かくせい(1)
「……おはよう」
盛大にキレて、何事も無かったかのように冷める。
パープルさん、こと57番さんは、見た目が変わってもやはり掴みどころがありません。
「も~~ひどいよ、パープルちゃん……」
55番……いえ、ピンクさんは生きていました。
ちょっと泡を吹いてピクピクしていたように見えましたが、多分気のせいです。
「……悪い」
そう言って、パープルさんはピンクさんを助け起こしました。
気分屋で寝起きはとても悪いお方ですが、さすがにやり過ぎたと反省したのでしょう。
案外、根は優しい方なのかも……。
「む~~~パープルちゃん、ピンクちゃんのことぶった」
「……虫が、いた」
「えっ、虫?」
「ピンク色に好んで寄生する、ピンボケという大変危険な虫だ。取り付かれると、頭の中がスカスカになってしまう」
「何それ、怖いっ! どこどこ、ピンボケどこにいるのっ?」
「……私が退治した」
「本当っ!」
「……だが、君を傷つけてしまった。すまない……」
「ううん。ピンクちゃんならもう平気だよ! 怒ってごめんね、パープルちゃん」
「許してくれてありがとう。ただ……もしもまたピンボケを見つけた時は……」
「えんりょしないで! おともだちじゃない!」
「……分かった。君の友情を信じよう」
「ブルーちゃんも、ピンクちゃんのことピンボケから守ってね!」
向けられたのは、対照的な笑顔でした。
蹴られたことをすっかり忘れてニコニコと手を振るピンクさん。一方、ニヤリ……と微笑むパープルさんが、ボクに一体何を求めているのかなど、言うまでもないでしょう。
ボクにはただ、あいまいに頷くことしか出来なかったのですから……。
「……ところで、ここはどこだ?」
改めて、パープルさんに現在ボクたちの置かれた状況を説明しました。
……と言っても、分かっているのはボクたちがウサギだったことと、同じ研究室の仲間だったことくらいですが……。
「……なるほど」
「パープルさん、驚かないのですか?」
「タイミングを逃した」
「…………」
それはつまり、ピンクさんが55番さんだと蹴った後で気付いたのか、それとも蹴る前から分かっていたのか……。
……やめておきましょう。聞いたところでまともに答えてくれる気がしない。
「これが私だけの夢なら、特に問題はないのだか……」
「ピンクちゃんもいるよ?」
「……全員が同じ夢を見ている、というのはさすがに無いですよね……」
「だな。では、これが夢でないと仮定するとする」
「うんうん」
「私たちは研究所のウサギだった。しかし、ここはどう見ても研究所ではない」
「そうですね。壁も天井も見当たりません」
「つまり、ここはお外の世界?」
「君にしては上出来な答えだ。しかし、まだ疑問が残る」
「ボクたちの、この姿……ですよね?」
「かわいくっていいじゃない?」
「だが、毛並みが明らかに変質している。見てくれ、どれも一本一本根元までピンク色だ」
「わぁ、きれい……ってこれピンクちゃんの?」
「ピンボケ対策だ」
「そっかぁ、じゃあ仕方ないね~」
「……もしかして、これは何かのジッケンでしょうか?」
「可能性はある。しかし、これがジッケンなら見張りが必ずいるはずだが……」
「……誰もいませんね……」
あるのは、草だけ。
遠くには森や山が見えますが、あたりは一面の原っぱ。
ヒトの姿はもちろん、どこかにカメラが仕掛けられている様子もありません。