亡き者の再訪
目の前にいるのが、彼女であるということが、まだ信じられずにいた。
顔立ちや服装、髪色がたまたま同じなそっくりさんだとしか考えられない。そして、「久しぶりやね。」という、関西弁なまりのそのイントネーションを聞いてもなお、目の前にいるその女性が、彼女であるということが信じられなかった。
なぜなら、彼女は一週間前に亡くなったはずだったからである。
僕は、バイクを止め直し、ヘルメットを脱いで再度その女性をしっかりと確認した。
僕の心臓は激しく鼓動し、不思議な感情が胸中に渦巻いた。僕は真剣な表情で、目の前の女性を見つめ続けた。彼女の瞳には、昔と変わらぬ輝きが宿っていた。
「…本当に、君なのか?」彼はつぶやいた。
彼女は微笑みながら、ゆっくりと頷いた。
僕は頭が混乱し、感情が交錯した。彼女が一週間前に亡くなったという事実は確かであり、それを確認したのはまぎれもない僕自身だった。しかし、目の前にいる彼女は、そっくりさんや幻ではなく、本当に彼女そのものだった。
「どうして? 」僕は言葉にならないような言葉を必死に絞り出し、彼女にそう問いかけた。
彼女はゆっくりと深いため息をつきながら語り始めた。「私は、まだこっちで何かやり残したことがあるみたい。」
僕は戸惑いながら、彼女の言葉に耳を傾けた。
「あっちの世界で会った、おっちゃんがそうやって言っててん。それは、ただ事故で急に死んじゃったから、とかいうそんな単純なもんじゃなくて、もっと大事なことみたいやねん。でも、おっちゃんに聞いてもそれが何なのかってのは教えてくれへんかった。その代わり、もっかいチャンスをあげるから自分で解決してこいやって。」
心がざわめき始めた。
彼女は、やり忘れた宿題を完成させるためにこの世へ帰ってきたというのだ。
彼女の言う「あっちの世界」へは、その宿題をやり切ってからでないと行けないらしい。
「このままそれを解決しないで、ずっとこっちにいればいいよ。」僕は、知らない間に頬を濡らしていた涙を拭き取り、そう言った。
「そうしたいところやねんけど、そういうわけにはいかへんねん。向こうでは、お母さんが待ってるし、やり残したことを一ヶ月以内に解決できひんかったら、魂や幽霊って言う概念すらなくなって、本当の無になっちゃうんやって。それに、こっちの世界の人の記憶からも消えちゃうんやって。」
彼女の母は、彼女が中学生のころに他界していた。
僕は、彼女が帰ってきてくれた喜びと、長くとも一ヶ月後にはまた彼女との別れが待っているという寂しさとが入り混じっていた。それは、彼女の死を知らされたときに感じたものを遥かに超えるどうしようもなさだった。しかも、今度の別れは、おそらく本当の別れになるのだろう。
これからどうすればいいのか、僕になにかできることがあるのか、そもそも、今起こっていること自体が、夢や幻覚なんではないかという半信半疑な気持ちも未だ拭いきれてはいない。
僕は、頭の整理が追いつかず。黙ったまま彼女を抱きしめ、一週間前の彼女の葬儀を思い起こした。
この出来事は、夢であり夢でなかった。
ありきたりな話ですが、自分自身の状況や感情を織り交ぜながらストーリーを考えてみました。
気が向けば、続きを考えてみたいと思います。