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第11話 魔法のアドバンテージ

日暮が暮影を手に入れた後、俺達は老人…道中で名乗ってくれたところによると、シュンというらしい。まあその人の家に向かった。道中、それなりに寒いのもあって、険しい道のりでないにしろ、少し疲れが強まっていっていた。


第11話 魔法のアドバンテージ


「ふぅーーーー。」

そんな中、俺達は彼の家にたどり着いた。こんなふうに、休ませてくれるところがあるのはありがたいことだ。

「しかし、思ったよりかはこじんまりとした家ですね。俺こういうの結構好きですよ。」

なんて、家に入って座って落ち着いた太陽が言う。

よくある隠れ家というか、そんな感じで、結構な森の中に位置する、静かな家だった。…って言っても流石に太陽の発言は失礼な気がする。

「まあ一人暮らし用の家だしな…で、君たちの望み通り、暫くは泊めてやろう。ただし、長めに泊まるのであれば…まあ、その暮影について調べさせてもらう。」

と、シュンは机の上に並んでた薬品の類やら顕微鏡やらをしまいながら言った。

正直…知識が豊富そうな人間に調べてもらえるのはかなり魅力的ではある。

「別に調べてもらうのは構わないですし、なんならわかってないことのほうが多い現状では調べてくれたほうがいいまであるんですけど…」

日暮がそう言って話し始める。

「おお、それなら今すぐにでも!」

と言って、シュンは暮影を受け取ろうと手を差し出してきた。

日暮も暮影を出しはしたが、しかし、俺との会話でもわかっているとおり、暮影は日暮しか持つことができない…。

日暮は少し考えてから、

「…まあいいや、シュンさん、一旦机に置くんで、持ってみようとしてください。」

と言って、机に暮影を置く。

「…?わかった。やってみる。」

そう言って、シュンは暮影を持ち上げようとするが、俺と同様持ち上げることができない。太陽は不思議そうにそれを眺めていた。

「あー…特定の対象にだけ軽くなるとかなのか?」

シュンは思いの外早く結論を出した。

「すごいですね、魔法にも馴染みがないのに、そんな結論にすぐにたどり着けるなんて」

太陽がそう言う。

「もともと頭が回る方なんだよ。年老いた経験が活かせないのは少し不満だがな…。」

彼はそんなことを言って笑う。

「…さて、君、あー…日暮だったよな?」

シュンはそうやって日暮を呼ぶ。

「あ、そうです。」

「ああ、よかった。年をとると覚えるのが遅くなってかなわん。…で、君はあの光っていた結晶体から出てくるときになにかブツブツ言っていたが…神影について、深く知っているのか?」

日暮は一瞬だけ考える素振りを見せた。そして、俺達に、

「私達の素性ってどのくらい明かしてるの?現人神であることとか、そこら辺は言ってある?…言っていいかどうかわかんないから。」

と聞いてきた。

「別に明かしてないけど、泊めてくれる相手にわざわざ隠す話でもなくないか?って思ってきてる。…彼は純粋に知を好んでる。わざわざ裏切ったりはしないだろうし、「殺す覚悟」がもう、俺達にある以上、もし裏切られたとしても問題ない。」

俺の言葉に太陽も頷く。

「わかった。じゃあ、言っちゃうね?」

そう言って日暮はまたシュンの方を向いた。

「その武器…暮影は、二十年前の戦争に用いられた兵器です。いや、正確には、その一部です。」

そうして、日暮は、話し始めた…


二十年前に用いられた兵器の本来の名称は、神影といいます。二十年前、まだ魔法がありふれていたころ、摂理神「ロディアル」によって、この世界に神影が堕とされました。神影は、あまりにも強大な魔力を持っていたものだから、世界中の人間がどこかしらでそれを聞きつけ、神影が堕とされた地…「大空市」へと攻撃を仕掛け、神影を奪おうとしました。大空市のある国はペインといい、主な攻撃の対象はペイン全域となっていました。ペインは魔法に関しては最強と言っていいレベルの力を持っていたのですが、流石にそのうちに限界が近づいてきて…そんな戦争の8ヶ月目か、一人…ある名家の役立たずとされていた子供が、その神影を手にし、大空市のためにその力をふるいました。そして、戦争の終結の瞬間に、その子供が、世界から魔法を消し、神影を十に分解し、そして世界にばらばらに散らばらせた。日影が3、暮影が3、月影が3、星影が1という具合に。だから今この世界には魔法はないし、神影も、ちゃんとしたものとしてでなく、暮影のように一部一部に分かれている、と、結晶体の中で見ました。


「…他にも、神影を作った存在も、私達は知っているし、会っています。…が、結局暮影は本来なら今この世にはないはずだった希少な物質でできていることにはかわらないだろうし、研究するのならなにかおもしろい事実が見つかるかも知れない、とは思います。」

そんな日暮の話を聞いたシュンは、ため息をついた。

「…この世に存在しない物質でできているなら、下手に手をだすわけにもいかないな。もし壊してしまっては取り返しがつかない。」

と、彼はいい、机のところにあった椅子に腰掛ける。

「…もし、壊してもいいと言うなら別だが、そもそも君たちの旅の目的は何だ?」

俺達三人は目を見合わせる。

「摂理神ロディアルを…殺すため。」

俺はそう、言った。

シュンの口角がこころなしか上がったように見える。

「神に逆らう、か。戦争の頃は考えもしなかった話だな…」

シュンはそう言った。

「え?なんて?」

聞き間違えだろうか、そう思って、俺は聞き返した。

「魔法のことを聞いたら、昔のことをなんとなく思い出しただけさ。…君たちに有益な話はなにもない。」

彼はそう言ってはぐらかした。

「まあ、なんだ。神殺しのための道具を遊び半分で軽はずみに破壊するわけにもいかない。…悪いが、泊めてやれるのはせいぜい5日程度だ。…今日はもう遅い。寝ろ。」


そこで一旦話が途切れたので、俺達は別の部屋に移って作戦を練ることにした。

「…これから先、どうする?目的になってるロディアル討伐はかなり遠いわけだし、とりあえずは神影についての情報を集めるのが先決だと思うんだけど」

太陽はそう言った。

「情報集めるにしてもどうやって集めるんだ?ここは多分ネット回線も通ってないだろうし、そして神影の存在が表面化したのも結構最近だ。…まず間違いなく本なんてのは出てない。」

俺は続けてそう言う。

「ダメ元でシュンさんに聞くのは?あの人、何か神影について知らないのかな。」

日暮はそんなことをつぶやいた。

「…んなわけ…なくもないのか。そうだ!あの人日影が故郷にあったって言ってた!」

そうだ…言ってたじゃないか、そんなこと。

「まあどうあれ、今日は寝るか?話聞くにしても明日、調べるにしても明日だろ」

太陽はそう言ってベッドに潜り込む。

「そうだね。寝よっか、三月。」

日暮もそう言って潜り込む。

俺もそれに乗じて、眠りについた。


翌日、俺達は早いうちにシュンのいる部屋に行き、事情を話した。直接、日影についての情報を得ようとすることは流石に避けたが…

「…情報、情報ね…」

シュンが顎に手を当てながら、考える素振りを見せる。

「そのうちちょっとしたら、新聞がとどくはずだから…それを見ればいいと思う。君たちの言う通り、うちはネット回線はつながってない。つながってないのは不便だとは思っているが、どうしてもうちの住所がばれるとまずいから使えないんだ。」

「住所がバレるとまずい…?一体どうしてです?」

「あー…まあ女関係のいざこざだとでも思ってくれ、家を特定されたら押しかけられて殺されかねない」

シュンはそんなことを、少し笑いながら言った。

「そういや、シュンさん。俺達を泊めるかどうか判断するとき、行ってきた国とか、聞いて来たじゃないですか。」

太陽は、シュンにそう言った。

「そうだな。それがどうかしたか?」

「別にそれはいいんですけど、逆に、あなたの出身が気になってしまって…」

太陽がそう言った途端、シュンの目が太陽を睨んだ。

「…まあ、いいか。君たちには言っていいだろう。俺は、ここより南に位置する国、チナラの出身だ。5年ほど前に、こっちに来た。」

「チナラ…ねえ、三月、太陽。あそこなら人口も多いし、情報もいっぱいあるんじゃない?」

日暮が、ふとそんなことを言う。その言葉に、一瞬だけ、シュンが何か言いたげな表情を見せたが、何も言わなかった。

「確かにそうだな。ロディアルが無差別に神影の存在を教えているとしたら、人口が多いところを重点的に狙っていくに決まってる。間接的に日影がチナラにあることも確定した…そう考えたら…妥当だな。」

俺は二人にそう言った。…ただ、入国のために必要なものがあるとしたら、何も揃っちゃいない。

「チナラに行くなら、密入国ルートは教えてやる。国境さえ超えてしまえば大丈夫だろう?」

シュンはそう言って1枚の紙を取り出した。

「いいんですか?」

俺はそう言った。

「いいんだよ。別にもう、チナラに戻る用事はないからな。チナラで悪評が経とうと、俺にはもう関係ない。」

そうして、彼は軽くそのルートを説明してくれた。

曰く、本来国境は完全かつ厳重、そして等しく管理されているはずだが、当然ながら山奥などの国境まで人を割くわけにはいかないらしく、そこが手薄だという。一切配置されていないわけではなく、あくまでも手薄であることを、深く注意された。

「ただ…山を通るのなら、この山だけは避けたほうがいい。結構前になるが、国の重役が亡命を図って不法に出国したのがこの山だから。多分厳重化してる可能性がある。」

と、シュンはここから最寄りの山を指して言った。

「おそらくの予測だが、その逃亡した重役というのは、国を出たあとも、どういうルートを通れば見つかりにくいかまでも考えていたんだと思う。」

それを聞いてからもう一度しっかり見てみると、そこにはいくつも連なる山があった。

「ただ、このルート取りなら…」

と、ルートをなぞりながら彼は言う。

「市街地が多いから、食料の補給をしながら、国境まで簡単に向かえる。というか、さっき言ったずっと山続きのルートがある方が珍しいんだ。ルートが見えにくくなるこっちのほうが足がつきにくい。チナラで下手なことやらかしても、ここに来たら匿ってやれるから、このルートを通るのをおすすめする。」

そうして、彼はペンを置いた。

「ありがとうございます。…この経路だと、何日くらい掛かりそうですか?」

太陽が、そう問う。

「あー…路銀の徹底を節約するかにもよる。バスをところどころで使えば3日…まあ、何も使わなくて5日くらいかな。もちろん、寝ずに。」

そりゃあそうだよな…ラーシャといえば、この世界で最大の国だ。縦断するのにもそれくらいかかるよな…

俺がそんなことを思っていると、ふとガコンと、玄関の方から音がなった。

「お、新聞が来たな。取りに行ってくる。」

そうして、シュンはその場から離れた。

「どうする?今回は華奈さんみたいに飛行機を使える人も居ない。そもそも、俺達が旅を始めたのが9月ごろで、今はもう10月。かろうじてまだ肌寒い程度で済む服装はできてるけど、このまま行くと凍え死ぬぞ?この国、12月には-60℃になる日もあるんだから…」

俺は危機感をもって、そう問う。

「…市街地に行って、とりあえず服を買うしかないだろ。つか、路銀って円だろ?この国で使えんのか?」

「何言ってるの太陽。外貨の概念は効率が悪いからって15年前に円に統一されたでしょ。そもそも私達そのころ生まれてないじゃない。」

「あ、それもそうだな…」

不自然に太陽が笑う。

「じゃ、とりあえず早め早めに動くことを目標としよう。別に、この国はサコルみたいに俺達を襲ってきたりはしないだろうし…」

俺はそう言って笑う。

そのタイミングで、玄関から「なんだと!?」という大声が聞こえた。

そして、ドタドタとこちらに向かう足音が聞こえる。

「なあ、お前ら、サコルが消滅したって、知ってたか!?」

部屋に入ってくるやいなや、彼はそう聞いてきた。

「えっと…はい、知ってました。」

俺はすぐにそう答える。

「…ってことは、お前らがやったってことか…」

と、頭に手をあてながら、シュンは言った。

「わかるんですか?」

「流石にな…世界情勢にはそれなりに詳しくあるつもりだ。最近のニュースだと、サコルは攻撃こそすれ、攻撃されるようなことは思いつかない。そんな中で、唐突に国一つが消滅するなんて、お前らの持つ魔法の力以外ないと思った。」

「なるほど…」

シュンはゆったりと椅子に腰掛ける。

「ただ、お前ら…というか、顔色からして三月、お前がわざとやったわけではないことは察し付く。」

彼はそう言った。

「想像つく?どうして…」

「俺も魔法のことを思い出したからだよ。あのレベルの魔法規模となってくると、いくら魔力が多くとも意図的に撃つのはそうとう難しい。とすると、魔力暴走による爆発って説が有力になってくる。」

シュンはそう言って推測の経緯を説明してくれた。

「なるほど…まあ、確かに言われてみればそうですけど、って、魔法について思い出したんですか!?」

俺は驚きながらそう聞く。シュンは頷いて、

「ああ、思い出した。もともと不思議だったんだよ。俺は魔力なんて知らないはずなのに、お前らからその言葉を聞いた瞬間、魔力という言葉をもともと知っていたかのように聞き返していたから。俺だけかそうなのかはわからんが、魔法は、その存在に触れると、思い出せるものなんだろう?」

そう言って、シュンは手から炎を出してみせた。

「…!ほんとに、思い出したのか…」

太陽は、そう言って驚く。

「魔法に触れたら思い出すというのは、確か華奈さんもそうだったから、真実だと思います。…ああ、華奈さんってのはサコルまで同行してくれてた人なんですけど」

日暮は、焦りを感じる表情でそう言った。

「やっぱりそうか…つまりまあ、お前らも感づいているだろうが、魔法というもののアドバンテージにはもともとタイムリミットが存在してたってことだ。更に、今回の新聞のこの記事…お前らがやったなら、魔法が関係しているってことになる。そこから、勘が良くて魔法について思い出した人がいれば、すぐさま魔法という言葉が他の記事に載る。そうして、世界にまた魔法が復活してしまうわけだ。」

…なるほどな、新聞…いや、ネットなんてものもある。そうか、そう考えれば、魔法が広まるのはすぐ…!

「ただ、実際に実物を見なければ思い出さない可能性も高い。ペインのサブカルチャー文化の中で、魔法がこれまでに一回も出てきてないわけがない。ましてや、20年前から頻出していた、文字化けしていて誰も読めない本なんて、いかにもミステリアスで魔法チックだろう?」

それを聞いて、俺たちは少しホッとする。

「そういうわけだから、魔法が復活するかどうかはよくわからないわけだが…しばらくはお前らの魔法の方が強いだろう、生まれた時からずっとやってるんだから。」

…でも結局、行動が早い方がいいというのは変わらない。そう思っていたところ、太陽が一歩前に出て、

「ところで、なんで魔法がアドバンテージだと、俺たちが思っていると思ったんですか?」

と言った。

「確かにそうだな、ここは別に二十年前のような戦場じゃない。でも、基本的に、神影なんていう貴重なものはお偉いさんが持ってる。お偉いさんが欲せば、媚び売り、大規模捜索、なんだってできるからな。実際、チナラにある日影も持っているのはお偉いさんだ。じゃあ、どうする?お偉いさんと交渉して入手するか?できるか?無理だろ?」

それを聞いて俺らは黙りこくった。実際、不可能な話だ。俺らが積める金なんて、たかが知れてる。そんなやつと交渉しても、お偉いさんたちに利益が生まれるはずはない…

「図星だろ?じゃあ、どうするか。それは、もちろん力で奪うよりほかはない。そう考えたら、魔法はアドバンテージだ。何より、もともとお前らもそう思っているもんだと思っていたがな。」

シュンはそう言った。実際そうだ。

「…さて、そういうわけだから、アドバンテージが消えないうちにさっさとこの国を出てチナラへ向かうべきだ。ここに留まっていてももう良い事は何も無い。」

彼は地図を丸めながら言った。

「この地図はお前らにやる。道中はまあ…くれぐれも気を付けろよ。」

「…ありがとうございました!」

日暮が笑顔で、そう言った。

「礼はいい。そんなことよりぜひ、旅の終わりに戻ってきて、話を聞かせてくれ。」

シュンは、そう言って、笑った…


そうして、山奥のさびれた小屋の主は、俺達をそっと追い出した。

地図に描いてあるとおり、まず俺達は山を降りることにした。明け方の寒さが体に堪える。

「山、さっさと降りねぇとな。熊にでも出会ったら面倒だし。」

そう言って、太陽は全身に肉体強化の魔法をかける。

「お前、そんなことやって体中の筋肉ブッチブチにブチギレても知らないぞ?」

身体強化なんてのは、現象神にでもなったならまだしも、自己治癒も遅く、治癒魔術も存在すらしない人間が取る手法としては、最もリスクが高い魔法なのだ。

「それもそうだな…」

「全くもう。魔力総量は増えてるんだから、結界出してそれに乗って、結界を動かすなんてことをしても、リスクはあまりないわけじゃん。それをしたほうが良いと思う。」

と、日暮が言う。

「あ、それ最高じゃん。採用で。」

日暮の結界に乗って進む道中。流れていく景色は、正直新鮮で、ワクワクする気持ちすらあった。

それを楽しめるような環境に生きていたのなら、どんなに良かったのだろうか…


第11話 終

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