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第5.5話 天音奏で、人は宙に舞い。

視点:佐野明

 ミサイルによって突如消え去ってしまった平和。美しかった大空市は、たった数分にして消し去られた。


 核汚染に対しての浄化手段は魔法さえあればなんとかなったのは幸いだった。復興は比較的早く進んでいるといえるだろう。しかし、魔法という力が内部に存在する以上、多少の序列が発生するのは道理だった。優先的に復興されたのは学校であり、都市としての機能が取り戻せたとは、口が裂けても言えないありさまだった。そんな大空市を見ていると、校長が晴れ空組を追い出した理由が手に取るようにわかってしまう。今この場において、強者たる資格を持つ者は、校長と、私だけだ。


 もし私が力を振るえば、今の状況は改善されるだろう。しかしそれでは子供たちの教育に悪いのは明白であった。都市としての機能が麻痺しているとはいえ、そのうち復興するのならば、今行動を移すのは不利益を生じさせるだけ……半端な理性が、こうも邪魔になるとは思っていなかった。


 一番癪に障るのは、それが校長の思惑通りであることなのだが……


 三月……あれから一月は経ったのだが、果たして無事なのだろうか。懸念事項が多数ある中、私は、ただ歩き出していた。



第5.5話 天音奏で、人は宙に舞い。



 ことの発端は二日前ほど。順調だった復興が、食料面での詰まりを見せていたころだった。

 これに関しては校長をどうにかしたところで意味はない。今の状況では市外に助けを求められるはずがない。インフラ整備を優先したところで、いずれ直面する問題だった。

 私たちはどうすることもできずただ、いつ実がなるかもわからない菜園に水を撒く行為を日々繰り返していた。


 そんな中、校長から急に、大空市に繋がる駅の様子がおかしいと連絡が入った。


 話は逸れるが、それを知っているなら三月たちのことも知っているだろうと聞き返してみた。すると、彼らは無事だと返された。嘘をつく理由もあまり見当たらなかったので、私はただほっと胸をなでおろした。


 さて、それでは話を戻す。事情を聴いている間に考えていたのが、神影の移動がばれているかばれていないかについてだ。

 まだ神影が移動していることがバレていないならば、簡単に納得できる。対して、バレているのならば、なぜ戦力をこちらに送り込むのだろうか。晴れ空組に対しての人質として、ここを包囲しようとしているのか? 三月が適合を見せたせい、というのはありうるが……。


 まあ三月たちが無事ならば、バレることなどないだろうし、前者を考えることにしよう。


 そうなると、ここを守り切らなければ、情報が漏洩する。それによって晴れ空組が危険にさらされる可能性が発生することは容易に想像できた。


「ことが起こってからの校長は信用ならないけど……情報の真偽に関わらず今は向かうべきね」


 どっちであろうと、前者の場合は見逃してはならない時点で、動くしかないことは簡単に想像できた。


「殺し合いは20年ぶりか……義弟のことを思い出すなぁ。」


 中学の頃どん底だった人生を、無理矢理破壊して解放してくれたのは、亡き夫と彼のおかげだ。


 うぇ……義妹になりそうだったやつも思い出してしまった。まあいいか、彼奴とはもう会うまい……


 そうして、私は駅へと歩き出した。



 というのがことの発端だったわけだ。駅にたどり着いた私は、敵と相対し、吹雪を舞わせ、それを操り、殺した。途中で銃を奪ったりだとか、そんな魅せプもしたけれど、心の中にあったのは、大空市、そして晴れ空組になんの危険も及ばないように……それだけだった。


 そんな戦いから3時間ほど経ったころ。


「明姉……?」


 そう、聞き覚えのない声が聞こえてきた。


「どうして私の名前を知って……」


 振り返りざまに、その姿が目に映る。オレンジの長髪、17歳ほどの面立ち、そして、義弟がプレゼントした、鈴の髪飾り……!


「……もしかして、天音?」


 私は彼女に怒りを一切隠さずに、しかし静かに聞いた。


 怒りが湧いたのは当然のことだった。天音は、義妹になりそうだったと述べた、彼奴の名前なのだ。


「……気づくんだ。20年ぶりだね、明姉」


 そう言って奴は笑った。私はそののほほんとした態度に、無性に腹が立って、次の瞬間には奴の首筋に刃を突き付けていた。


「どうして20年前、三月に何も言わずに消えた?」


 相手を威圧する声音で、冷徹に問う。私が天音を目の敵にする理由のほとんどはここにあった。今日という日は、皮肉にも、幸運だったといえるだろう。解答を得られるのだから。


「もし、何か言えるタイミングがあったなら。そんなタイミングがあったんだったら、私は彼と一緒に逃げていたよ。……私だって、彼を失いたくなんてなかったんだから。」


 その声音には、確かに哀愁があった。信じたくはない。信じたくはないが、彼女が義弟を……三月を愛していたことは、確かな事実なのだろう。


「何故三月が死んだことを知っている?」


 私はそう問う。


「三月の魔法のおかげだよ。明姉なら知っているでしょう? 戦争当時、お義母さんは子供を身ごもっていた。三月はその子供に対してとても気を配っていたから、私と三月自身、そして子供に魔法をかけたんだ。生命力を知る魔法を。もしどちらかが死んでしまったとしても、この子は守ろう。そういう約束のもとで。」


 それを聞いて、私はさらに眉間に皺を寄せる。


「あんたなんかがお義母さんのことを母と呼ぶな!」


 私の脳内には、いくつもの種類の怒りが浮かんでいた。でも、まとまりきらなくて、口をついて出たのはそんな言葉だった。天音は、その怒りに対して、何も動じやしなかった。


「あなたが私に対して恨みを持つ理由はわかってるよ。戦争が始まってちょうど四か月。それを境に、三月を騙すように、私はそこから消えたんだから。」


 淡々と、そう告げるその表情からは、ただただ申し訳ないという感情が透けて見えるようだった。


「いくら弁明しようと、説得しようとしてみようと、あなたは私を許してはくれない。それもわかってる。それだけのことをした。だから何も言わない。……大空市に、行かせて。」


 その言葉が、私にはいまいち信じられなかった。私は怪訝な表情を浮かべ、天音をにらみつける。


「大空市に行って、何をする気?」

「三月の……弟? 妹? ……わかんないけど、死んじゃったみたいだから、その魂を預かりにきた。私の友達に、生き返らせる当てがあるから。」


 その言葉を聞いて、私はまた怒りが増す。死んだ人が生き返る道理はない。魂は記憶の塊。そんなものがあったところで……


「本ッ当に詭弁が得意みたいね。同じように適当言って消えたあんたに、妹の魂、預けると思う?」


 そう言って、私は臨戦体勢を取る。


「……通して、くれないみたいだね。」


 ……! この威圧感、かつての三月と同じ! まさか……!


「あんた、神影集めでもしてんの!?」


 私はそう言って叫ぶ。その言葉を聞いて、天音は心外とでも言いたげな表情を浮かべる。


「あんなバカなアーティファクト、復活させるわけるわけないでしょ! あれのせいで何人死んだと……!」


 ……そうか、そりゃそうだよな。逃げたくらいだもんな……!


「っふ、ふふふ、あはははは!」


 自然と、そんな笑いが、肺の奥からこみ上げた。


「……義妹の魂は、絶対に渡さない。瑞樹のためにも、武のためにも、そして……三月のためにも!」


 天音は静かに、チャクラムと……あれは何? 短剣……とは違う。いや、重要じゃないか。とにかく、その二つが鉄糸線で結ばれたものを作り出した。


「……通す気がないなら、無理やり行かせてもらうわ。」


 そうして、彼女は足を一歩踏み込み、砲丸投げの要領でチャクラムを投げてきた。それと同時に短剣も飛び、鉄糸線を中心に円形にぐるぐると回る。私はそれを淡々と結界で落とし、彼女の両腕のその内側に迫る。


「戦場で戦った人間を舐めるな!」


 そう叫んで、天音の横腹に剣を突き立てる。しかし、彼女は動じず、私の首を掴んで勢いよく地面に叩きつけた。柔らかい土の上とはいえ、後頭部に衝撃が走ったせいで、意識が朦朧とする。


「ぐっ……うう」


 首が締まり、さらに気が遠くなる。だが、私はまた剣を魔法で作り出し、天音の腕に突き刺そうとした。


「明姉、通して!じゃなきゃあなたが怪我する!」


 天音はこの期に及んでそんなことを言っている。


 バカを言え、怪我してるのはあんたでしょ!?


 そう思って刺したはずの剣を見る。そこには、あるはずの剣の姿はなかった。


「えっ!? なんで……!」


 私がそう叫んだのと同時に、彼女の体が、輝き始める。それは、魔法などで光源をとってつけたものでは決してなかった。純粋に、彼女は自身の体を光らせたのだ。


「なに、それ……」


 理解できないまま、目の前が輝きに包まれる。目を開けた時には、私はどうしてか、力いっぱいに動こうとしても身動きを取れない状態になっていた。


「……またいつか会いましょう。その時にちゃんと説明するから。」


 彼女はそう言って、大空市の方に歩きだす。


「ちょっと……! 待ちなさいよ!」


 そんな声は、叫びは、虚しくも、虚空に消えた。



第5.5話 終

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