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ぷりんせす(2)

 ミントさん(仮名)は元々、人間の女の子。それも、一国のお姫様とのことでした。

 小さくながらも平和な王国。貴族と平民、分け隔てなく共に手を取り合って、国を支えていました。

 しかし……突如として大国は襲ってきました。

 またたくまに町は奪われ、城は壊され……せめて敵の手に落ちるよりはと、残されたミント(仮名)は、カギを使い。自ら忘却に身を委ねたのです。

 ……それが、はじまりであるとも知らずに……。

 気がつけば、知らない場所。見たことない生き物。しかもなぜか自分も同じような姿になってしまっている。

 それもそのはず。なぜなら彼女は、およそ30年もの間、忘却の中をさまよっていたのだから……。 失った身体。時間。そして王国……。

 彼女に明日はあるのだろうか?

 泣くなミント(仮名)! がんばれミント(仮名)!


「……タイトルは『故郷くにを目指して三千里』にするか?」

「そこでボクに振らないで下さい……」

「わぁぁぁぁん、ミントちゃんかわいそぉぉぉぉぉ」


 ミントさん(仮名)の話は、耳慣れない言葉が多く、またご本人も混乱していたため、ピンクさんには全く理解できませんでした。

 それで、パープルさんがざっくりとまとめたのが冒頭のナレーションです。


「……まぁ、だいたいの認識は合っているけど、ひとつ大きな間違いがありますわ」


 緑色のウサギになっても、さすがは元・お姫様。

 耳元から縦にくりんくりんカールした毛先をいじる仕草に、ちょっぴり気品を感じます。


「ほぉ。どこがどう違う? 言ってみろ、ミント(仮名)」


 いや、明らかに後半おかしかったでしょうが……。


「だから、その呼び方! 誰がミントよ!」

「……あ、そっちでしたか……」

「よく聞きなさい。わたくしにはミンティネッサンドリカラナシア・ヴァンブルボロマンデリカ・ミゼラヴァラミチネシノロトリス・ラ・エメラルダという、れっきとした名前があるのです!」


 ………………………。


「……すまない。もう一度言ってみてくれ」

「はぁ? だから、ミンティネッサンドリカラナシア・ヴァンブルボロマンデリカ・ミゼラヴァラミチネシノロトリス・ラ・エメラルダ、ですわ」


 ………………………。


「……つまり、ミントだな?」

「違うわよ!」

「えっと……略しましょう。いい意味で」

「どういう意味よ!」

「だいじょうぶ! ピンクちゃんは、ミントちゃんの味方だよっ!」

「あなた話まったく聞いていないでしょうが!」


 とはいえ、ボクたちは元々お互いを番号で呼び合っていたただのウサギ。

 人間のように、お互いを名前で認識する習慣が無かったため、名前というものにこだわりや執着が無いのもまた事実なのです。


「……ですので、ボクらはお互いを色で呼び合っています。名前というより、ニックネームとお考え下さい。ミント……(略)さんも、お国の状況が分かるまでは、本名を隠しておいたほうが良いのではないでしょうか?」

「わぉ、『世をしのぶ仮のすがた』……だね! 『あにめ』でよくみるやつ!」

「……『あにめ』? 何のことですの?」

「えっとねぇ、ブルーちゃんがぁ……もがもが……」


 よく喋るその口に、パープルさんが毒キノコをつっこんでいます……。


「まぁ……あなたたちが名前を持たない魔獣だった、というのは理解できました。あなたの言うとおり、今は仮の名前で呼び合ったほうが得策、というのも一理あるのでしょう」

「えっと……では、改めてよろしくお願いします、ミントさん」

「言っておくけど、今だけですからね?」

「あ、あははは……」


 いっそ名前が長すぎて覚えられないと正直に言うべきだったのでしょうか……。

 ……臆病なボクは、あいまいに笑ってごまかすことしかできません。


「ま、自分を責めるな。キミは間違ったことを言ったわけじゃない」


 曲がったボクの背中を、そっとパープルさんが叩いてくれました。


「パープルさん……」

「……我が身かわいさに平気でもっともらしいウソまでつく、キミのそういう薄汚いところ……私は嫌いじゃない……」

「パープルさぁぁん……」


 ……つまりあなた、本当はボクのこと嫌いなんじゃないですか……?

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