うぉんてっど(1)
「ピンクさん、お塩がそろそろ無くなりそうです」
「んー、そうなのぉ?」
「……お塩が無いと、おいしいパンが焼けないのですが……」
「ちょっと待っててブルーちゃん。今たくさん用意するから」
「慌てないで下さい。コップいっぱいで十分です」
「分かった。コップいっぱいだねっ!」
差し出したコップに、山盛りの塩が出てきました。
「はい、どーぞ! これでおいしいパンがいっぱい焼けるかなぁ?」
「……そ、そうですね……これでしばらくは、大丈夫かと……」
「よかったぁ! じゃ、ピンクちゃんは『あにめ』の続き見てるねぇ~」
宣言どおり、ピンクさんは鼻歌を歌いながら再び『たぶれっと』に向かい合いました。
ちょうどお姫様や王子様が歌ったり踊ったりしているシーンのようです。
軽快なリズムとは裏腹のおぼつかない足取りで、ボクは山盛りの塩を、なるべくこぼさないようにキッチンスペースに戻りました。
「……釜の具合はどうだ?」
いきなりパープルさんが壁から出てきたので、あやうく塩をこぼしそうになりました。
そこにパープルさんが作った『勝手口』があるのは知っていましたが、やはりこの出入りの仕方は心臓によくないと思います。
「えっと……多分問題ないと思います。煙もちゃんと外に出ていますので、あとはボクの慣れ次第でしょうか。パンを打ったりこねたりするのも、まだまだ手探りですし……」
「そうだな……改善するにも、基準が分からん。いっそ『あにめ』で登場するガスコンロが私にも造れればいいのだが……」
「見た目それっぽいものは造れても、肝心のガスをどううればいいのか、分からなければ仕方ないですよ……」
「召喚は可能だ。実際、ピンクは呼び出してみせた」
「結果、大爆発でしたよね……実験台にされた冒険者さんたちが、あんまりでした……」
「キノコ銃同様、私のスキルと組み合わせれば取り扱いは可能だろう。私のスキルレベルが上がるまでは、君に石釜で我慢してもらうしかないな……」
そう言う、パープルさんの横顔は、ちょっとだけ寂しそうでした。
現在、ボクとピンクさんのスキルレベルは『2』。パープルさんだけが『1』のまま。
というのも、溜まったマナをパープルさんがご自分ではなく、ピンクさんのために使ったからです。
ボクたちが生きていく上で必要なもの。食べるものや身体を温めるもの……。
初めは洞くつの中にあったもので何とかなりましたが、それも次第に尽きていきました。
不思議な身体と『能力』を手に入れたとはいえ、ボクたちは元々ウサギ。それも研究所で飼育されていた、ただのウサギです。
外に出て、何をどうすればご飯を食べられるのかなんて、まるで分かりません。
おまけに出くわす人間は、なぜかボクたちを見るなり襲いかかって来るようなヒトばかり。
そんな中、マナがレベルアップに必要な量に達しました。
召喚がレベル『2』になったことで、ボクの情報スキル同様、ピンクさんの呼び出せるものの幅が大きく広がりました。
見たことのないもの、知らないもの、他人の所有物などは呼び出せない……という大前提はそのままのようですが、例えば先ほどの『塩』のように、『あにめ』で知ったものなら、マナの許す限り、自在に呼び出せるようになったようです。
ともかく、ことスキルに関してはパープルさんが一歩身を引いてくれたおかげで、ボクたちはケンカすることなく快適な洞くつ生活を続けることができています。
新しい出入り口を造ったり、ボクのキッチン・スペースを作ったりと、スキルに関しては誰よりも意欲を持っているにも関わらず……。
「確かにガスは便利そうですけど……ボクはこの石釜、好きですよ。そのうち『ぴざ』にチャレンジしようと思っています。レシピによれば、石釜が一番おいしく焼けるそうですよ」
「……君に作れるのかどうか怪しいが、まぁがんばれ」
「あはは……」
ボクが苦笑いを返したその時でした。
どぉぉぉーーん
洞くつの入り口から聞こえてくる爆音。
何が起きたのかは、手元の『マップ』を確認するまでもありませんでした。
「……またか」
「またですね……」
「えぇぇ~またぁぁぁ~~?」
今日もまた、どなたかが洞くつにやって来ては、消えていくのです……。




