第18話 再壊
「茜は、あれでよかったの?あなたの生みの親なのに」
「そんなふうに評価できる相手じゃないでしょ、あなたを助けられなかった。家族なのに。」
「じゃああなたなら出来たと言うの?」
「…わからないけど、少なくとも私の存在であなたは救われたはず。」
「そうだね。確かにそうだ。内側からストレスを受け持って、発散する。それができれば、当たり前に体からのストレスは消える。…でも、彼らは外から解決する必要があったんだよ。その時に、あなたはできたの?」
「気遣いをするように作られてない。私には無理。あなたが作ったんだからわかるでしょ、日暮。」
「…そうだね。ごめん。」
「自分に謝られるとか、気味が悪くてたまらない。私に謝りたいなら、さっさと私の存在を消して?あなた自身が強くならなきゃ、この問題は解決しない。分かってるでしょ。」
「…うん。」
「でもまあ、あなたの言うこともわかる。わかるけど、太陽と三月…あいつらには憎まれるくらいがちょうどいい。どうせ消えなきゃいけない存在なんだから。」
「でも、あなたには、申し訳ないとは思うけど、ストレスの肩代わりは、まだできるでしょ?今までに、2回しか出てないんだからさ」
「…できない。これ以上溜め込むと、あなた、まずいことになるよ。2人にも話したことだけど、私の存在は、あなたにとっての負担。私はあなたに、私に延々と甘えるのを、やめなさいと言っているんだよ?」
「…私に、人殺しになれって言うの?」
「都合のいい道具扱い、仮面扱いしているくせに、こういう時ばっか人呼ばわりしないで。吐き気がするから。」
「私のこと、嫌いなの?」
「嫌い」
「じゃあなんで心配してくれるの?放置して殺せばいいのにさ」
「私が、道具だから。そして、あなたの分身だから。」
「…ごめんね。」
「申し訳ないと思うのなら、私のためにもあなたのためにも、さっさとわたしを消しなよ。楽しみにしてるから。」
第18話 再壊
「ん…」
背中に背負った日暮が目を覚ました。
「うわ、わわわわ」
日暮は目を覚ましたからと、体を起こそうとして、バランスを崩す。当たり前だ、走ってるのだから。
「ねえ、二人とも、なんでこんなに走ってるの?」
茜じゃない。確かに日暮だった。
その柔らかな声音の中には、確かに不安が混ざっていた。
「日影の場所がわかったから、取りに行く。」
俺はただそれだけ言って、日暮を支える力を大きくする。
身体強化した俺たちの速度は、日暮の結界の速度より、はるかに早い。その瞬間速度は、180km/hに及ぶだろう、そんな速度だ。それでも、シュンの家までは一日半ちょいはかかる。
走り続けているおかげで今の所眠くはないが、眠くなった時が少し怖いな…
「日影の場所って、どこなの?」
「シュンの家に戻れば、きっとわかる。」
俺たちの元々通った迂回ルートを通らなかったせいで、迷子になってはならないと思い、俺たちは迂回ルートから戻ることにしていた。すでに国境を超え、ラーシャの土を踏み締めている。
日暮は、眠ってから9時間経って、ようやく起きた。快眠だ。夜は、とっくに明けていた。
しかし、今気がついたが、チナラのあの都市は首都でもなんでもないはずだ。
クーデター対策かな、それで首都から離れているのだろう。
臆病者だ、ありうる。
仕事はリモートでやって…とか、まあ近時代的な働き方をしていた可能性はあるよな。
「…ごめんね、茜がまた迷惑かけたでしょ」
9歳の時のことを思い出したのだろうか。しかし、あれから3年も経っている。茜も成長していた…のだろうか。少なくとも、俺たちには迷惑はかかっていない。
「迷惑どころか、茜のおかげでロディアルの顔を見れたんだ。感謝してるよ。」
俺はそう、日暮に言った。
日暮はほっとした表情で胸を撫で下ろすと同時に、俺に抱きつく力を強めた。
ずっと走っているのも暇だ。
日暮とはずっと会話し続けているのだから、会話のネタもない。
どうしたものか。
「…何度か言った気もするけどさ、大空市から出て、まだ一月ちょいしか経ってないと考えると、意味がわからないよな」
太陽は、そう言った。
俺たちの経路を、今更振り返る。
大空市から出て、ペインで一月監禁。
ペインから出て、その翌日にサコル消滅。
五日かけてラーシャからチナラまで移動。
そして今に至る。
「…都合良すぎるよな」
日影は手に入る。あいつは嘘をついていない。勘を抜きにして、あんな臆病者がそもそも嘘をつく姿が想像できないのだ。
「神影のかけらは、もう5つ集まった。半分だ。」
月影一つ、暮影、そして日影…
ここまで都合が良すぎることに、不安が覚えない方がおかしい。
ここから先は、魔法が復活する。
だが、この先も都合の良さが続いてくれたら…
そう願う。
「日影の回収が終わったら次はどこに行くの?」
日暮が、そんなことを言った。妙に不安が溢れた空気が、その言葉で一変したのを感じた。
「そうだな…チナラの次に人口的に大きな国、インデアにでも向かおうか?」
チナラに結局戻るなら、さらにその南に向かっていい。
そこで足止めを喰らうだろうが、もうどうでもいい。
1ヶ月もすれば誰にも勝てなくなるんだ。
あれ、絶望?
これまずくね?
人脈を築く能力…は、一切鍛えられていない。
戦う力…は12年間の経験によるものだ。1ヶ月後、32歳以上の相手には勝てなくなる。
神影、どうやって集めようか…
焦りながら考え続けた結果、答えは出なかったが、何か焦げ臭い、そんなもとの山にたどり着いた。
おおかたシュンが魔法の訓練でもしているのだろう。王の兄だし、要人は追われるのが付きものだ、そう、
「要人は追われるのが、つきもの…」
冷汗が走る。
また人が死んだ。シュンの家も見えないここの時点で焦げ臭いのだ。すでにしばらく経っているだろう。
太陽が加速する。俺もそれについて行った。
「…!シュンさん…」
日暮が、そう言った。
表情は見えないが、不安や、怒り。そう言ったものが、日暮から感じられた。
シュンの家は、燃えていた。
俺はすぐさま火を消すために分子の運動を止める魔法を放った。要は、凍結魔法だ。おかげで、火は止まった。
が、そのこじんまりした家の中を見ると、、焼けこげた人間の姿があった。
シュン…だろう。それ以外である理由がない。
太陽と、その場に下ろした日暮は、膝からへたり込む。
「…まあ、人は簡単に死ぬ。日影を、探そう。」
俺には、2人のように、1日分も過ごしていない相手に、情を割いている余裕はなかった。アルの時もそうだった。多分二人も…そこまでのダメージは受けてないはずだ。
「…お前はすげえよ。」
太陽が、そんなことを言った。
「今更なこと言うなよ」
俺はそう返した。太陽は、笑った。その笑いは、乾いていたが。
結局、太陽も日暮も動けなくなっていた。情が湧いていた相手が死んだ、そういうことだろう。前は、悲しむ余裕がなかっただけ。仕方なく、俺一人で動くことにした。
死体が見えたことからもわかるだろうが、家は全焼していた。
おかげで、地下室の存在もわかったのだ。
少し歩き回るだけで、石でできた異様な階段があることに気づくことができた。
だから、俺はさっさと階段を降りた。
「こほっこほっ」
よく引火しなかったな…なんでこんなに埃っぽいんだ…!
俺は、風魔法で埃を吹き散らした。
そして、炎魔法で明かりをつけ、階段をさらに進む。
その奥には、扉があった。装飾も何もない。
疑うこともなく俺はそのドアを開けた。きいきいと嫌な音を立てる。
中は、同じように埃っぽかった。それがわかった瞬間、俺は火を消して、風でまたはらう。
紙だろうか、風によってバサバサと音を立てる。
「暗いな…」
もう一度火をつけると、そこには資料室らしきものが広がっていた。
「兄が持って行った地図って、これのことか?」
しかし、やったのはおそらくチナラの軍だよな…王が捜索しているなんて言っていたが、探し出して殺せと言ったわけではないはずだ。
「伝達ミス…なんてこともまああるのか」
俺は、この膨大な資料を燃やしてはいけないと、魔法の種類を変えた。光魔法だ。
あまり使わない種類の魔法だし、あまり得意ではない。
だが、明かりの中で最も使い勝手がいいのだから、仕方ないよな。
「…ん?」
明かりをつけた矢先、資料室の奥の方に、額縁があるのが見えた。
「遺書…と、地図…?」
遺書の中身に興味はなかったが、宛先が…まああの王だろう。弟に迷惑をかける〜とか見えた気がする。
地図は、ありがたいことにあの家の地図だった。
これまた都合がいい。
「…なるほど」
暖炉の奥に、隠し通路があるらしい。三階の居間にあった。
遺書は…持っていこう。
「太陽、日暮。」
俺が戻ると、二人は相当疲れた顔をしていた。
1ヶ月休みがないのだ。…大丈夫じゃない方がおかしい。
俺も、そろそろ限界だ。
インデアで、休もう。路銀は…あと10万くらいはある。あの宝石を売れば、だが。
「行くぞ。」
俺は、二人を引っ張り起こして、またチナラへ向かった。
…インデアについた。
もう疲れた。あまり考えたくない。
都市経由で向かおうとしたら、その都市は燃えてるし…
日影をそそくさと回収した後、インデアへ向かう途中で、似たような都市が似たような目に遭っていた。
クーデターが起きていたところもあり、そこで事情を察した。
革命だ。革命が起きていた。
俺たちが関わった国、少なくとも二つは、滅んだ。
サコルは、俺のせい。チナラは、ロディアルのせいだ。
この先、世界は混乱し始める。
魔法の復活と、大国の滅亡。革命の拡大を狭めるために、戦争が起こることもあるだろう。
ロディアルが龍をばら撒く可能性だって、決して低くはない。
チナラの滅亡は、ロディアル次第でどのみち起こることではあっただろう…
政治の主要人物を消し続けていたのだし、暗殺未遂でも、暗殺でも、どちらにしろ革命は起こる。
ああ、あの血が焦げつく匂いが鼻に残る。
でも、俺より辛そうなのが二人だ。日暮は…大丈夫だろうと思っていたが、ついにさっき、空であるはずの胃の中のものを吐き出した。
太陽も、さっきからずっと、辛そうな顔をしては、その度に腕に爪を立てた。
休憩しようかと思ったが、そんなタイミング、ないだろう。
どうした、ものか…
ここだって、インデアの川沿いのスラムだ。
不潔な環境に長居するわけにはいかないが、12歳で金は稼げない。
ホテルをとることは、あまりしたくない。
「…はあ」
考えなしで動きすぎた。都合がいいからと、それにのこのことついていくのは間違いだった。
仕方ないと言えば仕方ないし、仕方なくないと言えば仕方なくない。
タイミングがずれれば知り合えなかった相手と、知り合ったおかげで、すでに5つ手に入ったのは間違いない。
だが、それが転じて国が滅び、新聞になり、そして、1ヶ月のタイムリミットが生じて…
「どうすべきかな…」
考えるのにも、無理があるな。もう、疲れてしまった。
一旦、眠ろう。
第18話 終




