第八話
「…よくなんも見えないのに、建物にたどり着けたな…」
俺はアルに、そう聞いた。
「なんも見えないって…それなのによく着いて来れたな…。つーか、なんで吹雪そんなに強くしたんだよ…まあ、俺はいっつも吹雪に紛れることにしてるから何も問題ないんだよ。それはおいといて、着いたな。ここが父親の会社だ。」
窓の外を見ても、真っ白でまだ何も見えない。
「…人の声はしているし、ここからは完全に敵地だ。さすがに、ここの奴らは抵抗はできないだろうが…この後はセキュリティがガチガチの軍本部にも向かう。…お前らの目的を完遂したいなら、あんまり消耗するんじゃねえぞ」
アルはそういって、非常階段を駆け上った。
「じゃあ、私たちも行きましょう。」
華奈さんも、そう言って登っていった。
第八話
「…静かだな、一階に誰もいなかったし…」
アルが、この状況を不穏に思ったように言う。
「まあ誰もいないのはありがたいことじゃねえか、何より、声がしたとは言ってたじゃんか。そりゃこんな吹雪が急に発生したら動けなくもなるだろ」
太陽は、そう言ってさっさと登っていく。
「…だけど、アル、流石に注意はしといた方がいいぞ、こんなにカンカン鳴ってんだから気づく人もいるだろ」
俺はそう言ってさらに登っていく。
そうして、誰にも出会わないまま、俺たち五人は最上階に辿り着いた。アルはさっさと非常階段から出て、大きい扉の前に立った。
「…よし、開けるぞ。」
そうして、アルはその大きな扉を開けた。
その中では、若い男が、コーヒーを飲んでいた。その男はゆっくりと振り向き、俺たちの方を見た。
「…軍司令から話には聞いていたが…まさか本当に魔法が存在していたとは思わなかった。」
彼はゆっくりとそう言って、コーヒーを机に置いた。
「クソ親父…」
アルはそう呟いて、彼に銃口を向ける。
「久しぶりだな、アル。」
彼はそう呟いて、ソファに座った。
「お前の母さんから話は聞いていた。そして、今日はあることを話すために警備を緩めておきもした。しかし、まさかわざわざ吹雪まで起こしてくるなんて…」
「そりゃそうだろ、アシがついたらもう平和には暮らせない…。それより、わざわざ警備を緩めただって?一体、何のつもりだ」
アルは怒り混じりにそう問う。
「…正直、この国がもう危険で、できることならそこの…君たち三人に生き延びて、司令官を倒してもらったほうが、俺自身得だと思ったから。アルが匿ったんだろう?」
彼はそう言って、俺達を指さした。
「本来ならば俺達に縁のない、「魔法」という存在が、どれほど危険かなんてのは計り知れないが、それ以前に、いま近くにある一番の危険は、その司令官にあることは明らかだ。…協力関係を結んでいたサコルを裏切って攻撃を仕掛け、こんなに小さな子ども三人相手に躍起になって戦おうとする…そんなの、キチガイ以外の何物でもないからな…。」
「なるほど、俺と対話する気でやったわけではないってことだな?」
アルが拳銃を握り直す。
「…対話する気でここに来たのか?」
そう言って彼はアルを鼻で笑った。
「うちの会社の跡継ぎはもういるんだ。俺が居なくなって困るやつなんて、もう誰も居ない。…俺が伝えたかったことも伝えられたしな。この国を救うためには、あいつを殺すしかないってこと。」
彼はそう言って、机のコーヒーを取り、一口飲む。…アルの銃口は、震えていた。こちら側は四人ともただじっとそれを見つめていた。
「…人一人殺せない意気地なしに、育てろって指示した覚えはないんだが…やはり、お前の母親は無能みたいだな。そんなんだから追い出さr」
引き金を引いた音が響き、生々しい血の匂いと、その赤さが目と鼻にこびりつく。アルの手は、とんでもなく震えていた。
「なんなんだよ…最期の最期に、付け足したような悪どさを見せやがって…」
アルの両目から、涙がこぼれる。
「お前のこと、止めたほうが良かったか?」
太陽が、そっとそんなことを言った。
「いいよ。どうせこうなってた。」
アルはそう告げて、パソコンの前に移動した。
「母さんが言ってたやつ、きっともう変わってると思ってたけど、連絡取り合ってるんだったらまだ変わってないはずだし…真実とやらを見るのが先だろ」
そう言ってアルはパソコンの電源をつけた。
「正直、あいつの行動は予測してた。…戦う気がないとか、敵意がないとかそういうのもわかってた。でも、それでも俺の怒りをおさめるために自分から犠牲になる。そんなことも。」
アルがぶつぶつと声を出す。
「…じゃあ撃たなければよかったじゃないか」
俺はふとそう言ったが、
「じゃあなんであの場で止めなかった?…どちらでもよかったようで、こうするしかなかったんだ。いろんな人を巻き込んだ上で、やーめたなんて虫が良すぎるし。」
彼がそう言ってしばらくして、パソコンにて件のデータが見つかった。
「…あいつは、俺のことなんかなんとも思ってなかったんだろ、どうせ。」
そう言いながらアルが開いたデータには、こう書かれていた。
「最終編集:1年前
アルが5,6歳のころか、妻が「影」の騒動によって業界から攻撃を受けているため、なんとか避難させてから1年が経過する。…さすがにほとぼりが冷めただろうから、こっちに戻ってきてはどうだと何度も伝えてはみたが、しかし、「アルがあなたのことを恨んでいる。…もし出会おうものなら、あなたは危険にさらされる」として、戻ってこようとはしてくれない。…アル、久しぶりに顔は見てみたいものだが、どうやら私は敵という立場にあるようなので、一切会いに行けていない。…俺も昔、人に対して恨みを持ったことはある。だが、その恨みが晴れた瞬間の空虚さと、やったことの重みというのは、それからの人生を大きく変えたように思う。…拾った子ではあるが、大切な一人息子だ。その恨みというものの不利益さに気づいてほしいという気持ちと、そのために苦しませるのはどうかと思う2つの気持ちがある。…このパソコンのパスワードは、妻に教えて2年経つか…。アルがもしここに来たとき、このデータをみてどう思うかは正直全くわからないが、もしこのデータを閲覧したのなら、学んでほしい。恨むことの空虚さを。…ただ、文面だけでは伝わらないのだろう。…まるで命乞いのようにしかならないから。」
「…避難…?」
アルが、そんなことを言った瞬間に、ドアを破壊する音が聞こえた。俺と太陽はすぐに振り向き、日暮も結界を張る準備をする。華奈さんも、臨戦態勢をとった。
「…そこにいるのは「影」の手引者の一人息子かぁ…?」
三人程度のそのグループは、いかつい銃を両腕に構えて言った。
「…お前らはなんなんだ?」
アルは、ぼそっとそうつぶやいた。
「うるせぇ!質問に答えやがれ!」
グループの一人が、銃をアルに向けて放つ。その瞬間に日暮は結界を張り、アルへの銃弾を防いだ。
「あぁ…?お前らもこいつに味方すんのk」
俺は相手が言葉を言い切る前に、氷の礫で相手の頭をえぐった。
「!?な、なんだそn」
逃げようとした仲間二人も、同様にしてやった。太陽が、固まったアルをパソコンから引き剥がす。
「…アル、動かないとまずいぞ。」
俺はそう言ってさっさと扉の外に出た。そして走って一階に駆け下りる。
…しかし、影の手引者か、マジで恨まれてるんだな…
「…どうする、もう軍の方行っちゃうか?」
俺は走りながらもそう言った。
「そうするしかないよ。アルには悪いけど」
目まぐるしく変わる景色の中、日暮はそう言って駆け下りる。…彼女ももう流石に戦闘に慣れてきたか。
「しかし、アルの追手はあの3人だけか?そんななのによく俺達を倒せると思ってんな…」
太陽はアルを担ぎながらそういった。
「…お前らが想定になかったからだよ。俺一人じゃ大した強さはない。…それに、狙っていたのは多分俺ではなく父親のほうだ。」
アルはそう言った。
「ずいぶんと心の回復が速いね。」
華奈さんがアルの言動にそんな疑問を抱く。
「スラムでは別れなんてよくあったことだ。…大したことじゃ、ない。」
アルの拳は、強く強く、握られた。
…しかし、やはり追手はあの三人だけだったようで、軍本部へはアルがすぐに案内してくれた。
「こっから先は、君たちの敵しかいない。…俺もついていくけど、生き残って家に帰らなくちゃならない。…この後悔を、重みを、忘れちゃいけないから。だから、大したことはできないよ。」
異様なほどの強さを、アルから感じる…どうして彼はこんなに、強いんだ?すぐに成長して、決意して、俺等とは大違いだ。…ふと日暮や太陽の方を見ても、同じように思っているような表情をしていた。華奈さんは、深呼吸して顔を引き締める。
「敵は私の因縁です。…私が先陣を切ります。」
そう言って彼女は銃を構え、本部へのドアを開けた。
さすがにただの基地であって要塞ではないから、罠なんてのはなかったが、何しろ不法侵入だ、警報音が鳴り響く。
「華奈さん、こんな無理やりじゃなくてもよかったんじゃないの?」
日暮がそう言った。
「侵入口はここ一つだろうし、遅かれ早かれ見つかってる。…道はアルのおかげでわかってるし、迷わないなら特に問題ない!」
そう言って彼女は走る。
頭の中でルートをさっと思い出す。一階は廊下を通って射撃訓練室を抜け、そのまま食堂を抜けて階段。2階は武器倉庫と研究開発室、そして会議室。3階でやっとその部屋…らしかった。
廊下にはまだ人は来ず、すぐに射撃訓練室にたどり着いた。
「なんだお前ら!」
射撃訓練をしていた、軍の一人が銃をこちらに向けそう叫んだ。ただ、俺達は対話は求めていない。華奈さんは、何も動じないままそいつの心の臓を撃ち抜いた。
「…射撃訓練場にしては人が少ない…ねえ、アル君。ここって寮は別棟?」
華奈さんがそうアルに問う。
「別棟じゃない。4階あたりがそうだったはず…だからこんなに人が少ないのは異常だ。」
アルはそう返答した。…なるほど、だとしたらどこかに集合しているか…
「この軍基地、本当は外も中もクソ広いんだ…まあ吹雪のせいで距離感覚はつかめてなかっただろうし、そして建物も何階建てか見れてなかったと思うから、一応言っておくと、全部でざっと17階建てだ。…もし最上階まで移動されていたとしたら、少々面倒だな。」
何を考えて作ったのか、ここには一気に上に抜けられる階段なんて一つもない。
「まあ、アルのお陰で地図はあるんだし、それを見れば…」
二階に登る階段で、俺はふとそう言った。
「それで終わるなら心安いがな…」
太陽がそう言って、ふっと氷を廊下に投げた。すると、カチっという音と同時に、廊下の床が抜けた。
「あー…」
日暮がいろいろ察した顔で苦笑いしている。
「んー…下の方覗きたくないけど、覗いてみるか?一応」
と、太陽。俺はおそるおそる落ちないように下を見る。…わぁ!いっぱい死んでる!
「…慎重に行くしかないか…」
そう言って俺等は、ゆっくりと歩き出した。
そこからは正直特筆すべきところもなかったので割愛する。…罠が多すぎて、ただぐだぐだしていただけだったのもあるし。…さて、現在俺達は件の三階にいるわけだが…
「…ここがその部屋か、とりあえず開けるぞ。」
アルがそう言ってドアを押そうとした。
ここまでの道のりは、俺達三人で魔法を順番に撃っていちいち確認してきたわけだが…
「ちょっとまってくれ、神経すり減らして確認作業してたせいですごい消耗してるんだ。」
太陽がそう言って一行の足を止めた。
「たしかにそうね…罠があまりにも多すぎた。でも、休憩しているうちに戦いが発生しかねないのは事実だから、悠長に待ってられない。…君たちには悪いけど、もう行くよ。」
華奈さんがそう言ってドアノブを握る。そのタイミングで、
「…ねえ、ふたりとも。これが終わったら、どうする…?」
日暮がふと、そんなことを言った。太陽も俺もアテはない…どうしようかな。
「今考えてもしょうがない。行き当たりばったりのほうが気楽でいいと思うぞ。」
太陽はそう言って笑った。俺も頷こうとした瞬間に、カチっという音が聞こえた。
「え」
次の瞬間、ちょうど華奈さん以外のメンバーが乗っていた部分の床が動き出し、上の階に押し上げられそうになった。もちろん、俺らはすぐに降りようと試みた。だが…
「…!なんだこれ!結界!?」
俺はすぐ結界の内部に圧力をかけ、破壊しようとした。しかし、結界が割れたころには、俺達はもう、上の階に押し上げられてしまっていた。
【華奈視点】
…!まさか、ドアノブをひねるだけでこんな高度な罠が起動するなんて…
結界って、魔法の一部だよね…あの子達以外にも使える人がいたの?
とりあえず、上の階に声が届くか確かめるためにも、私は声をあげた。
「みんなー!そっちは大丈夫!?」
そう叫んでみたが、何も声は帰ってこない。…流石に彼らならなんとかするだろうが…
「…とりあえず入るか…」
私は今度こそドアを開けて、中に入る。
「…おや、君一人かい。ずいぶんとピンポイントでかっさらっていったみたいだね。」
目の前にいる「それ」は、ただ茶をすすりながらくつろいでいる。
私はそいつに銃口を向け、
「敵が目の前にいるというのに、どうしてそんなにもくつろいでいられる?」
と言った。
「撃ちたければ撃ってみればいい。」
やつはそう挑発してきた。乗らない理由もなかったので、とりあえず一発、足あたりを狙って撃った。
しかし、やはりというべきか、結界に弾かれてどうにもならない。
「つまらないな、もう少し驚きの反応が欲しかったものだが…まあ、大空市の出身のやつらとしばらく旅路を共にしたなら、驚かないのも当たり前か。」
彼はそういって、少し笑った。
「…あなたはどうして魔法が使えるようになったの?」
本当に聞きたいこととはだいぶ外れていたが、だがここで聞かない分にはもう二度と聞けるタイミングなどないのだろうと思い、私はそう聞いた。
「神様が私に授けてくださったのだよ。…この、「神影」の存在とともに。」
そう言って彼は、半円状の朱色の石を取り出した。
「…!それ、家にあったのと同じ…」
「そう!暮影さ。この世界には、月影が3つ、暮影が3つ、そして日影が3つ、最後に星影が1つ存在するという。これをすべて集めることによって、私は神影を手に入れることができる、そう聞いた。」
「でも、神影なんか集めて、どうするつもり!?20年前のこと、あなたも知っているでしょう?」
「ああそうさ。知っているとも。突如世界に落とされた、人知を超える力「神影」…それを巡った戦争。だが、その時狙われたのはペインだけ。たったの一国。」
彼は姿勢を少し正して、話を続ける。
「たしか、一瞬にして攻め滅ぼされそうだったペインも、高い魔法技術を使って5ヶ月間を耐えた。ちょうどその頃だったか…「神影」は開花した。…私は震えたよ。当時はもうそこまで子供ではなかったはずなのに、アレを見た瞬間、子供心が震えてしょうがなかった。中継の映像にあった、一瞬でなぎ倒される戦闘機の数々、当時の最強レベルの魔法とされていた超爆撃魔法のエネルギーすら斬ってしまうその強靭さ。…その力に恋い焦がれるのは、当然のことだろう?」
そう、彼はずいぶんと楽しそうに語っていた。
「つい最近までは、どうせあなたも忘れていたくせに。」
「だが、神の啓示だ。忘れていたことをやる権利はあるぞ?」
あー言えばこう言う…
「つまりあなたは、世界戦争を起こしたいわけね?」
「すべては力のもとに統治されるべきだからな。」
ふふふ…あははは
「残念だけど、あなたのその理想は叶わない。…直に、三月たちが戻ってくる。」
「子供なんかに俺が負けるわけないだろう?ほざきおって。」
私はもう一度銃を構える。
「…私の兄を、洗脳したことについても、少し聞きたい。」
「兄…ああ、ペインのな?…手駒は多ければ多いほど良いが、手駒を作りすぎると怪しまれる。あいつは、人脈があって、信用がある。最適なやつだったんだよ。実際、お前みたいに怪しむやつはいても最後まで踏み込めた人間はお前ただ一人だったわけだから。」
…なるほど。
私は銃にもう一度弾を込め、そして何度も放つ。
「…?そんなことしても、結界は破れないぞ?」
彼のその言葉を全く気にせず、私は無心に弾を放ち続けた。
「…私はこれ以上やることがない。なら、今できることだけでもやっておくべきでしょう?」
そう、ぼそっとだけつぶやいた…
【三月視点】
俺たちはよくわからないところに立っていた。
「…どこまで登ってきたんだろうな、これ…」
高く高く登った床は、とんでもなく高いところまで上り詰めた。破壊して落ちようとしても、ありえないほど層が重ねられた結界によって、びくともしない。
「壊せない、か…これ降りれる方法探さないとな。」
「そんなことより、あいつ、何?」
日暮が、そこにいた謎の存在を指さした。
「今更何が来ても驚かねぇよ…。あいつが言ってた、「神」とやらが俺達を倒すために用意した存在だろ」
太陽がそう言って手に魔力を込める。
「「神」?何の話なんだ?」
アルもそう言いながら弾倉に弾を込める。
「終わったら教えてやる、終わったら。」
…おそらく敵は伝承…というか最近流行りの魔法漫画に出てくる、龍だのドラゴンだの呼ばれてるやつだった。
「…正直、正しい対応だな。普通の人間なんかじゃ俺等は止められない。…神と知り合いならこうなるわな。」
俺は深呼吸して、息を整える。
「ちょっとやってみるわ。」
太陽は試しに、軽く炎魔法を放つ。しかし、その厚い鱗に阻まれ、相手には特に何も起きてはいなかった。
その瞬間、龍は目覚め、その尾を一振りした。
「…!」
日暮は慌てて太陽の目の前に結界を張り、太陽を守った後、鋭利な結界をいくつも作り出し、龍に突き刺そうとした。しかし、効果はない。
アルも銃を何発も放っていたが、効果がないとわかった途端に、撃つのをやめた。
「悪い、俺は何もできん。下がっとく」
アルはそう言ってその場から離れた。
その瞬間、アルめがけて龍の爪が振りかざされた。
俺はそれを結界で守り、そして全力をもって鱗の一枚を逆撫でするように氷を放った。
目論見どおり、鱗は剥がれ、そこから肉のようなものが見えた。
俺は飛び上がって、剣を作り出し、自身に身体強化をかける。疲れるが、今は使うべきだろう。
「せーのっ!」
そうして俺は、その肉に剣を突き立てた。龍は苦しみの叫びをあげる。
日暮はその隙を見てスロープ状の結界を張り、駆け上った。
「流石に中からならいけるでしょ!」
日暮はそう言って、炎の弾を龍の口にぶち込んで、破裂させた。
「グォォォォ!」
…なんというか、想像した通りの叫び声を上げて、その龍は消滅した。
「はぁ、はぁ…なんだ、意外と弱いじゃないか。」
俺はそう言って、身体強化を解除した。
「しかし、こんな生物本当に存在するわけない。…神の存在を信じるべきなのか…。」
と、俺はつぶやく。あたりを見回すと、太陽はなぜかそっと目をそらした。
「アルに伝えとくと、神ってのは司令に洗脳魔法を与えたやつだ。神話に語られたり信仰されるような、慈悲深い存在じゃない。」
「なるほどな…」
アルは、納得した顔つきで、ため息をつく。
「…とりあえず、窓を探そう。そっから降りればもうすぐに着けるはずだ。」
俺はそう言ってさっさと歩き始めた。
「あー…俺は何も出来なさそうなんだが、どうしたらいい?」
アルは立ち上がってそう言った。
「生き残るために頑張ればいいよ、私達に、あなたを守れる余裕はない。でも、あなたは生き残るって約束したんでしょ?」
日暮はそう言ってアルの手を引く。
「そうだよ、俺達のことは心配すんな、十分過ぎるくらいに俺達は強い。」
太陽も笑って言った。
「そうかい…ならよかった。」
そうして俺達は、窓を探しに歩き出した。
「なあアル、流石にここまでは地図把握しきってないよな?」
太陽はそう言って確認を取る。
「…流石にな、どうせならここまで見ておけばよかったか…」
「でも今の状況じゃ意味なさないでしょ、トラップがありすぎる。」
日暮はそう言って、また結界で球を作って転がした。
カチッと音がなると同時に、そこからは大量の…なんだこれ、無人兵器?
「…やっべぇ」
まずは目視できる情報を整理する。機銃が20ほど、そしてあたりの床が落ち、龍が2体…と。
「日暮!」
俺がそう叫び終える前に、日暮は全体に強力な結界を張った。
「みんな、大丈夫!?」
「こっちは大丈夫だ、日暮。」
太陽がそう返答する。アルについても、日暮の近くにいたのもあって、無事だった。
アルがここぞとばかりに素早く機銃を撃ち抜き、ささっと後ろに下がる。
「やれることはやった、あとは頼んだぞ」
アルはそう言っていた。まあ、やることは同じだ。俺は自身の身体に身体強化をかけて、…待て、日暮の様子がなにかおかしい。明らかにさっきに比べて焦っている。
「おい、日暮、大丈夫か?」
太陽も察したようで日暮にそう聞いた。
「…魔力切れ、結界はあと一枚、張れるかどうかぐらい。…どうしよう、一番の守り手は私なのに…」
日暮の焦りは表面化していて、簡単に見て取れる。
「安心してろ、日暮。…兄にまかせておけ」
俺は太陽と目を合わせ、龍と対峙する。
「俺は片方行く、太陽はもう片方行ってくれ!」
「わかってる!」
龍の攻撃手段は大したものは特にない。その鈍重な体からは、力ある一撃こそ放てど俊敏さなんて微塵も感じられない。
身体強化は疲れるとは言ったものの、この程度のやつにならあまり時間もかけなくて済みそうだ。
右、下、フェイント、そして上…予備動作が遅すぎてその一撃自体は早くとも何も気にならない。
俺は、飛び上がって、龍の口に炎をぶち込んだ。
その炎は龍の中で内部爆発し、龍の体は粉々に砕け散る。
太陽の方もそっと見ると、…案外苦戦している。…?剣一本で戦ってないか?
「太陽、加勢する!」
俺は太陽が相手していた龍の注意を引いていないから、すんなりと龍の口に炎をいれることができた。
「ふぅ…で、太陽。お前、魔法はどうした、その剣は?」
身体強化を解除して、俺は太陽に問う。
「…こっちも魔力切れだ。寸前で抵抗手段として剣を作った。」
「なるほどな…お前までか。」
「でも、多分ここからは、トラップこそあれど、動かなければ特になにもない。…どうする?休憩するなら絶好のチャンスだぞ?」
…華奈さんの方が気になるという気持ちが、俺の中にある。…どうしようか…
少し考えていると、少し、右側の壁から風を感じた。
「?」
俺は一発、壁に向けて魔法を放った。すると、壁は壊れ、空が顔を表した。
「…!これで華奈さんのところに行ける…!」
俺はそう言って、振り向いた。
太陽、日暮、アルはそんな俺を見て軽く頷く。
「行ってきてくれ。俺達は戦えない。」
太陽がそう言って座り込んだ。
「そうだな。…安心しろって言葉もいらなそうだな。」
「三月は絶対帰ってくる。…信じれるだけの力は持ってるしね。」
日暮もそう言って、笑った。
「じゃあ、行ってくる。」
俺はそう言って、壁に開いた大穴から、飛び降りた。
【日暮視点】
飛び降りた三月を見届け、私はほっと息をつく。
しかし、迂闊だった。まさか魔力切れが起こるなんて…
いつも起こってないことだから気にすらしてなかった。確かに、私たちはずっと警戒状態で神経すり減らしてたし、魔法だって常に撃ってたようなもの…
そりゃ魔力切れも起こるわけか…
ふと、三月のことが心配になる。
「太陽、三月、本当に大丈夫だと思う?」
「心配しないって言ったのはお前だろ…信じて待とうぜ。」
太陽にそう軽くあしらわれる。
しかし、兄って言葉、三月の口からは久しぶりに聞いたな…
姉のような存在だったひかりちゃんがいなくなったことを思ってなのか、違うのかはわからないけど、少し嬉しかった。
できればもう、これ以上家族のうち誰かが削れることのないよう…
と、そんなことを考えていると,少し足音がした。
「…?」
音が聞こえた方を見てみると、小さい子供がそこに立っていた。
「おにーちゃんたち、だれ?」
…流石に敵ではなさそうかな…
三月から教わった魔力探知をして、トラップを見極める。ずっとこれを使えたらよかったが、回避の行程が発生するのと、何より集中力がいるのがきつくて、なかなか使えなかった方法だが、今なら適している。
「よし、ないね。おいで」
私はその子供にそう言って歩み寄る。子供も寄ってきた上で、
「…そこのお兄ちゃん、みたことある気がする」
アルの方を指差して、そう言った。
「まさか、軍司令の息子か…?」
アルがそう言って警戒体制を取る。
「やめろ、アル。大人気ない。」
太陽がアルを止めて、立ち上がる。
「ほら、アル。仲良くしたれって。」
太陽がその子供をアルに押し付け、こっちにきて隣に座った。
「ほら、日暮もたまには甘えていいぞ」
太陽が優しげな声でそう言った。
「…まあ、今ならいっか。」
私はそう呟いて、太陽に肩を寄せた。
【三月視点】
俺は刹那に思う。
戦場というのはあまりにも策略に塗れすぎている。俺たちをあの程度で止められると、軍司令が思っていたのなら、おそらくやつは神を過信している。そして、神はあいつを弄んでいる。
「だとしたら何が目的…おっと」
ようやっと、目指していた三階についた。
無理やり壁をこじ開け、中に入る。
「華奈さん!」
走って部屋の中に入った時には、もう遅かった。
「…遅かったな、君の友人はもう帰ってこない。」
華奈さんはそこにいるが、明らかに目つきが変わっている。
「…やれ。」
やつはそう高らかにいうと、華奈さんは
「御意」
とだけ言って拳銃をこっちに向けてきた。
「…イラつく。」
「は?」
軍司令は、俺の一言に首をかしげる。
「この程度で俺を止められると思ってるのもムカつく。華奈さんを殺したのもムカつく。…わざわざ全部あげるのもめんどくさい。」
俺はそう言って、氷の剣を作り出し、身体強化をもって、華奈さんの首を落とした。
「ナメんじゃねえよ、クソ野郎が。」
俺は机の上にあった暮影を回収し、軍司令に歩み寄る。
そうして、軽く一発魔法を撃った。
「結界か。」
軍司令の顔が、明らかに余裕を持った顔に変わった。
「ここまでこれたことも、こいつを一瞬にして切り捨てたことも予想外だったが、流石にお前でも結界はダメだったようだな?」
彼はそう言って悠長に魔力を溜め始めた。
俺は何も言わず、結界に手を触れる。
「そんなことしても何もないぞ?」
やつはくすくすと笑い、こちらを煽ってきていたが、馬鹿はあっちの方だ。
「年季が違う。経験も違う。馬鹿馬鹿しい。」
俺はそう言って、結界を内部破壊した。軍司令の表情が見るからに変わり、戦闘体制を取った。
「そこは優秀なんだな、上に行くだけはあるってことか?」
「戦場の経験ならこっちの方が上なんでね!」
やつは二発ほど銃弾を放った。が、こちらもこちらの結界で弾ける以上、効果はない。
俺は奴を狙って風で加速させた氷の礫を放ち続ける。しかし、実践経験と語るだけはあるか、その素早い動きで、ことごとく回避してくる。
ならばと、もっと軌道を乱したり、途中で曲げてみたりもしたが、今度は銃によって撃ち落とされる。
…まずい、やつの手には魔力がもう十分にこもっている!
「若造、教えてやる。戦場では、心を乱さない方が強い!」
軍司令は魔法の隙間をぬって、俺に洗脳魔法を放った。どんどんと情報が流れてきて、物凄く不快に感じる。
「ぁあ…ああああ!」
まずい、まずい!…どうする…!?
落ち着け、抗うためには…まず魔力で無理やり情報を押し出せ!
「ああああああああああああああ!!!」
第八話 魔力暴走 終