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やがて魔女へ至る  作者: あいおお
第一章「幼年期編」
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8

  魔国歴426年 7



 外壁近くの屋根まで辿りついた私は、煙突に身を隠しつつ様子を窺う。

 おそらく外では物理騎士団が展開しているのだろうが、外壁が邪魔になって見ることは叶わない。

 当たり前だが、屋根より街の外壁の方が高いからだ。

 見たい・・・

 しかしこれ以上近づいたら流石に見つかる。

 大空の者相手に皆がどうやって戦うのか・・・

 おそらくセオリー通り、魔法騎士団が翼竜をなんとか空から引きずりおろし、物理騎士団が集団でとどめを刺すのだろう。

 どうにか見られないかと辺りを見回していると、濃密な魔力の気配が近づいてくるのを感じた。

 それも三つ(・・)だ。

 えええ!

 一匹じゃなかったの!?

 目を全力で凝らす。

 見えた!

 赤い体の翼竜を先頭に、茶色い個体が二匹続いている。

 魔力は赤い個体が圧倒的だ。

 とりあえずレッドワイバーン(仮)とでもしておこう。

 凄い・・・

 これが魔物、「大空の者」翼竜・・・

 ちなみに翼竜は翼竜種と分類される魔物であり、いわゆる竜種、ドラゴンとは別の存在とされている。

 まぁドラゴンはほとんど伝説級の魔物で、そんなのがやって来たら街は終わりだ。

 しかし、流石に魔物。

 しかも翼竜。

 魔力の密度が違う。

 人間なんかとは比べものにならない。

 今まで見たことのある人間で一番魔力が濃かったのはお父様だが、そもそも比べるの馬鹿らしいレベルだ。

 まぁ、それでも魔法の達人であるお父様の方が強いはず・・・だけどね。

 正直感動で鳥肌が立っている。

 一旦見えてからはぐんぐんと距離が近づいて来た。

 壁の上の騎士団達にも見えたようだが、流石に三匹居ることで動揺が伝わってくる。

 ちなみにだが、外壁周辺の住民はシェルターと呼ばれる地下施設に避難を終えている。

 魔物の住み処が誓い辺境領だけあってその辺は抜かりないのだ。

 王都にもなると街の空を覆う結界が張られているらしいが、流石にそんなものはここにはない。

 騎士団が頼りだ。

 近づいて来て分かったが、かなりの大きさだ。

 鳥くらいの大きさならともかく、あんなものが果たして空を飛べるもののだろうか?

 集中して観察すると、翼から不思議な魔力が放射されているのを感じた。

 まさかあれで飛んでる?

 どうやって・・・?

 さっきから興奮しっぱなしで恐怖を感じている暇すらない。


 そうこうしている内に、射程距離まで近づいたようで外壁からの攻撃が始まった。

 まずは外壁に備え付けのバリスタが一斉に放たれる。

 ただの弩ではない。

 強化魔法を使った物理騎士が引いた強力な矢を魔法騎士が更に強化して放つ必殺の一撃だ。

 並の魔物なら消し飛ぶと言われている。

 遠距離からの高速の一撃。

 しかしワイバーンは反応してみせる。

 空中で体をひねって回避行動をとった。

 しかし、そこで絶妙に矢が曲がる!

 茶色いワイバーン一匹の翼を貫通し、体に数本突き刺さった。

 体勢を崩した一匹はそのまま高度を維持できず地上へ降下し見えなくなった。

 おそらく、物理騎士団が仕留めに向かっているはずだが、ここからは見えない。

 残念すぎる。

 怒り狂った残りの二匹が速度を上げて突っ込んできた。

 大空の者との戦い、特に防衛戦は速度が命だ。

 なにせ相手は飛んでいる。

 防衛戦を飛び越えられてしまうと被害が出るのは避けられない。

 バリスタの二射目は・・・間に合わない!

 弓兵が強化弓で弾幕を張り応戦する。

 が、効いていない。

 体表で弾かれている。

(危ない!)

 その時、二匹の目の前で強烈な光が弾ける。

(今のはルミリア!?)

 かつて私が初めて挑戦し、そして使えなかった光の基本魔法だ。

 これだけの光度を出せるのはおそらく魔法騎士団長のアルデラだろう。

 突然目の前で起こった強烈な発光に二匹が一瞬怯む。

 そこにバリスタの二射目が掃射される。

 回避するまもなく矢が突き刺さる。

(凄い・・・)

 私は感心した。

 おそらく相手の強さから中途半端な攻撃魔法は効かないと判断し、瞬時に目くらましにしたのだろう。

 そしてそれにすぐさま合わせるバリスタの攻撃。

 流石に戦い慣れている。

 当たり所が良かったのか、茶色いワイバーンはそのまま落下する。

 しかし、レッドワイバーンは落ちない。

 よく見ると、突き刺さってはいるものの矢は翼を貫通していない。

 桁違いの防御力だ。

 一旦突撃を止めると若干滞空し溜めの動作をする。


「ブレスが来るぞ!!」


 叫び声が聞こえた。

 あの声はヴォルサス!

 壁上に最大限の緊張が走る。

 魔術師達は即座に防壁の魔法を展開する。


 レッドワイバーンの口先に大きな火球が生まれた。


(あれは・・・

 まさか・・・

 魔法!!?)


 そう、私は確かに感じた。

 ワイバーンが魔法を展開するのを!


 火球が放たれる。

 展開された防壁の魔法にぶつかり大爆発が起こった。


 爆風と熱波がここまできて肌を焼く。


 外壁上部は半壊している。

「畜生! やりやがったな!」

 ヴォルサスの叫びが聞こえる。

 

 おそらく怪我人が出ているだろう、ひょっとしたら死者も出ているかも知れない。

 しかし今の私にはそんなことは(・・・・・・)どうでもよかった(・・・・・・・・)

「魔物が、魔法・・・

 確かに今のは魔法だった・・・」

 思わず声に出す。

 魔法とは人類の叡智で、魔力を魔結晶という触媒を媒介に変換して発動する。

 そんなのは常識だ。

 だが、今の翼竜のブレスと呼ばれた火球は確かに魔法だった。

 勿論そこに魔結晶などは存在しない。

 

(魔物は魔法を使える? 

 だったら私も・・・)


 そこから先の戦いの様子は覚えていない。

 後から分かったのはヴォルサスややアルデラ始め騎士達の必死の応戦により、レッドワイバーンが逃げていったことだけだった。

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