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}融和する世界たち{  作者: LostAngel
第一章:人魔闘争世界『マナレガリア』
9/15

第九話

 }第九話{


 強い!


 四天王というのは、これほどまでに強いのか。


 俺、アレクは獣の四天王ウィールドと相対しながら、そんなことを考えていた。


「オラアッ!」


 筋肉達磨の体から繰り出される、パワーとスピードの両方を併せ持つ一撃。


 何度目かも分からないそれを、寸でのところで躱す。


 受けたらダメだ。さっきのように、身体ごと吹き飛ばされる。


 先ほど放った俺の最初にして唯一の攻撃は、ウィールドの爪によって易々と受け止められた。


 一瞬の鍔迫り合いの末、純粋な力強さで負けた俺は吹き飛ばされてしまった。


「よけてばっかじゃ、面白くねえなあ!」


 はっ。どうとでも言え。


 右、左、右、左、右と、左右交互に繰り出される爪の攻撃。


 それらを、身体を捻る、しゃがむなどの動作で避ける俺。


 下手にこちらからしかけて、また力勝負になるとダメだ。俺が負け、大きな隙を晒してしまう。


 よって、スタミナ勝負に持ち込む。


 ウィールドは一撃一撃に全力を込めて放っている。


 人間と魔物という種族の差はあれど、これだけ体力を消費させれば、先にガタが来るのはあちらの方だろう。


「つまんねえなあ、せっかく、反撃させてやろうと思ってゆっくり殴ってたのによう!」


「なにっ!」


 全力では、なかっただと!?


 避けるのが精一杯のあの攻撃が全て、手加減されたものだったというのか!?


「ッラアアッ!」


 短いかけ声とともに、ウィールドの右腕が消えた。


 そして一瞬で、見えるようになる。


 その腕は、俺の腹に向かって伸びていた。


 消えたんじゃない。目で捉え切れていなかっただけだ。


 その瞬間、衝撃。


「ぐふぁぁぁっ!」


 次は、違和感。左側の脇腹が、いつもと違う気がする。


 血を吐きながら後ろへ吹き飛んだ。視界に鮮やかな赤が舞う。


 ……そうか、俺は。殴られたのか。


 壁かなにかに背中を打ち付け、ズルズルと座るようにしてもたれかかった。


 ただ殴られただけで、俺の腹は。


 下を見て、自分の腹を覗き込む。


 鎧が大きく凹んでいた。腹の様子が分からない。


「がはああっ!」


 咳き込む。血が口から溢れて地面を濡らす。


 ようやく痛みが襲ってくる。


 痛い。苦しい。


「あああっ……」


 声を漏らすと、余計に痛い。苦しい。


「あああっ……あああっ……ああっ……ああああっ………」


 痛くて、声が漏れる。その声を出すとまた痛くなって、声が漏れる。


「痛みに耐えるのが精一杯か。いや、耐えられてねえか。うるせえし」


 顔を上げる。


 ウィールドがなにか言っている。


 でも、痛い、苦しい。


「期待はずれだったな。さっさと殺すか」


 滲んだ視界の中が、茶色で満たされていく。


 ウィールドが、こちらに近づいてきている。


「ああああっ……ああっ……」


 殺される。


 動かないと、殺される。


 これまでにも、戦いの中で大きなケガをしたことがあった。

  

 痛みに苦しみながらも、目の前にいる敵を打ち破ってきた。


 そうやって、今日まで生き残ってきた。


 でも、この傷は違う。


 呼吸すら許してもらえないほどの、痛み。


 立ち上がることすら考えさせないほどの、苦しみ。 


 茶色がぐんぐんと広がっていく。あと数歩で、俺のところに来る。

 

 痛い、苦しい。


 それしか考えられない。


「じゃあな」


 茶色でいっぱいになる。目の前に、ウィールドがいる。


 俺は、ここで、死ぬ?


 ……それは、ダメだ。


 サーニャは、ミキは、俺を信頼してくれた。


 俺は、それに応えなければならない。


 体をコントロールしろ。感じる痛みを消し去れ。


 頭をクリアにしろ。覚える苦しみを排除しろ。


 視界が澄んだ。


 前に焦点を合わせると、すぐそこでウィールドが右腕を振りかぶっていた。


「……あ、あああああっ!」


 剣士の性か、あの一撃を食らっても俺の右手には剣が握られていた。


 咆哮と共にそれを持ち上げる。


「……ほう!戻ってきたか!」


 腕を止めるウィールド。俺の無様な様子を眺めている。


 無様でいい。こいつは俺を侮っている。


 今がチャンスだ。


 切っ先を正面にむけたまま膝を折り曲げ、壁を支えにして立ち上がる。


「でも、次の一撃で壊れるなよ!」

 

 ウィールドが再び腕を持ち上げる。


 俺は剣を両手で握りしめる。


 今までのように、見てから反応してはならない。


 攻撃の前に、躱す動作を取らなければならない。


 先ほどの一撃は、掛け声と同時に攻撃が繰り出されていた。


 耳だ。耳を集中させろ。


 いや、目だ。声が届くより先に、口が開くはずだ。


 目だ。やっぱり目を集中させて、口を観察しろ。


 いや、胸だ。口を動かすよりも前に、あの毛むくじゃらの胸が空気を吸い込んで膨らむはずだ。


 目を集中させて、胸を観察しろ。


「ッ」


 攻撃の前の掛け声の前の呼吸。


 それが今、始まった。


 ここだ!


「オ」


 攻撃の前の掛け声。


 俺は上体を前に逸らしながら、地面を蹴る。


 刃が前に進んでいく。


「ラ」


 ウィールドの腕がブレる。


 切っ先がウィールドの胸に触れる。


 かすかな抵抗が両手に伝わってくる。  


「ア」


 ウィールドの爪が俺の左肩に到達する。


 刃が、ウィールドの胸の中に潜り込んでいく。     


 抵抗がさらに強くなる。


「ア」

 

 爪が左肩を壊す。


 剣から左手を放し、右手だけで刃を前へと滑らせる。


 感じていた抵抗が無くなった。


「ッ」


 左肩の関節が内側に外れる。 


 右足を一歩踏み出し、グイと剣を押し込む。


 刃の全てが胸に飲み込まれ、柄がウィールドの胸に当たって勢いが無くなる。


「!」


 俺の左腕がよじれると同時に、振り抜かれたウィールドの右腕が姿を現す。


 ものすごい衝撃が加わり、壁を粉砕して後ろに吹き飛ばされる。


 色んなものにぶつかり、やがて勢いがなくなった俺の体は、仰向けになって地面に転がった。


 目に映るのは地面と住居、青い空。それにそびえ立つ王城。


 視界が徐々に狭くなっていく。


 俺は意識を失った。



 ※※※



 もうすぐだ、もうすぐ。


 目に映る城の姿が随分と大きくなってきた。

 

 王都を目指して旅を始め、今日で三日目だ。


 魔物と戦うために足を止める以外は、常に全速力で走っている。


 これなら、美紀たちに追いつけると思いたい。


 エドが持っていた、毒の血の能力。この力で、美紀とアレク、サーニャを絶対に救う。 


 それが、俺がこの融和した世界で果たさなければならない役割だ。


 立ち止まり、傷口が開きっぱなしの左腕を振るって、行く手を遮る魔物を倒す。


 もう、腹が空いたなんて言ってられない。


 魔物の亡骸を放置し、再び足を動かす。  


 脚も、肺も、左腕も、とっくのとうに限界を迎えているだろう。


 『回復の魔法印』が、これらの限界を知らせる痛みをシャットアウトしている。


 いつぶっ倒れるか分からない。


 分からないが、そんなことはさせない。


 そんなことをしている時間はない。


 ただ、走ることに時間を消費しろ。


 一歩でも前に、一メートルでも先に、体を置け。


 俺は歯を食い縛り、拳を強く握りしめる。


 意識を、手放すな。


 ただ、城に向かって進め。

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