1 友だちの家
「ねえねえ、聞いて! 誕生日に新しい変身セット買ってもらっちゃった!」
「え、本当!?」
「すごーい」
桃花ちゃんの言葉に、友だちがみんなうらやましそうに歓声を上げている。私も、その一人だ。
休み時間に教室で、好きな物の話をしているのは楽しい。
「いいなあ、だってまだ発売したばっかりでしょ? 誕生日が新シリーズ始まってすぐってトクだね」
そうは言うけど、誕生日になっても私の家だったらおねだりしてもきっと難しい。もう四年生なんだから、そんなものいらないでしょ? とか言われてしまいそうだ。
本当にいいなと思っていると桃花ちゃんが言った。
「でしょ! 今日遊びに来る? せっかくだから、一緒に遊ぼうよ!」
「いいの?」
「私も使わせてもらっていい?」
「うん! でも絶対壊さないでね。大事なものなんだから! だって、買ってもらったばっかりなんだもん。葵衣ちゃんも来る?」
「行きたい!」
葵衣ちゃん、と自分の名前を呼ばれて私は答えた。
* * *
小学校から帰って、ぴかぴかのマンションの一室にある自分の部屋に荷物を置いて、出ていく前に私はお母さんに声を掛けた。
「桃花ちゃんの家に行ってくるね!」
「行ってらっしゃい。ちゃんと六時までには帰って来ないとダメだよ。ランドセルはちゃんといつもの位置に置いた? 放り出したりしてない?」
「ちゃんと置いたよ」
「そう? ならいいけど。気を付けて行ってきてね」
「わかった。行ってきます!」
まだ何か言いたそうなお母さんの言葉をさえぎって返事をした私は、急いで家を出た。今からお母さんが私の部屋にチェックしに行くかもしれない。
大丈夫。ちゃんと片付けてあるはずだ。ランドセルを放り投げたりはしていないし、床に置きっぱなしにもしていない。
お母さんが怒るようなことはしていない。
私は何かを振り切るように走って、桃花ちゃんの家へ向かった。
* * *
桃花ちゃんの家には、もう他の友だちも来ていた。
「わー、すごい! かわいい!」
「音楽も流れるし、音も出るんだよ」
「え、本当!?」
「わ! 声も出る!」
「本物みたい!」
「私も持ってみていい?」
にぎやかにしている中で、私もそう言ってみる。自分では絶対買ってもらえないような物だから、せっかくなら触ってみたい。
「いいよ。あ、でも順番ね、順番」
「うん!」
順番だろうが何だろうが、一番新しい変身グッズに触れるんだ。嬉しいに決まってる。
わくわくと私は待つ。
みんなすごく嬉しそうで、順番を待っている間もなんだか楽しい。
「はい、どうぞ」
「ありがとうっ!」
ようやく渡された変身グッズは、前の子がしっかり握っていたせいかちょっぴりあたたかかった。
「ボタン押してみなよ」
桃花ちゃんに言われて、ボタンを押してみる。テレビでやっているのと同じ音楽が流れて、本当に変身しているみたいだ。私は思わず変身ポーズを決めてしまう。
「やっちゃうよね。でも、本物みたいに服が変わらないのが残念なんだけど」
桃花ちゃんが言って、みんなが笑う。
最後に来た私で、一巡りしたらしい。みんな満足げな顔をしている。
そうして一息ついたところで、一人が気付いた。
「あ、それ、去年のやつだよね」
視線の先には、去年やっていたシリーズの変身グッズがある。
「もう古くない?」
それを見て、私は言ってしまった。
「そんなことないよ」
桃花ちゃんがムッとした声を出す。
「でも、お母さんが捨てなさいとか、言わない?」
「そんなこと言うわけないよ。新しいのあるからって、去年のが嫌いになるわけじゃないもん。去年のだって面白かったでしょ」
「うんうん。最終回すごかったもんね」
「葵衣ちゃんはもう嫌いになったの? 前、好きだって言ってなかった?」
「……それは、そうだけど」
そこまで言われて、やってしまったと思った。さっきまで盛り上がっていた空気が、下がってしまっている。しかも、みんなが私を見ている。
「ええと、私もまだ好きだよ!」
「本当?」
「本当だよ」
嘘じゃない。私も最終回がすごく面白いと思って、終わってしまうのがさみしかった。新しい予告もわくわくするけれど、それ以上にさみしさの方が大きかったのに。