第14話 抹消
俺が銃弾から守った相手は劉と言うらしい。彼から色々と話を聞くために、俺達はあの後リュウの家に向かおうとした。相手からしたらこちらは命の恩人だ。家に泊めるくらいなら快く請け負ってくれる…そう思ってのことだった。しかし、リュウは応じなかった。理由は、後で話すの一点張り。結局、仕方がないので俺達は近くのホテルに泊まることにした。
第14話 抹消
「で、後で話すってずっと言ってた理由って、何なんだよ。」
太陽も、日暮や俺と同様に、こいつに対して思うところがあったようで、少しだけ怒りを露わにしながら、できるだけ相手に悟られないように取り繕って言った。
俺達三人は今、ベッドに腰掛けているが、対してリュウは立ちながら俺達の話を聞いている。…俯いていて、どう考えても会話するような構えじゃないが。ともかく、見事なまでに、三対一の構図だ。
そんな状況に、リュウもリュウで、戸惑いを見せている。
クソガキと見て掴みかかった小娘にとんでもない正論をぶつけられたのだ。当たり前、と言ってしまえばそれまでだろう。
しかし、太陽の問いに答えるにはあまりにも時間がかかりすぎだ。機密情報を知っているのなら利用価値がある、そう思って魔法を使ってまで守ったわけだが…何を考えているのか。魔法を思い出して逃げ出そうとしている?…違うな。俺達から逃げられると思うほどこいつは馬鹿じゃないと信じたい。
「俺は今、政府に狙われているんだ。」
やっと、リュウの口が開いた。なるほど、政府に狙われているなら住所は把握されているか。あんな武装兵が街中に来たことの理由としても、まあ納得だ。政府に関わったせいで妻も子供も死んだ…だったか、しかし、当然ながら情報が足りていなさ過ぎる…
「…?もしかして、言うことはこれだけとか言わないよな?」
太陽がイライラしながらそう言って詰める。
太陽の性格はある程度俺と似通っているから、イライラするのも分かる。こいつがやっているのは明らかな遅延行為。このままでは魔法のアドバンテージが消える。旅の途中で、自分たちで時間を消費するのは、別に構わない。責任は自分にあるし、イライラしていては俺達の中が悪くなっていくだけ。ただ、こいつが時間を浪費するとなると、話は変わってくる。こいつは家族でもなんでもない。そんな相手に、時間を浪費されるとどうしても苛立ちが出てくる。
要は、焦っているのだ。ここにいる全員。
ただ一人、リュウを除いて。
「何黙りこくってんだよ」
俺もそうやって言ってみたは良いものの、相手は依然として顔を上げようとしない。ましてや、こちらを見ようとすらもしないのだ。
「…仕方ない。」
俺はそう言って、一つ、氷の刃を作り出した。いつものように、こいつを飛ばすための風魔法もちょっとずつ加速させていく。魔法は奇襲には向いてない。遠距離の攻撃を行うには、座標設定、速度設定などの難しいことを考えるより、俺のやっているように、出すだけ出してあとは風魔法で押したりするほうが手っ取り早いからだ。何が言いたいかと言うと、風魔法は相当の騒音が出る。シュンも、流石に気付くはずだ。
狙い通り、シュンは顔を上げ、恐怖の目でこちらを見ている。そりゃそうだ。これは路地裏の武装兵二人を倒したときに使ったもの。生身の人間であっても無くても、人体を貫けるような威力はある。あの時見ていたかは知らないが、人間の本能かはたまた、初めて見るこれを恐れているか…まあ理由はなんだって良い。
俺は、氷の刃を、彼の腕にかするように放った。刹那、刃はかすった部分の彼の服を裂き、そしてそこから見える肌からは、赤い血がたれていた。彼の先にあったガラスは、見事に割れてしまっている。
「いづっ!」
彼はとっさに腕を抑えてうずくまった。別にそんなに痛くしたはずはない。俺達がペインで銃撃されたときとは深さが違う。本当にかするように撃った。
こんなやつに蔑まれていたのだと、そう思うと、笑えてくる。
戦闘の経験が浅すぎる。こんなやつが俺達と同じような旅ができるわけがない。バカバカしい。
「ほら、さっさと答えろ。うずくまってなんかないで、早く!」
俺は立ち上がって先ほどと同じ魔法を五、六発用意した。依然として彼はうずくまっている。今の状況、こいつは理解していないのか?脅されて、次は殺される。そんなことも言われないとわからないのか?
「三月、一旦座って。相手も萎縮してるだけだよ、これ。こんなんじゃまともな判断できるわけがない。」
日暮が俺の手を掴んでそう言った。じっくりと相手を見てみると、小刻みに震えている。
俺等ほどではないとはいえ、彼も苦しんできた立場だ、ということか。彼が今感じているのはどんな感情だろうか。死への恐怖か。いや、それなら答えているはずだからノーだな。それなら、不甲斐なさか。得体の知れない子供にこんな風に脅され、それに恐怖していることにも、そもそも子供に経験でも実力でも負けているということにも、そんな感情を抱いておかしいことは何も無い。とにかく、まともに答えられないのは確かか…。
「…わかった。答えやすいように俺が聞きたいことをいくつかにまとめよう。」
俺はそれだけ言って座り、顎に手を当てた。
聞きたいことはなんだ?
まずは、この国に来た理由である、日影の存在。次に、俺らはこいつの目の前で魔法を使った。そのことで魔法という存在を思い出したのかどうか。思い出したのであれば、新聞をみたかどうかを訪ね、そちらではどうだったかを聞こう。
そして、最も重要かつ最もこいつが答えにくそうなのがこの国の内情である。もとはと言えばこれを知るために話しかけたのだが…
「よし、じゃあ聞くぞ。まず1つ目。日影という石のようなものを知らないか?」
さて、これで口を開くか、だが。流石に大人なんだ、気持ちの整理くらいこの短時間でつくだろう。
「日影…知っている。5年ほど前に王宮に持って帰られた。今もあるかどうかは知らないが、少なくとも俺の知る直近二週間前ぐらいまでは、なくなったなんて噂は聞いていない。」
彼は、かすめた腕を押さえるのもやめて、口を開いてくれた。
2週間前…王宮…政治に関わっているとは言っていたが、だいぶ高い地位にいるのならば、なんとかして利用できそうだな…
「待って、王宮?チナラは王政じゃないはずじゃ」
日暮が会話に介入してきた。たしかにそうだ。チナラは王政じゃない。学校で習った分には、一党制、半ば独裁型の政治体制なはず…
「ああ、確かにそうだな。表面上ではそうなってる。実情も、20年前まではそうだった。20年前、理由もよくわからない騒動で国が混乱していたところで、なぜか王政にすり替わった。国の混乱に乗じてのことだろうが、俺はその場に立ち会えていない。なんせ、その頃は俺もまだ20程度だ。」
なるほど、ということは日影は王が持っている可能性が高い。まあ、シュンの仮説に従えばの話だが…
「オーケー、日影についてはわかった。じゃあ、次。俺達はお前を守るために魔法を使った。それのせいで、何かを思い出したりしていないか?」
さきほど言っていたことから、二十年前のこいつは20程度…ちゃんと魔法を使えたはずだ。
「お前らのお陰で思い出したことは一切ない。何日か前の新聞で、魔法のことは思い出したさ。ほら。」
そうして彼は炎の魔法を手の上に出した。
「なっ…!」
三人全員の注目が一気に彼に集まる。彼は間違いなく、今、魔法を使っている…
「使える魔法はそれだけか?ほら、あの…結界魔法とか、雷魔法とか…」
太陽は目を見開いて聞く。
「これだけだ。魔法は覚えているには覚えているが、どうにも扱い方を忘れてしまっている。思い出すには…そうだな。それ相応の時間が必要だろう。予想でしかないが、一ヶ月とか…そこらへんだ。」
一ヶ月…短い。短すぎる。俺等はこれから世界一周をしようとしているのだ。それなのに、一ヶ月しかないとなると、世界一周をし終えるどころか日影をひとつ回収すること…つまり、チナラの攻略も間に合うかどうかわからない。いざとなったら皆殺しにしてでも…
いや、だめだ。サコルより規模がでかい国を消し炭にするわけにはいかない。
どうすべきだろうか…と言っても消去法で結論は出る。
チナラの攻略にいくら時間がかかったとしても、どうせ世界に魔法は復活する。だからもう時間で焦る必要はないのだ…なくなってしまった。
「わかった…じゃあ最後。この国の、内情についてだ。この話は二種類に分かれる。政治側と市民側、両方の視点で言ってくれ。」
こいつは、アルのようにスラムで生きてきたわけではない。それに、政府から狙われてるどうこうも気になる。
「分かった。まず、市民側について。市民側は20年前よりも意見が通りにくくなっている最近についての不満が大きくなっていっている。王政に気付いているやつも、おそらく結構はいることだろう。」
なるほどな…逆に言えば、それ以外に目立ったことがないということだろう。政治家の端くれならば、それより重大なことがあるのに政治についての話しかしないなんてことはないはずだ。
「で、政治側について。さっき、王政になったという話はしたが、王政は王政でも、絶対王政だ。…ただ、一党制の時よりは、優秀な政治になっていたから、誰も文句は言わなかった。いや、言えなかった。」
おそらく、こいつは文句の一つでも言おうとしたのだろう。だが、それが逆鱗に触れ、今追われている。そんな流れだろうか。
20年。絶対王政が敷かれた期間だ。そんなに信用がある王ならば、さまざまなところに根回しするなど造作でもないだろう。なんせ、20年だ。なるほどな…そりゃ軍部も言うことを聞くわけだ…
しかし、それはそれで、リュウを狙っていたあの兵士たちのやけに強い執着心はなんだったんだ?死にたくない、生きたいなんて顔ではなかった。むしろ、死んでもいいから、家族だけでも助けなければ、というような…そんな感じがした。
俺1人、いや、3人でも、別に彼らの家族を害そうと企てたりなんてしない。当然だ。恨みもない、戦う価値もない相手に、そんなことをする必要がどこにある。
「どうして、お前は逆らったんだ?」
俺の言葉に、彼は俯いて、強く拳を握りしめた。
「国王は、ご乱心だ。」
それから、俺たちはただリュウの話を聞いた。
話によると、日影が王宮に運ばれた後、しばらくして、国王の弟が消えたらしい。そこから、国王の気力が消えた。だが、1年ほど前に、「ロディアル」と名乗る謎の神から、弟はラーシャに身を隠し、反乱の予定を立てていること、そして、周りの人間が日影を狙ってお前を狙っているということをお告げとして得たらしい。
そこからだ。国王の乱心は。
神と名乗る胡散臭い人物であったが、彼が使う力は本当であったらしい。しばらくは、近くにいた家臣に…彼を含めた家臣たちに、相談していたそうだ。
だが、神も信じられない。味方も、だんだんと信じられなくなっていって、国王は、人間不信を患った。
そうして、あろうことか、自分の意に少しでも沿わない人間を、殺し始めたのだ。
「でも、それなら、なんで兵士たちはあんなに必死に…クーデターでも起こせばいいじゃないか」
俺は、どうしてもあの兵士が頭から離れなかった。
「無理なんだよ。処刑人はこの国の兵士じゃない。ましてや、人間ですらない。逆らえば、死ぬだけさ」
その瞬間、理解した。
ロディアルだ。ロディアルが、殺しているんだ。
それも、王政が傾かないように市民にバレないようにしてまで。
「この国では、現状、王に逆らえば、抹消される。」
抹消。そうだな。誰からも気付かれず、消えるんだものな。
身震いする。軽い気持ちでいた。ここは踏み台。ここを乗り越えてこの先の対魔法の戦いへと向かうのだと。
ここで、ロディアルと戦闘になる。そんなこと考えてすらいなかった。
いやいや待て待て。なぜ負ける気でいるんだ。光の仇を取るちょうどいいチャンスじゃないか。
見ると、太陽も日暮も冷や汗こそかいているが、決意を決めたような表情をしている。
ひかりの仇、ロディアル。
そいつが出てくるかもしれないなら、喜ぼう。
もうこの先戦わなくてよくなるのなら、魔法なんか大々的に使ってやる。
どのみち魔法があるうちにそうするつもりだったんだ。
「分かった。リュウ、ありがとう。俺たちは、これからロディアルに喧嘩を売りに行く。」
俺は、そう言った。その瞬間、今まで真剣そのものだったリュウの顔が、驚きでよくわからない顔になった。
「そもそも、俺たちの旅の目的が、ロディアルを倒すことだったんだ。ちょうどいいし、ここで一度戦う。そして、殺す」
この時、俺の顔は、どんな顔をしていただろうか。
怒りに満ち溢れていただろうか。恨みに満ち溢れていただろうか。
少なくとも、俺は今、覚悟を決めているつもりだ。願わくば、顔もそれに相応しく、決意に満ち溢れていてほしい。
第14話 終




