第19話 影
何のために生きるのか、その原動力はなんなのか。
明確に言える以上、まだ俺は死ねない。
ロディアルを殺したい。平和な世界に戻りたい。
ロディアルに抱いている思いは、単純な恨みと、あと…あいつは倒さなきゃいけない、という、通過点に対する思いにも近いようなことの二つだ。
やらなければならないことは多い。落ち着ける場所にいるのは確かだが、清潔ではない。
清潔じゃなくてもべつにいいという思いがないわけではないが、清潔であるに越したことはない。
…ただ、いままで受け身の姿勢でなんとかなってきた。ここからどうすべきかなんてたかだか12でわかるわけもない。
どうしろと。
第19話 影
「なあ、太陽、日暮。大丈夫か?」
1日眠ったのもあって、俺は落ち着いていた。ガラスの破片に映る顔は、くまがあって酷いものだが…
太陽も、日暮も、眠った時にはそれなりに落ち着いていたように見えた。
だが、昨日は昨日、今は今だ。
「…大丈夫に見える?」
日暮は、そう言った。大空市の時と同じ。
答えは否だ。太陽も日暮も俺と同じで、くまがひどい。
こんなんじゃ、娯楽を楽しむ気力もないだろう。さて、どうしたものか…
「よいしょ」
日暮は、体を起こして、立ち上がった。
「日暮の体は、もう悲鳴をあげた。私の存在のせいでね。」
「…茜だったか」
茜はこちらを見て、ニッと笑った。くまの酷さが、より一層目立つ。
「ストレス発散のためには、それなりに固くて…強いやつに怒りをぶつけるのがいいかな。リュウみたいに、日暮が本心から怒れるやつはそう多くないけど、そういうやつだったらもっといいかも。八つ当たりしやすいからね。」
茜は、服についた鉄屑などをほろいながら言った。
「…まあ、そんなやつはそのうち出てくるでしょ。そんなことより、太陽の方が問題だね。」
茜は、そう言って太陽の方を見る。さっき起こそうとした時も、起きなかったし、まだ寝ているだろう。
「太陽にも無理させてるのは分かってるよ。…とはいえ、まだ彼は寝てる。だから、そうだな…俺らはとりあえずこの環境を解決しなければならない」
俺は、そう言った。
やることが山積みだ。時間は無駄にできない。
「どうするつもり?」
「どうもできない」
解決策は、思いつかない。
盗人にでもなるか、だがそれも一月と持たない。
無力だ。
「諦めるの?」
「そんなわけ…そんな、わけ」
諦める、わけにはいかないが…方法が思い浮かばない。パッと思いついたものが、すぐに蓋をされていく。
「野宿の方法くらい誰かに教えて貰えばよかったかな…」
アルあたりなら知っててもおかしくなかったと思う。惜しいことをした。
「…茜なら、どうする?」
「そうだねえ…」
茜は、考える素振りを見せながら、少し歩く。
そして、一つ、ため息をついた。
「やっぱり、人脈じゃない?なんなら、一度大空市に戻るってのも手だとは思うけど。」
茜は、そう言った。確かに、一度戻るのは可能だ。戻れないと思っていたのは、居場所がないと思ったからで、交渉先が消えたから戻ってきたとでも言えば、佐野先生あたりが庇ってくれるだろう。
戻る時には、日暮の結界で飛んで貰えばいい。
そんな折、スラムを行く通行人…妙に綺麗な黒髪と、鈴の髪飾りをつけた女の人が、こちらを振り向いた。
「…?」
俺は、ただ不思議に思って見ただけだったが、茜は、どうにも睨みつけるように見た。
女の人は、茜の顔を見るなり、ばっと振り向いて、去っていった。
「なんだ?あの人」
「知らないけど…安易に信用するわけにもいかない。後々敵地になるかもしれないんだしさ」
「敵地にする気はもうないけどな…」
弱気な表情の俺を見て、日暮がため息をつく。
「まだ魔法のアドはのこってんのに、何弱気になってんの。まだあと3週間はあるでしょ。それに、私たちだって弱いと思って旅してきてない。…さっきは大空市に戻ろうなんて行ったけどさ、やろうと思うんならインデアを滅ぼすくらい手伝うよ。出来る、でしょ?」
「…まあ、不可能じゃないさ。だけど、そんなことをしたらメンタル的にぶっ壊れるでしょ、全員。」
「今は不安定なだけでしょ。色々ありすぎた。あと二日もしたら、全員大丈夫になるんじゃない?」
茜は、楽観的にそんなことを言った。
「大丈夫じゃないからお前が出てくることになってんじゃないのか?」
俺がそう言うと、茜はいらっとした顔をした。
「まだ二日経ってないからね…あと、私はただ日暮が被ってるだけの仮面なんだよ。本当は、別人格とまで言えるほどじゃない。」
…なるほど。
茜は、日暮だ。無理をしているだけの。
リュウに怒った時と似ていないのは、茜が空回りしているから。その場しのぎなんだ。八つ当たりしているだけなんだ。
そんな仮面は、日暮自身が別人格と思い込んだ方が楽だったから、そう仕立て上げられた、そんなとこだろう。
「そもそも、私の存在自体が日暮の成長を阻害してたんだ。人間は一度病と対峙しないと抗体を持たない。それなのに、私は日暮に降りかかる病を全て跳ね除けてきた。
…でも、今回は私のカバーできる限界を超える量のストレスがかかったんだ。それなら、日暮も流石に成長するでしょ。…してほしいな。」
茜が、そこまで言ったところで、何かに気づいた表情をして、ため息をついた。
しかし、日暮がそんな簡単に成長するとは思えない。そもそも、ストレスを発散することを目的に茜を作り出したのなら、彼女自身が正しい怒り方を知らなくてはならない。…二日で、は無理だろう。
「話がずれたね。で、どうする?ここを滅ぼすか、大空市へ帰るか。」
茜は、極めて真面目な表情をしている。
「…大空市へはあまり帰りたくないが、日暮のことを考えるとここを滅ぼすわけにもいかない。二日で成長できるなら、人間は戦争なんかおこさない。そうだろ?」
「じゃあまた八方塞がりの状態に戻るだけ。考えてもみなよ。今持ってる人脈は、佐野先生だけだ。強いて言えば、リュウは生きているかもしれない。でも、どこにいるかわからなくて、もう死んでるかもしれない。滅ぼさないならそれでいい。けど、大空市には戻らないといけない。」
「…」
俯いてしまった。何も言えなかった。絶望的すぎる。
あまりにも人脈が少なすぎる。
「大空市に戻ったところで…」
俺は、そうぼそっと呟く。
だからと言って、どうすべきか。
現代において、人の信用を得られるような行動を、俺たちは何も知らない。
ましてや、ここはインデア、外国だ。
不正入国をしているし、年齢の問題もある。ここでは働けない。
あたりの人に話しかけまくるのも、そう悪い手ではないと、一瞬思ったが、今までその結果でどうなったか。国が滅んだ。
偶然の例だと思い込むのは簡単だが、それでまた国が滅んだなら今度こそ日暮が潰れる。
「せめて目的の整理でもしたらどう?考えなしに考えても疲れるだけでしょ」
茜のその言葉で目を覚ます。茜を見ると、呆れた表情をして、ため息をついた。
「…一人で抱え込むのも結構だけどね。三月。太陽も、私もいる。仲間がいるのに、どうして頼らない?」
それは…この中で1番俺が心が強いからで…
声に出したつもりだったが、声が出なかった。
「日暮が…いや、私が悲しい。辛そうにしている人に頼られないのって、結構寂しいものだよ?ましてや、その相手が家族なら尚更ね。」
「そんなに、辛そうかな」
「辛そうだよ。」
その、茜の即答ぶりに、先ほど顔を写したガラスを探す。
「もっとも、日暮はその感情を私に預けた。ストレスだからね。あなたが頼ってくれない、頼ってくれないって、そんな感情。」
日暮の言葉を聞いて、俺は握り拳に力を込める。
「信用はおいていたし、何度も助けてもらった。だから、ありがたいと思っている。」
「そりゃあ、日暮だって成長せずにはいられないでしょ。大好きな兄が、自分の優柔不断さを意識しているかはさておき、そんな自分に行く道をずっと示してくれる。優柔不断さは、克服していくに決まってる。戦いで迷っていては死ぬと、彼女ももう知ってるからね。」
…優柔不断さ、だけではない。妹ってのは、可愛いものだ。戦場で後ろをついてきてくれる。そんなのも、温かいものだ。
「…日暮は、守らなきゃいけない、そんな相手だと思ったから。」
その瞬間、右頬からバチン、と言う音が鳴った。
なった右頬が痛む。ひりひりと。
「なにすん…」
そこには、俺を軽蔑した視線で見る茜がいた。
「あなた、聡いからわかるでしょ。それなのに、なんでわからないふりをしてるの?」
ああそうだ。わかるさ。わかるとも。
日暮は、俺たちの中でたった1人だけ、学年が違う。たった1人の、妹だ。
だけど、日暮は1人だけ特別扱いされるのを嫌った。
だからこそ、最近意見も出してくれるし、助けてくれる。
だが、俺はそれを、強く頼ったりはしなかった。
「…分かった、分かったよ。」
とはいえど、俺はどうすればいい。どこまで頼っていい。
そこで気づいた。俺は日暮の強さがどれくらいか、知らない。結界魔法に長けていて、頼りになる。そこまではわかる。だけど、戦場では簡単に任せると人は死ぬ。
…家族なんだ。知らないことは、知ればいい。
「日暮と、手合わせさせてほしい。」
俺がそういうと、茜は怪訝な表情を浮かべた。
「…はは、分かったよ。あなたは思ったよりバカだったみたいだけど、感情のぶつけ合いってのも悪くはないだろうから。」
何か、間違えたらしい。
茜は、ため息をついている。
「なあ、俺何か間違えたか?」
「間違えてる。…まあ、いいんじゃない?それはそれでストレス発散に使えるから。」
「俺に八つ当たりするなよ…」
俺が苦笑いしているのを見て、茜がさらに苦笑いする。
「八つ当たりじゃないけどね。順当な怒りだよ。…まあそうだね。君が勘違いしている以上、手合わせ優先かな。」
茜はそう言って鉄屑だらけの場所にもう一度座る。
「じゃ、私は日暮と変わるから。」
そうして、茜は瞼を閉じた。
しかし…おかしい。太陽が起きない。
俺は、同じく眠っている太陽を揺さぶる。
「ん…三月か、なんだ?」
太陽は眠そうな顔で言う。
「ああよかった。起きたか。」
「なんだ?何かあったか?」
体を起こしながら、太陽はそう聞いてきた。
「特に何かあったわけでもないよ。さっき、茜と話してたんだけど、ずっと起きなかったからさ。」
「あー、すまん。ただぐっすり寝てただけだ。すま…うっ」
太陽は焦って手で口を抑える。
「おい、大丈夫か?吐きそうなら、別にまだ寝てていいぞ」
しばらくして、太陽が口から手を離した。だいぶ顔色が悪く、げっそりしていた。
「ああ、そうなのか…じゃあも少し寝るわ。」
太陽も日暮も、やっぱり相当やられてる。
つらいのは、当たり前か…
そして、翌日の、夜も明けていない朝方、俺たちは日暮との手合わせに良さげな開けた場所を探して歩いた。
そうしたら、チナラとインデアの国境付近、金属ゴミが大量に捨てられている場所に行き着いた。
そこの真ん中あたりには、なぜここが使われていないのかわからないほど、空いている土の面があった。
「ここで、いいか?」
「手合わせ挑んできたのは三月でしょ。三月が決めなよ。」
少し当たりが強い。イライラしているのだろうか。
それはそれで良いことだ。是非とも茜の言う通り、俺で発散してほしいものだ。
「じゃあ、ここにするわ。太陽、号令よろしく」
俺が、太陽にそう告げると、太陽は、「よーい」と言いながら、右腕を上に上げる。
太陽には、移動しながら説明しておいたが、その時、「どうしてそうなった?」と聞かれたのはいうまでもない。
日暮との手合わせのルールは以下の通りである。
一、本気で戦うこと。
一、死んでも文句は言わないこと。
魔法実技の手合わせの時と同じルールだ。唯一違うのが、お互い遠慮しているのが、なくなるということ。相手を、日暮を信用しているということを、ここで態度に示すつもりだ。
さて、戦いが始まる前に、位置取りについて整理する。
太陽は、鉄屑の山に座っている。それなりに距離が遠いから、大規模な魔法でも巻き込むことはない。
そして、日暮。俺と日暮の距離は近い。50メートル程度だから、身体強化を使える以上一瞬でたどり着く距離だ。
日暮は暮影を出して、手元でくるくると回している。いや、もう身体強化を使っているのだろうか、ヒュンヒュンというのが正しい擬音だろう。
…しかし、おそらくロディアルの言う《時止め》でも使われればその瞬間に終わりだ。
この勝負、必ず日暮の強さを測ってやる…!
「はじめ!」
太陽の大声が響いた瞬間、俺はまず距離をつめる。距離を詰めながら、氷の刃を大量に作り出すことで、接近戦の構えに持ち込みたい。というのも、結界は遠距離から解除するのが相当難しい。物理結界ならばまだ良いが、エネルギー結界になると話は別だ。結構無茶苦茶に点をずらさないと、破ることができない。それは、接近していないとあまりにも難しいのだ。
身体強化をしているのだ。日暮も接近してきてるのもあり、ものの1秒にも満たずに、俺たちは目と鼻の先まで接近した。そこで、急に体の感覚がなくなった。なんと言えばいいか。目も見えない、寒くもない。何も聞こえない。
その瞬間に理解した。《時止め》だろう。
なぜ思考できているかはさておき、感覚がない期間があるということは、エネルギー結界の応用だと考えよう。
エネルギー結界を分子レベルで細かく作り、神経細胞の伝達物質などの動くベクトルも全て奪い、解除する時は元のように戻す。そういう原理だと考えよう。
それならば、点をずらす…すなわち、過剰に魔力を体に巡らせる事ができれば良いはずだ。点をずらすのは、魔力を流し込み、点を押すことで成立するから。
結界を破壊できれば、ベクトルは元に戻る。奪ったのが無かったことになる。だから、これをやってみることのデメリットはない。
俺は、叫びながら…まあ叫べないのでそういう心で、だが、魔力を全身に巡らせた。
魔力は意識しないと動かせない。逆に、意識できれば動かせる。
そして、次の瞬間、視界が開けた。予想は正しかったのだ。そこにはまさに俺を殺さんとするような目で剣をこちらに振るう日暮がいた。
「っぶね!」
「えっ!?なんで!?」
咄嗟に俺は避けた。そして、体制を崩して転ぶ。
受け身をとって起き上がりつつも日暮の表情を見る。その顔には驚きはなかった。しかし、日暮も体勢が少し崩れている。
(このまま転ぶだろう)
と思ったので俺はここで作っておいていた刃を日暮に向けて発射した。狙う箇所は、頭、手、足だ。
だが、実際は日暮はこの先転ぶかのように見えただけで、彼女は剣を体重を支えるように突き刺し、そのまま俺が飛んだ日暮から見て右の方向に、剣で地面を抉った。舞い散る粉塵が、目に入るのを防ぐために、俺は咄嗟に目を瞑った。
打撃音のようなものも同時に聞こえたから、おそらく足を狙った氷は弾かれただろう。
顔に日暮がえぐった土があたる。少し痛いが、その感覚がなくなるタイミングになれば、目を開けられるというものだ。
目を開く。しかし、そこには日暮の姿はない。踏みしめた跡が、俺の後ろの方に続いているのは分かったが…
その時点で後ろから攻撃されるのはわかるから、俺は物理結界を背中を覆うように展開し、すぐさま振り向いた。ビンゴだ…ったが、なんだ?あの魔法は…
俺の目には、近くにあった鉄屑山の上に立って、結界を尖るように巻いたものをいくつも空中に展開している日暮が映った。
「小結界《刺突の波紋》」
日暮のその言葉が聞こえた瞬間、物理結界が破壊された。突き刺さって、ひび割れていたのだ。
「はぁっ!?」
俺はそう叫びつつも、仕方なくエネルギー結界を展開する。
しかし。太陽の《サンライトフレア》もそうだが、俺は日暮の魔法も知らなかった。
ミサイルでも壊せない物理結界を破壊する、そんな魔法…
日暮は、本当に強いんだな…
結界越しに、日暮の表情を見る。実に、楽しそうだった。
俺も、もっと本気を出そう。
「《ヴェール》!」
エネルギー結界を解除しつつ、俺は手にヴェールを持った。
足元には、日暮の使った小結界がそのまま落ちていた。
物質化しているということは物理結界なのだろうが…なぜそれで物理結界を破壊できる?
…考えている余裕はない。今もなお、小結界は飛んできているのだ。
俺は、ヴェールを使って何度も結界を弾く。
しかし、巻いてある紙がほどけるだけで、反対側までは飛んでいってくれない。
戦いは、膠着を見せた。
先に動いたのは俺だった。
地面の土の下から風魔法を使って広範囲の土を舞いあげ、物質化結界を目の周りにつける。ゴーグル代わりだ。
見えない範囲が広大すぎるがゆえ、日暮は急いで風魔法を用いて散らした。だが、遅かった。0.5秒考えた。
足が死んでもいいと思えば、その時間で日暮のリーチ内には入れる。
俺は、両手に魔力をこめる。使う魔法は…今ここで作る。
右手に風を、左手に氷を。…導き出される魔法はこれしかない。
「《ダイヤモンドダスト》!」
俺が叫んだ瞬間、日暮は咄嗟にエネルギー結界を展開する。が、俺が近くにいる。俺は魔力を地面に解放し、その風の爆発がこちらに届く前に、エネルギー結界に手のひらをぶつけて、魔力を込めて、破壊した。
「…!」
日暮の顔が楽しそうなものから一転して焦りに変わった。そして俺は咄嗟に体を広げた。風魔法には背が向いている。
瞬間、俺たちは吹っ飛ばされた。
爆発的な上方向への風は、俺たちを上空高く飛ばした。
「カハッ…!」
一気にかかった圧力に、俺は血を吐いた。
日暮は、どうなった?
上の方にはいない。下には…いた!
物理結界を下から生やして、そこに寝ている。
この状況のヤバいところは、その体勢で小結界をこちらに撃とうとしてきていることだった。
だが…これは氷魔法との混合魔法なんだから、そろそろ…降る。
日暮が小結界を撃ち始めた瞬間、上空から人の頭くらいの氷が落ちてきた。仕込んだ量は数百程度だが…
小結界についてはこの体勢では避ける手段もないので目の前にヴェールを展開し、弾くついでに足を乗せて、飛ぶことによって躱した。
落ちる氷が、地面についた瞬間、鉄屑が飛び散るのが見えた。
さて、もう一度接近しなければならないのだが、どうしたものか…自分で出したはいいがこうなってしまうと氷も邪魔だ。
そう思ったところで、聞こえた音があった。
「キィアアアアアアアアア」
そんな、音だ。女性の金切り声といえば、そのようにも聞こえた。
俺たち2人ともその音を聞いた瞬間、手を止める。
俺はそのまま落下し、風によって反動を軽減した。日暮も同じだ。
「今の、なんの音?」
日暮がそう言ってこちらを向く。まあもちろん俺に聞かれてもわからないのだが…
しかし、どすどすといった音が…多分歩く音だろうが、こちらに近づいているのが聞こえてきた。氷が落ちる音よりもでかい。
「…まずいな」
正体はわからないが、体は無意識に冷や汗をかいている。
怖い。
「と、とりあえず、太陽と合流しない?」
日暮は、そう言って、太陽のいた方を指差した。
…!
音の方向と、一致していた。
俺たちは急いで走ろうとした。その瞬間、向こうから大爆発が見えた。
咄嗟に耳を物理結界で塞ぐ。
風圧が、こちらまで飛んできた。…太陽は、大丈夫だろうか。おそらく、太陽自身の魔法だろうが…
こんなことをする相手、一体なんなんだ?
風圧が過ぎ去ったころ、物理結界を解除してもう一度走り出す。
そこには、本気で火球を飛ばしまくっている太陽と、真っ黒で、まるでそこだけ何もないかのような、そんな人の形のシルエットがあった。いや、違う。あれはシルエットじゃなくて、あれで三次元の物体として成立しているのか?
俺は、アルの言っていた、「影」という存在を思い出した。
自然に出現して、自然に消滅する。
アルは、確かこう言っていたはずだ。
そんなことを考えている間に、太陽は吹き飛ばされていた。鉄屑の山に叩きつけられ、気絶した。
「太陽ーー!!」
日暮がそう言って太陽に駆け寄る。
日暮なら太陽は大丈夫だ。そう思って俺は影の方に走った。
影は、異様な雰囲気を放っている。
俺は、手始めに氷の刃を放ってーーーー
意識は、ここで暗転した。
第19話 終




