かくせい(2)
誰もいない草原…
「そういえば、他の子たちはどうしたのかなぁ?」
確かに……ピンクさんの言うとおり、研究所には他の仲間や多種族の方々もいました。
これが本当に何かのジッケンなら、ボクたち以外の誰かが居てもおかしくないのですが……。
「……考えられる可能性は大きく分けて二つ。研究所に何かが起きたか、それとも私たちの身に何かが起きたか……」
「…………」
「いずれにしても、現に私たちの身体は変化してしまった。それにどうやら、ここには私たちしかいないらしい。そこで問題。私たちの共通点は何だ?」
「かわいいウサギちゃん!」
「ブルー、君はどうだ?」
「あなたまでその呼び方……」
言いかけて、ふと思い出しました。
「……そういえば、何か同じものを食べませんでした?」
「ごはん? うん、食べた食べた」
「私の記憶もそこで途切れている」
「じゃあ、あれが原因で、ボクたちはこんな姿に……?」
「だろうな。しかし、それが全てとは限らない」
「――どういうことです?」
ふいに、パープルさんはボクの肩を掴んで、顔を寄せました。
目と目が重なるような距離感。
一体どうして、何をしようとしているのか……皆目検討がつかず、ボクはうろたえ、訳の分からないことを口走るばかり。
そんなボクを、じっと見つめたまま微動だにしないパープルさん。
……鼻元が、ほんのりといい香りでした……。
「……ところでブルー」
「はっ、はひっ?」
「君はなぜ、ヒトの言葉を話している?」
…………。
い、言われてみれば……。
「えっ、えっ、どゆこと?」
「私たちウサギは言葉を用いない。話せるようにはできていない。しかし、今の私たちはヒトのような口の形をしている。しかも私や君だけでなく、ピンクまでも言葉を理解して話せている」
「た、確かに……当たり前のように口にしていましたけれど……」
「ピンクちゃんは、おしゃべりができて楽しいよ?」
「そうだな。少なくとも、私たちにとって不都合なことではない。ヒトのように考え、ヒトのように話せ、ヒトのようにどこへでも行けるようになった。私たちの置かれた状況をまとめると、ざっとそんなところだろう」
ヒト……。
ウサギだったボクたちが。
ケージ越しにいつも見ていた、あの大きな存在と同じように……?
だとしたら、それはとても素晴らしいことなのでしょう。
……だけど……。
「……ボクたち、ヒトにしては小さくありませんか?」
「そぉ? でもかわいいからいいじゃない」
「まぁ、ヒトには君のようなピンクの毛並みはないからな」
「ふふふん、まぁね~♪」
「そ、そうですよ。ボクたちがヒトになったのだとしたら、この毛並みの色は何なんですか!」
「……私は別にヒトになったとは言っていない」
「え、じゃあボクたちは一体……」
言葉を話し、二足で歩く。
見た目はウサギ、中身もウサギ。
「……なので、せめて頭脳だけでもヒトに近づくべきだと思う」
「た、確かに……」
ボクたちの身に何が起きたのか、結局のところ何一つ分からないままだけど。
ここがケージの中でないことはもちろん、研究所の中でもなく。
まして、夢の中ですらありません。
見知らぬ場所に、ボクたちだけ。
どこへ行き、どうするのか。
ボクたちだけで考えないと……。
「ねぇねぇ、ブルーちゃん。ピンクちゃん、おなかすいたんだけどぉ?」
「……言われてみれば……」
驚きの連続で、全く意識していませんでしたが。
ふと我に返ると、かなり空腹だったことに気付いてしまいました……。
「ブルー、私も喉が渇いた」
「ボ、ボクに言われても……見てのとおり手ぶらですし」
「しょうがないなぁ、ブルーちゃんは」
なぜボクが責められているのでしょう……。
「と、とにかく、まずは水を探しましょう」
食料も大事ですが、まずは水分補給です。
「あちらに森が見えます。もしかしたら、食べものも見つかるかもしれません」
「本当? じゃあ、さっそく行ってみよ~!」
「ま、待ってくださいピンクさん。迷子にならないように、まずは目印になるものを……」
言いかけて、ボクは立ち尽くしてしまいました。
なぜなら、目の前に奇妙なものが現れたからです。
……こういうものを、ボクは見たことがあります。
研究所でも、教授や職員さんがよく手にしていました。
大きな板。小さな板。形は様々でしたけど、触れるだけで景色が変わる不思議な道具。
今、ボクが見ているものも、おそらく似たようなものだと思います。
宙に浮かぶ半透明な板には、このように書かれていました。
マップ、と……。




