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るーる(2)

 まずこの世界。

 やはりというか、ここはボクたちが元いた場所とは全然違う世界のようです。

 惑星パラディオン。これが、今いるボクたちの世界だそうです。

 ……といっても、研究所の外にすら出たことのないボクたちにとっては、あまりピンとこない話。

 具体的には大陸のどこかのようですが、そこはひとまず置いておきましょう。

 重要なのは、ボクたちの置かれた立場と状況。

 そして、マナについてです。

 どうやらこの世界には、ウサギという動物が居ないらしく、その影響でボクたちの姿もヒトとウサギの中間のようなものとなっているようです。

 こうした種族は、『人魔』というそうです。さしずめ、ボクたちは『ウサギ人魔』といったところでしょう。人魔の数自体そう多くはないそうですので、もしかしたらボクたちはこの世でたった3羽のウサギ人魔なのかもしれません。

 山賊たちがボクたちを「捕まえる」だの、「高値で売れる」だの、言っていた理由も頷けます。納得はできませんが……。

 この世界には彼ら人間の他に、『魔獣』と呼ばれる種族がいるそうです。名前からして明らかにただの動物ではないのでしょう。

 人魔は、人間と魔獣の混合種。あるいはどちらでもない種族のようです。人間に比べて生産力が低く、魔獣よりも身体能力に劣る。その代わりに、特殊なスキルが扱えるそうです。

 ボクたちのスキルが他の人々にとって、どれほどの価値があるのかは分かりません。

 ともかく……無闇にひけらかさないほうがいいのは確かでしょう。

 人間と魔獣が対立する大陸。

 ボクたちはそのどちらでもない人魔。たった3羽だけのウサギ人魔。

 ……これが、ボクたちの現状のようです。


「つまりピンクちゃんは~超ウルトラ激レアな可愛いウサギちゃん、ってことなんだねぇ!」


 デメリットばかり考えているボクと違って、ピンクさんはひたすら良い部分だけを拾い集めているようでした。

 あきれる反面、ちょっとうらやましくもあります。

 少なくとも、彼女は今を楽しんでいるのですから……。


「……で、『マナ』とは何だ?」


 くるくる飛び跳ねているピンクさんを、しかめっ面でパープルさんが睨みつけています。

 手にしたキノコ銃を抜く前に、ボクは慌てて話を戻しました。


「この世界の素となっているものだそうです。どうやらボクたちの身体も、この『マナ』で出来ているようです」

「……よく分からんな」

「ですよね……ただ、山賊さんたちが消えたのも、この『マナ』の喪失によるものと考えていいでしょう。身体を形作っていたマナが分解されて、その一部がボクたちに還元された。そうやって獲得したマナを使って、ボクはスキルを鍛えることができた」

「……あぁ、それで配分しろとメッセージが出たのか……」

「ボクが今後どうするかを考えた結果の『答え』でもあるのでしょう。マナがあれば、スキルを強化できる」

「それが私たちの生きる最良の手段、というわけか……」

「マナは身体やスキルの源だけでなく、取引材料にもなるそうです。つまり、誰かから食べものを交換するにも、マナが必要というわけです」

「ふむ……そしてマナを稼ぐ手段として、スキルがあるというわけか」

「おそらく、そう考えるべきでしょう。実際、ボクたちはそれを目の当たりにしましたし、自ら体験してしまったのですから……」

「……ちなみに、分解されたマナはどうなる?」


 チリのように消えてしまった山賊たち。

 彼らの意識が今、具体的にどのような状態にあるのかは、ボクにも分かりません。


「ボクの『情報』によれば、生命活動を終了したものは全て『ロスト』されるそうです。ロストしたものは、拠点にて復活できるそうですが、それには溜め込んだマナを大きく消費するそうです」

「マナが足りなければ?」

「……復活に時間がかかるか、あるいは『忘却』に委ねられるそうです……」


 自分で言っておきながら、ボクにも意味がつかめません。


「ま……とにかく気をつけるしかないな」

「ですよね……」

「……考えようによっては、後片付けが楽でいい……」


 最後の独り言は聞かなかったことにします。


「はいはーい。ブルーちゃん、しっつもーん」

「あ、はい。何でしょう?」

「ブルーちゃんのこれって、職員さんたちの持ってたアレに似てるよねぇ」

「えっと……確か、『たぶれっと』でしたっけ? まぁ、ボクも最初そう思いましたけど……」


 他にも用途ごとに形や大きさの違う画面を人間たちは持ち歩いていたり、部屋に設置したりしていたのを覚えています。


「じゃあさ、じゃあさ、『てれび』なんかも見れちゃうわけ?」

「あはは、そんなまさか……」


 教授たちがお仕事の合間、特に泊り込みの時なんかは、ボクたちも一緒になってよく見入っていましたっけ。

 だけど、いくら似ているからって、これはボクのスキルが生み出した半透明の板。以前に比べて画面が見やすく音が出るようになったくらいで、あんな不思議なものが……。


「……見れちゃうそうです」

「まじか……」

「ほんとにぃ、やったやったぁ」


 一体どういう仕掛けなのかは相も変わらずさっぱりですが。

 とにかく、教授たちが見ていたような映像作品が画面に並んでいます。


「ただし、視聴にはマナが消費されるそうです。ざっと見た感じ、作品にも限りがあるようですね。どういうわけか『あにめ』ばかりですが……」

「……『どらま』や『えいが』は無いのか?」

「はい。残念ながら……」

「ピンクちゃんは~『あにめ』大好きだよぉ」

「そういえば教授もよく見ていましたね。何か関係あるのでしょうか?」

「あるいは何らかの制限だろうな。まぁ、『あにめ』でも私は一向に構わん。どれにする?」

「お姫様~!」

「ウサギならバトルアクションだろう。奇妙な冒険ものにするべきだ」

「いやいや……ちょっと待ってください。これ、無限に見られるわけじゃないんですよ。後々のことを考えて、ここは慎重にですね……」


 スキルのおかげでこの世界のことを知ることができました。

 とはいえ、ボクたちは相も変わらずまだ右も左も分からない、3羽だけのウサギ人魔です。

 この世界はマナが全て。生きていくにも、スキルを使うのにも、マナが必要なのです。

 その事実を全く理解していないピンクさんが、ぽかんとした顔でボクを見るのは、まぁ分かります。

 しかしパープルさんにまで、「こいつ何言ってんだ?」的な顔をされるのは、さすがに傷つきました。


「……ブルー」


 深い……。

 深いため息をつきながら、パープルさんは哀れむような調子でボクの肩をそっと叩きました。


「ボ……ボクは、当然のことを言っただけで……」

「ブルーちゃん、つまんない」


 ぐさっ!


「そう責めるな、ピンク。びびりで優柔不断なところが彼女の魅力じゃないか」


 今の、褒め言葉を装った悪口ですよね……?


「それもそっか。ごめんね、ブルーちゃん」


 ……どうしてこういう時だけ息ぴったりなんですか、あなたたちは……。


「……分かった、分かりました、見ればいいんでしょ! これがきっと人間たちを知る手助けになる、そういうことですよね?」

「いや、それはどうだろうか。この世界の人間と、研究所の人間たちが同じとは思えない部分も多いからな」

「どーだっていいじゃない。ピンクちゃんがハッピーなら、みんなハッピーなんだから」

「~~~~~~」

「まぁしかし、君の言い分にも一理ある。それにこれは君の能力だ。君が人間というものをそこまで知りたいのなら、好きに選ぶといい。ピンク、それで構わないな?」

「しょーがないなぁ。ピンクちゃんはとっても可愛いから、ブルーちゃんにゆずってあげる。だからぁ、えんりょしないでブルーちゃんの好きにえらんでねっ♪」


 ……何を言っても無駄とは、きっとこのことなのでしょう。

 流れに逆らえない、ビビリで優柔不断なボクは、ただおふたりの『好意』に甘えるしかありませんでした。


「……案ずるな。少しくらいマナが減ったところで、後で取り戻せばいい……」


 耳元でそっとささやくパープルさんが、一体何を考え、どんな顔をしているのかは、振り向かなかったので分かりません。

 ボクに出来たのは、なるべく人間と動物が手を取り合うような……そんな、理想の『名作』を探すことだけでした。


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