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ぷりんせす(1)

 いくら探してもカギ穴が見つからず、捨ててしまったカギ。

 なので、ピンクさんが『召喚』スキルで呼び出してしまいました……。


「……でもそれって、アリなんでしょうか?」 

「無条件ではないだろうが……盲点だった……」


 パープルさんが心底くやしそうに舌打ちしました。

 一度ブチキレてカギを捨てただけに、この結果には思うところがあるのでしょう。


「だけど、前にもカギの中身を召喚させようとして失敗したのに、今回はどうして上手くいったのでしょう?」

「……カギと中身は別物だ。しかし、カギとカギ穴はセットの関係にある……そして、カギ穴を開く権利は、カギの所有者にある……」

「所有物の召喚……確かに、それならピンクさんの召喚条件をクリアしています」

「スキルレベルも関係しているだろうがな……」

「しかし、いくらレベルが上がっても他人を呼び出すことはできないのでは?」

「その疑問については、おそらく彼女が答えてくれるだろう。見たところ、かなり特殊な状況下にあったらしいからな」


 ……宙から飛び出してきた、淡い緑色のウサギ。

 今はピンクさんの手厚い看病のもと、毛布に包まって眠っています。

 ボクたちと同じ研究所出身のウサギでしょうか? だとすると、ボクたちも同じような感じでこの世界に連れて来られたのでしょうか?

 なぜ? どうして? 何のために?

 ……答えは、彼女が握っているのかもしれません……


「あ、起きた」


 小さなうめきとともに、緑色の彼女はうっすらと目を開き。

 ……しばらくの間、まじまじとピンクさんを見つめていました。


「…………なに、この生き物」


 目をぱちくりさせたり、こすったりを繰り返し。

 あげく、確かめるように彼女はピンクさんの頬を引っぱったのでした。


「い、いたいよぉ、ミントちゃぁん……」

「しゃべった?」

「あの……ピンクさんが嫌がっていますので、手を離していただけますか……ミント、さん……?」

「ミント?」


 きょとんとした顔で、聞き返されました。

 

「え、だって、今ピンクさんが……」

「ピンク? この変な生き物のこと? というか、あなたもしゃべるのね。そっちの紫色といい、何なのあななたたちは?」

「何って……」


 ……同じウサギに言われても……。


「……ボクはブルー。彼女はパープルさんです。とりあえず、ピンクさんを放していただけますか、ミントさん」

「……あぁ、毛並みの色ね……なんて安直なネーミングかしら。で、ミントってのはどこにいるの?」

「目の前に居る」


 もぞもぞと、お腹のポケットからパープルさんが取り出したもの。

 パープルさんお手製の、『真実の手鏡』。

 この世の真実を映し出す……という謳い文句はさておき、かつて冒険者が落とした壊れ物を、きれいに修復した一品であることは確か。

 ぴかぴかの表面に映る緑色の生き物を、ミントさん(仮名)はぽかんと見入っていました。


「……ナニ、コレ……」


 ようやく発したのは、カタコトのような言葉。

 ご自分の頬をもんだり、引っぱったりを繰り返し、最終的には手鏡に思い切り顔を寄せて――。


「――なんなのよ、これぇぇぇぇぇええええええ!」


 ……と、洞くつの外にまで届くほどの、大絶叫を上げたのでした……。


「と、とにかく落ち着いて……パープルさんも、キノコをしまって下さい」


 大声でわめき散らすミントさん(仮名)。

 そんな彼女を黙らせようとしているパープルさん。

 ……一触即発の空気をなだめるだけで、寿命が数年縮んだ思いでした……。


「どういうこと? これはあなたたちの仕業? わたくしを『レイジュウ』にするだけじゃ飽き足らず、さらし者にするつもり?」

「いや、だからボクたちは何もしていませんし、あなたがどこかからやって来ただけであって……ほら、ピンクさんのこのカギ。これを使ったら、あなたが……」

「――『忘却の鍵』!」

「ほぇ?」

「……待って、だんだん思い出してきた……そうだ、あの時、わたくしは確かにこれを使って……それから……」


 唐突にピンクさんの右手ごとカギを握り締め、ブツブツ言い始めたミントさん(仮名)。


『忘却の鍵……使用者をゼロコストで強制的にロストさせる鍵。一度限り使用可能。使用後は破損する』


 そんな中、新たにカギに関する情報がボクの中で追加されたので、ひとまずパープルさんにも情報を共有することにしました。


「……なるほど」

「でも、使ったら『死亡ロスト』するカギなんて物騒なものを、ミントさんはどうして……」

「リスクよりリターンを選んだのだろう。ロストすれば、復活先に転移できる」

「つまり、緊急脱出手段……?」

「だがよほど切迫していたのだろう。鍵も壊れていない」

「確かに……ということは……」

「失敗したのだろう。鍵がこうして私たちに手に渡ったのがその証拠だ」


「これをどこで、どうしてあなたが持っているの!」 

「ふえぇぇぇん、ふたりとも助けてぇぇぇぇ、ミントちゃんが怖いよぉぉぉぉぉ」


 そろそろピンクさんが泣き出しそうです。

 ボクたちは頷き合い、騒ぎがより大きくなる前におふたりを引き離すことにしました。


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