第24.7話 ハレゾラ
視点:三人称
この小数点の中で唯一詳細に書かれた文章を呼んで、みなさんは感動しました。
大空市は、崩壊した。
学校という、「子どもという兵器を飼った機関」が、大空市を牛耳った。
誰か止める者がいれば、はたまた、子どもたちの中に反抗心とそれを実行できる力を持つものがいれば、何か違ったのだろうか。少なくとも、佐野明がいれば…少しは違ったのではないだろうか。
そう、学校は子どもを人質に取り、そして大人たちを攻撃する根性のあるもの、またそのことの重大さに対しての理解が足りていないものを兵士として仕立て上げ、大空市を支配したのだ。
そんなことも知らずに、ただ一人…ディメアは、そこに向かっていた。
第24.7話 ハレゾラ
「…アフから聞いてはいたけど…昔の見る影もないなぁ…」
瓦礫だらけの街を、ディメアは練り歩く。そしてたどり着くのは、かつて孤児院があった場所。そこを見たディメアは一言。
「…ほんと、ロディアルは昔からろくなことしない。」
そんなディメアの後ろから、足音が鳴る。上等な、革靴の音だ。
「何か、忘れ物でも?アメルの方で療養中だったのでは?」
「ああ、校長さんか。久しぶり。」
ディメアはそう言って立ち上がり、振り向く。
「佐野ちゃんっている?久しぶりに話したいの。」
「残念ですが…彼女は旅に出ました。大方、こちらに愛想をつかしたか、晴れ空組に未練があるか…でしょうかね。」
校長は、こんな瓦礫の跡にはふさわしくない、ぴしりとしたスーツを着ている。
「そう。それは残念。…それはそうと、あなたの学校は無事なようね。」
「復興が進みましてね。あれから三ヶ月近く経っている。校舎くらいなら、きれいに直りますよ。」
ディメアは気づいていた。この空間の異常に。簡単だ、直っているのは校舎だけ。どう考えても、居住できる空間のほうが優先だろう?と、誰もが思うはずだ。
「…じゃあ、あなた自慢の校舎に行きたい。案内してもらえる?」
「お断りします。」
ディメアは、その言葉に、嘲笑の顔を浮かべる。
「それは、学校が後ろめたいと言っているようなものよ?」
「…あなたがこの大空市に滞在して、二十年前からの復興の手助けをしてくれたのは感謝しています。しかし、今回は別です。世界情勢が混乱しているのです。…そんな中で、いち現人神に何ができるというのです?」
ディメアは、空間神をやめた。その事実を隠す意味はないが、その力の信憑性を出すには、空間神は希少すぎる。…だからこそ、ディメアは現人神のていでここに滞在していた。
「そう…」
だからこそ、この場の想像を裏切ることは、できる。これは、手札に入っていた。
「それが行っちゃだめな理由にはならないでしょ?」
ディメアは、ここらへん一体に、強い魔力を放った。
「…っ」
それは、威圧感となって校長を襲った。そして、幼い子供にとって、感じたことのないそれは恐怖ともなる。
そうして、そこに、ある子供は、駆けつけた。
「…校長…?」
そこには、弓を片手に握った、幼い女の子がいた。望月輝子である。
「…あなた!まさか、子どもを人質にとって大空市を支配しているの!?」
「やれやれ…察しが良すぎるのも考えものですね…輝子、やりなさい。」
校長がそう言うと、輝子は弓に矢をつがえて、放つ。魔力の矢だ。その速度は、本物のそれより、速い。
だが…
「えい」
相手は仮にも元空間神なのだ。小児の放つそれなど、簡単にはねのけることができる。
「…あのさあ…人間相手ならそれでも通用したかもね。でもさ、敵は世界になってるってこと、理解してるの?本当に。」
ディメアはそう言って校長に詰め寄る。校長は反論ができるわけもない。一歩後ろに、下がった。
それを見て、少女は叫ぶ。
「校長をいじめないで!」
そうして、彼女は、頭上に大量の石の弾を作り出す。その数は、100をゆうに超えた。校長は、勝ったとでも言いたげな表情を浮かべていた。
「ええ…」
(まさかこんな短期間の洗脳が…魔法を用いないでできるなんて…)
そう、ディメアは思った。が、輝子にとっての校長は、弓矢を教えてくれた大人なのだ。つまりその感情は…洗脳ではなく、尊敬のような、恩のようなものだ。
そんな感情を乗せた弾が、宙を飛ぶ。その速度は、銃弾を超える。が、その程度もはやディメアには視認可能だった。すべてを簡単にはねのけ、そうして、唖然とする校長をよそに、近寄る。
「…あなた、強いね。」
ディメアは、そういった後、輝子の顔を覗いた。絶望と恐怖が、満面に浮かんだ顔を。
「…だめだね。あなたは世界を知らなさすぎる。ついてきなさい。教えてあげる。…世界を。」
そうして、ディメアは、輝子をおぶった。
「まさか、文句言わないよね?」
ディメアはそう言って校長を睨みつける。
「…まさか」
そうして、ディメアはその場から逃げるように立ち去った。
逃げる過程で、ディメアは、思っていた。
背中に乗せた子どもが、絶望に怯えなくてもいいように、と。
そう、祈っていた。
第24.7話 終




