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6話 万能生物スライムさん

 交代の時間は過ぎているはずが、誰も起こしに来ない。


 カップに時間感覚を覚えさせようと寝たフリを続けている。

 もしかすると起こしに来れない問題が発生したのだろうか?


 枕のカップから頭を離すのは名残惜しいが、起き上がる。


 カップも離れたくないのか体の一部を伸ばしてきた。

 伸びてきた体を握ってやると喜んでいるようで、体を指に絡みつけてくる。

 可愛い。


 体の中にあるカップの核を掌にこすりつけてくる。

 核の感触は、まるで乳首を触っているようだ。

 本物を触ったことはないわけだが。


 しばらくカップと戯れてしまったが、ここが敵国である。

 ほころぶ頬を引き締め、カップを離してテントを出た。

 カップは移動しやすい丸っこい体に変えて、跳ねたり転がって後ろをついてくる。


 見張り用の焚き火は消えていた。

 洞窟内は光る鉱石があるので見えるのだが、二ジーナさんの姿は見えない。


 何かあったのかと警戒して周囲を見渡すと、2人のテントに光が灯っている。

 普段であれば少し早めの交代をしているから、先に戻ったのだろうか?


 信用しているということなんだろうが、戻るなら起こしに来てほしかった。

 もし起きてこなかったらどうするつもりだったのだろう。


「相手は先輩だけど、注意する必要があるよな」


 消えたままの焚火に魔法を使って火を点ける。

 念のため、火の光で明るくなった洞窟内をもう一度見渡す。


 火の光で照らされたワイヤーが、一つしかない通路の入り口に設置されているのを発見する。


 アーニスさんが仕掛けたのだろう。

 誰が見ても罠だとわかる。

 けれど、解除すると警報がなる仕掛けになっている、はずだ。


 罠の設置で見張りは必要なくなったと判断したのか?

 それなら一言あってもいいのでは?


「報連相は冒険者の基本だろ。確かに冒険者は自分のスキルを隠す傾向にあるけど、これは違うだろ」


 2人に注意するのは起きてからにして、今は見張りをしようと思っていた。


「罠の詳細も聞かないと、発動した時に対応できないかもしれないしな。今から説教だ」

 説教をするために2人のテントを見る。


 そして、なぜ明かりがついているのか、今更気づくことになる。


「あ、今日も…起きてからにしよ」


 俺が誘いを断ることは確実なので、2人が俺を襲わないためにテントまで起こしに来なかったのではないか、と察する。


 焚火の近くに見張り用の椅子が用意されているので、椅子に座って落ち着くために深呼吸する。

 詳細不明の罠が設置されているので、見張りは必要ないかと思う。


 しかし目が冴えているので二度寝しようとも思えず、見張りを継続することにした。

 手持ち無沙汰なのでカップと遊ぼうかと探してみるが見つからない。


 魔力で探知してみると地下水で出来た池がある方向にいることがわかった。


 女性を吸収したことで進化したカップは、勝手な行動を行なうことがある。

 例えば魔力の吸収やお願いしていないのに体の形を変えることなどだ。


 なので、何かやりたいことがあるのなら、見える範囲で行動すること。

 行動する前に俺の体を触るなどで、何か前触れを教えるように約束している。


 しかし今回は約束を破って見えない場所に、隠れるように移動している。


 注意する必要はあるのだが、何をするために離れたのか、思い当たる行動がある。

 確認するため、カップに気づかれないよう魔力を隠して池に向かうとカップを発見した。


 カップは、スライムを食べていた。


「ンプ!」と可愛らしい音を立てて丸呑みしている。


 カップに丸呑みされるのを待っているか、逃げる様子のないスライムの色は、生まれた瞬間のカップを思い出させた。


 今のカップは肌色に近いピンク色で、おっぱいに近づいている。


 カップの行動を観察していると、丸呑みされたはずのスライムがカップから飛び出した。


 予想通り、あのスライムは自然発生したわけでなく、カップの分裂で生まれたスライムだった。


 オメガ先生の書籍にこのように書かれている。


 スライムが自分で生み出した分裂体を捕食する行為は、人間の自慰行為である。

 溜まったものを吐き出して再度取り込むことで、吐き出す魔力は多く、取り込む魔力は少ないことで、溜まったものを徐々に解消している。


 なぜスライムが分裂をするのか。

 それは吸収した物が、後から自身に悪影響を与える可能性のもの(毒素など)を効率よく消化することで、耐性や魔力を溜める核の容量を大きくするためだ。


 よって野生のスライムが行なう分裂は自慰行為に当たらず、共食いに該当する。


 そして契約したスライムに分裂は必要ない行為である。


 複数の個体で実験した結果、必要のない行為をする個体は契約者に好意を抱いていた。

 そのため、自慰行為に該当すると思われる。

 

 自慰行為を見られたスライムは機嫌を損ねる可能性があるので、見て見ぬふりがいい。

 自慰行為を行なうスライムに数を増やすための分裂を頼むと拒否されることがある。


 実験の結果、分裂を拒否するのは嫉妬していることが原因だと分かった。

 そのため、一番はお前だと伝えてやると喜んで分裂して数を増やしてくれるだろう。


 注意。

 契約したスライム同士は共食いすることができない。

 しかし嫉妬から契約を破って共食いする個体も出てきたので、契約する数、愛情を与える個体の数は考えて行動しよう。


 共食いで生き残った個体は、再契約時にとんでもない要求をしてくる。

 スライムに、出口を入口にされた。オメガより。


 自分も夢のために数を増やす予定ではあるが、注意しないとダメだと再確認する。

 カップの機嫌を損ねる可能性があるので、まだ自慰行為を行なっているカップを置いて見張りに戻ることにする。


「さてと、自慰行為を止めることは簡単だけど、していたことを知っていると伝えることになるよな。俺が寝てる時は枕になっているわけだし、自由な時間を与えるほうがいいのか? 自慰行為ができない場合の悪影響について、後で確認しようかな」


 オメガ先生の書籍を持っている2人のテントに視線を向けると、聞こえた。

「んぉッ!」「しっ! 静かに!」


 今夜も仲の良い事で。

 今日は珍しくアーニスさんが攻められているようだ。


 そういえばオメガ先生の書籍を読んでいた様子がおかしかったな。

 反応が女の子っぽかったというか。


 すべて暗記しているわけではないが、そんな反応になる項目に思い当たる。

 第三次性徴。


 まさかと思うが、行っているのだろうか?

 豊胸術を。


 二ジーナさんはドワーフなので出来るかもしれないが、女性が行なうことのできる術だったか?

 豊胸術は、男が理想のおっぱいを現実化するために考案された術だ。


 二ジーナさんに理想のおっぱいがあるのなら。


「ラパ~! 助けてくれ~!」


 半裸のアーニスさんがテントを飛び出してきた。


 嫌な予感がする。


 後から申し訳無さそうに二ジーナさんが出てきた。


「ニナが! ニナが~!」

「落ち着いてください。どうしたんですか?」


 泣いている女性を避けるのはかわいそうなので、アーニスさんを受け止める。

 説明を求めるためにニジーナさんを見た。


「えっと、ね? オメガ先生の書籍に書かれてた豊胸術を試してみたの。そしたら」

「見てくれよ!」


 小さくてもあるはずのおっぱいは、鍛え抜かれた大胸筋に変わっていた。


「うわぁ。二ジーナさんって、筋肉好きだったんですね」

「うっ。やっぱりあの注意事項はそういうことなのね?」


 魔力を使った豊胸術は、性癖が強く出る。

 だからオメガ先生の豊胸術は広まらなかった。


 他者が行うと術師の性癖が強く出てしまう。

 頼んだ側の理想と違うものになる場合がある。


 オメガ先生は完璧に注文通りの豊胸術ができたらしいが。

「あの注意書きではわかりにくいですよね。違う書籍を読むと詳しく書かれているのですが、そっちはオメガ先生の弟子であるパイン先生の書籍で」


「そんなことより! ラパ、頼むから助けてくれよ!」

「そんなに心配しなくても、時間が経てばもとに戻りますよ」

「「え?」」


「魔力で行なう豊胸術は継続必須って書いてませんでした? 人体に対する形の固定化は時間がかかるんですよ。なので継続して行わなければもとに戻ります」


「「…はぁ」」


 安心したのか、2人共地面に座り込んだ。

 見張り用に準備していた毛布をアーニスさんの肩に掛ける。


「1日か2日も経てばもとに戻ると思いますから、安心して寝てください」

 2人は頷いてテントに戻っていった。


 見張りも含めた説教は明日にしよう。


 ついでにパイン先生の書籍も渡そうかな。

 猥談ばかり書いてあるが、オメガ先生の解読書として優秀だ。


 2人と入れ替わりでカップがやってきた。

 一応、離れる時は教えるように注意する。


 約束を破ってしまい、落ち込んでいる様子のカップを元気づけるために戯れる。

 もっと怒られると思っていたのか、意外な対応に戸惑った様子が分かった。


「隠したいと思うかもしれないけど、俺は知ってるよ。だから、したくなったら教えてほしい。協力することもできるから」

 スライムの自慰行為は、契約者が協力することで強化の効果が高まる。とされている。


 カップは自分の行動を恥ずかしいことだと理解しているので、隠れて行っていたのだろう。

 俺の言葉を聞いて、嬉しいのか恥ずかしいのか、体をくねらせる。


「この先も、カップが一番であることは変わらない。カップのすべてを、俺に見せてほしい。いいかな?」


 3秒ほど硬直したカップだったが、いきなり飛びついて体に核をこすりつけてきた。

 カップの中に手を入れて核を撫でてやる。


 嬉しそうに震えるカップと遊んでいると、洞窟内でわからないが日が昇ったと思われる時刻に2人がテントから出てきた。


「元に戻った!」

「見張りご苦労さま。朝食の準備、手伝うわね」

「良かったですね。お願いします」


 2人が出てくる前に用意していたスープをテーブルに並べる。

 二ジーナさんがサラダを用意してアーニスさんがパンを並べた。


 説教を兼ねた朝食が始まる。


「で、いつする?」「いつがいいの?」


 説教の効果は虚しく、2人は豊胸術に夢中だった


「えっと、豊胸術は落ち着いた時のほうが」


「「で、いつ?」」

 ダメだこりゃ。


「んん~、第三次性徴も行うんですよね? 帝国の状況次第ってことにしません? 余裕があるなら帝国で行いますので、少し落ち着きましょう」


「つまり! さっさと情報収集して報告しちまうか、サキュバス共の親玉を討伐すればいいってことだな?」

「そうね。ちゃっちゃと問題を片付けてしまえば、ゆっくりと落ち着いてラパくんの術を受けられるわ」


 キングやクイーン系の討伐って、そんな簡単ではない。

 だが目がマジだ。


「そうと決まればオレは情報収集に全力を出す! 討伐可能そうなら3人で討伐だ!」

「ええ!」


「あ、はい」


 情報収集から討伐に目的が変わってしまう。

 できるなら討伐して、カップに吸収させようと思っていたので、2人の協力が得られてよかったと納得することにした。


 帝都まで、もう少しだ。

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