13 精鋭の第2班
「あら、アリアは弓を使うの?」
「剣も扱えますが、前衛が多いメンバーだと聞いたので後方支援に回ろうかと思いました」
出発前に荷物を確認していると、第2班の副班長、グレイスさんが声をかけてきた。
彼女は私と同じく後衛で、同じく弓を使うらしい。
ちなみにグレイスさん以外はみんな前衛だそうだ。
「アリアは剣の腕凄いんだってな。時間空いたら勝負しようぜ!」
次に声をかけてきたのは同じく第2班のテディスさん。彼は凄く陽気で、多分班のムードメーカーなんだと思う。
そこにスっとロイが当たり前のように入ってくる。
「僕が相手しますよ。僕とアリアの力は同等なので」
ロイの言葉に、ん?となる。同等じゃないよ、私負けたよ。
そんなロイの言葉にテディスさんは目を輝かせた。
「そうだよな、ロイも強いんだよな!?うわ、楽しみだぜ!」
「いつでもお相手しますよ、テディスさん」
にこにこと嘘くさい笑顔を浮かべてロイが言う。
テディスさんは戦うのが好きなのかな…。強い人と戦いたいって目をしている。
「おい、ロイ、アリア」
「はい」
名前を呼ばれて振り向くと、少し眉をしかめたフリードさんがこちらを見ていた。
「敬語とさん付けは外せ。俺たちは仲間だ。そんな余計なもんは捨てろ」
「分かった、じゃあ普通に話すよ」
「そうしろ」
そしてまたふい、と私たちに背中を向ける。それを見てたフリードの隣のヨジムがくすくす笑う。
「素直じゃないですね、フリードは。彼は仲良くなりたいって言ってるんですよ」
「おいヨジム、余計なこと言うんじゃねぇ!」
「仲間なんですから、素直になりましょう?」
ヨジムに言われてフリードは少し顔を赤くした。フリードは、素直じゃないんだね…。
ちなみにヨジムの敬語は癖らしい。だから気にしないでと最初に言われた。
そのヨジムとフリードも、同じ第2班だ。
「おーい、準備出来たかぁ?そろそろ行くぞー」
一般男性より1.5倍は大きい体つきの彼は、第2班班長のレグルス。
彼の言葉にみんなで頷いて、荷物を背負った。
以上5名と、私とロイが、第2班のメンバーだ。
私たちは野宿も魔物討伐も慣れてると言ったので、最初からいつも通りの任務をすることになった。念の為多少予定に余裕は持たせているらしいが、いきなり2〜3ヶ月放浪の旅だ。
まぁ私も平気だろうし、ロイも平気だろう。
きっと第2班に入れてもらったのは、女性がいるからと言うのもあるだろう。第1班は男性のみだ。その心遣いは有難く受け取っておこう。
それに彼らは精鋭の騎士達。きっと学べることも沢山あるだろう。学びながら、隙を付いて結界石を壊さなくては。
中継地点の町に着いた。今日はここで1泊だ。
第2班は、野営は基本結界外でするらしい。国境辺りまで魔物を狩りに行くから、仕方ないらしい。代わりに結界内にいる時はなるべく町の宿屋に泊まるそうだ。
宿屋では、6人部屋をひとつと、2人部屋をひとつ借りた。
私とグレイスが同じ部屋だ。
「ふふ、同じ班に女性がいるのは嬉しいわ。いつも1人で宿に泊まって、男たちが楽しそうで羨ましかったの」
ふふ、と嬉しそうにグレイスが言う。
本当に喜んでるのが伝わってきて、私も嬉しい。
「そうだわ。アリア、夕飯まで私と一緒に買い物に行かない?」
「いいよ。何か買うものがあるの?」
「買うものもあるし、一緒に街を歩きたいなと思ったのよ」
なるほど、是非ともついて行かせてもらおう。
街に着いたら夜ご飯までは自由時間だと聞いた。たまに任務に余裕がある時は、街に2泊3日して、間の丸一日を休みにしたりするらしい。
そういった取り決めは全部班長と副班長に任されていて、結構融通が効くんだって。班によっては厳しいところもあるらしく、第2班は精鋭班っていうのもあって割と緩くても許されてるそうだ。
グレイスと共に男たちの泊まる部屋の扉をノックする。
出てきてくれたのはテディスだ。
「お?どした?」
「アリアと買い物に行くの。誰か暇なら来てくれる?」
「あ、俺空いてるからついてくよ」
テディスさんがそのまま着いてきてくれるみたいだ。
じゃあ行こうか、とテディスさんが乗り出してきたところで、テディスさんの後ろからロイが顔出した。
「僕も行っていいかな?」
「お、ロイも来るか」
ロイも着いてくることになった。
「この町に来るとね、いつもこれ食べるのよ。はい、どうぞ」
グレイスが屋台で同じものを4つ買って、私達にくれた。少し膨らんだ平べったいもので、何か分からず齧り付くと、中にはトマトで煮込まれた鳥や野菜が入っていた。
「美味しい…」
「でしょう?この町の名物、包み焼きっていうの」
初めて聞いたな…。中の具をこの皮で包んで焼いてるのか。なるほど。
私やグレイスが味わって食べてる中、ロイとテディスはぺろりと平らげてしまってる。食べるの早い。
「もう、男ってなんで食べるの早いの?」
「俺は逆のこと聞きたいけどな、なんで遅いのかって」
グレイスの呆れたように言った言葉に、テディスはけろりと言い返す。それを見ながら食べてると、私の肩をぽん、とロイが叩く。
「ゆっくりでいいからね」
「うん」
もぐもぐ。急ぐ予定もないんだし、ここで急いで食べる必要も無いだろうから、自分のペースで食べる。
そんな私たちを見て、グレイスが少し目を輝かせる。
「ねぇ聞きたかったの。あなた達ってどんな関係?」
「私とロイ?同期だよ?」
「ふふ、そうではなくてね?」
ん?そうではなくて?それ以外のなんでもないんだけどな。
共犯者になりたいとか言ってるけど認めてないし。
「今僕が口説いてる最中なの。協力してくれるよね?」
「あら…!勿論させてちょうだい…!」
グレイスの目の輝きが増す。
私はロイに呆れたような目を向けると、ロイはその嘘くさい笑顔をいっそうにこりとさせる。
「口説くって言われてるけど、アリア」
「本気じゃないから流していいよ。ロイの挨拶みたいなもん」
テディスに声をかけられたのでそう返すと、彼は驚いたような顔をした。
「えっ………。本気?」
「いや本気じゃないんだって」
「そっちじゃなくて、アリア本気で言ってる?」
「?」
何が?と思って首を傾げると、テディスは何かを察してロイの肩に手をぽんと置いた。
「これはちょっとロイが可哀想だわ。俺も協力してやる」
「助かるよ」
何の話?
そんな話をしながら、グレイスの目的地に着いた。そこは材料屋だった。
からんからんと音を立ててドアが開き、4人で中に入る。
「あらグレイス。いらっしゃい」
「こんにちはマスター。店内見させて貰うわね」
そう言ってグレイスは薬草コーナーの方に足を進める。テディスとロイはふらりと違うコーナーに向かった。
この店内には色んな素材が置いてあって、薬草もあれば、防具や武器の素材になりそうなものもあるし、魔物素材も売っている。
多種多様なものが並んでいて、面白い。
「薬を作るの?」
「そうよ。私薬師の免許も持ってるの。だから薬はなるべく自分で作るし、毒矢とかも作ってるわ」
なるほど、グレイスは後方支援に特化してるんだ。
薬は自分で作った方が効果を自在に操れる。効果を高めることも低めることもできるし、あまり売ってない薬も作れる。それに安く済む。
魔物に効く毒系統も作れるなら文句なしだろう。後ろで回復に専念して、弓で相手の行動を制限できるのだし。
薬草を吟味してるグレイスをそのままにして、私は別の棚を見る。
「何かめぼしいものあった?」
ロイが隣に来て私に聞いてくる。
うーん、と言ってから首を振る。
するとロイは、手に持ってるものを見せてきた。
「僕はこれ買おうと思って」
「なに?ヘルハウンド…じゃないね、アイスウルフの牙?珍しいね」
「あ、やっぱりそうだよね?」
アイスウルフは結構レアな魔物だ。だからその素材は高値で取引されるし、こんな普通のお店には売ってなさそうだけど…。
「これヘルハウンドの牙として売られてたんだよね」
「え、そんなことある?」
「まぁ似てるからね。間違えたのかも」
そう言いながらロイがカウンターに向かう。買いに行ったようだ。
そうか…この国は結界で守られていて、魔物と触れ合う機会がないから、素材の目利きもできる人が少ないのかな。
あんなレアなものを普通に売ってしまえるなんて…。
「アリアは何も買わないの?」
「私はいいかな」
グレイスも買い終わったらしく、私に声をかけてきた。
私は特にこれといって欲しいものはなかったから、何も買わなかった。
宿までの帰り道を歩いている時、隣にいたロイに話しかけた。
「さっきの牙、正規の値段で買ったの?」
「ヘルハウンドの牙として売られてたから、ヘルハウンドの牙として買ったよ」
にやりと悪どい笑みを浮かべてるロイ。
まぁ店側の失態だからね…。とはいえやっぱり安く買ったのか…。
「砕いて剣に塗るけど、アリアもいる?」
「私はいいや」
アイスウルフの牙は水分に溶けるとその水分をカチカチに固まらせる。だから砕いて剣に塗ると、切りつけたところから凍って相手の行動が鈍くなる。
その他にも、生肉とかにふりかけて凍らせて長持ちさせたり、色んなことに使えるのだ。
ただアイスウルフ自体の生息域が狭く数もいないから、レアなものにされているんだけど。
帰ってからグレイスは部屋で薬作りに取り掛かった。夕飯までやるそうだ。
集中するだろうから邪魔しちゃ悪いかなと思って私は宿の外に出ると、待っていたかのようにロイがいた。
「アリア、散歩でもどう?」
「いいけど…」
散歩に誘われて、ロイの隣を歩く。空が少し暗くなってきて、明かりもポツポツつき始めた。それでも人の波は減ることなく、賑やかさは昼と変わらない。
「デートしてるみたいだね」
「散歩でしょ」
にこにこと笑う彼にしっかり言っておいた。これはデートじゃない。
そんなつもりもないくせに何をぬけぬけと。
「これから数ヶ月一日中一緒にいられるなんて、幸せだね」
「はいはい」
またなんか言ってる。そういうの効かないよって、いい加減分からないのかな?
「というかロイはこんなことしてる暇あるの?あなたにはあなたの目的があるでしょ」
「それもそうなんだけどね。今はアリアとの仲を深めたいかな」
……。あ、そーですか。
まぁ諜報員って何も、組織に潜入して何かをやり遂げるだけが諜報員ではないもんね。いざと言う時のために待ってたり、もしくは信用を集めるための準備段階の可能性もある。
ロイの役割がそのどれなのかは分からないけど、まぁ私の知ったことではないか。
「アリアは?次に寄るところでやるの?」
ロイに聞かれて黙りこむ。
班の予定は大体は決まってる。イレギュラーなことや緊急のことがあれば予定も変わるけど、大まかに行くルートも決まってる。
この街を出て、次の町を経由して、その次は結界石のある街だ。まだ壊してない街。
「…さぁ、どうだろうね」
言う気はない、との姿勢を見せると、ロイは面白そうに笑みを浮かべる。
「まぁいいよ。勝手に手助けするから」
やる気満々のロイを見て、小さくため息をついた。




