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聖女様方の表と裏

作者: けー



 この国には聖女と言う存在がいる。

 聖女とは、祈りを捧げ癒しをもたらし、ときに雨を呼びそして雨雲を晴らすことさえある。

 聖女とは国にとって重要であり、尊ばれ守られる存在である。


 だが、しかし。当代きっての聖女は二人いるが、本当に聖女と呼んでも良いのだろうか。いや、一人は聖女と呼ばれて間違いないだろう。ただ、もう一人、それが問題だ。俺はその疑問をどうしても拭えないでいた。


 教会所属の聖騎士団に入り、聖女様付になって数か月。だと言うのにも拘らず、俺は疑問しか持てないでいる。

 こんな有様ではいけないとわかっている。聖女様付きの護衛聖騎士である俺が、聖女様に対して疑いを持つなんて許されるわけがないと。

 それでもだ。それでも俺は、どうしても納得ができないんだ。


 “あの”聖女が聖女であるだなんて!


 当代の聖女様は二人いる。俺は聖女様の護衛騎士に選ばれたときに注意事項を言い渡され、誓約書に署名をし、ようやく晴れて護衛騎士と名乗れるようになったときに、お二人同時に顔合わせの挨拶をした。

 遠目に見たことは何度もあった。噂でも聞いたことはいくつもあった。だがしかし、注意事項にあったこととはいえ、実際に目の当たりにするとその相対的姿に表情を変えないことに苦労した。


 一人は少しくすんだプラチナブロンドの緩いウエーブのかかった髪を緩く結い上げ、大きく真ん丸な美しい蒼の瞳で微笑む、小柄で華奢な少女と言っても過言でない容姿の聖女様。

 その姿は可憐で、微笑めば花が咲くように可愛らしく、きっと表情を隠せば月にも負けないほどの美しさを見せるだろうその容姿。見ているだけでも癒される、そんな聖女様だった。

 もう一人は同じようなプラチナブロンドでも、驚くほどの艶やかさを持つストレートな髪を高い位置で一つに結い上げた聖女様。香油の香りだろうか、甘い香りが漂ってくる。

 そして頬はふっくら……、いや、パツパツで、目は美しい蒼ではあるが、小柄な聖女様と違い瞼と頬の肉のおかげか、少しばかり小さく見える目。それだけでなく、二人は同じ形のワンピースを着ているにも拘らず、華奢な聖女様はその小柄さが強調されるのに比べ、このもう一人の聖女様は腕も、腹も、布地がぱっつんぱっつんとしていて、今すぐにでもはち切れそうではないか。

 華奢な聖女様は身長も低く、それはそれは力を入れて抱きしめてしまえば折れてしまいそうなほどの細さに比べ、こちらは身長も少し高く、抱きしめれば腕はなんとか回るだろう、か? たぶん……、うん。


 そんな対照的すぎるお二人は、姉妹だと言う。そう、事実、実際の、本当に、血の繋がった姉妹だと。

 小柄で華奢な聖女様が妹で、……大柄な、いや、素直な言葉で言おう。太っている、大層太っている、聖女様が姉だと。


 事実として聞いてはいたが、実際に間近で拝見しても、その、太さと言うか、肉の多さと言うか、お二人の顔が似ているとはあまり思えない。ただ確かに、艶は違うが髪の色や目の色が同じだと言うことはわかる。それぐらいだろうか。

 そんなお二人を前に、俺は誓約書通りに何とか表情を正して挨拶することに専念した。


 それからは護衛騎士の一人として、お二人の近くにいることが俺の仕事になった。

 妹聖女様は華奢な割にくるくると良く働き、祭壇を前に跪き祈る姿は神々しく、教会内での花壇の手入れや雑務なども良くこなし、隣接している孤児院にもよく訪問なされて、孤児たちと戯れることもある。

 姉聖女様は少しおっとりと言うか、マイペースな方だと言うことはすぐに理解できた。

 祈りの時間に少し遅れそうになって、どしどしと足音を響かせて慌てて礼拝堂室に来ることも多々あったり、なぜか、妹聖女様と違って椅子に座って祈りを捧げたり、孤児院に妹聖女様と一緒に訪問なされても、外で孤児たちと泥にま塗れながら戯れる妹聖女様と違い、どちらかと言うと室内でゆったりと椅子に座って本を読んでいたりする姿が多い。


 そんな聖女様たちではあるが、妹聖女様は姉聖女様を慕っているらしく、よく「お姉様、お姉様」と呼び掛けては甲斐甲斐しく世話を焼いたり何かに連れて話しかけたりしている姿も多い。

 俺にはそれが疑問でしかない!


 そう、なぜ、妹聖女様は姉聖女を慕っているのか!!


 聖女として教会から認定され、聖女として教会で暮らしている姉聖女。それを疑うのは間違っていることだとは俺も十分に、いや、十二分に理解はしている。

 それでも、だ。それでも、俺には理解ができない。納得できない。姉聖女はそう思わせる姿を、十二分に見せているではないか!!



 聖女様と言っても、教会での暮らしは教えに従い質素な生活が基本だ。基本甘味類や娯楽などはない。

 だが供物として捧げられた物や、聖女様自身に献上された物などは優先的に聖女様に渡されることになっている。


 そしてそれはある日の昼食のことだった。その日は教会に供物として捧げられていた果物がデザートとして出された時のことだ。

 まず食事にデザートが出ることも甘味が出ることも基本ない教会での食事。さぞ聖女様たちもお喜びだろうと俺も思っていた。だが、そこで俺は驚愕することになる。

 なんと、姉聖女は何も言わずにいつもと違って素早い動きで妹聖女様の果物の入った器を取り上げたのである。そしてそれをさっそく、と言わんばかりに嬉しそうに頬張るではないか!

 そのまま自分の分も平らげ、妹聖女様には何も言わず、ただ満足そうな姉聖女!!

 その素早い動きと驚きで、瞬時に理解ができなかったが、理解するとすぐに妹聖女様を見てしまった。何とも言えない気持ちでその表情を伺ってしまった。

 何処か諦めたような微苦笑を浮かべ、姉聖女を見る妹聖女様を何とも言えない気持ちで見守ることしかできなかった。

 そう、悲しいことにただ何も言えず、見守ることしか俺にはできない。なぜならば、護衛騎士になるときに書いた誓約書の中には、聖女様たちの食事について何も言ってはならない、とあったからだ。


 またある時の夕食時、それはまたしても起こった。

 その日は供物として魚が捧げられた日だった。それは聖女様の夕餉のメインとされ食卓に上ったのだ。

 だが、それを見た姉聖女は嬉しそうに微笑み、そして「それ、貰うわね」とおっとりとした口調で妹聖女に言ったのだ。

 妹聖女様は一瞬躊躇う様子を見せ首を横に振ったが、それぐらいで諦める姉聖女ではなかった。笑顔を崩さずそっとその手を差し出して見せた。妹聖女様は少し俯き、また諦めたような微苦笑を浮かべ、姉聖女の差し出されたままの手が下げられることがないと察すると、間を置いてからその皿を差し出したのだった。


 食事だけでもこれだけではない。姉聖女は何度も妹聖女様から皿を取り上げ、食べている途中のものまで寄越させることすらあった。その度に妹聖女様は微苦笑で断り、躊躇い、俯き、最後には諦め差し出すのだった。

 元々、姉聖女と妹聖女様の食事量は違うように準備されているのだ。姉聖女様の方が多く準備され、妹聖女様は少し少なめに用意されているにも関わらず、あの姉聖女は毎回毎回妹聖女様から食事を奪うのだ。

 俺にはそれが歯痒く、だが、誰も、先輩騎士たちや他の聖職者達ですら何も言えない状況。何なら苦笑しているものまでいる始末。俺は静かに憤りすら感じていた。


 そしてそんな姉聖女の横暴は、食事のときだけではないと気付いてしまった。

 それはある日のことだった。民から聖女様たちにと献上された香り高い香油。それは女性に人気の物で、甘くフルーティーな香りの物だ。

 それが聖女様にと各一本献上された、はずだったのに、あの姉聖女はそれを見るや否や、「貰うわね」と、微笑んだのだ!

 信じられるか!? 仮にも聖女と呼ばれ、きちんと同じ物が自分の分もあるにも拘わらず、あの姉聖女はにっこりと笑い、二本とも手に取って持って行ってしまったのだ!!

 そして次の日からは姉聖女の髪の艶が増し、甘い香りが漂う日々。それに比べ、妹聖女様の髪は艶もなくくすんだまま。

 それを見て、俺は妹聖女様の髪のくすんでいる理由に気づき、何とも言えない気持ちになった。


 他にも献上された焼き菓子を独り占めする姉聖女。果物のシロップなどを独占する姉聖女。お二人に、と献上されたにも拘らずすぐに自分の物にする姉聖女。そんな姿を多々見ることになった。


 そして姉聖女の横暴さはそれだけでは収まらず、生活の中でも発揮されていた。

 聖女様と言っても教会で生活するにあたって、教会の教えに則り清掃などもこなす。高いところの埃を払い雑巾で磨いたり、床を掃いたりと聖女様方も掃除をこなす。

 それ自体は理解ができるし納得もできる。だが、だ。またしてもあの姉聖女はやってくれるのだ!!


 姉聖女は毎回毎回箒を持ち、床を掃くばかりで他のことをしようとはしない。それに反して妹聖女様は率先して雑巾を持ち、埃塗れになりながらも踏み台を使い高いところや這い蹲って低いところ、何なら床の雑巾がけをするではないか。

 その細い腕を器用に使い、隙間などにも手を伸ばし、自分が汚れることも厭わずに懸命に掃除をする姿はまさに聖女様。そして最後には手持ち無沙汰になりただ見ているだけの姉聖女……。


 またある時には聖女様たちが並んで歩いていたある日、それは起こった。姉聖女を慕う妹聖女様が姉聖女に近づいたとき、その姉聖女の肉に跳ね返されてしまったのだ!

 とっさに助けようと手を差し出すより先に、姉聖女が手を差し出し、そのはずみで妹聖女様の足を踏んでしまった。そう、か細い足を、大層太く重い足で、踏んでしまったのだ……。

 俺は護衛騎士として失格だ。誰よりも守るべき存在を守れず、妹聖女様はの足は赤く腫れあがり、骨にまで達する怪我を負わせてしまった。

 確かにこれは姉聖女のせいではないが、それでも、それでも俺は……。


 話では聞いていたこともあった。姉聖女のせいで妹聖女様が怪我を負うことがあると。時には姉聖女に伸し掛かられ背中を打ち付けた、という話や、酷いときなど腕を骨折したこともあると聞いていた。

 だがしかし、本当にそれは全て偶然なのだろうか? そんなこと何度も起こり得ることなのだろうか?

 この時の俺はすでに姉聖女に対して、疑心で溢れてしまっていた。


 そしてとうとうやってきてしまう。俺のこの気持ちが爆発してしまう日が。


 それはとある部屋の整理をし掃除をすることになった。いつもと同じく聖女様方も手伝うことになり、俺は護衛騎士として手は出せないが妹聖女様から目を離さないようにしていた。


「じゃあ、まずは、この荷物から運んじゃいますね」


 微笑みながら言う妹聖女様は、そのか細い腕に見合わない箱を重そうに何とか持ち上げ、よろめきながらも開け放たれた扉を出て行こうとする。そこに心配そうな顔で寄り添おうとする姉聖女。どう見ても邪魔でしかないし、何ならその太い腕でお前が持てよ、とさえ思い、何がしたいのかと見ていたら、妹聖女様がよろめいたことでまた姉聖女の肉に跳ね返されるではないか!!

 姉聖女の腹肉と重い荷物で余計に反動が付き、勢いよく倒れそうになる妹聖女様を俺は咄嗟に抱き留め、何とかお守りすることができたが、とうとう堪忍袋の尾が切れてしまった。


「何をするんだ! どうしてそう妹聖女様の邪魔をする!!」


 俺の顔は険しく厳めしいものになってしまっているだろう。目も鋭く姉聖女を睨みつけてしまっているだろう。それでも俺は言わずにはいられなかった。

 姉聖女は妹聖女様に駆け寄ろうとしていた足を止め、狼狽えたように俺と妹聖女様を見る。


「なぜこんなにも慕ってくれている妹聖女様を邪険にする!? こんな重い荷物ならば、体格の良い貴女が運べばよいではないか!!」


 怒鳴るように言葉を強めて言ってしまったのは、これまでのことがあったから余計のことだっただろう。それをどこかで理解しながらも、俺は姉聖女を睨むことをやめることができなかった。

 そのとき、腕の中で弱く身じろぐ存在に気づく。


「貴方、何を言ってるんですか?」


 それはどこか冷たく、聞いたこともない低くなった声。誰の言葉か一瞬理解ができず固まってしまう俺。それを気にすることなく、妹聖女様は邪魔だと言わんばかりに抱き留めていた俺の腕を押し剥がして睨みつけてきた。


「お姉様はあたしを邪険になどしたことはありません」

「え? ……いや、しかし」

「まずもって、貴方はこの荷物をお姉様に運べと言いますが、どうやって運ぶんですか!?」


 妹聖女様の怒気を孕む強い声が聞こえる。こんな声を今まで聞いたことはなく、俺が狼狽えてしまう。

 それでも、誰が見たって答えはわかるだろう。こんな重い荷物ならば、華奢な妹聖女様ではなく、姉聖女が持つべきだと。


「あ、姉聖女様の方が、体格も良く、重い荷物ならば……」

「はぁ、何を言ってるんですか? お姉様がこんな荷物を持てば、それこそ腰と膝を壊してしまうかもしれません。それに何より、お姉様ではこの荷物を持って扉を通れません」


 ……、ん?


「わかってますか? お姉様がこの荷物を持って正面から出ようとしても、荷物と腕の幅で扉を潜ることはできないでしょう。横向きになればもっと、お腹と箱が邪魔で通れません。物理的に無理です」


 言い切った妹聖女様の言葉を聞いて、つい姉聖女、荷物、扉、そしてまた姉聖女、とそれらを見てしまうと、姉聖女の何とも言えない申し訳なさそうな苦笑が見えた。


「それにお姉様だって、太りたくて太っているわけではないんです。私のせいなんですから、これぐらい私がするのが当然です」

「いや、待ってください! それこそおかしな話ではないですか!? いつも食事を奪われて……」

「誰ですかそんな風に言っているのは!! どうして誰もちゃんと説明してないんですか!!」


 妹聖女様は勢い良く立ち上がるとそこにいる皆を険しい顔で見まわした。


「お姉様は太りたくて太ってるんじゃないんです! あたしのせいなんです!!」

「し、しかし、食事や献上物のお菓子などを妹聖女様から取り上げているのは」

「あれは、私が食べきれないことを理解しているからこそ、お姉様が食べてくれてるんです。自分でも頂き物だから頑張って食べなければいけないのはわかってるんですが、私は昔から食が細く、食べすぎると吐いちゃうんです」

「は?」


 俺の口から間抜けな音が漏れる。吐く??


「食べる量を少しずつでも増やしていかなければ、胃が大きくならないのはわかってるんで、頑張るんですけど、お姉様の方が私の顔色から限界を察してくれるんです。そして供物の下げ渡しですから、残すのも違うからと食べきってくれてるんです」

「私は妹と違って、胃も大きいので食べれるから食べているだけですよ。貴女が気にすることはないの」

「お姉様はそう言うけど、だからってこんな勘違いされるのは違うわ!!」

「いや、しかし待ってください! ならば珍しい甘味やデザートまで奪うのはおかしいではないですか!?」


 妹聖女様の冷たい視線が俺に向けられ、その後に少し俯いてしまう。


「私、果物が吐くほど大嫌いなんです。食べれないんです。捧げものですから食べなければとは思うんですが……」

「この子は昔から果物が苦手なんですよねえ。柑橘類の一部くらいしか口にはできず、臭いですら駄目なものもあって」


 姉聖女の説明に、俺の思考が止まってしまう。そんなところに妹聖女様の険しい声がかかる。


「貴方、もしかして香油などもお姉様が奪ってると思ってませんか?」


 まったくの図星で、俺の目が泳いでしまう。それに気づき、どこか落胆した妹聖女様の目が俺に向けられた。


「さっきお姉様が言ったとおりに、私は果物の臭いも駄目なものが多いんです。せっかく献上して頂いたものだから使うべきだと使ったこともありますが……」

「数日、寝込んでしまったのよね。だからあれほど無理しては駄目と言っていたのに」

「それからお姉様は、見つけるとすぐに持って行ってしまうようになったんです」

「せっかくの物ですし、使うことは礼儀ですから気にしては駄目よ? それこそ我儘を言えば、甘みのない香油を頂ければ貴女も使えるんだけど」

「若い聖女だからって、甘みの強い果物の香りの物ばかり献上されるんですから、使うお姉様も大変でしょ」


 ……。思考が追い付かない俺を置いて、妹聖女様は少し情けないような顔を姉聖女に向け、姉聖女は慈愛の籠った目を妹聖女様に向ける。


「で、では、あの食事のときにメインとなる魚料理なんかを姉聖女様が早々に取り上げるのは……?」

「私、食が細い以上にとてつもなく胃腸が弱いんです。献上されたものは調理まで少し時間が空きますし、しばらくは祭壇に置かれています。その間に少しばかり痛んだりしてしまうことがあるんです」

「私はこの子に比べて全てにおいて頑丈で、多少腐ってようと胃腸を壊すこともありませんから」

「そうやってお姉様が私を甘やかすから、私は駄目なままなんです!」

「あらあら、貴女の体が壊れる方が心配だわ。それにちゃんと頑張って食べれる分は食べようとしてるのは偉いことよ」


 ふふふ、と妹聖女様の頭を優しく撫ぜる姉聖女。


「あ、言っときますけど、献上された焼き菓子なんかも果物が入ってたりで駄目な物をお姉様は持って行ってくれてます。逆に何も入ってない、私が食べれる物は、後で少し持ってきてくれるんです」

「それでもやはり、食べれる量を考えれば、私ばかりが多くて逆に申し訳ないわ」

「私が食べれないんですから、お姉様は何も悪くありません。逆に私が悪いんです」


 そんな会話を前に、俺はどうしていいかわからなくなってきた。だがだ。そうだ。


「それならなぜ、姉聖女様は清掃のときに箒ばかりなのですか!?」

「貴方、さっきの話聞いてましたか?」


 呆れたような妹聖女様の声。


「お姉様が屈んで掃除すれば腰と膝を壊します」

「ならばせめて、高いところの埃払いなど」

「踏み台が壊れます」

「え?」

「踏み台が、壊れます」


 然も当然だとあっさりと言われた言葉に一瞬理解ができず、二度目でようやく狼狽えながらも姉聖女を見た。正確にはその体形を。そして……、納得してしまう。


「祈りの時間にお姉様が椅子に座っているのは、私がお願いしたからです。お姉様が祈りの時間中跪くなんて、膝を壊してしまいます」

「でも、やっぱり神様に失礼だと思うのよ」

「そんなことよりお姉様の体の方が心配です!」

「でもねえ」

「お姉様は頂いた物はしっかり頂かないとと、民の善意だと言って全てを食べきってくれてるんですもの。太りたくて太ったわけではないんですよ!!」

「痩せなければとは思うんだけど、せめて少しくらい運動しなければ」

「その体で運動すれば、すぐに膝と腰にきてしまいます! 朝晩ストレッチは頑張ってるのに、私のせいで食べる量を減らせないから」


 俺を置き去りに姉妹の会話は続いていく。姉聖女の体形は自分のせいだと言う妹聖女様。それを気にするなと、民の善意は頂くべきだと朗らかに微笑む姉聖女様。


「それにお姉様は私よりも立派ではありませんか。体をお動かすことが好きだけど体力がない私と違って、孤児たちに文字を教え、算術を教え、学を付けてあげてるではありませんか。その合間に幼子たちに本を読んであげたり」

「それは適材適所よ。私がただ、それが得意と言うだけで」

「でも私は教えることも不向きでじっとしていることも苦手なくせに、子供たちと遊んでいてもすぐ体力が尽きて休憩することになってしまうんですよ……」


 俺の両目が零れんばかりに見開かされる。確かに妹聖女様は孤児院に行っては外で遊んでは、何度も休憩を取っていらっしゃった。俺はそれを孤児院の庭で見守っていてばかりだった。

 その時に確かに窓から見える姉聖女様は室内で本ばかりを読んでいるように見え、何をしているんだと思っていたが……。


「お姉様が太ってしまったのは私のせいよ。教会に来る前はこうではなかったもの……」


 その妹聖女様の言葉に、俺はまたしても驚いてしまう。


「教会に来る前、私が無理して食べなければならない状況の前は、お姉様だって普通の体形でスラリとした美人と言われていたではないですか」

「でも私は今も幸せよ? 貴女と共に居れて、皆の善意で色々な物を食べれて」

「だからって、過剰に食べなければならないのは違います! 私が食べれたら、お姉様だってそんな勘違いなんてされないのに!!」

「そうねえ、貴女を助ける度に怪我をさせてしまうのは私も心苦しいわ。早く痩せないと」

「それだって私が鈍臭いから、いつもふらつきやすいから……」


 妹聖女様の顔が情けなく歪む。


「本当なら貴女ももう少ししっかりと食べれればいいのだけど、こればっかりは簡単にはいきませんからね。ゆっくり食事量を増やしつつ、栄養を取りましょうね」

「私が選り好みせずちゃんと食べれていれば、お姉様の体形だって、私がふらつくことだってなかったのに」

「選り好みではないわ。どうしても合わない物ってだけよ。だって貴女は苦手でも栄養のある食べれる物はきちんと先に食べるじゃない。好みの物を後回しにしてでも」

「それでも、それすらお姉様が気づいて、時には減らして私の好みの物を食べれるようにしてくれるわ」

「栄養も大事だけど、やはり美味しく楽しく食べることも貴女には大事なことよ。食事を嫌いになっては意味がないわ。それにちゃんと苦手でも食べれる物は全て私が食べるわけではないもの」


 その太い腕で妹聖女様を抱き込む姉聖女様。それは慈愛に満ち溢れ、聖女と言われても遜色ないお姿。

 俺は、とんでもない勘違いをしていたようだった。



コメディーのつもりです。コメディーになってるのか謎。

あれ? ヒューマンドラマですか??

ジャンルをおしえてください。

某人の引越しの手伝いのときに、睡眠時間も短く、極限状態でできた小ネタを膨らませました。

ノンフィクションがいくつも投入されてますw

さすがに割合は言いませんが。

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