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るーる(1)

 見たことの無い土地。見知らぬ身体。身に覚えの無い力……。

 森に入ったピンクさんが山賊たちに追いかけられて、いつの間にかボクたちも一緒に捕まって、危機一髪のところをパープルさんが彼らを撃退して……。

 ボクにはただ、目の前の状況に吹き飛ばされないよう、しがみつくことしかできませんでしたが。

 山賊たちが居なくなった今、彼らが住み着いていた『魔獣のすみか』という洞くつが、丸ごとボクらのものになりました。

 研究所に比べればとても快適とは言い難いですが、水や食料は残っていましたし、寝床になりそうな毛布もたくさんありました。

 ここでなら、しばらくは生活できそうです。

 なので、これからどうするのか、改めてじっくりと考えてみたいと思ったその時でした。


「……どのスキルにマナを配分しますか……?」


 いきなり『マップ』の表示が切り替わりました。

 様子を見るに、ピンクさんとパープルさんの『ミニマップ』にも同じ文面が出ているようです。


「……これは、一体……?」

「私に聞かれても困る」


 ついついパープルさんに頼ってしまうのは、ボクの悪いクセです。

 この世界がどこで、ボクたちの身に何が起きているのか、答えを求めているのは彼女だって同じだというに……。


「……ですよね。ごめんなさい」

「だが、選べるのは三つ。召喚、情報、合成とある。これは私たちの『能力』と見て、まず間違いないだろう」

「確かに……では、『マナ』というのは?」

「心当たりはあるが……ピンク、君は何をしている?」

「え? だって、選べばいいんでしょ? だからぁ、ピンクちゃんが選んであげようと思ってぇ」


 選んだらどうなるのか。また、何を選ぶべきか。

 ……なんて、まるで考えていません。

 止める間もなく、彼女は「えいえいっ」とご自分のミニマップ画面を連打していました。

 一体どんなロクでもない結果になるのか……ボクにできたのは、頭を抱えながら画面の変化を見守ることだけでしたが、意外なことに何も起きません。

 というか、画面はずっと同じ『どのスキルにマナを配分しますか?』という表示のままでした。


「……どういうことでしょう?」


 結局はパープルさんに尋ねてしまいましたが、彼女は特に嫌がるそぶりもなく、むしろ一緒になってボクの『マップ』を覗き込んできました。


「……やはりそうか」

「何か分かったのですか?」

「私の文面を見てみるといい」


 そう言って、パープルさんは顔を寄せます。

 ボクのマップと違って、彼女のミニマップは左目の前で固定されているので、頬をくっつけないと何が書いてあるのか分からないのです。


「……ボクのと同じ、ような……」

「よく見ろ。君の文章には続きがあるが、私のには無い。おそらく、ピンクも私と同じものを見ているのだろう」


 本当だ。

 パープルさんのミニマップには、スキルの名前までしか書かれていない。

 だけど……。


「正直、ボクにはこれがどういう意味なのか、全く分からないのですが……」


 ……スキル上昇にともないパーティ共有率も変動する……。


「……そうだな。しかし、はっきりしていることが一つだけある」

「何でしょう?」

「私やピンクが、バラバラに押しても何一つ変わらないということだ。おそらく、全員で同時に決めないといけないのだろう」

「ボクたち全員……それが、共有という意味でしょうか……?」

「やってみるしかないな。ピンクはともかく、私は君の『情報』を推す。君に異論がなければそうしてくれ」


 意外……。


「ご自分のではなく、どうしてボクのスキルを……?」

「今は何より『情報』が必要だ。それに比べたら、私やピンクのスキルを今すぐ伸ばす必要は無い。確か君のスキル『情報』は、レベルが上昇するごとに情報量と精度が増すと書いてあった」

「はい。ですが、どの程度正確な『情報』が得られるのかまでは分かりませんよ?」

「それでも今よりはマシだろう。こんな三行メッセージだけとか、マジでブチキレそうになる」

「そ、そうですね……」


 冗談ではなく本気だと悟ったボクは、すぐさま自分の画面をタッチしました。

 何度か叩いていると、ピンクさんの適当連打と重なったようです。


「……む」

「ありゃ?」

「こ、これは……」


 ボクの手元の画面が唐突に明るく輝き……そして急速に元の青白い半透明の画面に戻りました。


 ……獲得マナを配分しました……


 画面の変化はそれ以上でもそれ以下でもありませんでした。

 一体そもそも、マナとは何のことでしょう……。

 ため息まじりに、そう思った瞬間でした。


『マナとは』

「――うわっ!」


 いきなり耳元で声がしました。

 ピンクさんはもちろん、パープルさんでもありません。

 一体、誰が……。


『――パラディオンにおける物質やエネルギーの根源であり』


 また耳元で声。

 

「だ、誰ですかっ!」

「どしたの、ブルーちゃん?」

「…………」


 ボクの耳元では奇妙な声が途切れることなく続いていましたが、ピンクさんたちには全く聞こえていない様子。

 ……ボクだけにしか聞こえていない?

 そんなバカな……と言いかけて、ボクは思いとどまりました。

 なぜならボクは……いえ、ボクたちはすでに幾度も不思議な現象を目の当たりにしてきたからです。

 ピンクさんの不思議な力。パープルさんの恐ろしい力。そしてボクの、奇妙な力……。

 ボクの力は、おふたりのように何かを呼び出したり、触れたものを組み換えたりするような、具体的なものではありません。

 しかし、思い返せばこの力はいつだって、ボクの疑問に対する『答え』のような形を応じてくれていました。

 情報量と精度の増加……。

 これはボクのスキル『情報』のレベルが上昇した結果なのでしょうか?

 今までの図面や記号、投げやりな単語だけの返答に、変化が起きたということなのでしょうか?


『スキル『情報』はスキルレベルの上昇にともない、言語能力と知覚能力に大きな影響を与える』


 突然、声が切り替わりました。

 ……なんとなく予想はしていましたけれど、やはりびっくりします。

 ですが……一番驚いていたのは、自分自身に対してでしょう。

 今の今まで全く意味不明だった言葉が、当たり前のことのように感じられたのですから……。


「ブルーちゃん? 大丈夫ぅ?」

「察するに……何か分かったらしいな」


 ボクは神妙に頷きました。

 それから、ボクが耳にして理解できたことを、音と映像を交えておふたりに伝えたのです。


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