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わたくしの婚約者様は

作者: 高月水都

最初はこうじゃなかったのに

「ミレイヌ。僕は君のことが好きです」

 顔を赤らめて婚約者であるセリオさまが告げたのは学園に入学する前日のデートにて。


「嬉しいですわ。セリオさま」

 微笑んで返事をするとセリオさまは嬉しそうに顔をほころばせて、それから苦しげに顔を歪めて迷うように視線を彷徨わせて何度も何度も口を開けたり閉じたりを行う。


「ねえ…………」

 やがて口を開いたかと思うと言葉を上手く出せないように詰まらせている。それを急かしたりせずにそっとセリオさまの手に自分の手を重ねて待ち続ける。


「……ミレイヌは前世というものを信じるかな」

 不安げに向けられる翡翠の目。


「わたくしは記憶がないのでわかりませんが、そういう人もいると聞いたことあります」

 前世の記憶というのがあるという人は偶にいるとそのゼンセの記憶を持つ人によって急激な文化の革命が起きるというのも。


「僕には前世の記憶があるんだ……。で、その前世の記憶に乙女ゲーム……女性向けの物語があって……その物語に僕と妹のケイトリンが出ているんだ」

 それから長い長い話をされた。

 ようやくすると、妹のケイトリンさまは【悪役令嬢】という設定で主人公のすることを妨害して、最後には斬首とか罪によって牢に入れられる立ち位置で、セリオさまは物語における【攻略キャラ】で、物語の選択肢によっては主人公と結ばれる流れだと。


「選択肢がある物語なんですね……」

「主人公になり切って楽しむ娯楽だからな」

 おままごととかそういう部類なのでしょうね。そういえば昔、庶民の子供がお姫様ごっこをしているのを見たことあったけど、現実はそんな簡単なことではないのよね。憧れている子たちの気持ちに水を差すことはしなかったが、そんなことを思ったものだ。


「僕は君が好きだミレイヌ」

「はい。わたくしもです」

 何度も何度も確かめるように告げられて、その度に頷く。


「昔から前世の記憶はあったが、この世界が乙女ゲームによく似ていると気付いたのは入学が決まってからだ。そのゲームでは……」

 必死に縋るような手でわたくしの腕を掴む。手を離したら消えてしまうのではないかと怯えるように。


「そのゲームにはミレイヌはいなかった。影も形も……僕はそれが怖い」

 怯える声。

「最初はゲームと現実は違うと言い聞かせた。ケイトリンは殿下と婚約しているが、ゲームのように婚約破棄されないだろうと、僕もケイトリンはまあ些細なけんかはするけど仲の良い兄妹だと思っている妹を断罪するような事もしないし、何かあったら妹を庇うはずだと……。ゲームとは違う。第一ゲームにはミレイヌがいなかったから」

 青ざめた顔。震える声で言い聞かせるように、


「もしかしたら……ミレイヌにこれから不幸なことが起きるのではないかと」

 だったら怖いと怯えるセリオさまを慰めるように抱きしめる。


「大丈夫です。わたくしはいます。それに……」

 少し悪戯を企む子供のように笑い、

「わたくしに不幸なことがあったらその物語ではセリオさまはきっと悲しんでいる設定になっていますよ」

 悲しんでいないのなら大丈夫です。そう安心させるように告げるとセリオさまもぎこちないが安心したように微笑む。


「ああ、そうだな。そうだった」

 それにほっとしたようにセリオさまは告げた。








 セリオさまのお屋敷から自分の邸宅に戻り、自室に辿り着く。

「――報告は」

 尋ねると天井から。

「はい。例の少女は男爵家に引き取られる予定でしたが引き取られる原因であった母親の病死は無くなって、母親は医者と再婚して男爵領から離れたとのことです」

「そう。ならよかった」

 本当によかった。もし、男爵領に残ったままであったのなら処分しないといけなかったかもしれなかったのだから。


「件の男爵は?」

「男爵夫人に十分に締め付けられて身動きは出来ないようですね。後、他にも色々やらかしていたのでそれをあらゆるところに流しておきました」

「ならば、娘を利用しようと探すこともないわね」

 男爵家の家計は火の車でそれを何とかしようと重税を課しているそうだ。そんな愚かなことをして物語通りならいい金づると結婚させようと娘を探し出すという展開だったからそれをしでかす前にそれ相応のところに監視してもらいましょう。


「下がりなさい」

 命じると去って行く気配。それを感じ取りながら疲れたというかのようにソファにもたれる。


「それにしてもセリオさまはてっきり忘れているままだと思ったのに思い出してしまったんですね」

 前世の記憶も幼いうちは持っていても大人になれば消えていく人が多いのに。いや、一度忘れていたのに思い出してしまったのだろう。学校名か学校の形を見て、

「大丈夫ですよ。セリオさま」

 初めて会った時のことを思い出してその時にも告げた言葉をもう一度呟く。


 貴族同士は政略結婚でお見合いを兼ねての顔見せで、セリオさまはわたくしに一目会って、ぼろぼろと泣きだした。

『こ…この婚約を無しにしてください』

 泣きながらそんなことを言われた時はわたくしもお父さまたちも驚いてしまったわ。


 涙を流しながら辛そうに言葉を詰まらせて告げたのは前世の記憶。乙女ゲームの攻略キャラで、妹であるケイトリンさまが悪役令嬢。

『ゲッ、ゲームにはミレイヌさまはい…いなかったから……。だから、僕と婚約したらミレイヌさまは不幸になるんじゃないかと……』

 ぼろぼろぼろと泣きながらこちらを気遣ってくれる様にキュンと胸が高鳴った。その時はゲームというのもよく分からなかったがこの可愛らしい婚約者が別の女性のものになるというのが許せなかった。それと同時にセリオさまの知っている未来に自分がいないという事実が不愉快だったので手を回した。


「わたくしが手を回さなくてもお父さまが動かれていましたけどね」

 ありとあらゆる不測の事態に備えて対策を取っていたら、どうやらわたくしの叔父がお父さまの公爵の地位が欲しくて罠に嵌めようと動かれていた証拠が見つかり、危うく領地に視察に行く馬車が故障して事故に合うという未来が無くなったけど、セリオさまの言われた主人公が現れたら危険だと思ったのでずっと監視させてもらっていた。


「油断はまだ出来ないけど、セリオさまの危惧する者は現れないわ」

 そんな女に心を留めてもらいたくないから忘れてもらえるように暗示を掛けたのが解けてしまったが、ゲームの世界と現実は違うと思えばすぐに忘れるだろう。


 後はケイトリンさまが幸せになるだけだ。

「まあ、幸せになれそうになかったら挿げ替えるだけでしょうけど」

 公爵家二つを敵に回す覚悟が王家にあるとは思えないがとミレイヌは愛するセリオを思い出して優しく微笑んだのだった。



ヤンデレ主人公。


ちなみに乙女ゲーム主人公は普通の幸せを謳歌しています。貴族の暮らしに少しでも足踏み入れたら消されますけど。

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― 新着の感想 ―
[一言] 公爵家の暗躍が格好良い。 ヒロインも転生者だったら大変だったろうな…。主にヒロインが。
[良い点] あなたも転生者だったんですか? って思ったら、情報を得た現地民だったので驚きました。 最初にもたらされた僅かな情報からここまで調べて対策を取れるなんて、優秀な方は違いますね。 [気になる点…
[良い点] 良質な読み応えでした。 以下は戯れ言です。 [気になる点] ・ちなみに乙女ゲーム主人公は普通の幸せを謳歌しています。 ・貴族の暮らしに少しでも足踏み入れたら消されますけど。 ヒロインち…
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