しょうかん(1)
ボクの名前はブルー。
元は研究所育ちのウサギです。
ケージの中のウサギだった頃は、56番と呼ばれていました。みんな、お互いを番号で呼び合っていたので、それが普通だと思っていました。
だけど突然、知らない世界にやってきて。
ボク自身も、二足歩行する変な毛並みの、ウサギなのかヒトなのか、よく分からない生き物に変わってしまいました。
以来、ボクはブルーちゃんと呼ばれています。
命名したのは、元おとなりさんだった55番さん。今ではピンクちゃんと名乗っています。
同じく、おとなりさんだった57番さんも、ご自身のパープル・カラーを受け入れていますので、ボクも自分をブルーと呼ぶことにしました。
不思議な身体。右も左も分からない世界。
そしてボクたちはたった3羽のウサギ。
これからお互いに力を合わせて生き抜こう……と、特に誓い合ったわけでもなく、ただそうしたほうがいいんじゃないかなぁ……なんて考えていた矢先。
ひとり見知らぬ森に踏み込んだピンクさんが、山賊たちに追いかけれたあげく、あろうことか自分から危険な洞くつへと飛び込んでしまったのです。
どうする、ブルー? 死ぬな、ピンク!
「……次回。山賊たちは見た、親分のパンツに描かれたクマさんマークに込められた哀しい過去、惨劇の地に眠る恐怖が再びよみがえる……ところでこのキノコ、食べられるのだろうか?」
「知りませんよ! こっち向けないで下さい! というか、何なんですかいきなり!」
冒頭のナレーションはボクではありません。
パープルさんが、そこらに生えていたキノコをマイク代わりに、勝手に始めたのです。
「……盛り上がると思ったのだが……」
「誰得ですか……まるでボクが悪いみたいな顔しないで下さい……ピンクさんが大変だって時なのに……」
「そうだな……急いだほうがいい」
「はい! とにかく行きましょう」
「…………ちょっと指先がしびれてきた」
「毒キノコじゃないですか! 早く捨ててください!」
……とはいえ、ボクたちの置かれた状況はパープルさんがおおむね語ったとおり。
山賊たちの住み着く『魔獣のすみか』と書かれた洞くつに、飛び込んでしまったピンクさん。
行ったところで、ボクたちに何ができるのでしょう……?
……いやいや。まだ助けられないと決まったわけじゃない。
幸い、ボクにはこの『マップ』があります。
洞くつに近づけば、中にいる敵の位置や数、正体も見通せるはず。
ここは慎重に、気付かれないようにこっそりと……。
『ふぇぇぇん、すりむいたぁ、いたいよぉ』
ピンクさんの声……。
良かった、まだ無事のようです。
『こわいよぉ、みんなどこぉ、ブルーちゃぁん、パープルちゃぁん』
うるせぇぞ!
おいよせ、大事な売り物だ!
だったら躾けてやらねぇとな!
『やだやだ、おじさんたち怖いよぉ!』
ガチャガチャと金属がこすれ合う音……。
いくら耳を閉じても、『マップ』から流れてくる音声は何一つかき消すことができません。
……ピンクさん……!
『うえぇぇぇぇん! たすけてぇぇぇ、みんなぁぁぁぁ!』
一瞬の出来事でした。
ボクとパープルさんの身体が、ぼんやりと光ったように見えた刹那。
目を開くと、もうそこは草木の茂る森の中ではなく。
暗く冷たい、地下の檻の中でした。