぱり友達っていいな。

 ん?でも明日お別れ…。明日は第8班も合流する…。


 ……チャンスかもしれない?




 次の日私は午前中に外に出た。時刻は10時くらい。

 ロイがついてきたそうな顔をしていたけど、レグルスに呼ばれて私に着いてくることを断念していた。

 彼には何も言わなかったけど、なんとなく予想はついてるんじゃないかとは思う。


 ユーリア達が街を発つのは昼頃だと聞いた。そして第8班が到着するのは3時くらいだと。

 ならば第5班が発つ前が狙い時だろう。第8班も、急げばすぐに着くだろうから。



 久しぶりに1人で街中を歩き、人混みに紛れながらゆっくり気配を消していく。そして完全に消えたところでローブのフードを被り、大聖堂に向かう。


 しっかり閉められていた大聖堂の周りをうろちょろして、少し待ってみたけど開く様子はない。相当警戒されている。

 でも困ったなぁ。開いてくれないと、入れないんだよなぁ。


 どうやって忍び込もうか…。こうなればもう、あのやり方しかないかな。

 ロイもいないから、ちょうどいいだろう。



 大聖堂の結界石がある部屋には、外からの光を入れるステンドグラスがある。そこを割って、中に入るしかない。

 でもそのステンドグラスは地上からは離れていて、ジャンプして届くような距離にはない。


 だから私は普段しまっていた羽を背中に生やす。少し羽を動かして準備運動をすると、大きく広げて羽ばたいて浮かび上がる。




 これは天使の羽。人間の振りをする時は見えないようにしまうことが出来て、生やせば飛ぶことも出来る。これで私たちは普段天界へ行き来する。


 だから使う時は大体気配を消している時だけど、ロイの前で使ったらきっとロイにもこの羽は見えてしまう。だからロイの前では使えない。


 天使は人間達にも存在は認識されている。でも神と同じく、姿かたちも分からないし、神の使徒としてしか知られていない。

 ごくごくたまに天使に会った人がいるとか、見た人がいるとか聞くくらいで、確かな情報は何も無い。


 それもそのはず、私たちは天使だということがバレないように行動している。任務の最後にバレてしまうことはあるけど、それまでは何がなんでもバレないようにする。最後ならバレても空に逃げ切れるからだ。


 だから私のこの姿も、ロイに見られてはいけない。絶対に。



 宙に浮いてステンドグラスの前に来ると、少し大聖堂から離れて、勢いよくステンドグラスに頭から突っ込んだ。


 パリーンと大きくステンドグラスが割れて、私はその勢いのまま、入ってすぐ下にあった結界石に向かって短剣を振り下ろす。ピキピキ、と亀裂が入って結界石は真っ2つに割れた。


 急にステンドグラスが割れた事と、結界石が割れたことに、警備してた騎士が唖然としてる中、すぐさま割れたガラスの間から逃げた。



 万が一にもロイに見つからないよう、宿屋から離れたところで地に足を着き、羽をしまう。羽にも体にもガラスが刺さっていたり、割れたガラスに傷ついた所があったりしたのをすぐさま治した。


 グレイスを庇って出来た怪我のところだけ治さないように気をつけようとしたところ、そこに巻かれていた包帯に、若干血の跡が付いてしまった。今回で怪我した他のところの血が付いてしまったようだ。


 うーん……。

 どうやって誤魔化そうかな…。


 まぁいいや、後で考えよう。


 私は街中に戻ってゆっくり気配を戻し、みんなが集まるだろう結界の外側の方へ足を運んだ。






「アリア!」



 着いたらそこにはロイはもう居て、レグルスもいた。第2班で来てないのはグレイスとフリードくらいだった。


 ロイは私が来るなり駆け寄ってきて、心配するような素振りを見せる。



「悪魔が出たらしいから心配してたよ」



 やったのは私だと分かってるくせに、白々しいな。



「あれ?アリア、それ……」



 ロイが目敏く私の包帯に気付いた。そしてその目を鋭くさせる。



「アリア、これなに?」


「私の血じゃないよ。転んで怪我した子供を助けたの。その時じゃないかな」



 直前に考えた言い訳を言うと、ロイから疑わしい目を向けられる。

 ううん、信じてないな…。



「本当だって!ほら、怪我ないでしょ?」



 見えてる部分を一通り見せて、その場でくるりと回る。その様子をロイがじっと見て、私の体の隅々をその視線だけで確認しているようで、なんだか少し恥ずかしく思った。



「うん…怪我はなさそうだけど…。本当にないね?」


「ないよ」



 今は。


 私の言葉にロイは頷いて、ようやくいつもの顔に戻る。



「お、グレイスとフリードも来たな。準備は出来てるか?」


「もちろんよ」


「当たりめぇだ」



 やる気満々のグレイスと、不機嫌顔のフリード。

 最初からいたテディスもヨジムも準備万端のようだ。



「第5班はもうすぐ来るだろうし、こちらに第8班も向かってる。魔物も討伐してきたばかりだし、そんなに大変なことにはならないと思うが、気を引き締めろ」



 真面目な顔でレグルスは私達に言った。それをしっかりと受け止めて、私たちは魔物討伐に向かった。





「アリアおつかれー!」


「ユーリアもおつかれ」



 魔物が落ち着いて、あとは第3部隊の騎士に任せることになり、街まで歩いているとユーリアに声をかけられた。

 その後ろから第5班の班長もついてきている。



「アリアもロイもお疲れ様」


「お疲れ様です」



 にこりと笑顔を浮かべて私達に声をかけてきた班長。その笑顔はロイのように少し嘘臭く見える。



「君たちは本当に強いね。居てくれると心強いよ」


「ありがとうございます」


「ところでアリア。君は今日どこにいたんだい?」



 話を振られて、どきりとした。

 ロイはレグルスと居たことはもう知っているんだろう。それに、もしかしたら私に尾行してる人がいたのかもしれない。



「街の北の方で散歩してました」


「散歩か。うん、散歩はいいよね」



 いいよねと言いつつその目は私を疑っている。

 どうやら今回の私の行動は私への疑いを深めてしまったようだ。


 少し時間を開けた方が良かったかな。いや、でも早いに超したことはないし、最悪バレても私は姿を消して行動すればいい。ロイにだけ見られなければ、他の人には見えないのだから大丈夫だ。




 第5班の班長はそれ以上私に話しかけてくることはなく、自分の班のメンバーのところに戻って行った。それにユーリアもついて行ったので、私も自分の班のところに戻った。





 魔物が落ち着いた時にはもう夕方になっていたため、物資を調達する時間が必要だから、出発は明後日になった。

 ユーリア達の出発も明日になったらしい。


 明日は何をしようかな、なんて考えながら荷物を整理していると、薬を作っていたグレイスに声をかけられる。



「あれ、アリア。その包帯の血はどうしたの?」


「あぁ、転んだ子供を助けたときについちゃったんだ」



 ロイの時と同じ答えをすると、グレイスはそうなのね、と言って新しい包帯を取りだした。

 包帯を替えてくれるそうなので、身を任せる。



「だいぶ綺麗になったみたいで、良かったわ」



 私の傷跡を見て、グレイスはホッと胸をなでおろしている。自分を庇ってできた傷だからこそ、気にしてくれていたんだろう。



「ねぇアリア。どうして私を庇ってくれたの?」



 残ってる跡に薬を塗り込みながら、グレイスは私に問いかけてくる。その手つきはとても優しい。



「仲間が危険だったら助けるよ」


「でもこれじゃ済まなかったかもしれないのよ?」



 薬を塗りこんだ後は、私の傷にガーゼを当てて、それがズレないように包帯を巻き出す。弱くもなく強くもない、程よい力で巻いていく。



「私は、目の前に傷つきそうな人がいたら、助けたくなっちゃうの。性分なんだよね」


「そう……」



 ぴっちりと巻かれた包帯は、しっかり動かせるのに緩むことも無い。うん、すごいばっちり。



「ならアリアは、不可視の悪魔をどう思う?」



 グレイスが薬を片付けながら、世間話の一部のようにさらりと聞いてきた。

 第5班の影響だろうか。それとも、行動しすぎたか。

 グレイスは私を疑ってるのかもしれない。



「正直、何も思わないよ」


「そうなの?でも結界石を壊して、たくさんの人を傷つけようとしてるのよ?」


「そのたくさんの人を、私は守るから。結界石が壊れたことと、人が傷つくことは結びつかない」



 結界石を永久のものとして頼りきったりせず、しっかり腕を鍛えておけば多少の混乱で済んだはずだ。


 もしこれがここら一体で1番強い帝国だったなら、結界石を壊されてもなんの支障もないだろう。あの国の軍事力は凄いから。



「じゃあアリアは、不可視の悪魔を捕まえたいとは思わないの?」


「それは私の役目じゃないと思う。私に出来るのは魔物を倒すことだけだから」



 グレイスは変わらず作業をしながら聞いてくるので、私も明後日の準備をしながら話を続けている。



「グレイスは、不可視の悪魔を捕まえたい?」


「…捕まえたいわ。私の役目じゃないから、私じゃなくてもいいけど、捕まって欲しいわ」


「そうだよね」



 それがこの国に住んでる人の普通の感情だよね。

 不可視の悪魔が結界石を壊すから、魔物が中に入ってきて、それを防ぐために帝国の手を借りなきゃいけないから、国が乗っ取られる危機に陥ってる。



「早く捕まるといいね」


「……そうね」



 バレたらきっと、凄く失望の目を向けられるんだろうな。

 なんとなく、そんなことを思った。




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