金髪後輩ギャルの誘惑
「あいつ女っぽいよな〜」
「ワカルワカル、なんかエロい目で俺らのこと見てくるし」
「マジでっ? 放課後の教室で犯されそー!」
僕は、昔から男が好きだった。
はっきりと自覚したのは小学三年生のとき。男友達にキスしようとして、はっきりと拒絶された。当初なぜ僕を拒絶したのか分からなかった。男はみんな男を好きになるものなのだと思っていた。
噂はあっという間に広まり、高校生になった今も僕がゲイであることを煙たがられる。僕の机には近づかない、友達は一人もおらず、誰にも好かれない。
ーーこうなるのならゲイを隠したかった。マジョリティを演じて、ふつうに友達付き合いをして、ふつうに女の子を好きになって。
でも無理だった。持って生まれたものは隠し通せないし、僕自身がとても辛い。不登校になりかけていた。僕を認めない学校なんか行く価値もない。そう思ってた。
『ーー理玖先輩、今日も遊びに来ちゃいました!』
生まれて初めて本物の光と出会うまでは。
※※
僕の部屋は東向きの四畳半の部屋で、少女漫画やボーイズラブ、ゲーム機で溢れている。夏は暑く、本が湿気でやられてしまうし、冬は寒さと乾燥で肌が傷んでしまう。そんな部屋に初めて大きな光が入ってきた。
「今日はご両親いないんでしたっけ?」
「……いないよ」
僕が答えると、大きな光はさらに輝いたように見えて。少女ーー七宮千鶴は微笑んだ。
「なんで、そんなことを聞くの?」
「えー。だって、先輩とやらしースキンシップしてるとき、親フラされたら嫌じゃないですかぁ〜」
「……! す、スキンシップなんてしないからな」
「そですか。残念です」
七宮は泰然と呟く。
やっぱりこの子は危険だ。
「あ、先輩。一年生は中間試験の範囲が解禁されたんですけど、先輩は確認しなくていいですか?」
「……成績なんて元々あってないようなものだし」
一年生の最後の方は学校に行かなかった。保健室登校を条件に進級できたけど、二年生になってから学校に通うつもりはなかった。
「学校楽しいですケド、何で行かないんです?? 友達たくさんいてゼッタイ楽しいっすのにー」
だからその友達がいないんだってば。
「ムー。頑固ですねー理玖先輩ってば。……頑固な先輩にはこーです」
僕の頬に七宮の足が飛んできた。ルーズソックスのおかげで痛くないが……ってそりゃ関係ないか。
「おいやめろ」
「えへへ」
「やめろって言ってるだろう」
「ヤーンです」
ああもう。僕は七宮の足を手ではらう。
「いい加減にしてくれ。君がどう言おうと、僕が学校へ行くことはない。何と言っても、だ」
「えー? アタシ先輩に学校に来てほしいなんて言ってませんけどー」
「あ?」
「学校のことで蹴ったんじゃなくてー、先輩にムカついたから蹴ったんですよ」
「何なんだよお前」
もうわけわからん。毎日僕の部屋へ上がり込んで、何時間も居座って……。僕はこいつに何かしたのか?
「何でいつもいつも僕の部屋にやってくるんだ? 僕が吐くのは暴言や虚言の類だ。こんなとこに来るくらいなら、君の言うお友達と遊べばいいんじゃないか?」
そういうと七宮はピク、と耳を震わせた。
「先輩」
そして俺の耳元まで擦り寄ってくる。
「――理玖先輩、アタシを襲ってください」
「な――!」
「怒りのままに襲っちゃいましょうよ〜。オオカミさんみたいにグオー! って襲いかかってきちゃっても。……どーです?」
「やめろ!」
「きゃっ」
力づくで彼女を引き剥がす。ごん、と硬い音がなる。七宮が机の角に頭をぶつけたようだ。
「本当、何なんだよ。僕がどれだけ言っても君は……くそ」
「……アタシ、何があっても先輩のこと好きなんで」
「っ! あーくそ! 何なんだよ!」
僕はドアを開けて階段を駆け降りる。部屋に七宮を残してきたが、何を盗られようがかまわない。盗まれて困るものもない。ただ七宮と同じ空間にいるのが怖かった。
七宮の明るい言葉遣いや気さくな態度も、僕の本性を知れば絶対に冷たいものに変わる。クズを見下げたものに変貌する。
けれどまた別の気持ちも浮かび上がる。七宮を突き放し部屋に置いてきたことへの後悔。
論理矛盾だ。僕は七宮が嫌いなはずで、それなのに離れるのが惜しいと感じてしまう。
「……僕は面倒臭い奴だ」
だから、三年前のようになってしまう。
二階から足音が駆け降りてくる。七宮が姿を見せた。
「先輩が調子悪いそうなんで今日は帰りますケド。明日も来ますんで、ちゃんと待っててくださいね。……先輩を男にしてやりますよ」
七宮が蠱惑的な笑みを浮かべる。小さな唇をぺろり、と舐めた。
「じゃ、また明日です、理玖先輩っ!」
そう言って七宮は僕の家を出た。
明日何が待っているのか大体の想像はついていたが、どうしたらいいのかわからなかった。
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