第15話 紅
晴れ空組3人に捕まった男…すなわち、リュウのことなのだが、彼は、底知れぬ違和感を感じていた。
殺しを躊躇しない、3人の姿勢に。
(そりゃあ、自分が死ぬかもしれないと思ったら当然ながら人殺しはしてでも生き延びようと思うさ。だが、それでも人殺しは嫌悪するだろう。魔法で人を蹂躙して気持ちよくなる人間もいるだろうが、そんなものは少数派だ。大抵は、己の正義があって、それを貫くために暴力は振るうもの。
だが、彼らはそうではない。あまりにも、躊躇がない。特に、黒髪と、青髪の子。黒髪の子のしている目は、自暴自棄になった24程度の年齢のやつがする目に見えるし、青髪の方は…そこ知れぬ猛者といった感じがある。たかだか子供にこんなことを感じるのもおかしな話だというのは認める。だが、どうしてもそう感じるのだ。
そして、朱色髪の子。彼女だけだ。年相応の目をしているのは。だが、彼女は苦しんでいないように見える。いや、表面上そう見えるだけだ。目の奥に…そこしれない怒りと苦しみと狂気がある。この2人は、それを知っているのだろうか。
なんにせよ、こいつらに協力すれば、俺は生き残れるかもしれない。生き残って何をするかなんて明確には決まっちゃいないが、墓を立てて、隠居でもしようと思う。そのために、こいつらを利用しよう。)
彼はそう思って、神殺しをしようとする彼らに、微笑んだ。
第15話 紅
リュウから話を聞いた後、俺はそそくさと準備を始め、チナラの王宮に案内してもらおうと思っていた。
ロディアルがいくらアシがつかないように殺しをしていようが、俺たち自身を狙うのであればかならず尻尾くらいは見せる。龍だって、尻尾を振るわなければ人は殺せないのだから。
神が神たる所以は、アフから聞く分には自身を変質させられるところにあるのだ。それだけ聞いた分には、ロディアルは何も強そうじゃない。たとえ、神影を面白半分で作った、あのアフよりも上位の存在であったとしても。
ふと、日暮の方を見る。ロディアルの名を聞いて、少し震えているのは、先程から変わらない。
なに、戦ったことない相手ではあるが、結局のちに戦う相手なんだ。不安は後に残さず、さっさと取り払った方がいい。
それに、強いかどうかもわからない。そんな相手に、怯える必要はない。
執拗に、何度も何度も言い聞かせる。
手が震える。大丈夫、武者震いだ。
「三月、大丈夫?」
日暮がふと、そう言って俺の手を取る。
安心する。やっぱり、うちのメンバーは完璧だ。ひかりさえいれば。
守り担当の日暮。攻撃担当の太陽。そして、同じく攻撃担当の俺。
速さで言えば太陽より俺、威力で言えば俺より太陽だ。バランス、やっぱり取れているな。
もう一度言うが、光さえいれば、だ。光さえいれば、俺たちの震えは簡単に止まる。あいつは、そういう役回りだった。
熱くなった左目から涙が溢れる。怖いだけだ。悲しいわけじゃない。
「よし、行こう。」
俺はそう立ち上がって、ドアの前に立つ。
「了解」
そう言って太陽と日暮も俺に続く。そして、最後に、リュウだ。頼んではいないが、察してくれたのだろう。
ホテルから出て、しばらく歩いた。そういえば、ホテルをとった理由は長時間の身体強化による筋肉痛を防ぐためなのに、なぜ傷んでいないのだろうか。
どうにも、わからない。
しかし、この国はやけに活気がない。それは、先程も言ったとおりである。だが、今気づいた。
血の匂いがする。かすかで、とても気づけたものじゃないが。おそらく、リュウは気づいていない。そして、気付かないほうがいい。人の死体を好んで見るやつなんていないからな。
…っと。急に立ち止まらないでくれ。
先導していたリュウを少し睨もうとすると、そこには人だかりができていた。
「うおおおおお!!」
目の前にある人だかりの中から、そんな声が聞こえてきた。そして、その後に、遅れて爆発音や光が届いた。
「なんだなんだ!?テロか?」
群衆と太陽、そしてリュウはそう叫んでいて、日暮は頭を抱えてしゃがみ込んだ。
「日暮、大丈夫か?」
俺はまず一番に日暮の心配をした。
「…ずっと大丈夫じゃないよ。そろそろ、疲れてきた。」
彼女はそう言った。彼女は、極めて明るい方の人物であるという認識があった。そのため、彼女のこの発言には、とてつもない不安が生まれる。
「すまん、1週間前くらいから、ずっと休みないもんな。」
そんなに休みを取れなかった理由は、急いでいたからである。それこそ、アルは突入タイミングを伺ってたちょうどだったし、シュンも魔法のアドバンテージのことがあって早めにお別れを告げることになった。
だが、おそらく彼女は俺が謝ったことに文句をつけるだろう。仕方がないことを謝られるのは、気まずい、と。
「1週間で、いろんなことがありすぎたんだよ。これが終わったら、ゆっくり休もう。」
彼女は、そう言って笑った。
俺たち全員、同じだ。終わらせる気なのだ。ここで。
もういいか。ロディアルどうこうを今気にしても、不安になるだけだ。
俺はそう思って、群衆の中央の方を見る。すると、昨日見た武装兵と似たようなのと、一般人の…しかも、あの痩せ細り方だと割と貧しい側の人間が、争っていた。
武装兵は、もちろん銃。一般人は、魔法を使っている。
その戦いは、慣れてもいない者にしては熾烈を極めていた。彼は結界魔法など知らないようで、思い出した風魔法だけで精一杯銃弾を跳ね返している。
今思い返せば、大空市には、スピードだけはやたら早いやつは大勢いた。小学校一年生のやつと、新入生歓迎で模擬戦をしたことがあったが、その時も、「テルコ」と名乗ったやつが銃弾を軽く超えるスピードで撃ってきていた。
あれは実践じゃないから、別に当たっても痛くなかった。だが、あの模擬戦があったからこそ、俺達は銃撃戦を恐れつつも対応できるわけなのだろうが、こいつはそうではない。
この時点でここまで戦えるやつがいるとは、正直恐ろしいものだ。上から目線で言ってはいるが、1ヶ月後には、俺の実力は彼らに大きく劣るものになるだろう。それこそ、年相応に。
大空市で最強とチヤホヤされていた時代が嘘のようだ。いや、実際に嘘なのだろう。狭い都市だ。そんなこともある。
そんなことを思っていた瞬間、一般人の方を、武装兵の銃弾が、貫いた。胸…心臓の位置だ。即死だな。
俺は、太陽とリュウの肩をぽんと叩き、リュウに案内の続きをさせようとした。
しかし、リュウは動かなかった。動けなかった。震えていた。
「…国王の乱心も、ここまで来ているとは…」
彼がそう言った瞬間、街のあちこちで発砲音がなり始めた。
リュウが動けないなら、仕方ない。
俺は、さっきの野次馬の一人を捕まえて、何が起こっているのか訪ねた。
「何って…君、知らないのか。…観光か?随分とタイミングが悪いね。」
彼はそう言って笑ったが、俺はその笑いを早く教えろとばかりに睨みつけた。
野次馬は、驚いてつばを飲んだ。
「5日前だったか…新聞に、サコル消滅の記事が載った日から、政府による無差別殺人が始まったんだ。何でも、悪魔が来るとかなんとか、それが原因らしい。」
悪魔…俺等のことだろうか。ロディアルが吹き込んだのだろう。
「それで今は、少しでも怪しいやつを、ただ殺し続けている最中さ。」
なんで、そんなに楽しそうに語れるのか。俺はそう問おうとしたが、彼の目が笑っていないことに気がついた瞬間、口をつぐんだ。壊れたんだ。人間として。
「…ありがとうございました。」
道理で、やけに活気がないわけだ。リュウから聞いていた話だと、どうにも辻褄が合わないと思っていた。
「三月、大丈夫?」
そこには、日暮がいた。自分自身が大丈夫でないと言ったところでしょうに…
それでも彼女は、笑っていた。うすうす気づいていたが、晴れ空組も、そろそろ人として壊れてきている。もともと壊れていたと言えばそうだったかもしれないが…年相応でない、という言葉がいろいろとしっくり来すぎて考えていなかった。
「大丈夫。それより、リュウの方は…」
「俺も、大丈夫だ。」
隣には、いつの間にかリュウがいた。その更に横には、太陽が親指を立ててこちらを見ていた。
きっと、彼が立ち直らせたのだろう。
「それで、リュウ。お前の家族が消されてから二週間と聞いていたが、その間なぜこのことを知らなかったんだ?」
俺が話題に出すより先に、太陽がそれを聞いた。リュウは、話す前に一旦動こうとでも言いたげに、歩き出しながら
「引きこもってたんだよ」
と言った。引きこもっていた?それならば、なんで今日に限って出てきたんだ。
「お前らの言いたいことは分かる。単純に食料が尽きたから今日出てきたんだよ。」
痩せこけていたのはそのせいか。どこに引きこもっていたのかはわからないが、ホテルには泊まれないだろうし、家にも戻れないだろう。そう考えれば少し遠くの田舎の家を空き巣でもしていたのだろが、人の家の備蓄が2週間分もあるわけがない。
「急がなきゃ。犠牲者がこれ以上増える前に。クーデターが起きれば、この国にも、そして人々にも大きな損失になる。」
彼はそう言って、走り出した。それを、俺等三人も追った。
道中、通った景色はさんざんなものだった。血の匂いがするどころか、直接死体を見ることが何度もあった。ラーシャで見た。対して問題ない。だが、長い間見ていれば流石に気も滅入る。
しかし、街での虐殺が始まった以上、ロディアルと会えるかどうかが霞みだした。本当、ちょっかいはかけてくるくせにすぐちょこまかと逃げやがる。案外臆病者なのだろうか。
とにかく、俺はもう赤系統の色は暫く見たくないな。
そんなことを思いながら、俺等は走った。
そうして、たどり着いた。チナラの、首都とはかけ離れた、謎の屋敷に。
「ここが、王の居城だ。入れるかどうかはわからないが、入れなくても、文句は言わないでくれよ。」
リュウはそう言って、何食わぬ顔で門を通り抜けようとした。無論、そんなことをしようとすれば普通は蜂の巣になると、そう思うものだ。だからこそ、俺は発砲音がきこえた瞬間に、結界を張ろうと決めていた。
しかし、発砲音が聞こえない。なぜだろうか。
見回すと、…!武装兵が一人もいない!?
「やっぱりな…色んなところに兵を出し過ぎな割に、おそらく回収できていない。」
「どういうことだ?」
俺は率直に聞いた。
「街中での戦いを見ると、魔法で打ち勝ったやつってのが数十人はいるはずだ。そもそも、軍部と政治部はここ最近分離していたから、いくら絶対王政とはいえ秘匿状態だと好き勝手兵も扱えない。」
なるほど…回収できてないってのは、少ない兵の割に無理に虐殺を行おうとしてるって話か…
なんだろう…ロディアルは、関わったやつを狂わせる趣味でもあるのか?
「なんにせよ、門を守る分はいなくとも中を守るやつがいる可能性は十二分にある。だから、油断はしないでくれ。」
リュウは、そう言って一歩引いた。
「え、お前も一緒に行くんじゃないのか?」
太陽は、そう言って驚く。少なくとも俺もそう思っていたが、違うのだろうか。
「いかないよ。俺はただ生き残りたいだけないのに、むざむざ死地に赴く理由がない。」
それも、そうか…
俺は、その考えを咎めることもなく、一足先に中へ入ろうとした。
太陽は、それでいいのか?という表情を一瞬したが、すぐに元の表情に戻って、一息漏らした。
「よし、行こう。」
ロディアルがいるかどうかはわからない。だが、それでも。俺達は、戦う意志を持って、屋敷の戸を開けた。
第15話 終




