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12 感情のコントロール(ロイ視点)

 

 今度はアリアが野外訓練に行ってしまった。2泊3日を男と過ごすのは心配だが、先輩の女騎士もついてるしユーリアもいる。このあたりの動物なら、怪我の心配もしていない。


 でもアリアに会えない。折角私が野外訓練から帰ってきたのに、あまり交流できないままアリアが行ってしまって、もどかしい。

 もっと話したい。その瞳に映りたいのに。




 気付くといつもアリアのことを考えていて、謎の焦燥感を紛らわせるためにも残った新人騎士に厳しめに指導をした。


 アリアの言う通り彼らは前より本気で強くなろうとしていた。そのきっかけが、アリアが複数と戦ったことによる騎士たちの敗北からっていうのが気に入らないけど、それもあってアリアへの見方も尊敬する人に変わっていったようだ。


 まだ数人、アリアに想いを寄せてるやつはいるが、しっかり目を光らせてる。アリアに手出しはさせない。





 アリアがいなくて物足りないまま、アリアの帰ってくる日になった。私はまだかまだかとそわそわしていた。ジャックは私の様子に気づいてけらけら笑っていた。


 そしてアリアの姿を見て、怪我がないことを知り、心の底からほっとした。私の知らないところで何かあったりするのが1番嫌だ。


 そう思ったら、ユーリアからとんでもない言葉が出てきた。

 襲われた時の訓練、だって?

 私達は女性騎士が襲われた時に反応できるような訓練はした。実際の現場を再現して。

 ならアリアも、体験したのか…?襲われるという体験を…!



 だめだ、殺気は抑えろ。ここにアリアを襲ったやつはいない。この怒りをアリアにぶつけるのは筋違いだ。

 アリアは触られてないとは言った。それは信じる。彼女はそう簡単に卸されるような人じゃない。


 だから、どうやって撃退したのかを聞いた。

 何かを考えたアリアは壁際に座って、私に手招きをする。実際にやって見せてくれるということか。


 花に群がる虫のように、私はアリアに吸い寄せられ、そして近づいたところをアリアに腕を捕まれ、仰向けにされた。

 抵抗はしなかった。されるがままにした。



 私を押し倒して、私の首に短剣を当て、アリアが上から私を見下ろす。

 そしてじっと私を見つめていて、その目には殺気も威圧もない。



「こんな感じ」


「……っ」



 なんだ、なんだこれは…っ!

 顔が熱くなる。アリアに押し倒されて、至近距離で見つめられ。たとえ首に刃が当たっていたとしても、こんなことされて好きにならないわけが無い…!


 このまま死んでもいい、そう思えるくらい。むしろ死ぬ時はこうやって死にたい。



「反則だろ…っ」



 アリアは私の首から短剣を外し立ち上がる。

 熱くなった顔をどうしていいか分からず、そのままにしてアリアに詰め寄った。



「だめ、あれはやっちゃダメ。あんなの誰でも好きになるに決まってる」


「は?いやそうしなきゃ襲われるんだけど…」


「ナイフで一刺しでいいよ。とにかくあれはだめ!」



 アリアを襲う奴など死ねばいいのだから。

 いやでも、アリアに殺してもらうのはご褒美すぎるか?とはいえあのやり方は…。


 なんとかアリアにあのやり方をやめて欲しくて、懇願した。するとアリアは面倒くさそうにしながらも、私に意見を仰いでくれた。私の意に沿ってくれるようだ。


 どうしても傷つけるのは嫌だとアリアが言うから、傷つけない方法で私も納得できるやり方を、アリアに教えた。

 次はそうすると、約束してくれた。






「ロイ」


「なに?」


「お前も顔赤くなることあるんだな」



 その日の夜、浴場で共に湯に使っていると、ジャックは嬉しそうに言う。

 何が言いたい。そう思って黙っていると、ジャックはケラケラ笑う。



「すごい女慣れしてると思ってたから、あれだけで顔真っ赤にするなんて驚きだったぜ。可愛いとこあんのな」


「……アリアだけだよ」



 女慣れはしてる。任務でもそれ以外でも。私の顔と肩書きは女に魅力的に見えるもので、今まで沢山囲まれてきたし相手もしてきた。


 だけどあそこまで顔が熱くなったことはない。1度もない。あんなに動揺したこともないし、そもそもこんなに人を好きになったことがない。

 アリアだけが特別なんだ。



「アリアだけが、僕をここまで狂わせるんだ」



 今まで冷静に淡々と生きてきた私が、ここまで感情を乱されて一喜一憂するなんて、全部彼女のせいだ。

 だから、落ち着かせるには彼女を手に入れないといけない。私のために。



「恋って大変だよな」


「…ジャックもしてるの?」


「過去にな」



 ジャックは過去に恋をしていたのか。だからこんなに詳しいのか。

 過去にしていて今してないのなら、その恋は実らなかったのか、はたまたその感情が無くなったのか。


 私の恋も、実らない可能性はある。充分ある。感情が無くなることは無いだろう。24年生きてきてここまで大きな感情は初めてだ。きっと一生この感情は消えない。


 だが、実らなかったら。もし私を受け入れてくれなかったら。

 それでも私は諦められないだろうな。

 多分彼女を捕まえて、自由を奪って私だけをその瞳に映させて。

 彼女から返ってくる気持ちが私と同じものじゃなくても、憎しみでも何でも私に感情を向けてくれることを、私で心がいっぱいになることを喜ぶだろう。


 本当、恋って大変だ。

 した方もされた方も。




 数日後、第2部隊の隊長との面談が始まった。1人10分ほど。3日くらいに別れて、面談をした。

 どうやら希望する班とか、今後の展望などを聞いてるらしい。

 絶対にアリアと同じ班にならなくては。





「ロイ・ファスト、入ります」



 大分早い段階で私は呼ばれて、隊長室に入った。

 そこに座れ、とソファを指さし、私は素直にそこに座る。



「ロイ。お前は今期の新人騎士の中でも1番強い。戦い慣れてるのも見て取れる。きっとほとんどの先輩もお前には適わないだろう」


「はい」


「その強さをどこで手に入れたのか、疑念はあるが、生憎第2部隊も今は人手を欲している。それも即戦力なるなら尚更だ。」



 私のことを少しは疑っているが、何か対策をとるほどではないということだろう。

 結界石を壊した犯人も動機も分からないし、騎士団は今使える人が欲しい。だから少しの疑念では私を切り捨てられない。


 ただ疑ってると自分から言うくらいには、本当に少ししか疑ってないのだろう。しっかり疑っていれば、私のことは泳がすはずだから。



「それでだ。希望する班はあるか?出来れば精鋭班の1班か2班に行って欲しいが…」



 1班と2班が精鋭班だ。強い魔物や狩りにくい魔物を優先的に倒しに向かう。

 彼らは魔物討伐のエキスパートで、新人がいきなり入ることはまず無いだろう。そこに入って欲しいということはよほど私の腕を買われている。


 そして精鋭班は、あまり基地に帰ってこない。ほとんど外で過ごしていて、ひたすら魔物討伐をして、休みは纏めてとるのだ。



「私は班にこだわりはありません。が、一つだけ条件が」


「なんだ?」


「アリア・ルーンと同じ班にしてください」



 私がそう言うと、隊長はやっぱりか…とため息をつく。私がこう言うことなど予想がついていたのだろう。



「アリアとロイはそれぞれ別の精鋭班に入れたいんだがな…」



 アリアの腕も買われていたか。まぁそれもそうか。

 野営に慣れていて、どんな武器も扱えて、魔物を討伐したこともある。私と同じ即戦力だ。



「野外訓練の時の私について報告はあったはずです。私はアリアが目の着くところに居ないと、心配で仕方ないのです。無意識のうちに殺気も出してしまうし、精鋭班同士では滅多に会うことも無い…。不安で抜け出してアリアのところまで行ってしまうかもしれません」


「あー…話には聞いていたが…」


「彼女さえいれば、私は150パーセントの力を出せます。どんな過酷な状況でも耐えますし、私と彼女なら倒せない魔物などいないでしょう」



 私とアリアなら敵無しだ。間違いなく。

 どんな魔物もどんな人間にも勝てるだろう。

 むしろアリアがいないなら私は騎士団を早々に辞めるかもしれない。


 じっと隊長を見つめる。私の視線に耐えかねた隊長は、諦めたような顔をした。



「分かった、お前の希望は通るようにしてみる。だが、アリアの希望もある。絶対とは言えないから、そこは覚えておくように」


「ありがとうございます」



 アリアはどっちでもいいと言いそうだな。私のことを共犯者として認めてはくれてないし、いてもいなくてもいいと思ってそうだ。

 嫌だとさえ言われなければ、希望はあるだろう。



「でもロイ…殺気はもう少し抑えられないか?」


「すいません、我慢強い方なんですが、アリアと出会ってから制限が効かなくて…」



 本当に、アリアと出会ってから予想外のことばかりだ。こんなに感情が抑えられないことも無かったし、心が動くこともなかった。

 こんな激しい感情も知らなかった。

 全てアリアが、私に与えたものだ。


 殺気だって今まで、自由自在にコントロール出来たのに。アリアといると制御が効かない。困ったことに。



「アリアは美人だから気持ちはわかるがなぁ…。あまり周りを怖がらせるなよ」


「善処します」



 まぁアリアに男が近づいたら多分抑えられないが、今はそう言っておこう。






 アリアの面接も終わり、彼女に面接の内容を聞くと、彼女だけ聞かれたことが少し違った。

 ストーカーとか付きまとわれたりとかを心配されたらしく、それは全て私のことを揶揄してるんだろうと気づいた。

 彼女はそれに気づいてなかったけど。


 そして私と同じ班になることに関してはどちらでもいいと言ったらしい。私の予想通りだ。

 どちらでもいいなら、隊長は恐らく私の意を汲んでくれるだろう。



 その数日後、配属される班が決まった。

 私は予想通り、アリアと同じだった。



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