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魔国歴426年 5
お父様はアレスフォート領の領主であるのだが、同時に王国の重鎮でもあるので年の半分近くは王都にいる。
今は運良くお父様が領地に居る時期だ。
お父様の公務が終わるのを見計らって執務室を訪ねた。
コンコンとドアのノックする。
「誰かね?」
答えたのはお父様だった。
「ヴィラミニエですわ、お父様」
「入りなさい」
ドアを父の護衛が開けてくれる。
中に入って見渡すとどうやら今はお父様一人のようだ。
丁度いい。
「ヴィラが執務室に来るなんて珍しいね」
「はい、今日はどうしてもお父様にお話ししたいことがありまして」
「話したいこと?
それはヴィラがここのところ物理騎士団に通っていることと関係あるのかな?」
「ええ、流石お父様ですわ」
「ヴィラは物理騎士になりたいのかい?」
私はきょとんとする。
「まさか、考えたこともありませんでしてよ。
私が興味あるのは魔法のことのみ、生涯を魔法に費やしたいと思っておりますわ」
「はは、それを聞いたらヴォルは悔しがるだろうね。
ヴィラのことを逸材だ逸材だと褒めていたからな
ではどうして魔法騎士団ではなく物理騎士団に通っているんだい?」
「ええ、まさにそれが今日お話ししたいことですわ。
最初は強引なヴォルサスの話に興が乗っただけなのですが、しばらく参加して気付いたことがあるんですの」
「ほう、それはなにかな?」
「知っての通り私、淑女教育と魔法の勉強ばかりで今まで運動したことなんて全くと言い程ありませんでした。
にもかかわらず、物理騎士団の訓練に参加出来るほどの体力がありましたわ。
それに武器を操る筋力も。
これはどう考えてもおかしいことですわよね?」
お父様はふーむと顎に手を当てる。
「それは確かにおかしいね。
子供の遊び程度ならまだしも、我が領の物理騎士団は猛者中の猛者の集まりだ。
ヴォルが余りに褒めるので話半分に聞いていたのだが、実際どうなんだい?」
「今日、模擬戦で小隊長のレイアに勝ちましたわ」
それを聞いてお父様が目を剥く。
「レイアに!?
あの娘は特に優秀で、ゆくゆくは親衛隊の隊長か、はては物理騎士団長のさえも目指せる器だと思っていたのだが・・・」
レイアってお父様にそこまで期待されている騎士だったのね。
なんだか嬉しい。
「もちろん、強化魔法なんかは無しで戦ったので、純粋な身体能力だけでの話ですが、それでも私がレイアに勝てるなんてどう考えてもおかしいですわよね」
「ありえないことだな。
普通なら勝つどころか、打ち合うことさえ出来ないはずだ」
「で、ここからが本題ですわ。
私、一つの仮説を立てましたの。
ひょっとして魔力を鍛えると、身体能力が上がるのでは無いかと。
でも、そんな話は私が調べた魔法資料の中にはありませんでしたわ。
ですので、この国で魔法の第一人者であるお父様にお尋ねしたかったのですわ」
「なるほど、言いたいことは分かった。
だが、残念ながら私も魔道に身を置いて長いが、そんな話は聞いたことが無いな」
「そ、そうなんですの?
たとえば、宮廷の筆頭魔術師や魔術師団長レベルになると、物理騎士並みに身体能力が高いとかそういうことは・・・」
「ない。
代々宮廷魔術師はモヤシのような魔法研究者がなることが殆どだし、魔術師団長にしたって物理騎士達に守られなければ一瞬で兵や魔物にやられてしまうだろう。
というか、そもそも今の魔術師団長は私の弟なのだから君も知っているだろ」
「ええ、やはりそうですわよね・・・
ですが他に理由が思いつかないのですわ。
ですのでこれからも物理騎士団に通うことをお許し頂きたいのです。
それが普通に魔法が使えない呪い子の私にとって、今唯一の希望なのです」
私が懇願すると。
「ヴィラは呪い子などではない!
原因が解明できない我々魔術師が未熟なだけだ!
そのうちきっと私と直属の研究者が解決してみせる。
だからそんなことを気に病んではいけないよ」
お父様は激昂し、そして優しく言葉を掛けてくれた。
「だが、魔法に人生を賭けてしまうのが我がアレスフォート家の性。
ヴィラがその方法で自分の魔法を探すというのならばやってみなさい。
ただし危ないとはいけないよ。まだ君は6歳にも満たない子供なんだから」
「はい心得ておりますわ、お父様。
有り難うございます」
こうして私は、物理騎士団で自分の可能性を堂々と追求できるようになった。
事件が起こったのはそれから数週間後、お父様が王都に戻り不在の時である。