プロローグ
『レックス・ノヴァはどこだ!?』
公共通信を通して、敵の声が聞こえてくる。
『あれだ! あの、白くて一番目立つ機体の――』
『レックス・ノヴァを狙え! パクス連邦軍が救世主などと祭り上げるガキを仕留めて、ヤツらの士気をへし折ってやれ!』
「ほんと、人気者すぎてツラいよな~」
宇宙空間に広がる敵の部隊を眺めて、オレはしみじみつぶやいた。
なにしろオレは、国が全世界に――いいや、全宇宙に誇る英雄。
倒せばそれだけで、こっちの陣営に大打撃を与えるわけだから、まぁしかたない。
現状、兵力では向こうのほうが圧倒的に有利。
残念ながらこっちは、敵の作戦にはめられ、おびき出されて劣勢だ。
…っていうのは、敵をあざむく味方の作戦。
少数で大部隊を倒して、敵の士気を徹底的にくじくのが、こっちの狙いだった。
もちろん周囲にはカメラを搭載した無数のドローンが飛んでいて、戦闘の一部始終を撮影している。
我らがパクス連邦の戦意昂揚に使うだけでなく、敵さんの国でもその映像を見られるよう配信するらしい。えぐいな!
それは、こっちが絶対に勝つっていう確信にもとづく計画で――
『レックス、全隊配置についた』
「――――――お、おう」
味方からの呼びかけに、反応するのが一瞬遅れた。
まだその名前に慣れてないせいだ。
オレの本当の名前は翔。
生まれてから一六年間、それ以外の名前で呼ばれたことはない。
でも――2024年日本の、ごく普通の高校生だったはずのオレは、今はわけあって未来で英雄をやってる。
それもテクノノートっていう、人型の巨大ロボットに乗って戦うやつ。
球形の全視界スクリーンになっているコクピットには、ホログラムで戦闘に必要な各種情報が表示されていた。
いまだに自分がそんな状況に置かれている現実が信じられなくて、ロボットアニメ好きとしては、コクピットにいるだけで、感動ではちきれそうな気分になる。
そんな中、味方が鋭い声で状況を知らせてきた。
『一時から十二時方向まで、すべてから敵機集中! どうやら敵はあんたを倒すことだけを目的としているようだ。レックス』
「そりゃ大変だ」
報告を聞くまでもなく、わかっていた。
コクピット内のホログラムとアラームも、同じことを伝えてきていたから。
四方八方から押し寄せる敵機部隊を見まわして、オレは光束自動小銃を構え直す。
「――で?」
『援護するから存分にやれ』
「そうこなくっちゃ!」
言いながら、背中のランチャーからミサイルを発射。密集しかけていた敵機の一部を吹き飛ばした。
でも敵は一瞬たりとも止まらない。
犠牲は織り込みずみってことか。
ふたたびミサイルを打つ間もなく、目の前にまで敵が迫ってくる。
オレは迷わずライフルのトリガーを引いて敵を屠りつつ、姿勢制御装置を猛噴射してこっちからも突っ込んでいった。
味方の射撃が、衝突寸前の敵機の前衛をかき乱す。
混乱の中に特攻していったオレを敵が取り囲み、攻撃が集中する。
でも当たらない。
当たらないように逃げられる。
驚異的な反射神経と、機体性能、装備のおかげで。
「オレすげぇぇぇえ!!」
笑いが止まらない。
この世界で、オレは超すげぇ英雄。
だからこんなカッコいいセリフも言えるってわけ。
「よぉし! まとめて相手してやっから、退屈させるなよ!?」