第21話 0.5か月
あの影の戦いからもう半月が経った。
腕もしっかり生えて、このまま順調にいけばアマネさんとの戦いが始まる。
…ただ、この半月で気付いたことがある。
俺は、勝てない。
第21話 0.5か月
影の戦いから3日経った時の話だ。
ここら辺は赤道に近い…からこそ、11月になりかけてる今もなお、暑いわけだが…
日暮に関してはアマネさんに「なんか、お姉ちゃんみたいな親近感を感じる」とか何とか言ってべったりである。
アマネさんもアマネさんでそれを受け入れているので、ありがたいことだ。
…一月経ったら、ここを離れなければならないのだけれど。
そんな時。
「ちょっと散歩しよう」
アマネさんは、そう言って俺たちを外に連れた。
そして、俺たちはアマネさんに連れられて、近くの雪山の中に入った。
「よし、ここら辺でいいかな。」
アマネさんはそう言って椅子を作り、座った。
「…あの、僕らをここに連れてきて、何をするつもりなんです?」
俺は、アマネさんにそう問う。
「そーんなに気ぃ張らなくていいって。敬語もいらない。」
アマネさんは笑いながらそう言う。
「あ、わかった。で?何をするの?」
俺がそう問うと、アマネさんは少し髪をいじりながら、
「少なくとも、私の元にいれば安全。それは保証できるんだけどさ、私の元から離れるなら、戦い方くらい教えてあげないとなって思っただけだよ。」
と言った。
「戦い方…?それくらい、私たちは知ってるよ」
日暮が軽くそう反論した。
「そんなこと言ってたらまた影に負けちゃうからね。影にも勝てる戦い方、教えてあげるよ。」
なるほど。これは頼もしい。
「じゃあ、授業を始めるよ。」
「まず、戦いってのは序・中・終に分けられるのはまあ何となくわかると思う。最初の、奇襲とかができるタイミングが序、普通に戦ってるのが中、そして互いに消耗した終。基本、戦いにおける最悪の場合ってのは、戦いが終までもつれ込む場合ってのを指すと思ってる。ただ、影や神格を持つ現人神を相手にしたら、ほぼ確定で終までもつれ込む。そうなった時、相手よりも余裕を持っていることが大切になる。まあ、そうなると、何が大切かっていうと…」
アマネは、右手にチャクラム、左手に…なんだこれ?…まあとにかく武器っぽいのを作り出した。
「これはチャクラムとジャマダハル。ここら辺の伝統武器なんだってさ。それを鉄の糸で繋いで、拘束用途でも使えるようにしてる。つまりはさ、相手を動けないようにしてしまえば、終でもこっちのほうが絶対有利…そもそも、こっちは消耗すらしないで済む。…まあ、こんな感じの武器を扱おうとすると訓練の時間が相当必要になる。私でも3年かかったからね。」
「つまり結論としては?」
太陽が、そう聞いた。
「そう結論を急がなくてもいいじゃん。…要は、妥協策なんだよ。あなた達にはすぐにはこの武器は使いこなせない。だからこそ、使いこなせるような武器を自分で作ってもらおうってこと。…ほら、結論を急ぎすぎると話の経過がわからなくなるじゃん…。」
アマネはしばしだまりこんでから言った。
「…えっとね。だから、最善の策としては私みたいに拘束できる武器が望ましいわけさ。でも、それができない。ただ…武器を作って戦うってところには別の良いところがあるのさ。それが、魔力消費量が極端に少ないってところ。…だから、使いこなせる武器を作ってほしいの。」
「…なるほどね。でもアマネちゃん。私達の魔力の総量はそう少なくないと思うんだけど…」
日暮も、椅子を出して座りながらそう言った。
「でも、私と比べたら?」
その一瞬だけ感じた威圧感に、俺達は一歩引いた。
「ごめん、驚かせちゃったかな。そんなつもりはなかったんだけど…」
「…」
一瞬だけ感じた。
俺達は、魔法のセンスがいい。魔法のセンスがいいやつは、基本的に遠目でも相手の魔力が観測できたりするものだ。だからこそ、…その瞬間にわかってしまった。アマネ・シーフォリアは、俺達に手の内を明かしていない。まだ、…まだある。俺達の数億倍、果ては数兆倍にも登る、強さが…!
「まあ、冗談だよ。私とは敵対する気、ないでしょ?でも、仮にもあなたたちは神影のかけらを5つ…不本意に私も一つ持ってたから、もしここを出るなら6つになるけど、それだけの量を持っている。OK?」
「あ、ああ…」
俺は頷く。
「そして、国一つ、滅ぼしちゃってる。ワンチャン賞金首だよね、こんなの。」
「や、やだなあ…アマネちゃん、怖いこと言わないでよ…」
「冗談じゃないからね、今言ってることは。」
俺等は、また黙り込んでしまった。
「あのね。そうなったら集団から一気に狙われるなんてこともある。そうなって、もし途中で魔力切れ〜なんて言ってたら、速攻でお陀仏だよ?ほら。魔力を節約する大切さ、わかったでしょ?」
「…わかった。ありがとう。」
納得した。俺達の魔力量は当たり前ながら相当な量がある。が、例えばうん十億人に命を狙われたとしたら、そりゃあ…流石に魔力は切れる。
「わかってくれたのならうれしいよ。それじゃあ、私の話はこれで終わり。まとめると、魔力は節約しろってこと。」
ずいぶん簡潔にまとめられたその結論にしたがって、俺達は、自分自身の武器をつくることにした。
「…三月、ちょっと来て?」
よくよく考えたら右腕がないのに武器もクソもないなと思って暇していた頃、アマネさんが木の陰から手招きしてきた。日暮や太陽の方をちらっと見ると、太陽は剣をより鋭利にかつ俊敏に作れるように何度も練習していて、日暮は暮影に物理結界をくっつけてぶん殴ればいいか、なんて感じの結論を出していた。
ただまあふたりとも忙しそうだったので、特に声もかけずに、俺はアマネさんの方へ向かった。
「一体何だよ?急に…」
「いやさ、「茜」って単語を太陽から聞いたんだけどさ。」
「…?それがどうかしたか?」
「そんな別人格が出てくるような状態になっていたのだとすれば、本来は影になっているはずなんだよ。おかしいなって思って。…でも、その様子じゃ何も知らなさそうだね。ごめん。」
「アマネは…茜の存在をどう踏むんだ?」
「…さあ?人間には二面性があるものだから、本来はどっちも日暮だったけど、汚い自分を自分と思いたくなかったから別人格扱いしてるだけ、とか…ありそうじゃない?」
「…別に、茜も悪いやつじゃないと思うけどね。」
「…そう。でも本人は、それが汚点だと思い込むこと、よくあるからね。…なんとも言えないなあ。」
アマネは、軽く体を伸ばしながら言った。
「あなたの武器、作ってないみたいだったけど、決めたの?」
「ああ、剣にしようと思ってる。…今までもたまに使ってたからな…。」
「ふぅん、まあ、人気だよね、剣。おっけい。わかったよ。」
そんな意味深な返答をして、アマネさんは一旦その場を去った。
その日の夜のこと…俺達は家に戻った。
「…で、君達はどんな武器を選んだのかな」
アマネは、そんなことを俺達に聞いてきた。少しだけ、機嫌が悪そうにも見える。
「俺は…ほら、こんな感じ。」
太陽は一瞬で剣を取り出して、アマネに渡した。
「おお、これは結構な業物だね。…なんて。…鋭利な片手剣ってところかな。強度は試した?」
「流石に試した。…まあ、元の魔法が岩だからあまり強度はないけど、鋭利さで言えば相当なものだから、弱い相手になら通用する。強い相手用のは…あとから考えるつもりだ。」
「なるほどね。まあ一月もあるからいいかな…ってか、よく一日でここまで作り上げたね。」
「まあ、もともと魔法は使ってたし…これくらいは」
太陽は、少しだけ萎縮しながら言った。だが、日暮は…うん、いつも通り。アマネには結構な信頼を置いている様に見える。
「で、日暮は…」
アマネがそう言って、日暮の方を向く。日暮は、さっき見たまんまの、暮影をそこに差し出した。
「…なるほど。打撃武器ってこと?」
「そう。私の武器はもう杖から変わることはないし、それだったらもうそれ自体を鈍器にしたほうがいい気がしたから。」
「なるほどね…」
少しだけじっくり、アマネはそれを見た。
「強度も十分そうだね。いいと思う。」
そして、アマネは少し後ろに下がって、椅子に腰掛けた。
「さて…武器に関しての話は終わり。一旦ね。だから、この先の戦い方…いわゆる節約術ってのは、これを基盤にするといい。で、こっちが本題なんだけどさ。」
なんだろうか。
空気が震える、と言った表現が正しいのだろうか。
決して暑くもないのに陽炎がのぼる、そんな幻を今俺は、垣間見ている。
「君たち、名前付きの魔法、使ってたよね?」
その瞬間、俺たち全員に鳥肌が立つ。日暮に至っては、半ば涙目にすらなっている。
「…っ」
使っている、だがそれが何だ、と言い返したくなる。
しかし、唇も、舌も、思うように動かない。
「…まあ、軽い冗談だよ。」
アマネは、そう言って笑った…が、しかし…
冗談?この威圧が?そんなわけがない。
「あー…ごめんごめん。訳を説明する。君たちがもし、1ヶ月後出ていくならば、外ではこんなふうに、些細なことで怒ってくる奴もいる。私も昔そうだったからわかるんだけど…強い奴ほどプライドは高いんだ。ほら、名前付きの魔法って、手の内がバレても戦えるっていう意思表示だから、自分がそこに努力して至ったはずなのに、軽々と他の人にその領域に至られたら、怒るでしょ?そういう…予行練習みたいな…」
静まり返る。
「…なあ、アマネ。一つ聞きたい。」
「何?」
「俺たちを出したいのか、出したくないのか。どっちなんだ?」
太陽がそう聞くと、アマネは一つ、深呼吸をした。
「…私はね、できることならあなたたちには死んでほしくない。こっからは戦争も始まるし、神影を、私の持つ分も含めて六つも集めてるような人が、長生きさせてもらえる世界にはならないと思う。だから、さ。」
「…だから強かったら外に出すってのはわかってるんだが…じゃあ何で俺たちにこんな知恵を渡す?」
「…」
アマネは一瞬だけ俯いて、言葉を発した。
「…私は昔、ここにきた時、自分の不自由さにどうしても苛立ってしまった。あなたたちには同じ思いをしてほしくない。だから、できるだけあなたたちの意思を尊重しようと思っては、いるから。でも、今はそれより守りたいって気持ちの方が強いだけ。」
なるほど、な…
「…えっと、これに関してはちゃんとした結論はまだ出てない。けど、言ったことを変えるつもりはないから。それだけは…心に留めといて。」
アマネは、そうとだけ言ってその場から去った。
俺らからは、彼女に対する不信感は増していた。日暮はまあ…微妙なところだけど。ただ…
「本当にあんなやばいやつと戦うのかよ?」
「太陽、そうは言うが戦わなければ旅の続きが…!」
俺がそう言ったところで、太陽と日暮は俯いた。
「な、なんだよ?…おい」
「お前さ…俺たちの意見も聞かずに勝手に決めたこと、忘れてないか?」
「…は?」
冷や汗が走る。
「俺たちはとっくに限界だった。今回だって命拾いだ。そんな中で、お前はこの先も戦えって言うのか?冗談だろ?」
「そうじゃない!家族だから、一緒にいたいって…」
「それはお前のエゴだろ!」
太陽の叫びを聞いて、身震いする。
「なあ、旅を諦めてここで暮らすじゃダメなのか…?お前の恨みがどれだけ強いかは知らないけど、結局恨みなんて晴らしたところで、ひかりは…帰ってこないだろ?」
…わかってるよ。そんなこと。
「…」
わかってるんだよ。それでも…!
「…頭、冷やせよ。お互い、さ。」
太陽は、俺の肩に軽く手を置き、そう言った後、部屋から出ていった。
「なあ、日暮は…」
顔を見る。…ああ、…
「いや、何でもない…」
そうして、日暮もこの部屋から出て行った。
次の日、俺たちは表面上は「何もなかったふり」をして、暮らしていた。
アマネは、今日は名前付きの魔法について教えてくれた。
まあ、プライドどうこうの話なので、現時点では役立ったとは言いにくいけど。
俺の勝手に名付けた《ダイヤモンドダスト》は、これを機に名を失うことになった。
それとは別に、日暮ともう一度話そうとした。
「…なあ、日暮」
「…私はついていきたくない。アマネちゃんもいるし、何より死にたくない。戦場にずっといたから麻痺してただけだった。ここにきて、落ち着いて、思い返して見たら、もう…ほら」
見せてくれた日暮の両手は、震えていた。
「もう、1人でいる時間はずっとこうなの。…私は、悪いけど三月にはついていけない。引き止める気にもならない。」
その言葉を聞いた瞬間に、俺は、目の前が一瞬真っ暗になるような感覚を覚えた。
引き止める気にもならない
…愛想を尽かされたってことなのか?
家族としての絆なんかどうでもいいほどに、この旅に疲れたってことなのか?
…思考がまとまらなくなる。大事にしていたものが崩れていくような、そんな感覚に襲われる。それこそ、今まで体験してきた、はずの…
「…ごめん、日暮。ちょっと俺、部屋で寝るわ。」
あれからどうやって部屋に戻ったのかも、どうやってこの日まで生きてきたのかも覚えていない。
どれくらい経ったのか、カレンダーを見る。もう2週間は経っている。
俺は、全然ダメだった。あんなふうに家族に扱われるくらいなら、旅をやめようと、何度も思ったはずなのに。
でも、どうしてだろう。
どうして…どうしてロディアルへの恨みが、消えてくれないんだ!
俺はこんなに!考えて!苦しんでるはずなのに!
どうしてこんなに簡単なこともできないんだ…!
…もう、感覚でわかる。俺はアマネには勝てない。
このまま順調に、腕は生えてしまうのに。
それでも、やらなきゃいけない。
俺は、ここに留まりたくないから。
第21話 終




