26話 聖女トルリーナ様
「おう。あんたが私を助けてくれたんだってね! 助かったよ」
隠れ里で借りている空き家に戻ると、初めて会うのに気軽に話しかけて来る近所のおばちゃんのような恰幅のいいエルフが出迎えてくれる。
「えっと、あなたは?」
「そうか、法国の人間じゃないからわからないのは当然か。ごめんごめん。私はトルリーナってもんだよ。聖女様なんて呼ばないでくれよ? トリーおばちゃんとかでいいからね」
「トルリーナ様、他国の方だからと無茶を言わないでください」
ルアリールも到着していたようだ。
おばちゃんを止めてくれる。
「別にいいじゃないか。この坊やは私の恩人なんだから。ね?」
「トルリーナ様! 話が進みませんので、まずは中で話をしましょう。スーラパイ殿、お疲れでしょう? 中で座ってお話ししましょう」
おばちゃんがすねたように「ちぇー」と唇を尖らせるが、全くかわいくないな。エルフなのに。
2人の後を追って部屋に入ると、ジュナとジュナの祖母がカップを撫でて和んでいた。
「さて、もう一度、私からお礼を言わせてもらうよ。スーラパイ殿、此度は聖女トルリーナを助けていただき、誠に感謝いたします。この御恩は、一生忘れません。ありがとうございました」
部屋にいるエルフ全員から頭を下げられる。
「お礼もうれしいのですが、依頼達成の報酬を頂けるとなおうれしいですね」
感謝も必要だけど、もっと必要なものがある。金だ。
「スーラパイ殿、聖女様が頭を下げているのにまたその話ですか?」
怒った様子のルアリールが頭を上げる。
それをトルリーナが手を出して静止した。
顔を上げたトルリーナの背後が光っている気さえ、光ってるよな?
「おやめなさい。他国の者が命を懸けて私を助けてくれたのです。報酬を求めるのは当たり前のことでしょう。危険を冒さずに見捨てることも出来たのですよ?」
「も、申し訳ございません! ですが」
「今は言い訳をするところではありません。言い訳なら後で聞きます。私は貴女を信用していますから」
「は、はい!」
心の中でおばちゃんって呼んでてごめんなさい。
「スーラパイ殿、部下が失礼しました。報酬ですが、今は手持ちがありません。後日、お渡しさせていただきたいと思うのですが」
「あ、はい。いつでもかまいませんよ。しばらくはこの里でダンジョンに入る予定ですから」
「ダンジョンというと、世界樹様のでしょうか?」
「そうです。ジュナのお婆様から依頼がありまして。オメガ様の研究所を調べに行く予定です」
「ジュトフール、なにかあったのですか?」
ジュナの祖母はジュトフールというらしい。
「はい。ダンジョン内でスライムキングが大量発生していると、世界樹様の番人から報告を受けています」
「そうですか。番人が言うなら間違いないのでしょうね。そろそろ聖女モードやめていいかい?」
「トルリーナ様、もう少し頑張りましょう!」
一瞬だけ後光が無くなったが、ルアリールの言葉で復活する。
後光がある時が聖女モードのようだ。
「スーラパイ殿、重ね重ねのお願いで申し訳ございませんが、ダンジョンの事もよろしくお願いいたします」
「相応の報酬がいただけるとお約束していただけますか?」
聖女様から言質を取っておけば、報酬が増えること間違いなし。
「もちろんでございます。例えば、私の孫と結婚なんてどうだい?」
「「トルリーナ様!!」」
ジュナとルアリールが同時に声を上げる。
後光はすでに消えていた。
「エルフと結婚する予定はないので、報酬は金品か物品でお願いしまーす」
「やっぱりオメガ信者にエルフはだめだね。今も昔も、おっぱい魔人か」
その場は聖女に戻れないトルリーナは放置して、ルアリールが仕切った。
報酬はもちろん金品か、法国に来てくれれば物品を渡すことも可能だという。
法国の状況を聞くと、
「純血派は予想通り完膚なきまでに制圧されていました。なぜ聖女様が攫われたのか、疑問に思うほどに」
「習慣の昼寝はやめられないね~」
「だからあれほど護衛を傍に置きましょうと言いましたのに!」
「誰が好き好んで自分のいびきを聞かせたいと思うんだい? 昼寝くらい1人でさせておくれよ。誰かいるのが分かると気持ちよく眠れないんだよ~」
ジュトフールが持ってきたお菓子を寝転がって食べ始める。
無防備すぎる。
「はあ、もういいです。スーラパイ殿、間違っても他の聖女様も、このようなだらしない生活をしていると思わないでほしい。この人だけだから」
「苦労されていますね」
「わかってくれるか!?」
「見てれば誰でもわかりますよ。本人以外は」
トルリーナを見ると横になったまま器用にお茶を飲んでいる。
慣れてやがる。
「と、とにかく! 今回の件と、ダンジョンの件での報酬の話はまた後日で構わないだろうか? 今、法国に来られても十分なおもてなしが出来ないし、スーラパイ殿もダンジョンを調べられるとのことだしな」
「それで構いませんよ。えっと、ジュトフールさん、この家は借りていいんですよね?」
「ジュフでかまわんよ。好きに使っておくれ」
そんなわけで、トルリーナはルアリールに引きずられ連れていかれた。
聖女の無事をいち早く知らせる必要があるらしい。
駄々をこねる聖女様は、本当にかわいくなかった。




