11話 オメガ信者とは
本部のギルド長とギルマスの競争が始まって1ヶ月が経った。
ギルマスに途中報告をするために調査情報を整理する。
まずスライムの大量発生が活性化の原因だった。
大量発生したのは、特殊個体のスライムドール。
スライムドールは名前の通り、人型のスライムだ。
発見例の少ない特殊個体で、発生条件や分裂して増えるのかもわかっていない。
謎の多いスライムだが、一つだけわかっていることがある。
擬態能力が高く多種族と子供を作れること。
とある家庭で、不運の事故によって妻が旦那を殺してしまう。
さらに子供を殺して自殺した。
妻の書き残した紙が発見された。
旦那は死んだら溶けたが、子供は死んでも溶けなかった。
と書かれていたのは有名な話だ。
その街の領主もスライムではないかと噂された。
挙げ句の果てに殺し合いが始まり、廃墟となる。
スライムドールは擬態しているだけで、無害である。
とオメガ先生の書籍に残されている。
スライムドールを利用して自分と同じ存在を造ろうとしたが、失敗した。
成功すれば不老不死が可能だった。と書かれている。
間違いなく、最古のダンジョン内にスライムドールを研究したオメガ様の研究所がある。
詳しい原因を調べるには、研究所を見つける必要がある。
今の段階でわかっていることをまとめる。
スライムドールが大量発生したことで、ダンジョン内が魔物のハーレム状態である。
スライムドールが魔物に擬態することで、交尾と出産を繰り返している。
さらにスライムドールが擬態したモノ同士でも交尾を行なっているようで、スライムドールが生まれていた。
スライムドールからはスライムドールが生まれるようことが確認できた。
スライムドールしかいない階層も発見している。
擬態する相手がいないため、擬態しないと交尾できないと予想される。
もし、冒険者がその階層に到達すれば、人に擬態して冒険者を性的に襲うだろう。
ちなみに擬態した姿は、相手の好みに近い姿をとる。
とオメガ先生の書籍に残されている。
これらのことから活性化ではなく、スライムドールの大量発生による活性化に似た現象が起こっている。
「…これを信じろと?」
ギルマスに報告書を送った次の日、ギルド長とギルマスのいる部屋に呼び出された。
俺の横で勝ち誇ったような笑顔のギルマスが立ち、ギルド長はこちらを睨んでいる。
たすけて。
「は、はい。嘘は書いていません」
「…ふぅ。どうやって調べた?」
睨む先が報告書に変わった。
ギルマスは笑顔のままだ。
殴りたい、この笑顔。
「自分はテイマーです。仲間にスライムがいますので意識を共有して、自分は安全な場所で待機します。スライムを操りダンジョン内を探索して、情報を集めました」
「スライムと意識の共有だと? スライムの知能でここまで調べられたというのか?」
「自慢の仲間です。このように擬態能力を強化しています。魔物を避けて階層を移動させていました」
カップを手に乗せてネズミの姿に擬態してもらう。
手から肩、頭に移動して床に飛び降りると部屋の中を走り回る。
「ほう。今は意識の共有を行っているのか?」
「はい。棚の隙間に金貨を発見しました。どうぞ」
ネズミの姿では難しいので、スライムに戻って金貨を取り込ませる。
隙間から出てきたカップを持ち上げて金貨をギルド長に渡した。
「なるほど、優秀なテイマーであることは認めよう。しかしダンジョンの階層を跨いで意識の共有が可能なのか?」
「それは時空間魔法の応用です。意識の共有でスライムがどこにいるかは知ることができますから」
「ば、バカバカしい! そんな事が出来るとしても、どれほどの魔力が必要になると思っている!」
椅子から立ち上がって詰め寄られる。
ギルマスは助けてくれないようだ。くそが。
「えっと、魔力なんて寝てれば回復しますから」
「…はぁ!?」
「ラパくんの魔力回復速度は異常ですからね。彼が行っていることを聞いたら驚くでしょう」
ギルマスがやっと話したかと思ったら異常と言われる。
殴っていいかな?
「ふぅ…なにをやっているんだ?」
「あ、はい。寝る前にほぼすべての魔力を消費し」
ギルド長は言い終わる前に音を立てて椅子に座る。
「…はぁ、オメガ信者か。テイマーにスライムの時点で気づくべきだったな」
「オメガ信者?」
「なるほどな。君の報告書を信用しよう」
いやオメガ信者について教えろよ。
同士が存在するなら語りたい。
「あ、ありがとうございます」
「これで僕らの勝ちですね」
「わかっている。無理難題でなければ何でも言うことを聞いてやる。それよりもまずはスライムドールの対策だ」
「それについて提案があります」
「流石はオメガ信者だな。言ってみろ」
だからオメガ信者ってなんなんだよ!
「スライムドールは同族、スライムに擬態しません。擬態していない状態なら攻撃してこないことは確認済みです。自分に任せていただければ数を確実に減らせます。ただ擬態したスライムドールは、高ランク冒険者の先輩方に任せることになりますが」
「いつまでだ?」
「そう、ですね。どこまで数が増えているかわかりませんし、奥の階層から移動してきたことを考えると。1ヶ月毎に報告する、というのはどうでしょうか?」
まだオメガ様の研究所を見つけていない。
それに研究所が見つかれば、スライムドールを止める方法があるかもしれない。
スライムドールの数を減らしながら研究所を探す。
隠し玉もあることだし難しいことではない。
「わかった。スライムドールの討伐数は確認できないので、報告書の内容で報酬を決めよう」
「ありがとうございます。それで構いません」
今は金より研究所だ。
それに帝国で手に入れた宝物庫の中身もある。
売れば数十年働かなくても贅沢して暮らせるだろう。
「私は他のギルド長達、ギルマス達と情報共有を行う。活性化ではないとわかればダンジョンから出てくることは」
「あ、スライムドールが擬態した魔物なら、出てくる可能性があります」
「なに? スライムドールはダンジョンで生まれた魔物だろ?」
ダンジョンで生まれた魔物は活性化時などの特別な場合以外、外に出れば生きていけない。
だがスライムドールは研究所が原因の可能性がある。
ダンジョンで生まれた存在とは別物かもしれない。
オメガ様の研究所を報告するか迷うところだが、ここは。
「スライムドールは未知の存在です。予想外の行動を起こすかもしれないことは、考えておくべきです」
「ふむ。流石はオメガ信者だ。なにが起きても対応できるよう対策を考えよう。ではな」
だからオメガ信者ってなんなんだよ!?
ダンジョンの活性化と似た現象が、スライムドールの大量発生であると報告してから1ヶ月が経った。
まだ研究所は見つかっていない。
「ドールの処理は順調のようだな」
丸い大テーブルを囲むようにギルド長達やギルマス達が座っている。
俺はギルド長とギルマスの間に座らされている。
なんか、誕生日席みたいで嫌だな。
「はい。ドールしかいなかった階層は処理が終わりました。時間が経てば魔物が出現すると思われます」
「よくやった。その階層まで案内はできるか?」
「無理です。魔物の大量発生している階層をいくつも通ることになります」
「そうか。魔物退治はどうなっている?」
他所のギルマスが答える。
「はい。順調に進んでいます。しかし奥の階層から溢れ出てきますので、ダンジョン内は戦い続きで休ませろと言う声が」
「なるほどな。安全区域も機能していないのか?」
ダンジョン内には魔物に襲われない場所がある。
最古のダンジョン内では宿を営んでいる元冒険者がいると聞いた。
食事だけでなく薬や武器の修繕なんかも行っているとか。
何年もダンジョンから出てこない変わり者という話だ。
「はい。ヤスモの宿も襲われたようで、店主や店員達は店を守るために戦い続けています」
襲われるようになっても店を守り、戦っているらしい。
いや、出てこいよ。地上が嫌いなのか?
「流石はオメガ信者だな。冒険者を引退して長いというのに、まだ戦えるか」
そいつがオメガ信者かよ!
会いに行ってみるか?
もしかして研究所の場所も知っているかも?
「はい。ヤスモパーティーのおかげで地上まで魔物が上がってくることはないと思われますが」
「そこを突破されれば溢れ出る、か」
意外に地上から近い階層で宿をやっているのか。
まあ仕入れもあるだろうし。
「やはり安全区域に入り込めるということは、ダンジョン内で生まれた個体ではないのだろうな。放置すればダンジョンから出てくるだろう」
「おそらくは。最近では倒した魔物が溶けるという報告もあり、素材が取れないと苦情も」
ドールの繁殖に追いつく勢いで討伐が進んでるってことか。
高ランク冒険者は化け物かよ。
「素材の買取価格を高くしたいが、討伐数が多く価値が低くなっている。もう安く買い叩く段階だぞ」
販売を管理しているのだろうギルド長の一人が発言する。
ドールは溶けるといってもドールから生まれた個体は溶けないからな。
ほぼゴミ同然の価値になるのも仕方ないよな。
「買取価格はそのままで行く。冒険者達のやる気まで削ぐと討伐速度が繁殖速度に追いつかなくなる」
「わかった。はぁ、倉庫の建築も予定している。金が飛んでいくぞ」
「仕方ないだろう。放置すれば、霊峰を手放すことになる」
「わかっている。次の会議までに対策を考えてみるが、他の者たちも良い方法があれば教えてくれ」
考えがないわけじゃないんだよな。
でも言っていいものか。
「ラパくん、何か言いたいことでもあるんですか?」
隣にいるギルマスに話しかけられた。
周りの視線が一斉に集まる。
こいつ、なに笑ってんだよ!
「…ふぅ。自分から一ついいですか?」
「なんだ?」
「冒険者目線から言いますね。討伐数による報酬だけにして、素材の買い取りを中止するのはどうでしょう?」
「それでは我々だけが損をするだろ!」
今って損得の話をするべきじゃないだろ。
冒険者が働いてるから、お前らが稼げることを忘れるなよ。
「どのみち損するのでは? 買取価格を変えない。だけど売る時は安く買い叩かれる。それに人手も必要になります。仕分けする人は誰ですか? 鑑定する必要もありますよね? 保管時の管理は?」
「そ、それは」
「ここは一つ楽をしませんか? ダンジョンは死体を残しません。ドロップアイテムも放置しておけば吸収されます。レアなドロップだけ、冒険者の目利きに任せて集めてもらうのも良いと思います。高ランク冒険者の先輩達なら目利きくらいできると思いますよ。というか、討伐数が多くてドロップを放置気味になっている冒険者たちもいるのでは?」
「そうなのか?」
「は、はい。討伐報酬が少ないために、面倒だけど拾っていると報告を受けています。買取価格のこともあって、後で報告しようと」
「報告を受けた時点で報告してこい!」
いや無理だろ。他所のギルマスだぞ。
他にも仕事あるだろうし、冒険者から報告を受けるだけでも大変だろうに。
「す、すみません!」
言い訳せずに謝った。出来る人だ。
「素材の買取は一時中断し、自己報告の討伐数で報酬を払うことにする。虚偽の報告もあるかもしれないが、少々高めの報酬くらい払ってやるわ。浮いた人件費で事務仕事を中心にさせるか…」
なんかブツブツと言ってるけど、とりあえず買取は中止になったようだ。
「流石はオメガ信者だ。人を使うことも知っているとは」
そろそろオメガ信者について詳しく教えてくれないかな?
「では自分もドールの討伐数を報告すれば報酬がもらえますよね?」
「本日の会議はこれまで!」
無視かよ!
まあ報告内容で報酬が決まるって契約だしな。
会議は終わり、解散となった。
ギルマスは他のギルマス達やギルド長達と話している。
さっさと宿に戻ってカップに癒されようと思う。
適当に挨拶しながら逃げるように会議室を出た。
「あれがオメガ信者か」
「ずいぶんと若いな」
「15歳でBランクらしい」
「将来が楽しみだな」
「今度の信者は、何をやらかすのか」
「楽しみですよね」
宿に戻るとおっぱいの形でベッドに待機していたカップに飛びつく。
「今日は休みだ。いっぱいもんでやるぞ~」
カップは嬉しそうにプルプルと震える。
「貴方様、私も構って下さいね」
髪の毛に擬態していたホックがスライムの姿に戻る。
「はいはい」
カップのおっぱいに顔を埋めながら右手で揉み、左手でホックを掴んでやる。
「私の感触はいかがですか?」
「程よい硬さの柔らかいボールって感じだな。ホックは形を変えられるけど、複雑な擬態はできないからな」
「すみません」
「ホックはサキュバスだから仕方ない。いつも守ってくれてありがとう」
「はい!」
ホックは体を細くすることで髪の毛に擬態することで、いつでも守ってくれている。
おっぱいには負けるが、柔らかな体を握らせてもらうこともある。
集中したいときに握っていると、いつもより集中できる。
たまにいやらしい声をあげるが、無視している。
「明日からまた研究所探しとドールの討伐、というか吸収か」
「お姉様とばかり意識の共有を行うのはずるいです」
「ホックが行けばドールはサキュバスに擬態すると思うぞ。女王の力で命令とか」
「わかっています。わがままを言っているというのは。こんなことなら私がコアを取り込んでおけば」
「怖いこと言うなよ。今の状態でも力を持て余してるのに」
「冗談です。が、ずるいと思うのは仕方ないことなのです。私は貴方様を愛していますから」
「はいはい。ここがいいのか?」
「私は真剣に、んはぁ!」
2匹のスライムを寝るまで楽しんだ。
最古のダンジョンを調査して3ヶ月が経った。
魔物の討伐、スライムドールの吸収は順調に進んだ。
レアドロップの値段も下がってきた頃、ヤスモ宿の営業が再開する。
そして、また本部に呼ばれて会議が始まる。
「問題だった50階層までの魔物大量発生ですが、ほぼ通常通りの魔物出現で安定しています」
「50より先の討伐ですが、難航しています。魔物の数もそうですが、そこまで到達できる冒険者が少ない状態です」
50階層の到達がAになる条件の一つだっけ。
そんな場所の魔物が数で襲ってくるとなれば、Aランクパーティーでも苦戦するのは当然か。
さらにその先も魔物大量が発生中と。
地獄かな?
「そうか。ドールの処理はどうだ?」
「順調です。ドールのみが存在していた50、60、70階層の処理が終わりました」
「そこまでドールに侵食されているのか」
幻のSランクは100階層到達が条件の一つだっけ?
誰がそこまで行くんだって話だよな。
「はい。もしかすると10階層毎にある転移陣から移動してきたのかと思い、80階層まで調査しましたが、まだ先でも大量発生していると思われます」
当然80階層もドールだけだった。
どうしてドールだけの部屋ができるのか。
スライムが現れる階層だからと思っていた。
しかし転移陣のある安全区域から出てきたものが、ボスのいない部屋で溢れていったからではないか、と考える。
ボスは10階層毎に現れるものだが、冒険者が階層に到達しないと部屋に現れない。
そのため転移陣からドールが現れて、一定の数になると階層から追い出されるので、ドールが擬態できる魔物と繁殖する。
繁殖を繰り返してドールが生まれるようになれば、生まれたドールが階層から追い出される。
どんどん地上に向かってドールが追い出されて行くんじゃないかと思う。
ただ10、20、30階層ではドールを確認していない。
40、50階層はドールで溢れていたわけだが。
とりあえず自分の考えを報告する。
「魔物が転移陣を使用した? ボスのいない部屋でドールが集まっただけではないのか?」
「そうですね。ですがもしも転移陣を使えるドールがいたら、どうなるでしょうか?」
「ドールの、上位種がいるというのか!?」
「わかりません。だから調べているのです」
多分いるんだろうな。
オメガ様の研究所とかに。
「わかった。調査を継続してくれ」
「はい。自分はもう退席しても?」
ぶっちゃけここにいたくないし、寝たい。
80階層まで行くと時空間魔法の応用も集中力も限界で、昨日までダンジョン内の50階層にいた。
20階層にあるヤスモ宿に泊まる事もあったが、ヤスモさんに会うことはなかった。
店員に聞いたら筋肉痛で寝込んでいるとか。
連戦続きで休みもなく戦った反動だろうとのこと。
ヤスモさんの歳を聞いて驚いた。
78歳だという。
「前回のように意見を聞きたいところだが、帰って休みなさい」
「ありがとうございます。お疲れ様でした」
やった。昨日は報告書の作成で寝てない。
というか数日はゆっくり休めていない。
帰って寝るぞ!
「さて、オメガ信者はいないが報告書はもらっている。これによると、80階層のドールを処理中とのことだ。本人は50階層からスライムと意識の共有を行い、指示しているらしい。このことからAランクに上げてもいいと思うのだが、反対の者はいるか?」
「若すぎないか?」
「自力での到達ではなく、他の冒険者パーティーの後をついて行ったという話だぞ」
「魔物討伐もしていないという話だ。もう少し様子を見るべきでは?」
「では保留ということにしよう。まあ80階層以上の調査をする時点でAランクに上げることはほぼ確定しているが」
「そうですね。50階層到達がAランクに上がる条件の一つにしていますから、80階層まで調査できるのにBランクのままでは、ギルドは評価してくれない。なんて噂になっても困りますからな」
「しかし15歳でAランクにしてしまうと、本人にも面倒事が発生すると思われますが?」
「Aランクにしたとしても報告は後で出来る。この問題がいつ解決するかもわからない。もしかすると永遠にこの問題と付き合うことになるかもしれない。そうならないよう、彼の力が必要だ」
「ランクを餌にするということですね」
「それもあるが、彼のランクを上げることで挑戦できるダンジョンを増やす。再度このようなことが起きないよう、定期的なダンジョンの調査を行ってもらおうと考えている」
「うちの方でもテイマーを育ててみますか?」
「誰がオメガ信者を育てられるんだ? いや、彼に報酬を出して育成を頼むのもありだな。そのためにもランクという鎖は必要だと思わないか?」
「…なるほど」
「では再度聞こう。反対の者は?
無いようだな。この問題が落ち着く、または解決した際には、オメガ信者ことスーラパイをAランクに昇格させる。それでは会議を再開する。各自報告を始めてくれ」
俺の知らないところでAランク昇格が確定していた。




