第九話 アフ
目の前に閃光が駆け巡る。全ては白に染まり、目が覚めた頃には、この国は更地となっていた。
途端に体が震える。…これ、俺がやったんだよな…
太陽は?日暮は?アルは?
必ず帰ると約束していたアルの母親は?
見渡す限り更地になっているそこに、不自然に少し瓦礫が落ちている。
おそるおそる魔法でどけようとするが、途端に少し頭痛が起こる。
「ゥアッ…魔力切れか…」
とりあえず近づいてみると、そこからは啜り泣く声が聞こえる。…日暮でもアルでも太陽でもない、別の声だ。
「そこに誰かいるのか?」
震えた声でそういうと、
「三月!よかった…無事だったんだ」
という、日暮の声が中から聞こえた。
「日暮!?…よかった…太陽もそこにいるか?」
「いるぞ、ちょっと待ってな、丁度魔力が溜まった。」
そう言って太陽は、瓦礫を無理やりどかした。
中からは、強固な結界をはって身を守っている日暮と、守られている太陽と、あと1人、泣いている子供がいた。
「?この子は?」
心底申し訳ない気持ちがありながらも、そっと聞いた。
「司令官の息子とかアルは言ってたはずだけど…」
太陽はそう言って子供の顔を見た。
「なるほどな…」
そして、今気づく。さらに震えが増す。
「おい、どうした。めっちゃくちゃ震えてんぞ」
「いや…アルがいないと思って」
俺がそういうと、途端に太陽が俯いた。まさか…
「やっぱり、魔力暴走に巻き込まれて…!」
「落ち着け!…お前の気持ちはわかる、だが…あの死は彼の選んだ「選択」だ。」
「選択…?」
太陽は、ゆっくりと話し始めた。
「魔力暴走を一番早く察知したのは、アルだった。「嫌な予感がする」なんて叫んで、そこの子供をこっちに投げてきて、その瞬間に、俺たちのいたところは閃光に包まれたんだ。…日暮の魔力を理解していて、アルのいたところまで結界を張れないとわかっていて、その上で自分の命とそこの子を天秤にかけた時にその子を守るべきという選択を取っている。…ってことだと俺は思う。」
「でも結局、俺が殺したことに変わりは…!」
俺がそういうと、太陽は俺の肩にそっと手を置いて、
「あいつが率先して他人を優先したってことは、その時点でのあいつ自身には生きる価値がないってわかってたってことだ。…親も殺して、母親も…実際死んじまって。…そんなところで、アルに生きろって言う方が酷だ。…なにより、こうなってしまったってことを後悔しても、どうにかなるのか?」
と言った。…太陽の言うとおりではあるが、これじゃただ…正当化にしかなってない。そう思ったところで、
「まあ、これはお前のやってしまったことの正当化だ。だが、正当化すらせずにこれにこだわり続けて何も出来ないほうがバカだ。」
と太陽は言って深呼吸をした。
「お前は、今置かれてる場所をわかっているのか?目的もなくなって、でも帰る手段も無くなって。なんなら、帰る場所すらない。そんな時に、過去にこだわっていられるほど,俺らは強くないはずだ。…精神的にも、経済的にも、そして、肉体的にも。」
太陽はそう言って、俺の肩から手をはなし、日暮の方を向いた。
「で、どうす…」
太陽がそこまで言いかけて口を止め、ふと上を向く。俺も上を見てみると、夜でもないのに空が徐々に黒に染まっていく。
「は?…なんだあれ」
そんなことを叫ぼうとしたその瞬間に、俺達は暗闇に閉じ込められた…
第九話 アフ
「君たちがディメ姉の言う希望?…はは、なるほど確かに。」
暗闇の中で、勝手になんか言って勝手に納得する声が聞こえた。
「ああ、ごめん。そっちからは俺が見えないか。」
その声が聞こえたあと、指を弾き鳴らす音が聞こえて、そしてあたりに明るさが満ちる。
左右を見てみると、日暮と太陽もいて、音の発生点には、齢17ほどに見える青年が座っていた。
「…お前は?」
太陽が多少の臨戦態勢を取りながら問う。
「…そうだな、まず名乗ろう。」
彼はそう言って立ち上がり、俺達を見下ろして言った。
「俺の名はアフ。現象神と呼ばれている存在だ。」
…!?現象神!?司令官の言ってた神か?
「おっと、言っておくけど僕は君たちの敵じゃない。敵である神はちゃんと別にいるしそれも教えてあげる。」
随分と都合がいい。戦場では都合がいいときこそ疑うべきだ。
「…どういうつもりだ?」
俺はアフと名乗るそれを睨みつけた。
「君たちには、「神」になってほしい。」
「は?」
神になってほしい?どういう冗談だ、そんなに簡単になれるものでもないだろう?
「そもそも、君たちは神という存在をどういったものと捉えている?」
アフはこちらに問う。日暮が少し前に出て、
「長い間蓄積された記憶から何故か「魂」と呼ばれる意思が生まれ、その魂が成長して神になった…でしたっけ?」
と言った。
「神がこの世界を救ってくれる全知全能の存在だと思い込んでるよりかはすごいよく出来た回答だ。だが、微妙に違う。記憶こそが魂と同一の存在なんだ。だから、まあ、そうだな。わかりやすく、君たちの家族…「夜野光」の魂を見つけることができれば、そこから情報を得て肉体を復元することだってできる。」
一同驚いてアフの方を向く。
「光が、復元できる…?」
「そう。しかもただの復元じゃない。完全に本人の情報に基づいているから、生き返ると言い換えてもいいほどだ。…まあ、上げて落とすようで申し訳ないが、十中八九魂は消えているよ。もの好きな人でも居ない限りね。」
「物好きな人って?」
食い気味に日暮が問う。
「この世界の魂は大体一週間もしないうちに霧散して消えちゃうんだけど…でも、たとえば魂の情報に基づいて、長期的に相手の状態を知ることのできる魔法とかを使うと、魂を魔力で覆うから、術者が死なない限りは霧散しない。…どう?そんなことをする人、心当たりある?」
佐野先生の顔を一瞬浮かべたが、彼女は完全に光を死んだとみなしていた気がする…だから、違うか…?
「心当たりは、ないな…いるにはいるが、おそらく魔法はかけていない…と思う。」
太陽が先にそう答えた。
「そうか、すまないな、糠喜びさせてしまったようで。…まあ僕の要件は別件なんだ。もし、敵である神に興味があるなら、話を聞いてくれないか?」
アフは椅子に座ったあと、そう言った。
「その前に、気になっていたんだが、「ディメ姉」って誰だ?」
そう言うと、アフはキョトンとした顔をして、少し笑った。
「ディメ姉ってのは、空間神ディメアのことだよ。そうか、人間にはアフくらいしか伝わってないもんな。」
「空間神…この空間自体の記憶ってことか?」
「そう。でも、最近引退したよ。」
アフは当たり前かのようにそういった。
「引退!?神って、引退できるのか?」
太陽が驚いてそう聞く。
「そうだよ。空間神と摂理神は唯一無二だから、適当な現象神を見繕って後継を見つけなくちゃいけない。じゃないと、情報が飽和しちゃうからね。過去の記憶はいらないものの方が多い。今必要な情報だけ引き継いで、そうして世界を保つんだ。」
なるほどな…引き継ぎができるなら合理的なものだ。
「じゃあ話を戻すぞ。君たちには神になってほしい…というのも、無理矢理魂自身を強化する手法だから、現象神とか摂理神とかとはかけ離れているが…僕たちは人の寿命のうちに、人とかけ離れた魂を持つそれらを、「現人神」と名付けている。」
「現人神…具体的に、現象神にできて現人神にできないこと、もしくはその逆はあるか?」
「あー、現人神にできて現象神はできないなんてことはないよ。で、現象神というか…「神」の本質に、自分の持つ魂ならいくらでも改変できるという特徴がある。が、現人神は基本これを持たないね。」
「なるほどな…現人神になることのデメリットは?」
俺は立て続けに聞く。
「特にないよ。魔力が強くなって、身体能力が上がって…そんなくらい。だからメリットは大きい。」
「なら…」
太陽が言おうとしたことを制止するように、アフは
「ただ、交換条件はある。というか、こっちが本題だ。」
と言った。
「まあただ、君たちにも悪い話じゃない。さっき言った、敵サイドの神…摂理神の話だ。」
日暮がここで食い下がる。
「摂理神を相手にしろってこと?」
アフは頷いて、
「そもそも、神はあまり別の現象に干渉してはならないとされている。それなのに、彼はとある方法によって干渉した。」
「返答はイエスなんだな?とりあえず。」
俺は情報を整理するためにとりあえずそれを確認する。
「ああそうだ。」
「んじゃ、続けてくれ。」
そう言うと、アフは指を弾き鳴らして、ホログラムか何かを見せてきた。
「これは君達の世界では神影と呼ばれてる、最強の兵器だ。彼は、これを君たちの生きるところに落とすことで戦乱を生み出した。」
「なっ…!つまり、20年前の戦争も、光が死んだのも、元を辿れば…!」
アフが顔を引き締めて、
「そうだ。全ては摂理神…名をロディアルとする者の仕業だ。」
と言った。
「じゃあ神影も、ロディアルが作ったものなのか?」
太陽がそう聞くと、アフは苦笑いして、
「あれは僕が趣味で作ったものだ。…管理は厳重にしていたのだが、相手は摂理神で、僕の親のようなもの…摂理による無理矢理の干渉で盗まれてしまった。」
「はぁ!?」
俺は思わず大声を出してしまった。怒りがこみ上げてくる。そもそもこいつが作らなければよかった話じゃないか…!
「…君の言いたいことはわかる。だが、悪用しようとしたのは僕ではなくロディアルだ。僕だって後悔はしているが、ここでうだうだ言っても何も変わらない。すべきなのは、ロディアルをさっさと止めることだ。」
彼はそう言って、こちらを手招きした。
「ほら、ロディアルと戦う意志があるのならこっちにこれば力を与える。」
…どうしようか。俺等には神を相手できるほどの自信なんてないんだ。ただ、これ以上無目標で生きるのも、という思いもある。…本当なら夢のような好都合の話だしな…
「もし断ったらどうなるんだ?」
太陽がふとそんなことを言った。
「別になにもないさ。本当に何も起こらない。ただまあ…平和も返ってこないと思うけどな」
それを聞いた途端に、日暮と太陽の顔が引き締まるのを感じた。
そうして俺達は、アフの前に歩いた。
「覚悟は、できたみたいだね。…それなら君たちに力を与えよう。」
アフはそう言って、自分の身体と、そして俺達の体を光らせる。
「うわっ!眩し!」
太陽がそう言って目を瞑る。
「なんか、重い…?」
日暮がそんな感想を述べる。たしかに、胸の奥に重さを感じる気がする。
「魂が質量を持ち始めただけだよ。まあ、普通の人には感じ取れないだろうけど。」
アフは軽くそう言った。しばらくして、アフの輝きが止み、
「はい、これで終わり。」
と、アフは言った。
「こんなんで終わりなのか?なんていうか、強化された感覚がぜんぜんないんだが…」
「強化はされてるけど、まあ確かに最初は分かりづらいか。戦っていけば直に分かる。ただ、そうだな。現人神には何か「テーマ」をつけたいよな。現人神になったって自覚がもっとつきそうだし。」
そう言って、アフは笑う。
「別に要らないけどまあ、もらえるならもらっとくわ。」
と、太陽は言った。
「そうだ、君たちの名前、ちょうどいいじゃないか。三月は「夜の現人神」、太陽は「昼の現人神」、日暮は「黄昏の現人神」。ほら、ちょうどいいだろ?」
…夜の現人神、か。夜を司れるわけでもないのに、その名前は自分に妙にしっくりきた。
「…OK、ありがとな。」
「満足いただけたようで何より。それじゃ、サコルにこれ以上居ても仕方ないだろうし、今からラーシャに送るよ。」
アフはそういったが、俺はまだ確かめたいことが1つあった。
「お前が俺達を現象神にすることはできなかったのか?」
「無理だね…自分自身で育んだ、君たちみたいな存在でもないと、魂がそもそも自分とリンクしないから現人神にすることもできない。そして、現人神のレベル時点で僕と君たちの魂は分離する。だから、現象神にはできないし、これ以上は君たちの力で成長しない限りは、永遠にこのままだ。」
「わかった。」
俺が覚悟を決めて頷くと、アフは明かりを消した。
「お前らの吉報、待ってるぞ。」
そうして目が覚めると、俺達は見知らぬ大地に居た。
「…さっむ…」
太陽が、つくなり腕をこすっている。
ラーシャは、サコルよりももっともっと北の、北極付近から広がる広大な国だ。
「ラーシャはラーシャでもだいぶ北の方に飛ばされたみたいだな…」
俺はそう言って、飛び上がろうと、地面の方をふと見たところ、見覚えのある形の石が目に入った。
「…!?もしかして、暮…影…?」
目を疑うべき光景の前で、俺達は一瞬の間、立ち尽くした…
第九話 終




