ごうせい(1)
阿鼻叫喚。
ポンと思い浮かんだヒトの言葉。
一体どこで学んだのかボク自身よく分かりませんが、日常で使う言葉でないことだけは確かなのでしょう……。
「……チッ、まだ残ってやがった……」
とっさに吐き出したのか、ボクの照準が甘かったのか。ともかく無事でいられた山賊も何人かいました。
……きっとパープルさんはそうなることも見越していたのでしょう。
パンッ……! パン、パンッ……!
「目がああぁぁぁ!」
「あぎぃぃぃぃ!」
目元のミニマップを頼りに、生き残った者を見つけ次第、ピストルを撃ち鳴らしたのです。
作り出した時点では弾の無いガラクタだったそれは、今や毒キノコの塊が飛び出す恐ろしい凶器へと変貌していました。
毒キノコの粉末を顔面に食らい、その場でもだえ苦しむ山賊たち。
「ピンク。おかわりを頼む」
「は~い!」
「さぁ食え。遠慮するな」
泣き叫ぶ彼らの口に、容赦なく毒キノコを突っ込むパープルさんは笑っていました。
ピンクさんも心の底から嬉しそうに笑っていました。
ボクも、笑うしかありませんでした……。
「……これで全部か……」
パープルさんがボクのマップを覗き込みながらぽつりと呟きました。
マップ上で表示されている赤い『山賊』マークは、一つ残らずチカチカ点滅していました。点滅の度合いには個人差があるようですが、共通して時間が経つごとに点滅が激しくなって……。
やがて、『どくろ』のマークに変わってしまいました……。
「ねぇねぇ、みんなどうして寝ちゃったのぉ?」
ぐったりと沈黙する山賊たちを、ピンクさんは無邪気にツンツンつついています。
「満腹になったからだろう」
「あれれ、こっちのおじさん今にも消えそうだよぉ?」
どくろマークの点いたヒトでした。
身に付けていたものだけ残して、スゥゥ――と透けていくように空気に溶けてしまったのです。
「……なるほど。聞いたことがある」
「なになに~?」
「心から満足した人間は、『天にも昇る』心地になるらしい」
「ほぇ?」
「君のおかげで、彼らは天高く飛び上がったのだろう」
「そっかぁ。喜んでもらえて良かったぁ」
……一緒になって天に『昇らせた』ボクには、何一つ突っ込む資格はありません。
ただ……。
「……あの人たち、本当にどこへ行ったのでしょう?」あ
赤いマークの点滅して、どくろマークに変わる。
原因が毒キノコなのは間違いないでしょう。
最初に食らった人たちも、後からパープルさんに食べさせられた人も、例外なく倒れてもだえ苦しんだ後、ぷっつりと動かなくなって、最後には消えてしまいました。
着ていた服や、身に付けていたものを残して、身体だけこつぜんと……。
「私たちウサギの場合、動けなくなると人間たちがどこかへと運んでいった。どこへ連れて行かれたのかは、誰も知らない。おそらく、それと似たようなものだろう」
「じゃあ、人間たちも誰かのお世話を受けているということですか?」
人間よりも、偉大で強大な何か……。
そんなものが存在するのでしょうか?
「ありえない話ではないだろう。例えば君の『マップ』だが、それは一体誰のものだ?」
「……あ……」
「少なくとも、私たちに生まれつきこのような『能力』は備わっていなかった。この力も、山賊たちを消した力の一端かもしれない。まぁ、憶測だがな」
「…………」
「……ところでパープルちゃん、どうしておじさんたちの荷物をまとめているの?」
「後片付けだ。誰かに盗まれたら困るだろう?」
「あっ、そっか。大事なものがあるかもしれないよね?」
「無くしたら大変だ。私が整理するので、君も協力してくれ」
「うん分かったぁ」
「ブルー、君は洞くつ内の点検だ。悪い泥棒がどこかに潜んでいないか、よく調べてくれ」
ボクたちを捕まえようとした山賊たちと、そんな山賊たちから盗みを働くボクたち。
果たしてどっちが悪者なのか、考えても答えは出ませんでした。