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3話 スライムは進化する

 宿の火事から一夜明けた。

 騎士団の調べで火事の原因はキッチンが原因と分かる。


 宿屋のおっちゃんが朝食を作って火を消し忘れたらしい。

 最近、物忘れが多いっておばちゃんが言っていたな。


 スライムのカップは騎士団が焼け跡に突入する直前に動き出し、騎士団と反対に移動しているのを察知したので、アッキさんと先回りすると焼け跡から自力で脱出してきた。

 消化できなかったドレスを体の中に入れたままで。


 宿のド真ン中で動かなかったのは女性を守ってたわけではなく、消化していたからだった。

 火消しが終わった頃に消化が終わって動き出したと思われる。

 ドレスはアッキさんが回収して、売っている場所や誰が買ったのかを調べるそうだ。


 宿の部屋に置いてあった荷物はほとんど着替えで、貴重品などは時空間魔法の収納空間に入れているので、俺の被害は安物の着替えと今後泊まる宿を探す手間に先払いしていた1ヶ月分の宿代、更に追加の宿代くらいだ。

 ギルマスには火事で女性が死亡したこと、今日の情報収集は止めて明日から動くことを報告して、新しい宿で休んだ。


 そして今日、朝から街で情報収集を開始する。

 ちなみに聞き込みを始めることをギルマスに報告に行くとドレスの売り場や買い手はわからなかったが、ドレスの生産場所は隣国だと教えてもらえた。

 アッキさんが徹夜して調べたそうで、今日は休みになったそうだ。


 ドレスは男から女性にプレゼントしたものだとすると、隣国が関わっている可能性がある。

 ギルマスからの忠告もあり、深く関わらないほうがいい気がしてきたので、情報収集だけして後はギルマスに丸投げしようと思う。


 情報収集の結果、女性達に声をかけている男達の居場所がわかった。

 ただのナンパではないことは、男達が同じ宿に泊まっていることでわかる。


 しかも高級宿泊施設。

 風呂があるので貴族がよく使うという宿だ。

 バレたら犯罪かもしれないが、バレなければいい。

 カップに透明化と擬態を組み合わせて男達を尾行させる。


 すると全員同じ部屋から出入りしていることが確認できた。

 背丈も顔も歩き方さえも違うが、同時に複数人の出入りを確認できないので、同一人物であると予想する。

 裏スラムの情報収集がまだ残っているが、とりあえずギルマスに報告する。


 はずだった。

「お前だろ? あの女を助けたのは」


 ギルドに向かう途中で男に、

「こっちに来い」と声をかけられ、体が勝手に動き出して男の言葉に従い裏路地へ移動していた。

 前後に男が立ち塞がり、逃げられない。


「催眠魔法まで使えるのか」

「ガキのくせによく知ってんな。正解だ。俺の言葉に逆らえると思うなよ?」

「まさか、あの女性に自殺をさせたのか?」

「へぇ、頭の回転も悪くない。その通り、犯されたことで火を使って自殺したように見せかけるため、暗示をかけておいたのさ。お前を巻き込まなかったのは残念だったが」


 あの火事は助けた女性が起こしたものだった。

 けれど騎士団の調べでキッチンが原因となっていたが、女性はカップを抱いたままキッチンに向かったのだろうか?


 平民でも生活に使う火なら小さくても魔法で出せるはず。

 キッチンで火を使った自殺なら店の人や泊まっている客たちに見られる可能性がある。


 自殺に見せかけるための暗示なら女性を襲わせるはずだった部屋の中と指定したのでは?

 なら襲わせた男たちも道連れにさせようとした可能性もある。


 もし女性が部屋で火を起こして、カップに引っ張られるか火から逃げるために部屋から出たとしたら?

 なら火事の原因はキッチンじゃない。


 騎士団に、裏切り者がいる?


「ギルドには、報告済みだ。俺を殺したところでもう逃げられない。大人しく捕まったらどうだ?」

「アハハハ! ガキのくせにいい度胸してんじゃねえか! 命乞いもせずに捕まったらどうだ? とよ! お前、死にてえのか?」


 前方にいる男から腹を殴られるが声を出せない。

 催眠魔法で口を開けることができなくなったようだ。

「これで助けも呼べねえな! このまま殴り殺してやってもいいが、お前にはやってもらわなくちゃならねえことがあるんだ」


 これ以上催眠魔法に掛からないようにするため、男を見ないように顔を背けようとするが、後方の男に頭を掴まれて動かせない。

 瞬きはできるが目を閉じることも、耳をふさぐこともできない。


「お前はギルドに帰って、何も見つけられなかった。と報告するんだ。その後ギルドで暴れて、死ね」

 男の言葉が脳内で反響する。

 俺はギルマスに何も見つけられなかったと報告して、ギルドで暴れる。


 わけもなく、


「はい。捕まえた」

 ニッコリと笑顔で告げる。

 服の中からカップが飛び出して催眠魔法を使う男の顔に纏わりつく。


 後ろにいた男の腹に向かって肘を当てる。

 うまく鳩尾に入ったようで頭を掴んでいた手が離れる。


 男2人に左右の手を向けて拘束魔法で捕まえる。

 後ろの男に反撃されたらどうしようかと思ったけど、案外なんとかなった。


「ガボッ!」

 魔法使いは口を塞いでしまえばなんとかなる。


「なんで催眠が聞いてないのかって驚いてる? 催眠魔法ってさ、魔力量の差で効きやすかったり効きにくかったりするんだよね。わかった?」

「が、ぼぼ」

「はい、おやすみ」


 ふと頭を掴んできた男の方を見ると口から血を吐いて死んでいた。

 毒でも仕込んでいたのか、詳しいことはギルマスに任せようと、死体ならアイテム扱いで保存できるので時空間魔法を使って回収する。


 カップが顔に張り付いて息ができずに魔力も吸われて気絶した催眠男は、拘束魔法を継続したまま強化魔法を使って持ち上げる。

 口の中まで入っていたカップが顔から離れると歯を一本抜いていた。


「これが毒っぽい? ありがとう。まあこれで、朝の件はなかったことにするか」

 助けた女性を吸収したことでカップは進化していた。

 透明化や擬態はもともと出来たのかもしれないが、消化以外に吸収も覚えたようで、今朝は勝手に魔力を吸収されていた。


 もちろんカップを叱った。

 勝手な魔力吸収は許可があるまで禁止として、しばらくは魔力を与えないことにしていた。

 だが、毒が仕込まれているだろう歯を回収してきたことで、朝のことは許すことする。


 帰ったら魔力を与えようと思う。

 あまり甘やかしすぎないよう、少しだけだが。


「帰ったら魔力だろ? わかってるよ」

 カップは喜びを表すように飛び跳ねてからバックの中に入った。

 とりあえず、さっさとギルマスに催眠男と死体を渡して宿に帰ろう。


「流石というかなんというか。一日で捕まえてくるとは予想してなかったよ」

「俺もですよ。まさか襲われるなんて思ってませんでした。しかも催眠魔法も使われて一瞬焦りましたよ」

「良く無事だったね」

「俺との相性が最悪ですからね。テイマーになるため、どれだけ魔力を溜めてきたか」


 時空間魔法の応用で魔力を貯めておける空間を創ることができる。

 そのため毎日寝る前に魔力を流して貯め込んできた。


 最初は体内の魔力をすべて流してしまい、気絶することもあった。

 今では気絶するギリギリで辞めることができる。


 そんなことをしているため、カップが勝手に魔力を吸収することに怒ってしまったわけだ。

 感覚が狂って気絶したくない。

 魔力枯渇で死ぬこともあると聞いたこともあるし。


 貯めた魔力は鍵のかかった扉を開ける想像で使うことができる。

 そのため最初の催眠にはかかったが、保管庫の扉を開けたことで使える魔力が増えて、催眠魔法を打ち消した。


「なるほどね。じゃあ後のことは僕たちに任せて、今日は休んで」

「わかりました。報酬は期待してます」

「そうだね。君1人で解決したようなものだし、期待していいよ」


 ギルマスに催眠男と死体を渡して宿に帰る。


 騎士団の話はしていない。

 ただの妄想だし、本当におっちゃんのドジの可能性もなくはない。

 おばちゃんがぼやいていたのを聞いたことがあるわけだし。


 それから数日間は、カップに何が出来るのか検証していた。

 あの女性の姿になれることは確認できたが、保って1分ほど。

 その後は魔力をせがまれる。


 おっぱいの感触は、本物を触ったことがないので比較できないが、本物だと確信できる感触だった。

 ただおっぱいの感触を維持するのに魔力が必要で、おっぱいになったカップを揉むたびに魔力を吸われてしまう。


 こちらの要求を聞けば魔力を吸っても怒られないことを学習したのか、おっぱいの感触を保つために必要なのか解らないが、学習していることがわかる。

 揉みやすいように形や硬さを変えて、動かす指の動きに合わせて形や柔らかさを調整するようになった。


 理想のおっぱいが目の前にある。

 かと思うだろうがカップは冷たい。

 色や形、硬かったり柔らかかったりすることが出来ても、温度調整はまだ出来ない。

 生きた人間を消化させれば、出来るようになるかも知れない。


 この国でも奴隷は存在する。

 生死問わず、どう扱おうが購入者の思いのまま使うことができる終身奴隷。


 いわゆる凶悪犯、死刑予定者だ。

 死刑か終身奴隷かは本人が決められるだけあって、死刑を選ぶ者がほとんどなわけだが。


 それはそうだろう、何をされるのかわからない。

 死んだほうがマシな未来しか待っていない。

 犯した罪によって値段も変わり、買われなければ死刑が執行される。

 ただ、死にたくない。何としても生き残ろうと奴隷になるものはいる。

 その殆どが美男美女だ。


 見た目が良いだけで生き残れる確率はぐんと上がる。女なんかは特に。

 孕ませてよし、産ませてよし。

 生まれた子供は買い手の自由。


 まあ俺にそんな金も度胸もあるわけもなく、生きた人間を消化させるなんてのは却下。

 なんとかおっぱいになったカップを揉むことで、人の温度を覚えてもらうようにする。


 魔力が余った日などは気絶ギリギリまで魔力供給を行って女性の形をしたカップを抱き枕にして眠っている。

 ちゃんとおっぱいに顔を埋めて。


 目が覚めるとおっぱいだけの形で枕になっているカップが目に入る。

 最高の目覚めだ。ちゃんとご褒美に魔力を与える。

 喜んでいるのかおっぱいの形のまま、ぷるぷると震えた。


 そろそろ仕事を探そうと、ギルドに到着するとアッキさんに声をかけられた。

「ようやく来よったな。ギルマスがお呼びや」

「あ、おは、ええー!」

 首根っこを掴まれて引っ張られる。

 2階の部屋に入るとギルマスの前に投げ飛ばされた。


「おはよう、ラパくん。ずいぶんと長い休みだったね?」

「お、おはようございます。なんか、怒ってます?」

「こちらがどの宿に泊まっているのか聞いてなかったことは悪いと思うけど、5日間もギルドに顔を出さないとは思わなかったな」


 カップの検証に集中しすぎて寝てなかった日もあるため、5日が経過していることを今知った。

「5日経ってたんですかー。気づかなかったなー」

「集中したら寝えへんクセ、ほんま変わらへんな」

「はい、ごめんなさい」

 こんな見た目なのに、つい母さんと呼んでしまいそうになる。


「いま変なこと考えたやろ? あぁ゙?」

「冒険者ギルドのオカンなんて考えてませんよ?」

「せめてお姉さんにせいっていつも言っとるやろ!」

「はいはい、漫才はそこまで。話を進めるよ」


 ギルマスの話を簡単にまとめると。

 隣国は敵、騎士団にスパイあり、サキュバス量産中、とのこと。


「見た目の良い女性を狙っていたのはサキュバスを量産するため。資金集めも裏スラムで行っていた、と。ただの冒険者の僕は、聞かなかったことにしたいです」

「駄目です」「アカン」

「えぇー」


 なんでこんなことに。

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