30話 狼に跨る猫
21階層を探索中、獲物を追いかけるウルフの背にニャトが乗っていた。
「見たことない光景だな。ウルフとニャトが協力して狩りをしてるぞ」
「群れで狩りをしているのは見ましたが、あの2匹だけで狩りをしているのでしょうか?」
獲物と思われるラビーは持ち前の脚力でウルフから距離を離していく。
逃げられそうだな。
しかし逃亡を阻止するためにウルフの背からニャトが飛んで、ラビーの前方に着地した。
見事なジャンプに「「おぉ」」とホックと一緒に声が出る。
ウルフとニャトに挟まれたラビーは急停止することなく、前方に現れたニャトに突撃するようだ。
ニャトは二足歩行で武器を扱える。
持っていた木の棒を構えた。
「にゃ!」
かわいらしい声を上げて突撃してくるラビーに木の棒を振り下ろした。が、
「ぴょん!」
ラビーはニャトに突撃せず、左に飛んでニャトの攻撃をかわすと同時に、逃げて行った。
「わふ…」
空振りしたニャトの前にウルフが到着すると息を整えていた。
「「ぐぅー」」
2匹は空腹なのか腹の音が聞こえてくる。
ウルフはもう走れないというように伏せをしていた。
ニャトは、次は必ず当てるというように素振りを始める。
「なんか、かわいいな」
「私も猫耳を生やしましょうか?」
「尻尾も頼むぞ」
「はい! いえ、そうではなく! あの2匹は変異種ですね」
ウルフは基本的に黒い毛並みしている。
ニャトは白い毛並みなのだが、2匹は逆の毛並みをしていた。
「変異種か。強くなるかもしれないが、普通よりも劣っている可能性もあるんだよな」
だから群れから追い出されたのだろう。
「どうされますか? 強くなることに賭けて、あの2匹を育てるというの手もありますよ」
「そうなると、時間がかかるよな。まあ、いつまでに攻略しろとは言われてないけど」
ぶっちゃけ、城を攻略しないという手もある。
31階層の問題が取り返しのつかない状態になったとしても、俺には関係ない。
依頼が失敗するだけだ。
もちろん、成功させるつもりでいるが、無理をする予定はない。
それにどうしようもなくなったら、城が消えて31階層に行けるようになるかもしれない。
「まあ、2匹の性格次第だな。魔物だから上下関係に従うだろうけど、信用できるかどうかはまた別だからな」
まずは腹を空かせている2匹に餌付けする。
どういう原理かわからないが俺とホックの時空間魔法は使えないので、カップにお願いして水や食料を体の中で保管してもらっている。
最初は取り込んだ物を消化してしまっていたが、次第に保存できるようになった。
今では冷たい水を飲ませてくれる。
ホックが「口移しなんでズルいです!」と言っていたが、スライムに口はない。
俺がカップに口づけして、水を飲ませてもらっているだけだ。
「カップ、バブロの肉を出してくれ。ありがとう」
さらにカップは体内で解体や消毒、解毒することも出来るようになっている。
ダンジョンコアを吸収してから成長が止まらない。
便利なのはいいが、機嫌を損ねないように感謝と報酬を与えることを忘れないようにしないといけない。
ブロック状の新鮮な肉を出してくれたカップにお礼と報酬の魔力を与えてから、肉を受け取る。
「フシャー!」
「わふ!」
2匹に近づくと威嚇された。
敵対意思がないことを示すために両手で持った肉を持ち上げる。
「腹減ってるんだろ? ほら」
ブロック状の肉を2匹の前に投げた。
肉を投げたことで敵対したと思われないよう距離を取るために後退する。
ウルフの方は今にも肉を食べたそうにしているが、ニャトの方が警戒心が強いのか肉を木の棒で突く。
ウルフは我慢できず肉にかじりついた。
「わふううぅうう!!」
柔らかい部位で簡単にかみ切れたのか、肉はあっという間になくなった。
「にゃ、にゃぁああぁああ!」
すべて食べてしまったウルフにニャトが鳴きながら木の棒を振り回す。
「わふん」
空腹で力が出ないのか、叩かれているウルフは余裕の様子だ。
「お前も食べるか?」
もう1つ肉をカップに出してもらい、ニャトに声をかける。
「にゃ!? うにゃ!」
ニャトは木の棒を放り出して四足歩行で駆け寄ってきた。
目の前に来ると立ち上がって、手を伸ばしてくる。
肉を渡してやると思ったより重かったのか、前のめりで倒れてしまった。
「大丈夫か? 四等分にしてやるよ」
ナイフを取り出すと肉を離して飛び起きた。
「フシャ―!」
「ただ斬るだけだ。こうやってな。ほら、ここに置いとくから。あいつに食われる前に食っちまえよ?」
4つに切り分けた肉を地面に置いて後退する。
ウルフの方を見れば、ニャトの威嚇に合わせて起き上がったようだ。
「お前はもう食っただろ? 取ってやるなよ」
「わふ」
返事でもするように尻尾を一振りして伏せ状態に戻る。
ニャトに視線を戻せば二切れ目を頬張っているところだった。
「うにゃー」
「泣くほどか。何日食べてないんだ?」
近くで見ると2匹は痩せている。
ニャトは二切れで十分なのか、残りの二切れを抱えてウルフの元に戻っていく。
「最初の接触はこんな感じでいいか」
肉を抱えたままウルフの背に飛び乗る。
乗られたウルフは起き上がって、こちらに近づいてきた。
それに慌てたニャトが抗議の声を上げるが、ウルフは無視している。
「まだ食い足りないのか?」
「わふ」
ウルフはお礼をするように頭を下げた。
背に乗っているニャトは顔を背けている。
ニャトの様子に気づいたウルフは尻尾を器用に動かしてニャトの頭を叩く。
頭を叩かれたことで頭を下げているウルフから滑り落ちてきた。
「ふにゃ!」
「わふ!」
2匹の言い争うが始まる。
次第に激しくなり、ニャトが肉を置いて木の棒を拾った。
「落ち着け」
ケンカに発展する前に威圧を発して止める。
「にゃ~」
「わふぅ」
2匹は尻尾を丸めてその場に伏せる。
「上下関係は分かったな。よし」
威圧を解けばニャトがウルフを庇う様に前に出る。
俺が怖いことに変わりはないのか、尻尾が引けていた。
ウルフの方はお礼が出来るので性格に問題なさそうだ。
ニャトの方は警戒心が強いだけで、仲間には優しいみたいだな。
「正確に問題はないと思うけど、ホックはどう思う?」
「群れで狩りをする魔物ですから、仲間意識が強いのは当然です。先ほどの狩りは失敗しましたが、悪くないと思います。素振りをしていたところも向上心があるように見えます。力を十分に発揮できれば、狩りは成功していたのではないでしょうか。案外、いいところまで成長するかもしれません」
高評価だ。
確かに思い返してみれば、悪くない動きだったかもしれない。
かわいさでほとんど塗りつぶされているが。
「さて、俺と契約して強くなりたいか? それとも、そのまま2匹で生きていくか? 選ぶのは、お前たちだ」




