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第13話 チナラ

アフにもう食事がいらないという話をされた後、俺はすぐに太陽の元に向かってそれを説明した。

「はあ?」と言って、俺の苦労はなんだったんだって感じで肩を落としてどこかへ去っていってしまったが、まあ普通にホテルの方だろう。


第13話 チナラ


魔法を使うためには周りの人間が全員いなくなる必要があるというのは、非常に苦しいものだ。

血みどろになった焦げ臭いアスファルトをもう踏みたくなかったので、俺たちはさっさと次の街に出ることにした。

「…しかし、確かに今まで俺ら腹減ってなかったもんな。」

結界の上で寝っ転がって太陽はそう言った。

「ほんと、今までなんで気付かなかったんだか。」

太陽の横に俺も寝っ転がって、そう言った。

…チナラへ向かって旅立ってはや2日。1日目はただ寝てただけだったから気楽だったが、二日目にしていきなり龍三体が出てくるあたり、おそらくロディアルにこちらの場所は割れているのだろう。それなのにわざわざ龍なんて寄越すなんて、随分舐められたものだ。実力を図るためにしては弱すぎる。

「もし、この先魔法が世界に復活したとしたら、どんな風になっていくんだろう…」

日暮が、そんなことをぼそっと言った。

「さあな…それは俺達が知れるところじゃない。でもまあ、たった一つ分かるのは、犯罪の増加くらいだな。だって、俺達にとって普通でも、知らない奴らにとっては自分だけが不思議な力に目覚めたんだと勘違いしかねないものだ。…まあ、二十年前の記憶を同時に思い出すなら普通なことだと分かるかもしれないが…」

俺がそんなことを言っていると、進行方向に何か、にやにやしている男がいた。左手に炎を出している…

「あんな感じのバカは向こう見ずになにかしらやらかすだろ?」

俺はそう言い切った。さて、日暮はどうするか…そのまま轢いてしまえば速度を落とすこと無く進めるわけだが…流石にそんなことしないか。

「ごめんね、一回止めるね。」

日暮はそう言って物理結界を止め、落とし割った。それに合わせて、俺等も飛び降りる。

男は依然としてにやにやしている。どうやら25程度に見えるが…ああ、なるほど。二十年前はこいつは四歳か。周りもそうだとか覚えているはずがない。

俺は勝手にため息を付いた。

「さて、なんでこんなところで立っているんです?あなた。街は結構前のはずですけど…」

日暮はそんなことを言って微笑んでいる。漫画でよく読む、ブチギレているときの笑顔だ。

「あぁ!?なんだお前、俺の左手が見えないのか?俺は特別なんだ、と・く・べ・つ!」

はあ…見た目だけなら結構好青年に見えるのに、こんなこと言って…

今どきこんなにわかりやすく馬鹿なやついないと思っていたが…

「そうですか、特別ですか。それはすごい!」

日暮がそう言って男を褒め称えた。

俺達はその姿を呆れて見ていたわけだが…存外に褒めるのがうまいものだな、日暮。

「そうだろう?俺はすごいんd…のわぁ!」

調子に乗っていた男が宙を舞っている。どうやら足の下に物理結界を生成して、それごと持ち上げたらしい。

「さて、行こっか、三月、太陽。」

そう言って日暮はもう一度物理結界を出した。

「えっと…なんで日暮、そんなに怒ってるんだ?」

このままじゃ気まずいのもあって、俺は理由を聞いてみた。

「怒ってないよ。ただ、私達は魔法で死ぬ気になってるのに、そんな中あんなにのんきなやつがこの世にはいるんだなって思っちゃって。」

日暮の言葉を聞いて、納得する。それを言われれば俺だってそうだ。きっと、太陽だって。

「個人の自由なのはわかってるんだけどね。でも、どうしても八つ当たりしたくなっちゃって。」

日暮はそう言ったあと、全員乗り込んだのを確認して、結界を動かした。

「三月もそうだろうけどよ、俺ら全員意外と焦ってるんだぞ?」

太陽が唐突にそんなことを言う。

そりゃそうだ。魔法が増えれば、今みたいな銃撃戦だけではなくなる。銃撃戦すらろくにこなせない中、そこに+αされるんだ。不安じゃないはずがない。

「…よし、日暮も、もう殺し合いはいけるんだろ?」

俺はそう、日暮に書いた。

「え、うん。決心はとっくのとうについてる。」

「なら、チナラでもし戦闘になったら、経験を積むことを目的にしよう。ここから先の戦いは銃+αになる。せめて銃撃戦だけでも大丈夫なようになっとこう。」

俺がそう言うと、日暮も太陽も頷いた。

そうして、結界は、新たな国へ向かって進んで行った…


あれから三日ほど経った。俺たちは、国境周辺の山にたどり着いた。

しかし、何が歩きで五日だ、時速60でここまでかかるあたり歩きだったら相当かかってただろう。

「こっからは、流石に歩きだな。日暮に器用なことさせて疲れさせるのもなんだし。」

太陽が結界から降りながらそう言った。

「そうだね。私も全ての木を避ける自信はないし。」

目の下にクマができながらも、ここまで運んでくれた彼女はそう言って笑った。

「熊くらいには出会うだろうが…ま、問題はないでしょ。」

俺はそんな感じで軽く言って、進み始めた。


思った通り熊が出たりはしたものの、基本太陽がサンライトフレアによる迎撃を行っていた。

「お前…いくらなんでも溶かすのはやりすぎじゃないか?」

俺は太陽にそう言った。普通、自然界の存在は焼けたらそれだけで死ぬ。溶かすのはどう考えてもオーバーキル…太陽もそれはわかっているはずなのだが…

「あー…俺もまだこの魔法に慣れてないんだ。だから練習みたいなものだよ。」

太陽はそう返答した。練習ね…そういえば、対人戦対策だなんだと自分で言ったはいいが、魔力操作の練習してなかったな…

「勤勉…だねっ、太陽は」

日暮が息切れしながらそう言った。

「おい日暮…大丈夫か?」

俺は日暮に駆け寄って言った。

「大丈夫、なんだかんだ持久走は久々だからさ。ちょっとつかれただけ。」

現人神ってだけで体力は伸びないからな…国境を抜ける前に少し休憩しよう。

そう思って振り向いた目の先には、国境の金網が見えていた。

「さて…ここを超えさえすればチナラだが…さっさと抜けてしまうべきか、休憩してから行くべきか…どっちだと思う?」

太陽はそんな事を言った。日暮を見かねたことだろう。

「さすがに休憩してからだろ…日暮もそうだろ?」

「…いや、現人神になってから体力の回復が早くなった気がする。これなら休憩はいらないかな…」

日暮はそう言って国境を登ろうとした。

瞬間、バチっという音がなって、日暮が手を離す。

「電気金網か…そりゃそうか。」

日暮は暮影を取り出した。

「時間停止魔法で多分電気は止まるから、さっさと登っちゃおう。」

「おーけー。」

そうして俺達はついに国境を超えた。しかしまあ…その超えた瞬間は、当たり前だが同じく森だ。

ここがチナラか…なんて雰囲気には絶対にならないわけで…。

「…お前ら、此処から先はしばらくは敵地となる。密入国だしな。気を張り詰めていこう。」

太陽はそう言って走り出した。

「太陽!」

俺は太陽を呼び止めた。

「なんだよ、急がないとまずいだろ…」

「いや、急がないとまずいからこそだよ。ホテルがあるところまで行ってしまえば、密入国がバレる可能性もないだろ?」

「ああ、そうだな。」

チナラにいる人種は、ペインにいる人種と同じ。ならば、地元だと勘違いされればパスポートの提示も求められないはずだ。

「それじゃ、身体強化使って筋肉痛覚悟で行って良いんじゃないか?」

身体強化は、ちょっと使う分には何もデメリットがないが、長く使うと筋肉がぼろぼろになるデメリットが存在する。今回はホテルにさえ着けばいいので実質デメリットはなし、というわけだ。

「それもそうだな。よしじゃあ、走ろう。日暮もそれでいいか?」

「大丈夫。いける。」

そうして俺等は、ずいぶんと暗くなってきた山を、駆け抜けた…


「大都市っつーか…ずいぶん汚れてるな」

「人が多いからねぇ…仕方ない。」

俺等は頑張って走り続け、夜を明かしながらようやっと大きな都市にたどり着いた。

この都市はなんていうか…表面では大きな建物が乱立していて壮大な都市だが、些細なところではポイ捨てが多く、ちょっとトイレに行こうとしたら、なんか詰まってたり…なんか、やな都市だ。そして、そんなに人が多い都市なのに、活気が…なんでこんなに死んでいるんだ?

「あの、すみません。ちょっとお聞きしたいんですが…」

俺は道行く男を一人、呼び止めようとした。

「あぁ!?なんだガキ!俺はお前に話すことはねぇよ!」

彼はそう叫んでこちらを殴ろうとしてきた…が、まだ身体強化は続けている。避けられる。

「何だよお前、避けやがって…ちくしょう、あの衛兵みたいなことしやがってよ…!」

…!?

男は、泣き始めていた。膝から崩れ、周りの人の注目を…集めていない?

これがここでは当たり前のことってことか?なんで…

「あ、あの。泣かれるのは別にいいんですが、場所が悪いです。こっち来てください。」

日暮はそう、男を路地裏に誘導する。俺も、太陽も、路地裏に移動した。


「で、何があったんだ?」

太陽は別に眉にシワを寄せるでもなく、それを聞くのが当たり前かのようにそう聞いた。男は依然として泣いて俯いていて、まともに答えられそうにない。

「…ダメそうだな。」

太陽はそう言ってこちらを振り向く。

「ええと…あなたの名前は?」

日暮が優しい声で聞いた。男は、答えない。日暮も思わず苦笑いして、こちらに振り向く。

「…ダメそうだね。」

二人そろって同じ結論になってしまった。どうしたものか…

「…妻が、殺されたんだ。」

ふと、男がそう口を開いた。その声は、震えている。

「妻だけじゃない、娘も。俺が、政治に関わっていたばっかりに…!」

どういうことだ?この国は別にガチガチの独裁政治を敷く国じゃないはずだ。そんな中で、政治に関わっていたから殺された…?

「なんで、殺しと政治が関わっているんですか?」

日暮がそう男に聞いた。男は、やっと顔を上げた。先程はしっかりとは見なかったが、随分とやつれた人間の顔がそこにはあった。

「それを聞いて何になる?お前が家族を取り戻してくれるのか?それとも、復讐をしてくれるとでも言うのか!?」

男は途中から、日暮に掴みかかって叫んだ。

「その判断をするには、情報が少なすぎる。今言ったことが望みならそれを望むなりに、こっちに情報提供してからにしてくれ。」

太陽は男にそう言った。男の怒りはより膨れ上がったように見える。

「何形勢逆転させようとしてんだ!お前らが情報を望んでいるんだろ!?偉そうにすんな、何も失ったことないクソガキ共が!」

この時、気付かされた。この3人の中で一番人間味のある日暮ですらも、こんなに泣き叫んではいなかった。それは、日暮が人間味が思ったよりないってことではなく、俺たちに今までいくら余裕がなかったかってことを表している。

こいつは大人だ。道ゆく大人。金を稼ぐ手段もあれば、定住する場所もあるはずだ。

対して、俺たちは子供。金を稼ぐ手段はあったかもしれないが、街からは追い出されて、銃で打たれて攫われて。ロディアルなんていう見たことも聞いたこともなかったやつと戦えって言われて。

俺たちはずっと不安だった。こいつなんかとは違う。

そう考えた途端、怒りが途端に込み上げてきた。

「おまえ「あんたなんかに何がわかる!?」

俺に少し遅れて声を上げたのは、日暮だった。

「はっ、わかるさ。道行く人に何かを尋ねるなんてことをするってことは、せいぜいなんかの旅行中だろ?親と逸れたか?災難だったな。だがなぁ!逸れたくらいならまた会える!俺は!もう、会えねえんだよ…」

「私も会えねえよ!私に、私たちに親はもういない!それどころか、いたはずの姉も殺されて!旅行中ならどれだけよかったか…私たちは旅行なんかじゃない!言うなれば放浪中だ!」

男の顔から途端に、先ほどから感じられていたこちらを蔑む感情が消えた。

「なんなんだよお前ら…それならなんで笑ってられるんだよ…」

彼はやり場のない怒りで、拳を強く握りしめた。

日暮も、首元を掴む手に、爪を立てている。

それとは別に、

「あいつが例のか?」

「ああ、間違いない。」

上から、そんな声が聞こえた気がした。 カチャカチャと金属音がなっている…ということは銃でも持ってんのか?

あいつってことは俺達ではなく、多分この男についてだろうが…

「一つ聞きます。あなたの持っている情報は、機密情報ですか?」

俺はいつになく真剣な顔でそう聞いた。男は日暮を下ろして、

「あ、ああ。」

と、そう答えた。

その瞬間、発砲音が聞こえた。

「《ヴェール》!」

俺は布のような結界を出して、弾丸を弾く。

「な、なんだあいつ!?」

百回くらい聞いたセリフだ。嫌になるほど…

「日暮!こいつを頼む!」

と、男を押してから、俺は屋根の方に飛んだ。そこには、武装した人間が二人居た。

「くそ、一旦退くぞ!」

その二人のうち一人がそう言って逃げ出す。

「逃がすかッ!」

俺は右手から鋭い氷の刃を作り出し、二人の武装を突き抜くように飛ばした。

「がぁっ!」

一人は心臓を貫かれ銃を落とし倒れ込み、もう一人は脊椎を貫かれて膝から崩れ落ちた。

流石に逃げられるとは思わなかったが…これでふたりとも死んだか…?

そう思っていたところで、発砲音が鳴った。刺し違えるのが目的か、脊椎を貫いた方が俺を狙って撃ったものだった。

まずいな、避けられない…まあ、これに当たっても死なないだろうが、おそらく弾倉にはまだ弾がある。どうしたものか…

そう思った瞬間、俺の目の前に物理結界が張られ、その奥に作られた氷が男にとどめを刺した。

「三月、油断は良くないぞ。」

後ろから、太陽はそう言って俺の肩に手を置いた。この魔法は、太陽のものだったか…

「ああ、すまん。助かった。」

しかし、倒れてなお銃を撃ってくるやつ、今までいたっけか…

「この国、戦闘でこんなに執着心を見せるとは…危険だな。」

俺達は、この国で日影を探す。

その上では、きっと上層…軍部すらも突き抜けていかなくてはならないだろう。サコルも、ペインもそうだった。

俺は、少しの恐怖と不安を胸に抱えて、日暮達のところへ戻った。


第13話 終

〜「ここらでさらっと魔物紹介でも」のコーナー〜

・龍

ロディアルによって配置された魔物。

外部からの攻撃にはとんでもなく強いが、内部からの攻撃に弱い。サコルにいたのは赤で、ラーシャにいたのは青。色によって攻撃前の溜めの長さが異なり、長さは青<赤。溜めが終わった後の速度は青の方が早い。火を吹くが、その威力はエネルギー結界などで相殺できる程度である。爪や尾による攻撃も同様。

〜終〜


〜「ここらでさらっと魔法紹介でも」のコーナー〜


[原始結界]

名の通りすべての結界の基礎となる結界。


・物質結界

魔力をガラス状の剛体に近い物に物質化させる魔法。


・非物質結界

魔力を形にしないまま壁上に位置取らせることで場所と場所の境を表す。



[応用結界]

原始結界に属性を付与したもの。


・エネルギー結界(物質結界か非物質結界への属性付与)

結界にかかる力のベクトル(向きのある量)をスカラー(向きのない一つの値で表現される量)に変換することで力を無力化する結界。スカラーを発散しないと結界を解いたときに術者に返ってくるため、なんらかの形で発散する必要がある。三月のように電力に変換したり、太陽のように熱に変換して結界内の温度を別の魔法に下げたりするのが主な発散方法にあたる。


・物理結界(物質結界への属性付与)

物質結界を本当に剛体化したもの。乗ったりすることでも活用可能。


・反射結界(非物質結界への属性付与)

ある一定レベルの力がかかると物質化する結界。物質化するまでは通り抜けることが可能。物質化すると物理結界に変質する。魔法を反射するから反射結界なのではなく、力に反応して一瞬で変質するから反射結界なのである。



[発展結界]

応用結界のさらなる応用。


・《ヴェール》(物質結界への属性付与)

開発者:夜野三月(第零部参照)

布のようにして扱うエネルギー結界。スカラーは勝手に反対方向への力に変換されるため、銃弾や魔法などを弾くことができる。


[属性魔法]


・《サンライトフレア》

開発者:常昼太陽

炎魔法を超高密度にすることによって熱を高める熱魔法のパターンと同様の方法で爆発まで持っていく爆発魔法の二パターンが存在する。

太陽が今のところ使っているのは熱魔法のパターンで、爆発魔法の方はペイン基地を爆破したときのものである。(厳密にはその時は魔力の質が足りないため結界で補った似て非なる物であるが)

〜終〜

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