5話 枕はスライムおっぱいしか勝たん
目を覚ますと2人は起きていた。
枕にしていたカップに起こされなかったということは、襲おうとすることはなかったようだ。
アーニスさんは地図を見ているようで、二ジーナさんは朝食を準備してくれていた。
3人揃って朝食をいただくことに。
「昨日はごめんなさい。私達はいつもの方法で発散させてもらったから気にしないで」
「昨日は悪かったな。けど辛くなったら言えよ? オレ達、ラパなら問題ないからさ」
「ご心配なく。サキュバスの誘惑は、俺に効かないので」
催眠魔法と同様に、魔力量の差があることでサキュバスの誘惑は失敗していた。
誘惑魔法を使われることが分かっているので、対策は済ませてある。
まさか2人に効果があると思わなかったので、2人の対策はしていなかった。
2人が女同士で付き合っていることは有名な話だ。
聞いた話によると、男から相手にされなかったので女同士でヤっているらしい。
ちなみに、女同士でも子供が作れるという便利な魔法薬が存在する。
2人が知っているかは知らない。
教えるつもりもない。
朝食を済ませた後に村を出る。
サキュバス退治は感謝されたようで、予想以上の食料と水をもらえた。
帝都に近づくほどサキュバスの姿を見なくなった。
遭遇するのは動物型の魔物と、どこにでも現れるゴブリンだ。
「それにしても、帝都に近づくほどサキュバスが現れねえとはな」
「その代わりに、ゴブリンが増えたわ」
「ゴブリンはどこにでもいますから」
死体は放置するとゾンビ化やほかの魔物を呼び寄せることになるので、カップにお願いして消化してもらう。
消化することで魔力を吸収しているはずだが、死体の消化後は口直しとでもいうように魔力をせがむようになった。
カップの行動を見て、
「そいつ、メスだな」「メスね」
「スライムに性別はありませんよ。スライムが数を増やすのは、溜まった魔力を消費して分裂することです。
テイマーと契約した場合は許可しない限りは分裂せず、魔力を溜め続けます。
溜まった魔力は体積として現れますが、テイマー次第で大きさを変えることが出来ますね。
カップは食いしん坊なのか、仕事が終わると魔力をせがんできますが、あまり甘やかせすぎない程度に魔力を与えています。
魔力を与えることを約束したり、前払いで魔力を与えてやると消化速度が加速するので、急ぐときは魔力を与えてやるつもりです。
魔力を与えてやると喜びを表すように飛び跳ねたり、体を左右に揺らして表現するので可愛いんですよね。
魔力をせがむ以外に身体を触ってくることがあって、こちらに伸ばしてくる身体を触ってやると喜んでいるのが」
「「もういい!!」」
帝都が近いことが関係しているのか、村が見つからないので野宿できそうな場所を探すことになった。
よさそうな洞窟を発見したので、馬車を時空間魔法で片付ける。
アーニスさん曰く、魔物や動物が住んでいるような痕跡はないそうだ。
洞窟の中も見えるアーニスさんを先頭に、洞窟内を進んでいく。
「ホント、ラパは優秀だな。足元注意しろよ」
「そうね。光魔法は加減が難しいのに、安定した光を継続できるのはすごいと思うわ」
「これくらい出来ないと、テイマーになれませんから。おっと、危ないですよ」
フルアーマーのため見えづらかったのか、躓いてしまった二ジーナさんの手を掴んで引き寄せる。
「あわわ、ふふ。ありがとう」
「魔物の痕跡もねぇし、脱いじまえよ」
「そうね。ラパくん、また預かってもらえる?」
「了解です」
まだ先のある洞窟だが痕跡は見つけられないので、二ジーナさんはフルアーマーを脱ぐことになった。
脱いだアーマーを時空間魔法で預かって、預かっていた軽装を渡して着替えてもらう。
「時空間魔法も難しいのよね。私も覚えようと頑張ったんだけど、できなかったわ」
「オメガ先生の本は読みましたか? 基本的にテイマーのことが書かれていますが、テイマーにとって必要な魔法が詳しく書かれていて、時空間魔法についても一番わかりやすかったですよ」
「オメガってあの変態テイマーか? スライムと子作りしたって伝説の男だろ?」
アーニスさんの言う通り。
一般的にオメガ先生は変態と認識されている。
「まあ、そうですね。変態なのは否定できませんが、優秀なテイマーであり、優秀な魔法使いでもあったのは、間違いないです。その証拠に俺がテイマーになれたのは、オメガ先生の書籍があったからで」
「また話が長くなりそうだな。とりあえず、もう少し進んでひらけた場所がなさそうなら、入口近くで野宿だ。いいな?」
「そうね」「了解です」
しばらくは無言で洞窟を進んで行くと、野宿に使えそうな場所が見つかった。
飲水として使える水溜りも発見する。
組み立て済みのテントを2つ、時空間魔法で用意したところでジーナさんが話しかけてきた。
「ラパ君がいるだけで野宿がピクニックね。楽させてもらってる分、夕食は期待しててね。あ、そうだ。後でオメガ先生の本、読ませてもらってもいいかしら?」
「楽しみにしてますね。はい、いいですよ。後で時空間魔法についての部分を教えますね。テイマーの知識や女体についてなんかは、読まなくてもいいでしょうし」
「オレはそっちに興味があるな」
「そうね。ラパくんがどんな勉強をしたのか気になるわ」
テイマーの方だよな?
女体についてじゃないよな?
「えっと、テイマーについてですよね?」
「「もちろん女体について」」
「本気ですか? 女性が読んでも面白くないと聞いたことがありますけど」
オメガ先生の本を渡すと俺が立派なおっぱいが好きだとバレてしまう。
線や印などつけて読み込んでいるのがバレる。
貧乳2人のお誘いから逃げた理由が、バレてしまう。
通常ならバレたところで笑い話になるだろうが、今は協力して依頼を受けている状態だ。
バレるとまずい予感がする。
怒る程度なら、謝れば許してもらえると思う。
しかし2人は、女性として見られないことを拗らせていると噂の2人だ。
関係の悪化は、目に見えていた。
敵国内でパーティーが内部分裂とか危険すぎる。
何か意識を反らせる方法はないか!?
「「いいから出せ」」
声だけは、美しいと言われている二ジーナさんからも聞いたとこのない低い声が発せられた。
返事もできずにオメガ先生の書籍を時空間魔法で取り出してしまう。
とりあえずスライディング土下座する予定をしておこう。
洞窟ですると、怪我するだろうな。
野宿の準備を1人で終わらせても、まだオメガ先生の書籍を2人で読んでいた。
俺が近づく足音に気づかないほど、アーニスさんまでも反応せずに真剣な表情で読んでいる。
「どこを読んでいるんですか?」
「おぉ!?」「きゃ!」
あ、可愛い声に戻ってる。ちょっと安心した。
「びっくりさせんなよ。テントの設置は終わったのか?」
「あ、あれ? 結構時間経ってるの? ご、ごめんなさい。すぐに夕食を準備するわね」
二ジーナさんは逃げるように離れていった。
アーニスさんが背中に隠した書籍に指を向けて再度聞いてみる。
「テントどころかテーブルなども出して、1人で野宿の準備を終えましたよ。それで? どこをそんな真剣に読んでたんですか?」
「お、おぉ! お疲れさん! いや! なにも!?」
めちゃくちゃ動揺している。
2人が興味を持てそうな事が書いてあっただろうか?
「まだ読まれます?」
「あ、えっと…。はい」
聴いたことのない、か細い返事が返ってきた。
「わかりました。読み終わったら返してください。できれば感想なんかもいただけると嬉しいです」
「か、かんそう!? わ、わかった。ニナに、そうだんしてみる」
「みる」が「みゆ」に聞こえそうなほど声が小さい。
深堀りするのはやめておこうと「はい」と返事をすると、アーニスさんは書籍を大事そうに抱きしめて走っていった。
そんな後ろ姿を、何処かで見た気がして、ふと思い出した。
「どこの告白シーンだよ」と1人でツッコミを入れる。
村々から報酬としていただいた食料は豊富で、さらに時空間魔法を使えば鮮度も保てるため、期待以上の野宿と思えない夕食を食べることができた。
「おいしいですよ」と用意してくれた2人に伝えても「よかった」だけで、会話もなく食事を終えるとカップを抱いてテントに戻った。
見張りは最初にアーニスさん、2番目は二ジーナさん、最後に俺という順番になっている。
最近はカップに時間感覚を覚えてもらうため、時間を守る二ジーナさんを利用して訓練している。
6時間後に起きることをカップに伝えて、二ジーナさんが起こしに来るはずなので、足音が聞こえても寝ていたら起こしてくれるようにお願いしておく。
5.5話 オメガ先生は素晴らしい。
オレとニナは、ラパの接近に気づかないほど集中していた。
変態オメガ、じゃなくてオメガ先生の書籍は、オレ達の悩みを解決する方法が書いてあった。
スライムによる育乳、豊胸術、そして第三次性徴。
スライムの分裂を研究したことで発見された、第一次、第二次性徴が終わった大人に、第三次性徴を発生させる方法。
人体に詳しく、スライムを手足のように操るテイマーがいれば可能。
育乳や豊胸術もスライムを使えば可能。
スライムがいない場合。
効率は悪いが、魔力の扱いに長けている人間なら行なうことが可能。
エルフで実験済み、成功と記載してある。
オレの魔力量は少ないが、ニナはドワーフなこともあって魔力の量が多い。
冒険者になる前は魔法を利用した鍛冶屋で働いていたそうだ。
なぜ冒険者になったのか聞くと、作った商品が売れなくなって、心配した親が勝手に商人と話を進めて、結婚することになったから逃げてきたそうだ。
オレは貧乏な農民で、この眼のこともあって食うのに困ったので村を出ることにしたわけだ。
話を戻すと、本人もやる気になっているので、元鍛冶屋のニナであれば、可能なのではないかということだ。
ラパは立派なチチが好きだ。
ニナも知っている。
ラパもサキュバスから魅力を受けていたので、ダメ元だが誘ってみた。
しかし逃げられ、挙げ句に魅了は受けていないという。
オレ達でもあんなにムラムラしたというのに。
やっぱりアイツは、優秀だがおかしいな奴だ。
しかしオレ達に可能性が出てきた。
今の状態で胸元の服を緩めて、チラリと見せてやればラパの視線が来る。
ニナも軽装になったことで胸元が見えるようになると、胸元に視線を感じることが、たまにあると言っている。
魅力がないと言われてきたオレ達の身体に、アイツは興味がある。
はずだ。
それにさっきの会話で「感想を」って聞いてきたってことは、オレ達に期待してるってことだよな!?
ラパがこの部分だけ読んでないってのは、ありえない。
オレ達に第三次性徴を行いたいってことか!?
ア、アイツが望むなら、嫌じゃねえし。うん。
ニナも、誘われるんだろうな。
できればオレだけで…。
いやいや、高望みはすんな!
まだやってくれる保証も、ラパから望まれるほどに成長する可能性もないんだ!
まずはニナに頼んで育乳、豊胸術から試してみよう!
まずは…。
ラパくんから借りた本は、素晴らしい。
アーニスも同様の感想を持っているのが真剣な表情から読み取れる。
魔力による育乳、豊胸術なんてのは聞いたことがない。
両親、というか商人のキモいオヤジから逃げた先で、話を聞いてくれた冒険者がいた。
彼は私が鍛冶屋をしていたことを知ると、パーティーに誘ってきた。
世間知らずの私が、世間を知るきっかけとなる事件の始まりだった。
冒険者となってパーティーに参加すると、彼は毎日のように愛を囁いてくれた。
世間知らずとはいえ、流石の私も最初は信じなかった。
次第に彼のために働くようになった私に、彼から「結婚しよう」と言われた。
結婚の書類と言われて渡されたものを、私は喜んで受け取った。
奴隷契約書だと知らずに。
人生で一番の幸運は、その場で名前を書かなかったことだろう。
さらに幸運は続く。
嬉しさから書類を抱きしめて持ち帰ったこと。
夜になっても眠れず、散歩に出かけると偶然、彼を見つけたこと。
驚かせようと声をかけずに近づいたこと。
彼らの話を盗み聞きしたこと。
彼らは美形な彼を利用して、女性を売り物にしていた。
今思い返せば彼の表情に生気が感じられなかった。と思う。
どこか虚ろで、私の身体を触ってくることもない。
私が彼の体を触ろうとすれば「用事がある」と言って離れていた。
あの時の私は、美形な彼から愛を囁かれることに、満足していたのかもしれない。
私は盗み聞きで知る。
受け取った書類が奴隷契約書だと。
速攻でギルドに提出することにした。
ギルドの調べで他に騙された女性がいることを知った私は、彼女たちと協力して彼らに罪を償わせた。
そして私とアーニスがパーティーを組んで数年後、拠点を移した時に出会ったのが、12歳のラパくんだ。
平民と思えない実力を持つ魔法使いで、最近はテイマーになっている。
私達に対しての対応も丁寧で、優しい。
最初は、弟がいればこんな感じなのかと思っていた。
しかし成長したラパくんは、男性として魅力的だと気付く。
ギルドの評価も高く、狙っているパーティーはいくらでもいる。
しかしラパくんはソロを望んで、誘いを断っていた。
まあ、あの女性パーティーから誘われたときは揺らいでいたけど。
やっぱり胸? 胸なの!?
どいつもこいつも私の体を見て子供や妹のように接してさ!
私は立派な女です! もう「ピー歳」なんだからね!
子供欲しいの! 養うからさ! 誰かもらってよ!
はぁ、はぁ。
ふぅ、落ち着け私。
結局何が言いたいかといえば、騙された私は女に磨きをかける努力をした。
お金は鍛冶屋時代に溜めていたこともあって、冒険者の活動はやめて何十年も引きこもったこともある。
そして本を読み漁り、邪法と呼ばれる方法まで調べ尽くしたが、オメガ先生のような資料はどこにもなかった。
変態オメガのことは私でも知っていたので、オメガ先生の本を読んだ記憶はあるが、この本は読んだ記憶がない。
ラパくんは、この本をどこで手に入れたのか気になるところだけれど、今は読書に集中する。
アーニスの様子がおかしかった夕食を終えて、2人でテントに戻る。
するとアーニスが話し始めた。
「やるわ!」と即答し、夜の見張りを2人で行うことにする。
見張りの最中に育乳、豊胸術を試すことにした。