22 ユーリアとおでかけ
「アリア!ロイ!」
街の出口に向かうと、もうほとんどのメンバーが揃っていた。
「これから魔物討伐になるが、準備はどうだ?」
「大丈夫」
レグルスに問われ、二人で強く頷く。
レグルスも私達の返事を聞いてよし、と満足気に頷く。
「全く運がいいんだか悪いんだか…」
「悪いに決まってんだろ。前回からひと月も経ってねぇんだぞ」
レグルスがため息をついて言った言葉に、フリードか苛立ちを隠さずに言う。
槍を片手に持って準備万端のヨジムも、不愉快そうにムッとしている。
「私達が外の魔物を倒して来たばかりなので、前回ほど大変ではないでしょう。……それすら見越されているようで気味が悪いですが」
見越してました。
ヨジムは鋭いなぁ。
「考えるのは後だ。行くぞ!」
レグルスの言葉にみな一様に頷いて、街から離れた。
「この辺にして引き上げるぞ!」
魔物が落ち着いてきたところで、私たちは引き上げた。
予想通り強い魔物は少なかった。手前にいた弱い魔物は沢山いたけど、全然大変じゃなかった。
第5班も一緒に戦ったけど、苦戦してるようにも見えなかったし、状況が落ち着くのも早かった。
前回は半日近くかかったのに、今回はその半分の時間だ。前回もこうすれば良かった。
「アリア、一応聞くけど怪我は?」
「ないよ」
帰る時に寄ってきたロイがそう聞いてくる。私の答えにほっと胸をなでおろすロイ。
「被害はほぼ無いそうだよ」
「良かった」
「ね」
そっか、ほぼないんだ。
良かった。
「明日は1日休みにして、明後日出発することになった」
その日の夜、夜ご飯を囲んでレグルスが言った。
第5班の班長と相談してきたんだろう。
「特に今のところそれ以外の予定変更はない。不可視の悪魔については第1部隊が動くそうだ」
「りょうかーい」
伸びた声でテディスが返事して、目の前のお肉に食らいつく。
次の目的地はブルスタ。結界の外を回って向かう、結界石のある街。
それと、主に王城での勤務が主な第1部隊が、不可視の悪魔を捕らえる為に動くのか…。使えるのかな、その人達。
まぁ私たちの役目は外の魔物を減らすこと。万が一また結界石が壊れても被害が少なくなるように、魔物を減らしていかなくてはいけない。
「それと、恐らくだが……帝国の援助を受け入れると思う」
「えぇ、帝国の!?それってまずいんじゃ…」
「そうですね、下手したらそのまま国を乗っ取られるでしょう」
声を上げたテディスに、ヨジムが冷静に答えた。
この国に隣接しているグラナート帝国。ここらへんでは1番大きな国だ。援助を受け入れるということは、多分魔物討伐に適した騎士でも借りるのだろう。
そんなことをしたら各地に帝国の騎士が置かれて、そのまま攻め込まれる可能性が高い。
もちろん帝国はそれを狙って助力を申し出るから、それを受け入れることはほぼない。
だけど今回は受け入れる。帝国に攻め込まれる可能性が高いのに、受け入れる。
「このままでは間違いなく魔物に国を食い尽くされるからよね。一時的に助けを借りて、その間に不可視の悪魔を捕まえるつもりかしら」
「恐らくな」
ふむふむ、なるほど。借りるのはあくまで一時的に。
壊れた4つの結界石のある街のうち、2箇所でも帝国が守ってくれれば、こちらはやりやすくなるもんね。
「でもそんな都合のいい話を帝国がのむとは思わねぇけどな」
フリードがジュースをぐいっと飲んで、不機嫌な顔で言う。
それもそうだ。狙ってる国の助けをちょっとして終わりなんて、そんな利益にならないことを帝国がするとも思えない。
それでも助けてくれるなら、なにか裏があるはず。
その裏の策にハマらないようにこの国の人達は国を守るしかないのだろう。
もういっそ属国にでもなった方が安全なんじゃないかと思ってしまう。
どうせこの国の上の人たちは腐ってるんだし…。
主を信仰しないこの国なんて、もっとちゃんとした国に吸収された方が…。
「アリアとロイがいれば帝国騎士も追い返せるって、な!」
テディスがそう言って私達に話を振ってくる。
私よりも先に反応したロイが、何食わぬ笑顔を貼り付けた。
「勿論だよ。不可視の悪魔を捕まえたらしっかり追い返してあげよう。ね、アリア」
「うん」
にこりと笑顔を向けられたので頷く。
同意するように聞いてきてくれて助かった。なんて言おうか少し迷ってしまったから。
だって私は人間を傷つけられない。
帝国騎士をどうにかしろと命じられても、私にはどうにも出来ない。
ロイは帝国の人間なのだろうか。この感じだとそんな気がする。
ロイが戦争にはしないと言った。それを信じるしかないんだろう。
今更ロイから離れたところで、私がやってる事がロイの手助けになってることには変わりないし。
私の任務は戦争をさせない事ではなく、結界石を壊すことだから。
次の日の一日休みの日は、ユーリアと出掛けることにした。ロイにも誘われたけど、それより先にユーリアに誘われていたから、ロイは断った。
ロイは残念そうにしながら、第5班の男性達と手合わせをする事になっていた。
「やっとアリアとお出かけできるよー!」
ユーリアと待ち合わせして歩き出すと、ユーリアは嬉しそうに言う。
そうだね。ずっとロイに邪魔されてたもんね…。
「ユーリアはもう、何度か基地には戻ってるの?」
「2回くらいかな?帰ったよ!」
そっか、ユーリアはだいぶ初めの方に基地を出たから、もうそれくらい基地に帰ってもおかしくないのか。
精鋭班以外は数週間で帰るときいたし。
「アリアはまだ帰ってないの?」
「うん。まだ1ヶ月経ったかどうかってところだしね。多分あと2ヶ月くらいは帰らないんじゃないかな」
不可視の悪魔に対する対策次第だけど。
そう言うとユーリアはだよね、と肩をすぼめる。
「今日アリアとの時間取れてよかった。2ヶ月後にたまたま基地で休みが被るとも限らないもんね」
「そうだね」
もしそれが被らなければ、次に会えるのはまた2、3ヶ月後になってたかもしれない。もしかしたら同行する班としてまた一緒に旅をするかもしれないけど、絶対じゃないしね。
「もー、ロイはすぐアリアとの時間とろうとするんだからっ」
ぷんぷん、と怒ってるユーリア。
それはね、私にも何でかは分からないんだよ。聞いても好きだからしか返ってこないんだ、困ったことに。
「そんなに何度も出かけて、アリアとロイはいつも街で何してるの?」
「えぇ、何してるかなぁ。ご飯行って、武器屋とか材料屋とか巡ってるかなぁ」
何をしてるかと言われると何してるんだろう。ロイが魔物素材をよく使うから、それを見繕いに行くことが多いかな。
ついでにロイと魔物素材について色々教えあったりするし。
そんなことを言うと、ユーリアは嘘でしょ!?と驚愕の顔をした。
「デートのひとつもしてないの、ロイは!」
「デートって、そういうんじゃないよ、私達」
ロイの私に対する態度は挨拶みたいなものだよ、とユーリアに言うと、ユーリアは眉をしかめて、小声でロイに悪態をついている。
私もロイも、デートとかそんなの考えてる暇はないしね。
「まぁいいやっ。今日は私とアリアがデートだもんね!」
「明日からの魔物討伐の準備とかは済んでるの?」
「もちろん!だから今日はあそぶの!」
ユーリアはうきうきと体を揺らしながら、私の手を引いた。
準備が出来てるなら、いっか。
女の子同士のお出かけらしく、お昼を食べたあとは一緒に洋服を見に行ったりアクセサリーを見に行ったりした。
買ってもこれから結界の外に出る私達は持ち歩くことは出来ないから、郵便屋に預けて基地まで運んでもらうのだ。
私もユーリアも、普段着用の洋服を何枚か買い、アクセサリーも幾つか買った。お揃いでリボンも買った。
久しぶりに友人とお出かけ、というのを楽しんでる気がする。
天使の任務は人に見つからないように何かをすることが多いから、あまり交流はないのだ。
友人が出来ることも少ないし、出来ても関われるのは数回。他の地に行ってることもあるし、設定を作って出会って友人になることが多いから、任務が終わってその地を離れたら、大体その設定は崩れる。次に会ってもお前本当は何者なんだ、ってなる。
もし普通に会える関係でも、数年経てば姿の変わらない私を訝しむ。
長く関われる人間はいないし、こうして一緒に出かけることも無い。
同じ天使同士ではそもそも何かを買いに行く必要が無い。ほとんど天界に揃ってるから、こういうお出かけはしない。
だからか、少し楽しい。
何も考えず純粋にこうして買い物をするのは。
「アリア、あそこのカフェで休憩しよ!」
ユーリアに手を引かれて着いていく。彼女のちょっと強引なところは嫌いじゃない。
店内のオープンな席に座って、お互いに飲み物と軽く食べられるものを頼む。
注文を終えるとユーリアは頬杖をついて、はぁ、とため息をついた。
「この国…どうなっちゃうのかな」
ユーリアがぽつりと漏らした言葉は、私の言葉に染み込んだ。混乱を招いている当本人として、ほんの僅かに負い目を感じる。
「私達には魔物を討伐することしか出来ないからね」
「……だよね…」
私が言うと、ユーリアは諦めたように頷く。
この国がこの先どうなるかは私にも分からない。でも、どうなったとしても私にできることは無い。
「ねぇアリアはさ、不可視の悪魔って、帝国の人間だと思う?」
「えっ…?」
「結界石を壊して、防御を弱くしてこの国を奪うつもりなのかな?」
真正面から聞かれて、私は黙る。どう答えたらいいものか。
「うーん、どうだろう。私そういうのあんまり分からないからなぁ」
「そっかぁ。アリアなら詳しいかなと思ったけど、分からないかぁ」
うん、上手くごまかせたようだ。
本当に私は国のそういう問題には詳しくないけど。
「ねぇアリア、ロイってさ…」
「ん?」
「……ううん、何でもない」
言いかけたユーリアはその先を言うことなく、ちょうどその時に運ばれてきたデザートを頬張る。
何も言う気がないとわかったから、私もそれ以上聞くことはしなかったけど、彼女は何が言いたかったんだろう。
ロイを疑う言葉でも出すつもりだったのかな。
私とロイに疑いをかけてた第5班の班長。その下にいるユーリア。もしかしたらユーリアも、私とロイを疑ってることを班長から聞いてるかもしれない。
そう思うと少し残念に感じてしまうけど、仕方の無いことだ。疑われてることをしてるのは私だし、その疑いは正しいし。
まぁいいやと思って開き直り、私はその日をめいいっぱい楽しむことにした。




